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11歳と新聞紙

貴之は思春期だった。
遅い早いの個人差はあれど、性への興味というものは誰しもやって来る。

(何、これ…?)

その引き金も些細なもの。
週に一度父親が買って来るスポーツ新聞の成人欄を見てしまったことが、言わば性の芽になった。
ただ、興奮していることは自覚できてもそれ以上の知識は持ち合わせていない。
兄弟のいない11の少年にとって、こういった物を見てしまうことは漠然とした"悪"に感じられた。
だからこそ、新聞を隠し持ったりしようとはせず、眺めた後は元の通りに戻すだけ。
性欲よりも、見つかることへの恐怖心が勝っているうちはそれが精一杯だったのだ。
[作者名]
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しかし数ヶ月も経つうちに、心境は少しずつ強気になる。
それまで気にしたこともなかったが、スポーツ新聞が溜まると母親は毎日の新聞と纏めて地域の廃品回収に出していた。
一部ぐらい抜き取っても、ばれないのではないか。
閃いてしまえばあとは簡単だった。
一部、二部と自室の机にしまい込んでいっても、母親が気にかける素振りもない。
一度元に戻すのをやめてしまうと、後はどんどん溜まっていくだけだった。

(まずい…、いつの間にこんな…。)

勉強机に入りきらなくなった分は押入れに一時避難。
そうして考え無しに部屋へ持ち込んだスポーツ新聞の山は、いつしかそう簡単には処分できないほどの量になっていた。
貴之は少しずつ廃品回収の束に混ぜていくつもりでいたのだが、その方法にもリスクがあることに気付いてしまった。
もしも、新聞に書かれた日付けを見られたら…、隠し持っていたことがわかってしまうかもしれない。
普通に考えればあり得ないことなのだが、見つかることへの恐怖が再燃してしまってどうしてもその手段は取れそうになかった。

(…でも、処分はしないと…。)

とにかく、絶対に見つからない方法で。
そう考えるうち、とある大きな家の敷地が頭をよぎることになる。
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そこは貴之の自宅から自転車で数分ほどの距離に建っている家で、屋敷と呼べるほど大きなものだった。
道に沿って専用のゴミ捨て場も設置されていて、業者も回収に来ているらしい。
つまりはそこへ一緒に捨てさせてもらおうという魂胆だ。
貴之は屋敷の主と知った仲という訳ではなかったが、出入りする女性と会釈を交わす程度の面識はあった。
優しそうなあの人ならば、仮に捨てるところを見られても少々のことは目を瞑ってもらえるかもしれない。
そんな打算が背中を押してしまう。
貴之は新聞を一部ずつ、道すがらゴミ捨て場に残していくようになった。
せめて風で飛んだりしないようにと気遣いはしていたが、それが悪事であることは貴之の目にも明らかだった。
そうして月日をかけ、半数と少しもの"処分"が終わった頃。

「…すみません、少し…よろしいですか?」

ついに呼び止められる日がやって来てしまう。
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「…どうぞ。」

屋敷の中は、外観に劣らずの豪邸。
おそらくは最も不名誉な形で招かれることになった貴之は、どう言い訳するかくらいしか考える余裕はなかった。
事情を聞かれても、正直に答えるわけにはいかないからだ。
幼いふりをして「ゴミ捨て場だから捨ててもいいと思った」などと言えば許されるだろうか。
まず無理だろう。
大して悩む時間もないまま通された一室で、貴之の事情聴取は始まる。

「今までの新聞紙も、あなたが…?」

「まぁ……。」

「では、あなたの意志で……?」

「…ずっと、見つかるまで続けるつもりでしたか…?」

穏やかな口調ながら、一方的な質問攻めは貴之にとって拷問のように感じられた。
口を開くたび嘘を重ねてしまう。
自分でも説明がつかないほど大きな罪悪感に苛まれるまで、さほど時間はかからなかった。

「…お家の方に、連絡を取ってもいいかしら…?」

「そ、それだけは…!」

それでも、全てが表沙汰になってしまうことだけは何としても避けなくてはならない。
結局のところ、大事なのは自らの体裁。
貴之はそんな自分に吐き気がした。
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「…わかりました。」

女性はそう呟くと立ち上がり、貴之の眼前で正座をする。

「…でしたら、私がお尻をぶってさしあげます。」

自宅へ連絡しない条件として提案されたのは、尻叩きという子供のような懲罰だった。
それは11歳の貴之にとってかなりの屈辱ではあったが、話を公にしないことへの対価ならば乗らない訳にもいかない。
神妙に太腿の上へ横たわると、それまで味わったことのないような恥ずかしさが体の奥からわきあがってくる。

「…では。」

「あなたは、この家で悪いことをしました。」

「ですから、この家のルールで罰を与えます。」

「…よろしいですね?」

過剰なまでの事前確認が続く。
既に罰の内容は決まっているというのに、女性はなかなか貴之の尻を打とうとしない。
それが何よりの辱めになっていることは、貴之の表情から読み取れる。

「……今日は100ですよ。」

ぱん、と強く弾かれた尻肉が、ズボン越しにも重い衝撃を感じる。
痛い。
それを噛み締めるだけの間もなく、ぱん、ぱんと手の平が当たり、貴之はこぶしを強く握って耐えるほかなかった。
よほど叩くことに慣れているのだろうか。
一方の女性は叩き疲れるどころか、回数を重ねるごとに力強さが増していく。
50も叩く頃には、今いる立派な部屋の外まで響きかねないほどの大きな音を出していた。
心なしか、ズボンを穿いているはずの貴之の尻も一回りほど大きくなったように錯覚してしまう。
ぱん、ぱん、ぱん。
見えないほどの遠くで聞いていれば、何の音かもわからないに違いない。
貴之がいま受けている尻叩きは、叩いている女性のほかに誰も知ることがないまま。
その苦しみも、貴之本人を除いては知り得ない。
100回にわたる戒めを受けた貴之は、両手で尻を押さえながらも安堵していた。

「よく頑張りましたね。」

これで許してもらえる。
そう思った矢先、女性の言葉には続きがあった。

「…次は、お尻の痛みが和らいだら…またいらしてください。」

「こうしてきちんと罰を受けていただければ、新聞紙はこちらで一部ずつ処分しておきます。」

「…い、一部…ずつ?」

「はい。今日は初めてでしたから…ほんの少し、優しくしてしまいました。」

貴之の背筋に悪寒が走る。

「必ず、またいらしてくださいね。」

「この家の、ルールですから…。」

貴之の償いは、まだ始まったばかりのようだ。
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6 tk
面白いですね。続きが気になります。
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