1 たける
学習塾の風景
僕は小学校を卒業する少し前まで、隣町にある学習塾に通っていた。
中学受験が控えているからと、半ば強引に母親に勧められただけなのだが、勉強が嫌いではなかった僕は二つ返事でOKした。
小学生ながら、母親に気をつかう意味もあったのだと思う。
親は世間体を気にするものだと既に知っていた。
[作者名]
たける
中学受験が控えているからと、半ば強引に母親に勧められただけなのだが、勉強が嫌いではなかった僕は二つ返事でOKした。
小学生ながら、母親に気をつかう意味もあったのだと思う。
親は世間体を気にするものだと既に知っていた。
[作者名]
たける
(PC)
2 たける
「皆さんこんばんは、今日も頑張っていきましょうね。」
冬期講習が始まってまだ2日目だった。
少数精鋭、などと謳った人が集まらないだけの10人にも満たないクラスに僕も詰め込まれ、夜だけの集中コースという連続授業を選択させられた。
というより、受験対策のクラスが他に無かっただけであるが。
冬期講習が始まってまだ2日目だった。
少数精鋭、などと謳った人が集まらないだけの10人にも満たないクラスに僕も詰め込まれ、夜だけの集中コースという連続授業を選択させられた。
というより、受験対策のクラスが他に無かっただけであるが。
(PC)
3 たける
「まずは宿題のプリントを集めて、それから小テストをします。」
この塾は少人数といえど結構なスパルタ塾で、こちらの都合には関係無く毎回山のように宿題が出された。
しかも忘れると罰がある。
体罰反対は広く浸透していなかった時代とはいえ、親の同意を得てまで手をあげる事を徹底していた塾は珍しかった。
さらに冬期講習の期間はとくに先生も気合が入っていたはずである。
そして呼ばれたのは木村賀奈子というオーバーオール姿の女の子だった。
「忘れたのは木村さんだけね?じゃあ木村さん、前に出て。他は小テスト始めるわよ、制限時間は15分。…はじめっ!」
この塾は少人数といえど結構なスパルタ塾で、こちらの都合には関係無く毎回山のように宿題が出された。
しかも忘れると罰がある。
体罰反対は広く浸透していなかった時代とはいえ、親の同意を得てまで手をあげる事を徹底していた塾は珍しかった。
さらに冬期講習の期間はとくに先生も気合が入っていたはずである。
そして呼ばれたのは木村賀奈子というオーバーオール姿の女の子だった。
「忘れたのは木村さんだけね?じゃあ木村さん、前に出て。他は小テスト始めるわよ、制限時間は15分。…はじめっ!」
(PC)
4 たける
彼女は何も言わずに黒板の前まで歩いて行くと、椅子に座った先生の膝へ腹這いになった。
偶然にお尻がこちらを向いていたので、不意にドキドキしてしまう。
しばらく待つと先生は右手を振り上げ、彼女のお尻をめがけて勢いよく叩きつけていた。
バシン、大きな音が響いたが、教室の誰もおそらく気にしていなかった。
集中を削がない程度にはそれが日常的に行われていたからであろう。
木村加奈子本人にも、狼狽える様子はなかった。
もちろん痛みが全く無い訳ではないだろう。
ただ嵐が過ぎ去るのを待つのみという雰囲気だった。
偶然にお尻がこちらを向いていたので、不意にドキドキしてしまう。
しばらく待つと先生は右手を振り上げ、彼女のお尻をめがけて勢いよく叩きつけていた。
バシン、大きな音が響いたが、教室の誰もおそらく気にしていなかった。
集中を削がない程度にはそれが日常的に行われていたからであろう。
木村加奈子本人にも、狼狽える様子はなかった。
もちろん痛みが全く無い訳ではないだろう。
ただ嵐が過ぎ去るのを待つのみという雰囲気だった。
(PC)
5 たける
────…バシッ、…バシッ、…パンッ、…パンッ、パァンッ……
それにしたって、いつ終わるんだ?
クラスの何名かはそう思っていたに違いないだろう。
小テストが始まってから6、7分は過ぎている。
先生は木村加奈子のお尻を叩き続けているが、終わる気配は無い。
僕は気になってテストどころではなかった。
オーバーオールのお尻が、強く打たれるたびに跳ねるように少し浮きあがる。
痛みを堪えているのだろうか、ふるえているようにも感じた。
(「…痛そう…。」)
誰かが呟く声が聞こえた。
見ていた女子の誰かだろうが、特定は出来なかった。
それにしたって、いつ終わるんだ?
クラスの何名かはそう思っていたに違いないだろう。
小テストが始まってから6、7分は過ぎている。
先生は木村加奈子のお尻を叩き続けているが、終わる気配は無い。
僕は気になってテストどころではなかった。
オーバーオールのお尻が、強く打たれるたびに跳ねるように少し浮きあがる。
痛みを堪えているのだろうか、ふるえているようにも感じた。
(「…痛そう…。」)
誰かが呟く声が聞こえた。
見ていた女子の誰かだろうが、特定は出来なかった。
(PC)
6 たける
小テストの時間が10分を過ぎると、解答の見直しも終わったのか、誰もが木村加奈子のお尻へ注目していた。
先生が最初に言った小テストの15分間は叩くつもりだろう。
みんなそれに気付いて心の中で木村加奈子を励ます。
クールな彼女は最後まで涙を見せなかったが、その顔は紅潮していて、素肌のいたる所に汗が滲んでいた。
15分を耐え切った彼女が気丈に自分の席に戻るのを見て、先生が「では、終了」と口にする。
小テストが回収されていく間も、彼女はひと言も喋らなかった。
先生が最初に言った小テストの15分間は叩くつもりだろう。
みんなそれに気付いて心の中で木村加奈子を励ます。
クールな彼女は最後まで涙を見せなかったが、その顔は紅潮していて、素肌のいたる所に汗が滲んでいた。
15分を耐え切った彼女が気丈に自分の席に戻るのを見て、先生が「では、終了」と口にする。
小テストが回収されていく間も、彼女はひと言も喋らなかった。
(PC)
7 たける
「これで全員?いつも通り、70点以上は罰ナシね。…木村さんは、後でもう1回。」
「…はい…。」
「それじゃ、授業を始めます。まずは教科書────」
たった今、あれだけ痛めつけたお尻を先生はまだ叩くという。
小テストを受けられなかった木村加奈子は0点扱いで、お尻叩きの罰があるのはこの塾では当たり前だった。
しかし15分も叩かれた後に、というのは同情を禁じ得ない。
クラスの誰もがそう思っていた。
「…はい…。」
「それじゃ、授業を始めます。まずは教科書────」
たった今、あれだけ痛めつけたお尻を先生はまだ叩くという。
小テストを受けられなかった木村加奈子は0点扱いで、お尻叩きの罰があるのはこの塾では当たり前だった。
しかし15分も叩かれた後に、というのは同情を禁じ得ない。
クラスの誰もがそう思っていた。
(PC)
9 たける
「…木村、さん。」
帰り際、僕は夜道へと歩き出す直前の木村加奈子に声をかけた。
「…なに?」
「…迎え、こないの?」
「まだね。」
「…そ、そうなんだ。」
話がうまく続かない。
それもそのはず、僕は木村加奈子とそれほど親しいわけではなかった。
向こうも急にあまり知らない男子に話しかけられて戸惑ったに違いない。
「…大変だったね、今日。」
他に話題も思い浮かばず、つい込み入った話題に手を伸ばしてしまった。
デリカシーの欠片もないひと言にも彼女は眉一つ動かさず、「…大したことないよ。」とだけ答える。
帰り際、僕は夜道へと歩き出す直前の木村加奈子に声をかけた。
「…なに?」
「…迎え、こないの?」
「まだね。」
「…そ、そうなんだ。」
話がうまく続かない。
それもそのはず、僕は木村加奈子とそれほど親しいわけではなかった。
向こうも急にあまり知らない男子に話しかけられて戸惑ったに違いない。
「…大変だったね、今日。」
他に話題も思い浮かばず、つい込み入った話題に手を伸ばしてしまった。
デリカシーの欠片もないひと言にも彼女は眉一つ動かさず、「…大したことないよ。」とだけ答える。
(PC)
10 たける
「この服、分厚いから。お気に入りなの。」
暗がりで色がよく見えなくなったオーバーオールを着て、彼女は言う。
僕はついまじまじとお尻辺りを見つめてしまった。
あれから彼女は再び先生に呼ばれて、今度は別の教室へ連れて行かれて15分ほど戻って来なかった。
後でもう1回、というのが先生の言葉通りならば。
木村加奈子はその間じゅう、すっかり腫れてしまったお尻をさらに痛めつけるように叩かれていたという事になる。
「そ…、そう。」
彼女はどうして平然としていられるんだろう?
服の中は、歩くたびひりひり痛んで仕方ないだろうに。
暗がりで色がよく見えなくなったオーバーオールを着て、彼女は言う。
僕はついまじまじとお尻辺りを見つめてしまった。
あれから彼女は再び先生に呼ばれて、今度は別の教室へ連れて行かれて15分ほど戻って来なかった。
後でもう1回、というのが先生の言葉通りならば。
木村加奈子はその間じゅう、すっかり腫れてしまったお尻をさらに痛めつけるように叩かれていたという事になる。
「そ…、そう。」
彼女はどうして平然としていられるんだろう?
服の中は、歩くたびひりひり痛んで仕方ないだろうに。
(PC)
11 たける
「…お母さんが、ね。」
「え?」
「家のお母さん、怒るとお尻叩くんだ。それよりは全然痛くないから…、平気よ。」
突然そう言われて、僕は何のリアクションも返す事ができなかった。
「心配してくれてありがと。…また。」
いつの間にか到着していた迎えの車のライトで、一瞬、目の前が真っ白に輝く。
よくは見えなかったが、運転していたのはどうやら木村加奈子の母親らしい。
彼女の秘密を知ってしまったようで、胸の高鳴りがいつまでも抑えられなかった。
「え?」
「家のお母さん、怒るとお尻叩くんだ。それよりは全然痛くないから…、平気よ。」
突然そう言われて、僕は何のリアクションも返す事ができなかった。
「心配してくれてありがと。…また。」
いつの間にか到着していた迎えの車のライトで、一瞬、目の前が真っ白に輝く。
よくは見えなかったが、運転していたのはどうやら木村加奈子の母親らしい。
彼女の秘密を知ってしまったようで、胸の高鳴りがいつまでも抑えられなかった。
(PC)