1 トムソン

ケンチン

 タニシくんの勤めるテレビ局では、毎年、自爆テロ祭りを開催する。全国に放映され、大人気だ。
 タニシくんの友達で局のアルバイター、ケンチンは今日も布団に飛び込む。何回も何回も飛び込む。つまり、練習だ。祭り当日は鉄板に飛び込んで大火傷する予定。やりたくないが、子供らに夢や希望を与える祭りだから断ることなどできん!
 タニシくんは、まるかちゃんとデートだ。のんきだね。ケンチンがかわいそう。でもまあ、世の中ってのはそういうものだから仕方ない。
 遊園地のベンチに二人は座ってのんきにアイスクリームなんて食べてる。
「たけちゃん。ケンチンくん大丈夫かなあ」
「脱走するかもね。祭りが終わったら正社員にしてくれると会社は言ってるけど、アッツアツの鉄板だぜ? 死ぬかもわからん。鉄砲玉みたいなもんだよ。よくヤクザがシタッパにゆうやん。○○組の組長を撃て。成功したら幹部だ。ってね。するわけないやん。蜂の巣になって死ぬだけやん。あれと同じさ」
「たけちゃん、やめさすことはできないの?」
「まあ無理だね。ケンチンのやつ死んでもいいから正社員になりたいゆうとる。本当に死ぬかもわからんのにさ。バカなやつだ。会社はただケンチンを利用してるだけなんだよ」
 まるかちゃんが怒った。
「ひどいよ。そんなの憲法違反じゃん」
「まあね」
 その頃。
 ケンチンは、怖くて怖くてブルブル震えていた。
「うぅぅ正社員になりたい。でも火傷が酷すぎて死んだら意味ないし。うぅぅ葛藤……」
 小説家と同じだ。小説家はエンターテイメントとアートの狭間で常に葛藤してる。
 アートを追求してくとクオリティが上がる。しかし下手こくと人気がなくなる。
 逆にエンターテイメントを追求してくと人気が出てくる。しかし下手こくとクオリティが落ちる。
 ゆえに葛藤するわけ。だから作者はケンチンの気持ち、少し解る。
 正社員になるにはやはり死ぬほどの努力が必要だ。けど鉄板ダイブしたら、ホンマに死ぬかも。死んだら正社員になれん。でも鉄板ダイブせんと正社員なれん。何とか鉄板ダイブしても死なないような身体を作らんと……ケンチンは、考えた。
「そうだ。熱さに強いサイボーグになれば」ケンチンは、まさる博士の研究所に行った。博士は任せとけと言う。さっそく手術だ。
「博士。優しく頼みます」
「麻酔が切れたらゆうてくれよ」
(WX12K/w ID:Yu8DhB)