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1 九郎

小学生の罠

私は三崎由利。高校一年生。

家はもとより、学校や近所でも優等生と評判だ。

自分で言うのもなんだが、勉強もスポーツも人より出来るし、見た目もそれなりに整っている。

性格も悪くないと思う。
そして自身、規則や約束はキチンと守る習慣がついている。


「じゃあ、由利
悪いけどお願いね」

ご近所付き合いに忙しい母は、ご近所のおばさん達とカラオケに行く。
そこでその間、そのおばさん達の子供を預かるよう頼まれた。

別に用事も無かったので、私は気軽に引き受けた。

「うん、ゆっくり楽しんで来てよ」

玄関で母達を見送ると、私は預かった子供達と共に家に入る。

翔太、小五
司、小四
健司、小四
皆やんちゃだ。

「由利姉ちゃん、かくれんぼしようよ」
翔太の提案に、司と健司ははしゃぎながら賛同する。

『まあ、鬼ごっこよりマシか…』

大人しくしてなさい、と言って聞く彼らではない。
ある程度騒がしいのは覚悟の上だ。

「いいわよ、じゃあお姉ちゃんが鬼をやってあげる」

すると三人は顔を見合せ、ニカッと笑った。

「お姉ちゃん、家の中だけだよ
外に出たら罰ゲームだからねっ」

『罰ゲーム?』

怪訝に思ったが、子供の言うことだ。
私は笑顔で頷いた。

「喉乾いたね
始める前にジュースで乾杯しよっ」
健司の言葉に、二人も嬉々として台所へ走っていった。

しばらくすると、
「お姉ちゃん、お姉ちゃんの分も注いでるよ
飲まないなら僕が飲むよ」
と翔太の声がする。

『無邪気だな〜』

私は誘われるまま台所へ行くと、コップのジュースを一息に飲んだ。


「じゃあ始めるよっ
お姉ちゃん、ここで二十数えてねっ」
[作者名]
九郎
(i)
2 九郎
「いーち
にーぃ
さーん」

私は目を瞑り、数をゆっくり数える。
しばらくは子供達のはしゃぎ声と、バタバタ騒ぐ音が聞こえていた。

「じゅーご
じゅーろく」

もう物音一つしない。
私の声だけが、家の中の静寂を破っている。

「にーじゅっ

よーし、皆すぐ見つけてやるからね〜」

と、言ったものの、余りに早く見つけるのは可哀想だ。

「ここかな〜?」
私は独り言を呟きながら、わざとゆっくり探す。

とはいえ普通の一軒家だ。
ものの数分で、三人を見つけた。

「じゃあ、次はお姉ちゃん以外が鬼だからな

じゃんけん
ぽんっ」

次の鬼は司。
「じゃあ、数えるよ〜」

そのセリフに、翔太と健司は家中を走り回る。

ひとしきり走ると、健司は忍び足で移動を始めた。

さて、私も隠れなければ…

すると翔太が私の腕を掴む。
彼は口に手を当て、私の腕を引っ張りながら歩き出す。

向かった先は両親の寝室だ。
翔太は私にクローゼットを指差した。
そのクローゼットは観音扉の年代物で、最近のオシャレな物と違い、木製の頑丈せうな造りだ。

祖母の形見らしく、母が大切にしている家具でもある。


『ここに隠れてって言いたいのね』

私は中に入り、掛けてある服の後ろに身を潜めた。

(お姉ちゃん、僕が閉めといてあげる)

彼は扉を閉めた。
が、閉めた直後に何やら金属音がする。

(何してるの?)

(えへへ、お姉ちゃんが見つからないよう、おまじないっ)
(i)
3 九郎
そう言うと、翔太も何処かへ隠れだした。

『子供の遊びとは言え、何かドキドキするわね…』


やがて台所から司の「二十っ」が聞こえた。
そして真っ直ぐ此方へ来たようだ、足音が近づいてくる。

寝室のドアが開いた。

『来たっ』

司は部屋に入るなり、
「翔ちゃん、見っけ〜」
と叫んだ。

どうやら翔太は、あっさり見つかったようだ。
ならばこのクローゼットもすぐバレるだろう。

と思いきや、司は翔太と一緒に寝室を出ていった。

??
そう言えば、翔太がおまじないって言ってたわね…
何だろう?

鬼が出ていったので、私は様子を見ようと扉を開けようとした。
が、ほんの少し開いただけで、後はびくともしない。

『え?ええっ!?
何で開かないの?』

理由は直ぐに分かった。
扉の取っ手に、チェーンらしき物が巻いてある。

『やられた…
これは彼らのイタズラに違いない
さてはこの間に私の部屋を荒らすつもりだな…』


「ねぇーっ、翔太君っ
お姉ちゃんの負けだから、ここ開けて〜」

返事がない。
それどころか、物音一つしない。

私は不安になり、彼らを呼び続けた。

が、やはり返事がない。
しかし、クローゼットの外に人の気配がする。

『全くもうっ
私を怖がらそうと、意地悪してるわねっ
後で覚えてらっしゃいっ』

その時
私は不意に尿意を感じた。
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