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1 無名さん

無題

咄嗟のことだった。
テーブルの上に無造作に置かれた硬貨を見て、
僕はただラッキーと思ったのか、硬貨の輝きが綺麗だったからなのか、
全然思い出せないけれど。

とにかく、テーブルに出ていた小銭をつかんで、ポケットに入れたのだった。

後からすぐに、母親が気付いた。
「ここにお釣り、置いておいたんだけど…」
しばらく辺りをきょろきょろと探し、最後に僕を見た。

「まさか…」
母親はその時は、僕が盗ったなんて思いもしなかったみたいだ。
ただ単に、僕にもなくなった小銭を探してほしかったのだろう。

「おつりって、これ?」
僕はポケットから小銭を出して、母親に見せる。
その瞬間の母親の表情は忘れられない。
泣いているような、怒っているような、判別しづらい表情だった。
でも、僕は母親を怒らせたらしい、ということだけはわかった。

「何で盗ったの!」
「勝手にお金を持ち出したら、泥棒と同じだよ!」

確かに母親の言うとおりだった。ただ、幼い僕にはわからなかったのだ。明確に盗ろう、と思ってやった行為ではなくても、結果的には泥棒なのだということを。

僕は、いきなり出てきた「泥棒」という言葉にぽかんとしていた。
”え、ただポケットに入れただけで、返したのに泥棒になるの?”
そんな僕の態度は、母親をさらに怒らせた。

いきなり僕を組み敷いて、ズボンも下着も剥いでお尻をぶった。
痛みもあったが、それよりも打たれた時に体中を揺らす衝撃がこわくて、僕は泣き叫んだ。
「謝りなさい!こんな悪い事をする子だったなんて!!」
「お母さんは情けないわよ!…謝りなさいっ!!!」

何度も何度も叩かれながら、怒鳴られた。
泣きじゃくりで言葉が出ないままに、僕は叩かれ続けた。
「…謝れないのね?ああ、そう」

聞いたことのない冷たい声に、僕は心底ぎょっとした。
なにか、大変なことが起きる。
本能的にそう思ったとほぼ同時に、身体を引きずられた。

必死に抵抗して、回らない口で「ごめんなさい」を繰り返しても、
母親は無言で、ものすごい力で僕を隣の部屋まで連れて行った。

恐怖で震えながら泣く僕の手足を縛る。
そのままうつ伏せにして、僕の上に馬乗りになる。
体重で押さえつけられる苦しさに悲鳴を上げる間もなく、
母親は定規で僕のお尻を滅多打ちにした。

かばう術は何もなく無防備なままのお尻を、何十回打たれただろう。
もしかすると数百回は行っていたかもしれない。

いつ終ったのかは、覚えていない。
ただ、定規をふるい終えた母親は僕を表に閉め出したのだった。
手足を縛っていた紐をほどきながら、
「こんな悪い子、みたことない」
母親は嫌悪感いっぱいの顔でつぶやいた。

結局、僕はその日の深夜に許されて、家に上げられた。

でも、僕は、あの日からずっと悪い子なのかもしれない。
未だに何かの拍子に、そう思う。
(PC)
2 ルナフレーナ
このままキチすぎわろす
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