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1 無名さん

親子

僕の家は、貧乏だった。
母はいつも働きに出ていて、疲れきって、夜遅くに帰ってきた。
おなかいっぱいになるほどのごはんがなくて、僕はいつもおなかがすいていた。
(PC)
2 無名さん
母はもともと躾に厳しかったが、仕事の疲れもそれに影響していたと思う。
些細なことで折檻されることが、しょっちゅうあった。

母は厳しい人だった。
厳しい心の持ち主だった。
僕をよせつけないほどに。

僕は母の気持ちがわからない。
大人になった今でも。
それは僕を、どうしようもない寂しさに突き落とす。
(PC)
3 無名さん
あれは多分、小学一年生のころだった。
ぼんやりとしか覚えていないけれど、そのころ母は離婚したらしい。ある日突然、母は僕を連れて小さな小さなアパートへ引っ越した。ボロボロの、夕方になると窓から西日が差してくる部屋だった。

その狭くて息詰まるアパートの一室で、僕たち親子は無音の戦争のような日常を生き始めた。
(PC)
4 無名さん
あの夏の日、その日も僕は留守番を言いつけられていた。
母は仕事に出かけていた。
「お母さんが帰るまで、今日の分の宿題をやっておきなさい。」
そう言われていた。

漢字の書き取りをして、作り置きのお昼ごはんを一人で食べた。
それから算数のプリントをやって、絵日記をかいて…。
必死で鉛筆を握った。
働いている母を頭に思い浮かべると、何かを怠けようとすることは
消えてしまいたいくらいの恥ずかしさを感じさせた。
それと同時に、折檻された時の痛みも
記憶の底にあった。

同じだと認めてもらいたくて。
受け入れてほしくて。
ずっとノートをにらんでいた。
(PC)
5 無名さん
気づけば夕方だった。
のどがからからに乾いていて、僕は流しに行って水を飲んだ。
飲み終わってから、おなかが減っていると気づいた。
ずっと勉強していて、昼過ぎから何も食べていない。
(PC)
6 無名さん
僕はおなかをすかせたまま、畳をじっと睨んでいた。
何か食べたかったかれど、家にお奴なんかある空けない。
明日の分を勝手に食べたらまた、ひどくお仕置きされることは分かっていた。
この前も、そうだったから。
(PC)
7 無名さん
この間の留守番の時、僕はこっそり、明日の朝ごはんの分の食パンを食べた。
おなかがすいたのもあったけど、一人でじっと待ってなくちゃいけない寂しさを
どうにかしたかったんだ。

帰宅した母に、すぐにばれた。
食器棚を覗いた母は、すぐに食パンがないことに気付いた。
ごめんなさい!
もうしません。
泣いて謝っても、絶対に許してもらえなかった。

「今更謝ったって、食べた食パンが戻ってくるわけないでしょ!」
「泣くくらいなら、何で食べたの!?」
「盗み食いなんて、恥ずかしいったらありゃしない!!」
――お尻をぶたれながら聞いた母の怒鳴り声は、まだよく覚えている。
物差しで何度もたたかれた痛みも。
(PC)
8 無名さん
西日のさす部屋の中をぼんやり眺めていた僕は、ふとあるものに気付いた。
…棚の上の隅っこにある、小さな白い袋。
取り上げてみた。つぶれたおせんべいの袋だった。
だいぶ前からそこに置かれていたのだろう、埃がふわりと落ちた。
(これなら、たべてもおこられない!)
とっさに、そう思った。

袋を破って、一息で口に入れた。しけっているけれど、夢中であごを動かして
噛むと、何かを食べている満足感に浸れた。

 背後で、音がした。

振り返ると、母が玄関に立っていた。
(PC)
9 無名さん
誰か違う人が立ってる。最初はそう思った。
それくらい母の顔がちがってみえた。多分怒りでゆがんでいたのだろう。

靴を蹴り飛ばして、母が家の中に入ってきた。
そして僕の顔の前で、何かを振り上げた。あまりに速すぎて、何も見えなかった。
頬を平手打ちされ、僕は倒れた。

 畳の上に押さえつけられ、ズボンと下着をずり下ろされた。

バンッッ!ビシッ!ビシッ!…

力いっぱいたたかれた。何度も、何度も。何も言われずに。
焼けるような痛みに、僕は泣き叫んだ。
手は、止まることなく僕を打ち続けた。

 突然、手が止まった。
泣き叫んでいた僕は、急に手が止まったことにおびえて、泣くのを止められなかった。
「何で謝らないの!?」
胸ぐらをつかんで引き起こされる。僕ははっとして母を見る。
朝ごはんを食べたのではなく、余っていたお菓子を食べた事がなぜ悪いことなのか
分からなかった僕は、とっさに謝ることができなかった。
いつもと違って、何も言わずにお尻を叩かれ続けて怖くてたまらなかったせいもある。

「泣けばいいと思ってるんでしょっ!!」
何も言えなかった僕を、母は突き飛ばした。奥の部屋からすぐに、何かを手にして戻ってきた。
(PC)
10 無名さん
竹の物差しだった。
僕は立つことができず、お尻で後ろへ後ずさった。
さんざん叩かれたお尻が燃えるように痛んだ。
打たれた時の痛みを思い出して、涙がぼろぼろこぼれた。
「いやだあ…ごえんなさいぃ…」
「いやだって何なのよ!それが反省している態度なの!?お尻出しなさいっ!!」
物差しのしなる、あの嫌な音が僕の後ろではっきりと聞こえた。

ビッシ!!
最初の一打で、絶叫していた。
そのままめちゃくちゃに打たれ続け、僕は泣き喚いた。
泣き喚き続けた。痛くて痛くて、死んでしまいそうだった。
怖くてたまらなかった。

 物差しのお仕置きは、僕のお漏らしで中断された。

気付いた時には、もう冷たい感覚が下腹のあたりにまできていた。
悲鳴と怒声と打ち据える音で満ちていた部屋が、しんとした。
母の荒い息遣いと、僕の泣きじゃくる弱々しい音だけが聞こえた。

「ほんっとに悪い子!!母さんの言うこと一つの聞けないで!
反省もしないんだから!!!」
母は僕を押しのけて、汚れた畳を拭いた。
「顔も見たくない!」
「外に出なさい!!」
(PC)
11 無名さん
服を脱がされて外に引きずり出され、玄関ドアの前にある
布団を干すのに使っている手すりに、洗濯ロープで縛り付けられた。
もう僕は、ものも言えずにしゃくりあげている。
涙と汗でぐしゃぐしゃの顔を、夏の夕暮れのぬるい風が撫で、
お漏らしで濡らした股間を冷やす。

恥ずかしさに震えている僕のお尻を、母は血がにじむまで
布団叩きでたたいた。
泣き叫ぶ声が、風に乗って流れて行った。
”ごめんなさい”は、最後まで聞き入れてもらえなかった。

布団叩きがカランと音を立てて投げ捨てられ、
母はもう詰る言葉さえ与えずに、ドアを乱暴に閉めた。
残された僕は、お尻の刺すような痛みや、ロープの痺れを
感じながら立ち続けた。
泣きすぎてぼんやりした頭の中に、お仕置き中母から言われた言葉が
うつろに響いた。

そして僕はすすり泣きながら、背後のドアが開く気配を
息を殺してじっと待ち続ける。

僕が留守番中にしなければならなかったように。
(PC)
12 感想
文章上手い・・・
虐待じみてて好みじゃないはずなのに
それでも最後まで読んでしまいました
(PC)
13 無名さん
感想ありがとうございます。
初投稿でドキドキだったので嬉しいです。
(PC)