1 白川
ママの治療はおしりぺんぺん
「さゆり、今日は早く帰ってきなさいね?」
「えっ、なんで?」
「なんでって…、もう月のかわり目でしょう。」
「あっ……!」
「…遊ぶ約束とか、しちゃ駄目よ?」
今月もまた、この日がやってきた。
普段は奔放であることが認められている私も、月に1度だけ自由が奪われてしまう日がある。
「ねぇママ…、もうそろそろいいんじゃない…?」
「なに言ってんの。子供のうちは続けてやらないと効果がないって、あなたも一緒に聞いてたでしょう?」
「でもさぁ、それ何年も前だし…。」
「いけません。…考えるにしても、中学生ぐらいになってからね。…ほら、遅刻しちゃうよ。」
異議を唱えても、すぐにはぐらかされてしまう。
ママがそうまでして続けようとしているのは、私に対する"治療"だった。
それが少し遠くの医者に通う程度の内容ならば、私も露骨に嫌がったりはしない。
問題があるのは、その治療手段。
月に1度、私はママから嫌というほどおしりをぶたれるのだ。
例外はあるものの、本来は私を叱ることが目的ではない。
あくまで治療。
しかし何も悪いことをしていなくても、100か200…時にはもっとたくさんぶたれる月もある。
罰を兼ねなくてもおしりが真っ赤になるほどなのだから、その日にママを怒らせてしまうと大変だ。
同世代の間ではおそらく叱られ慣れている方である私も、治療のある日ばかりはおとなしくママの言うことを聞くようにしている。
[作者名]
白川
「えっ、なんで?」
「なんでって…、もう月のかわり目でしょう。」
「あっ……!」
「…遊ぶ約束とか、しちゃ駄目よ?」
今月もまた、この日がやってきた。
普段は奔放であることが認められている私も、月に1度だけ自由が奪われてしまう日がある。
「ねぇママ…、もうそろそろいいんじゃない…?」
「なに言ってんの。子供のうちは続けてやらないと効果がないって、あなたも一緒に聞いてたでしょう?」
「でもさぁ、それ何年も前だし…。」
「いけません。…考えるにしても、中学生ぐらいになってからね。…ほら、遅刻しちゃうよ。」
異議を唱えても、すぐにはぐらかされてしまう。
ママがそうまでして続けようとしているのは、私に対する"治療"だった。
それが少し遠くの医者に通う程度の内容ならば、私も露骨に嫌がったりはしない。
問題があるのは、その治療手段。
月に1度、私はママから嫌というほどおしりをぶたれるのだ。
例外はあるものの、本来は私を叱ることが目的ではない。
あくまで治療。
しかし何も悪いことをしていなくても、100か200…時にはもっとたくさんぶたれる月もある。
罰を兼ねなくてもおしりが真っ赤になるほどなのだから、その日にママを怒らせてしまうと大変だ。
同世代の間ではおそらく叱られ慣れている方である私も、治療のある日ばかりはおとなしくママの言うことを聞くようにしている。
[作者名]
白川
(PC)
2 白川
そもそもママが治療を始めてしまったのは、私がまだ幼稚園児の頃。
近所に小さな小児病院があり、私も体調を悪くして何度かお世話になることがあった。
いつも通りに名前を呼ばれ、私は診察を受けることになる。
どうやら症状も軽いようで安心したママが、看護婦さんを交えて何気なく始めた世間話。
私の覚えている限り、それが引き金になったに違いないのだ。
「よかったわぁ…。私の冷え症も子供の風邪みたいにケロッと治ればいいんだけど。」
「大変ですよねぇ、私もなんですよー。でも、こればっかりは…。」
「体温を維持するトレーニングでもありませんかねぇ…。」
「そう都合よくは…。」
ママの長話は、始まるとなかなか終わらない。
それを知っていた私が、退屈そうにうろうろし始めたのだと思う。
そこらの器具を興味津々に触り始めて、看護婦さんに制止された。
「こらこら、そんなとこ触ったらママにおしりぺんぺんしてもらうよー?」
「すみません…。ほら、さゆり…。」
「あ、でも…。」
「定期的におしりをぺんぺんしてあげたら、将来冷え性にもならないかもしれませんね。」
「えっ…?」
「ほら、叩くと見た目にもわかるくらい赤くなってぽかぽかしてくるじゃないですか?案外、効果的かもしれませんよー。」
「そ、そう言われれば、確かに…。」
「でも毎日あったらやだから、月に1回ぐらいでいいよね、さゆりちゃん?」
この時、私が意味もわからず頷いてしまったことが最大の間違いだった。
看護婦さんにしてみれば、私のお転婆をたしなめる程度の冗談のつもりだったのだろう。
そう、看護婦さんに罪はない。
ママの思い込みの激しさを知らなかったのだから。
そして更に2、3質問をしたのち、ママは私と診察室をあとにした。
「さゆり、冷え性なんかとは縁のない体にしてあげるから、頑張ろうね!」
私に運がなかったのは、この日から半年も経たないうちに小児病院が潰れてしまったことだ。
明らかにおかしい、と自分の意見が主張できるようになった時には、あの病院の先生や看護婦さんともう1度会う手段はなくなっていた。
子供でいる間…、ママが言うには少なくとも小学校まで。
私はママからおしりぺんぺんされるという情けない治療を、我慢するほかなくなってしまったのだ。
近所に小さな小児病院があり、私も体調を悪くして何度かお世話になることがあった。
いつも通りに名前を呼ばれ、私は診察を受けることになる。
どうやら症状も軽いようで安心したママが、看護婦さんを交えて何気なく始めた世間話。
私の覚えている限り、それが引き金になったに違いないのだ。
「よかったわぁ…。私の冷え症も子供の風邪みたいにケロッと治ればいいんだけど。」
「大変ですよねぇ、私もなんですよー。でも、こればっかりは…。」
「体温を維持するトレーニングでもありませんかねぇ…。」
「そう都合よくは…。」
ママの長話は、始まるとなかなか終わらない。
それを知っていた私が、退屈そうにうろうろし始めたのだと思う。
そこらの器具を興味津々に触り始めて、看護婦さんに制止された。
「こらこら、そんなとこ触ったらママにおしりぺんぺんしてもらうよー?」
「すみません…。ほら、さゆり…。」
「あ、でも…。」
「定期的におしりをぺんぺんしてあげたら、将来冷え性にもならないかもしれませんね。」
「えっ…?」
「ほら、叩くと見た目にもわかるくらい赤くなってぽかぽかしてくるじゃないですか?案外、効果的かもしれませんよー。」
「そ、そう言われれば、確かに…。」
「でも毎日あったらやだから、月に1回ぐらいでいいよね、さゆりちゃん?」
この時、私が意味もわからず頷いてしまったことが最大の間違いだった。
看護婦さんにしてみれば、私のお転婆をたしなめる程度の冗談のつもりだったのだろう。
そう、看護婦さんに罪はない。
ママの思い込みの激しさを知らなかったのだから。
そして更に2、3質問をしたのち、ママは私と診察室をあとにした。
「さゆり、冷え性なんかとは縁のない体にしてあげるから、頑張ろうね!」
私に運がなかったのは、この日から半年も経たないうちに小児病院が潰れてしまったことだ。
明らかにおかしい、と自分の意見が主張できるようになった時には、あの病院の先生や看護婦さんともう1度会う手段はなくなっていた。
子供でいる間…、ママが言うには少なくとも小学校まで。
私はママからおしりぺんぺんされるという情けない治療を、我慢するほかなくなってしまったのだ。
(PC)
3 白川
「おかえり。よしよし、今日はちゃんとまっすぐ帰ってきたのね。」
「…寄り道したらまた、夜までずっとおしり叩くんでしょ…?」
「あれは自業自得でしょう?治療受ける本人がそんなんじゃ、治るものも治らなくなっちゃうもの。」
「そんなこと言ったって…、私まだ病気じゃないし…。」
「予防接種みたいなものだっていつも言ってるでしょ?なってからじゃ遅いんだから……。」
「だって、私だけ…。」
「それに、2度目だから夜までじゃあ許しませんよ。その日、次の日、その次の日。3日は続けておしりぺんぺんさせてもらいます。」
「な、なにそれ…!」
「もしもまた、そんなことがあったら…の話ね。今日はこうして帰ってきたんだし。」
「そうだけど……。」
「お喋りはこのくらいにして、そろそろおしり出しなさい。また夜になっちゃうわよ?」
「…はぁい。」
私は観念しておしりをぶたれることにした。
この会話が長引けば長引くほど、治療が終わる時間も遅くなる。
そうなると、治療の最中にパパが帰ってきてしまう恐れがあるのだ。
実はこの治療に関して、パパはいまだに詳しいこと一切知らない。
私がなにかいけないことをして、怒ったママからおしりをぶたれている。
その程度の認識しかないのだ。
ただ、これはママの方針ではない。
実は私からママに頼んで、そういうことにしてもらっている。
というのも治療で最も辛いことは、素肌を曝したおしりを帰宅したパパに見られてしまう可能性があること。
おそらくは、パパに全てを話せばママの治療をとめてもらえるのだろう。
でも…、もしも。
万が一、パパにとめてもらえなかったら?
もしくは…、ママがやめないと主張してかなりの時間を要したら?
私のおしりを叩くことに関してだけの話し合いが始まり、激論が交わされるのだろう。
その結果次第では、パパの中でも私がママにおしりをぶたれているのが日常風景になってしまうかもしれない。
「おっ、またやってるな」とばかりに隣で新聞でも広げるようになることだってありうる。
今はまだ、叱られているであろう気まずさからすぐに違う部屋へ移動してくれているのだ。
パパまで協力してしまう可能性が1%でもあるのなら、叱られていると思っていてくれた方が遥かにましに思える。
「…パパが帰ってくる前に、済ませてね…?」
「さゆり次第だけど…。今日は、なにも悪いことしてない?」
「し、してないよ!」
「…ほんとかしら?」
ママの治療は、いつもこうした問答から始まっていく。
「…寄り道したらまた、夜までずっとおしり叩くんでしょ…?」
「あれは自業自得でしょう?治療受ける本人がそんなんじゃ、治るものも治らなくなっちゃうもの。」
「そんなこと言ったって…、私まだ病気じゃないし…。」
「予防接種みたいなものだっていつも言ってるでしょ?なってからじゃ遅いんだから……。」
「だって、私だけ…。」
「それに、2度目だから夜までじゃあ許しませんよ。その日、次の日、その次の日。3日は続けておしりぺんぺんさせてもらいます。」
「な、なにそれ…!」
「もしもまた、そんなことがあったら…の話ね。今日はこうして帰ってきたんだし。」
「そうだけど……。」
「お喋りはこのくらいにして、そろそろおしり出しなさい。また夜になっちゃうわよ?」
「…はぁい。」
私は観念しておしりをぶたれることにした。
この会話が長引けば長引くほど、治療が終わる時間も遅くなる。
そうなると、治療の最中にパパが帰ってきてしまう恐れがあるのだ。
実はこの治療に関して、パパはいまだに詳しいこと一切知らない。
私がなにかいけないことをして、怒ったママからおしりをぶたれている。
その程度の認識しかないのだ。
ただ、これはママの方針ではない。
実は私からママに頼んで、そういうことにしてもらっている。
というのも治療で最も辛いことは、素肌を曝したおしりを帰宅したパパに見られてしまう可能性があること。
おそらくは、パパに全てを話せばママの治療をとめてもらえるのだろう。
でも…、もしも。
万が一、パパにとめてもらえなかったら?
もしくは…、ママがやめないと主張してかなりの時間を要したら?
私のおしりを叩くことに関してだけの話し合いが始まり、激論が交わされるのだろう。
その結果次第では、パパの中でも私がママにおしりをぶたれているのが日常風景になってしまうかもしれない。
「おっ、またやってるな」とばかりに隣で新聞でも広げるようになることだってありうる。
今はまだ、叱られているであろう気まずさからすぐに違う部屋へ移動してくれているのだ。
パパまで協力してしまう可能性が1%でもあるのなら、叱られていると思っていてくれた方が遥かにましに思える。
「…パパが帰ってくる前に、済ませてね…?」
「さゆり次第だけど…。今日は、なにも悪いことしてない?」
「し、してないよ!」
「…ほんとかしら?」
ママの治療は、いつもこうした問答から始まっていく。
(PC)
4 白川
パシッ…、パシッ…、パシッ……
ママが私のおしりを叩き始める。
治療が始まったのだ。
直前の受け答えに問題がなかったので、ようやく普段の通りに叩いてもらえることになった。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
罰さえ絡まなければ、ママが行うおしりぺんぺんの治療は基本的に優しい。
おしりに刺激を与えるのが目的なのでそれなりの痛みはあるのだが、痛さで泣き喚くような事態にはならないからだ。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
「ママ…、ちょっと強くない?」
「もう高学年でしょ?これくらいは我慢しなさい。」
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
こんな不満を言えるのも、私に余裕があるからなのだ。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…………
ただいくら優しいといっても、本当になんでもないのは最初だけだ。
なにせ、数だけは相当たくさんぶたれる。
幼稚園時代から100はぶたれるのが当たり前だった私のおしりは、体が大きくなるにつれ赤みを帯びるのも遅く、丈夫になってきてしまっているらしい。
正直、今までの経験からして今日のママの叩き方が100や200で済むとは思えなかった。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
「ねぇママ、いくつなの…?」
「ん?」
「100?それとも200?…悪いことしてないんだから、300はないよね…?」
「んー、どうかしらねぇ。」
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
ママが答えてくれないことが、その答えに思えた。
きっと300は叩くのだろう。
強い痛みがないからといって、辛くないわけではない。
熱をもったおしりがぴりぴり痒くなってきて、体をよじらせずにはいられないのだ。
それをよく咎められ、あまりに酷い時は少しのあいだ罰になったこともある。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
「…ねぇママ、本当のこと言ってよ。」
「そうねぇ…。言ったら、最後までちゃんと受けられる?」
残りの数を知るのと知らないとでは、おしりをぶたれることそのものは変わらなくても気持ちに大きな差ができる。
「…ちゃんとする。」
「約束ね…?」
ママが一旦、手を休める。
私のおしりをぶっていたママの手は、おしりと同じ程度にほのかな赤みを帯びていた。
「今日はね……。」
そうしてママが口にした言葉には、私にとって最悪の内容が含まれていたのだ。
ママが私のおしりを叩き始める。
治療が始まったのだ。
直前の受け答えに問題がなかったので、ようやく普段の通りに叩いてもらえることになった。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
罰さえ絡まなければ、ママが行うおしりぺんぺんの治療は基本的に優しい。
おしりに刺激を与えるのが目的なのでそれなりの痛みはあるのだが、痛さで泣き喚くような事態にはならないからだ。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
「ママ…、ちょっと強くない?」
「もう高学年でしょ?これくらいは我慢しなさい。」
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
こんな不満を言えるのも、私に余裕があるからなのだ。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…………
ただいくら優しいといっても、本当になんでもないのは最初だけだ。
なにせ、数だけは相当たくさんぶたれる。
幼稚園時代から100はぶたれるのが当たり前だった私のおしりは、体が大きくなるにつれ赤みを帯びるのも遅く、丈夫になってきてしまっているらしい。
正直、今までの経験からして今日のママの叩き方が100や200で済むとは思えなかった。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
「ねぇママ、いくつなの…?」
「ん?」
「100?それとも200?…悪いことしてないんだから、300はないよね…?」
「んー、どうかしらねぇ。」
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
ママが答えてくれないことが、その答えに思えた。
きっと300は叩くのだろう。
強い痛みがないからといって、辛くないわけではない。
熱をもったおしりがぴりぴり痒くなってきて、体をよじらせずにはいられないのだ。
それをよく咎められ、あまりに酷い時は少しのあいだ罰になったこともある。
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ…、パシッ……
「…ねぇママ、本当のこと言ってよ。」
「そうねぇ…。言ったら、最後までちゃんと受けられる?」
残りの数を知るのと知らないとでは、おしりをぶたれることそのものは変わらなくても気持ちに大きな差ができる。
「…ちゃんとする。」
「約束ね…?」
ママが一旦、手を休める。
私のおしりをぶっていたママの手は、おしりと同じ程度にほのかな赤みを帯びていた。
「今日はね……。」
そうしてママが口にした言葉には、私にとって最悪の内容が含まれていたのだ。
(PC)
5 白川
「…今日はね、数えてないの。」
「えっ…?……ど、どういうこと…?」
残りの数どころか、その意味さえ理解することができなかった。
わかったことといえば、私の想定していた終わるタイミングが全て白紙になったことくらいだ。
「さゆりは、この治療…始めた頃に比べて、どう?」
「どうって…そりゃイヤだよ。痛いし、恥ずかしいし…。」
「本当?」
「…ほ、ほんとだってば!」
「本当に…、200で痛い?100でも痛い?昔と比べて…、どう?」
「そ、それは……。」
「正直に言いなさい。」
ママの言いたいことがなんとなくわかってしまった。
今の私には、ママの治療に対してある程度耐性がついてしまっている。
それはママの目から見ても明らかなのだろう。
もちろん悪さをした時なら、泣き喚くぐらいきつくぶたれる日もある。
しかし今日のように優しい治療の日はどうか。
恥ずかしさはともかく、痛さは昔と全く変わらないとは言い難い。
早く治療の終わりを告げてほしい一心で、思っているよりも大袈裟に痛がってしまう節はあった。
「そりゃ、最初の最初に比べたら……、ほんの、ちょっと……。」
「痛くなかったのね?」
痛くないということは、治療の効果が薄れているということ。
おしりぺんぺんが治療だと本気で信じているママにとっては、それを黙っていたのは許し難いことのようだった。
「…数えなくて正解ね。」
「えっ…?」
「さゆりのためだし、今日からはちゃんと時間を決めることにします。」
「時間?」
「5時で終わりにしようと思ってたけど、今日は5時半まで。今までズルしてた分、反省しなさい。」
「ちょっ…、それって、5時半までずっとおしり叩くってこと…!?だって、まだ4時すぎたとこだよ…?」
「そうだね。今度から…あまり痛くなくなってきたら、ちゃんと自分から言えるよね?」
「言う、言うからぁ…!」
「今日は5時半まで。…さゆり、痛くしますよ。」
……ピシャッ!
それは、ぶたれて泣くほどの痛みではなかった。
ただ、私の心は絶望していた。
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
痒い程度だったおしりが、じわじわと加速度的に痛み始める。
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
この地獄が、あと1時間以上も続くというのだ。
たぶん私じゃなくても、泣き喚かずにはいられない。
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
「…ごめんなさい…、ごめんなさぁい……。」
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
必死に許しを請う私の叫びもむなしく、ママの治療は時間いっぱいまで続けられるのだった。
「えっ…?……ど、どういうこと…?」
残りの数どころか、その意味さえ理解することができなかった。
わかったことといえば、私の想定していた終わるタイミングが全て白紙になったことくらいだ。
「さゆりは、この治療…始めた頃に比べて、どう?」
「どうって…そりゃイヤだよ。痛いし、恥ずかしいし…。」
「本当?」
「…ほ、ほんとだってば!」
「本当に…、200で痛い?100でも痛い?昔と比べて…、どう?」
「そ、それは……。」
「正直に言いなさい。」
ママの言いたいことがなんとなくわかってしまった。
今の私には、ママの治療に対してある程度耐性がついてしまっている。
それはママの目から見ても明らかなのだろう。
もちろん悪さをした時なら、泣き喚くぐらいきつくぶたれる日もある。
しかし今日のように優しい治療の日はどうか。
恥ずかしさはともかく、痛さは昔と全く変わらないとは言い難い。
早く治療の終わりを告げてほしい一心で、思っているよりも大袈裟に痛がってしまう節はあった。
「そりゃ、最初の最初に比べたら……、ほんの、ちょっと……。」
「痛くなかったのね?」
痛くないということは、治療の効果が薄れているということ。
おしりぺんぺんが治療だと本気で信じているママにとっては、それを黙っていたのは許し難いことのようだった。
「…数えなくて正解ね。」
「えっ…?」
「さゆりのためだし、今日からはちゃんと時間を決めることにします。」
「時間?」
「5時で終わりにしようと思ってたけど、今日は5時半まで。今までズルしてた分、反省しなさい。」
「ちょっ…、それって、5時半までずっとおしり叩くってこと…!?だって、まだ4時すぎたとこだよ…?」
「そうだね。今度から…あまり痛くなくなってきたら、ちゃんと自分から言えるよね?」
「言う、言うからぁ…!」
「今日は5時半まで。…さゆり、痛くしますよ。」
……ピシャッ!
それは、ぶたれて泣くほどの痛みではなかった。
ただ、私の心は絶望していた。
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
痒い程度だったおしりが、じわじわと加速度的に痛み始める。
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
この地獄が、あと1時間以上も続くというのだ。
たぶん私じゃなくても、泣き喚かずにはいられない。
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
「…ごめんなさい…、ごめんなさぁい……。」
ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ…、ピシャッ……
必死に許しを請う私の叫びもむなしく、ママの治療は時間いっぱいまで続けられるのだった。
(PC)
6 白川
……ピシャッ!
「はい、今日はこれでおしまいね。」
ママが私のおしりをぶつのをやめた瞬間、倒れ込むように体中の力が抜けてしまった。
流れ落ちた涙と汗で、ところどころがぐっしょりと濡れている。
おしりの感覚がすっかりなくなって、痺れと熱だけが同居している。
落ち着いたらまた一気に痛みだすのだろう。
ただ、それはママの手も同じようだった。
「ひどいよ、ママ…。あんなにぶたなくても…。」
「きちんと治療を受ける子には、ママもそんな風にしませんよ。」
「…いじわる。」
治療の日が月に1回と決まっているせいか、今日のようにひどくぶたれた日でも終わると妙に安心してしまう。
これでひと月のあいだは自由だと、解放感に似た喜びが押し寄せてくるからかもしれない。
ただ、それが叱られる要因を作ってしまうことだってあるのだ。
「本当はね…、どのくらいの時間で痛くなってくるか相談するつもりだったのよ?」
「…えっ?」
「いつもの強さで、2時間でも3時間でも叩いて…ね。今日は途中で痛くしないといけなくなったから…、わからなかったけど。」
そういえば昔、まだいつも100叩きだけで解放してもらっていた頃、似たようなことを言われた気がする。
おしりを痛くするのが目的ではないのだから、100回でおしりをあたためるのが辛いなら、100より痛くない力で200回にしてはどうか。
ママなりに、少しでも私の負担が少なくなるよう考えてくれていたのだと思う。
しかし私は成長するにつれ恥ずかしさばかりが気になって、少しでも少ない数でと早く終わらせることばかり考えるようになっていた。
勘違いから始まったとはいえ、ママが今も治療を続けようとするのは私のためを思ってのことなのだ。
そう考えると、こうしてママの子供でいられる時間はあとどれだけなのかと少し寂しくなってしまう。
「…今度は、痛くしないよね?」
「さゆりが…悪いこと、しなかったらね…?」
少し、ほんの少しだけ。
ママの治療を受ける日が待ち遠しくなった気がした。
あとひと月したらきっと、後悔するのだけれど。
「はい、今日はこれでおしまいね。」
ママが私のおしりをぶつのをやめた瞬間、倒れ込むように体中の力が抜けてしまった。
流れ落ちた涙と汗で、ところどころがぐっしょりと濡れている。
おしりの感覚がすっかりなくなって、痺れと熱だけが同居している。
落ち着いたらまた一気に痛みだすのだろう。
ただ、それはママの手も同じようだった。
「ひどいよ、ママ…。あんなにぶたなくても…。」
「きちんと治療を受ける子には、ママもそんな風にしませんよ。」
「…いじわる。」
治療の日が月に1回と決まっているせいか、今日のようにひどくぶたれた日でも終わると妙に安心してしまう。
これでひと月のあいだは自由だと、解放感に似た喜びが押し寄せてくるからかもしれない。
ただ、それが叱られる要因を作ってしまうことだってあるのだ。
「本当はね…、どのくらいの時間で痛くなってくるか相談するつもりだったのよ?」
「…えっ?」
「いつもの強さで、2時間でも3時間でも叩いて…ね。今日は途中で痛くしないといけなくなったから…、わからなかったけど。」
そういえば昔、まだいつも100叩きだけで解放してもらっていた頃、似たようなことを言われた気がする。
おしりを痛くするのが目的ではないのだから、100回でおしりをあたためるのが辛いなら、100より痛くない力で200回にしてはどうか。
ママなりに、少しでも私の負担が少なくなるよう考えてくれていたのだと思う。
しかし私は成長するにつれ恥ずかしさばかりが気になって、少しでも少ない数でと早く終わらせることばかり考えるようになっていた。
勘違いから始まったとはいえ、ママが今も治療を続けようとするのは私のためを思ってのことなのだ。
そう考えると、こうしてママの子供でいられる時間はあとどれだけなのかと少し寂しくなってしまう。
「…今度は、痛くしないよね?」
「さゆりが…悪いこと、しなかったらね…?」
少し、ほんの少しだけ。
ママの治療を受ける日が待ち遠しくなった気がした。
あとひと月したらきっと、後悔するのだけれど。
(PC)