1 資本主義とは?

目指してる男

 広島で被爆したあと、長崎に行き、また被爆した、二重被爆のことを、昔、テレビで知った。

 非正規労働者に似てる。会社Aで低賃金で使われたあと、会社Bでも低賃金で使われる。いわゆる、二重搾取である。
 もう、20年もこんな使われ方をしてる。いいかげん、うんざりだ。
 とある二重被爆者は長生きしたため、運がよいと考えるひとも、世の中にはいるようだ。おれは、そうは思えない。


 結局、立場によるのでは?

 経営者なら、二重被爆者は、ギャグに見えるかもわからん。安全に暮らしてるひとにとって、過激なことは、笑い話である。
 経営者は、いろんなものに守られてる。カネは腐るほどある。過労死もない。セキュリティもバッチリだ。二重被爆者から遠い場所で暮らしてる。だから、二重被爆がおもしろく見えちゃう。

「わて、広島に出張してん。そんとき被爆したんや」
「そら、えらいこっちゃな」
「んで、長崎の実家に、がんばって帰ったんや。そしたら、また被爆や」
「そら傑作やな。うける。なはははは」

 でも、非正規労働者のように、危険な職務に就いてるひとにとっては他人事ではなく、コメディにはならない。
 非正規労働者は、完全に社会に見離されてる。低賃金、重労働、自己責任。二重被爆者に近いところで暮らしてる。ゆえに、二重被爆を笑い話にされると、いらっとくる。
 

「被爆者を茶化すな!」

 ただ、例外はある。経営者の中には、稀ではあるが、【世のため人のために危険なことをしよう。安全な立場に留まらず、みんなの幸せのために、危険な仕事をあえて選ぼう】とするカッコいいひとも、少なからず存在する。
 また、非正規労働者の中には、これも稀であるが、【貧しいけど、負けてたまるか。愉快に暮らしてやる。逆境もギャグに変換して、おもしろおかしく生きてやる】と、前向きに思考するカッコいいひとも、いるはいる。稀ではあるが。

 とても真似できん。
 おれは非正規労働者として、完全に貧困に負けて、愚痴ばかり垂れ流してるし、仮に経営者になったとしても、危険なことはせず、無難に手堅く生きると思う。

 でも、目指したい。カッコいいひとを。
 目指すのは勝手だし、目指してると、いろいろとアイデアが浮かんでくる。

 小説。イラスト。ギター。

「原爆落としたくなるで、ほんま」
「どこにや?」
「わての気持ちにや」
「どうゆうことや」
「低賃金すぎて苛立つ。通り魔したいねん。その気持ちに原爆落としたいんや」
「そら傑作や」
「へへっ」


(SOV37/au ID:KL6M55)