1 東洋

<東洋流ポーカー術/客観的な起死回生>

 
ジャニーズのトップがお亡くりになられた矢先に、吉本工業の社長さんが血祭りにあげられ、日本のタレント大手会社がテンヤワンヤに盛り上がっておられるが、そんな世間の賑やかな動きとは何1つ関係なく、疲れきった俺はその日も配られたカードに目を通している。

力がある段階では、誰1人に対してさえも、有無を言わさせぬ程、説得力のあった人間であるにせよ、1度、強者のレッテルを外されてしまえば「そう言えば、こんなこともあった」「過去にはこんなこともしていた」などと、それまで口を閉ざしていたような者達までもが、 タイミングを見計らったように、引きずり落としに掛かるのは、ある意味、当たり前の話でもある。それが人間の弱さであり、虚しさなのだ。

プリフロップで俺の前にアクションのない状態から、KKが配られていたため、ここは自動的にレイズから入る場面であった。ポジションはミドルである。ただ、その数ハンド前に俺のビックブラフが暴かれた上に、大量のチップも奪われ、ショートスタックへと陥り、これまで自分勝手にテーブルコントロールしていた支配力もなくなっているため、このタイミングによる俺のレイズが、テーブルからリスペクトを受けることもないとは分かっていた……以上に、これまで、やりたい放題にワンパクプレイを繰り広げていたシッペ返しと言わんばかりに、俺をテーブルから叩きだそうとするプレイヤーまで現れ出している気配すら感じることが出来る状況であった。

ならば、踏まえて、その時の自分が取るべきアクションはコールである。何故なら、そうしておけば……「レイズ」「コール」「コール」「コール」と、実際、そうなった通り、俺が、この場面をコールで留めておくことによって、左隣のプレイヤーが「いつまでも調子に乗るなよ」とレイズを掛け、その左にいるプレイヤー達も「それじゃー、俺もやりますよ」「私もコイツをぶっ飛ばしてますわよ」と、コールで付いて来るような連中が溢れ返るような状況となってくれる可能性が少なからずあったからである。そして、実際、そうなってしまえば、そうなってしまった通り、次のアクションで、スリーベットオールインという、ショートスタックがKK持ちで行える最高のアクションを繰り広げられるチャンスが、俺の方に到来してしまうわけである。

テーブル全体の色合いを見極めることこそ、トーナメンを勝ち抜く秘訣である。周りのスタックを見て、プレイスタイルを読み解いた上で、コチラからのレイズには降りるが、リンプインすれば、誰かしらはレイズを入れて来るような状況で、このプレイは効果を発揮する。結果は、スモールブラインドがAToでコールした以外は全員が降りたが、フロップでTが出て以降は、とくに何が起こることもなく、俺はみんなが余分に付け加えてくれたチップ付きのポットを勝ち取ることか出来たわけである。そして、そんな余分なチップのお蔭で、このトーナメンを勝ち抜く自信を身に付けた俺は、再び、テーブルリーダーへと返り咲き、先程、俺に牙を向けたプレイヤーは誰であったか、ならば、次は、誰をいじめぬこうか、考え始めていたわけである。真の強者とは、例え、一時的な立場が弱まろうと、客観的に見たその時の自分の立ち位置から、いつなんどきも、起死回生を遂げられる者のことを指すのだ。無論、俺は負けたことがない。負けたと思ったこともない。何故ならば、目の前の負けなど、勝ちへの途中でしかないからである。

BY/東洋
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