1 はる
いちばん古い記憶
『ねぇ、覚えてるなかで一番小さい頃の記憶っていつ?』
友達と話をしていると、よくそんな事が話題になる。
『んん、ゴメン。小学校の高学年ぐらいからしか覚えてないや。』
『そんな事だろうと思った。ったく、いつもぽーっとしてるからだよー?』
『でも、らしいかも。』
『言えてるー。』
私はいつもそうやって、覚えてないフリでごまかすのだが。
本当は覚えている。
口にすると恥ずかしさで死んでしまいそうな、忘れたくても忘れられない黒歴史。
そんな思い出が、私のなかにずっとあるのだ。
[作者名]
はる
友達と話をしていると、よくそんな事が話題になる。
『んん、ゴメン。小学校の高学年ぐらいからしか覚えてないや。』
『そんな事だろうと思った。ったく、いつもぽーっとしてるからだよー?』
『でも、らしいかも。』
『言えてるー。』
私はいつもそうやって、覚えてないフリでごまかすのだが。
本当は覚えている。
口にすると恥ずかしさで死んでしまいそうな、忘れたくても忘れられない黒歴史。
そんな思い出が、私のなかにずっとあるのだ。
[作者名]
はる
(PC)
2 はる
まだ保育園に通う歳だった。
朝早く目が覚めると、布団がぐっしょり濡れている。
完全におねしょをしていた。
私は幼いながらに焦りと絶望に打ちひしがれる。
数ヶ月前までは失敗する事もあったし、見つかったところで父も母もさほど怒りはしないだろう。
ただ、ひと足先に小学校にあがった兄と姉にからかわれるのは容易に想像できた。
保育園でおねしょかよ。
恥ずかしくて来年幼稚園には行けないね。
そうやって笑われるのだけはどうしても避けたい。
そんな一心で私がとった行動。
それは、いわゆる隠蔽工作だった。
朝早く目が覚めると、布団がぐっしょり濡れている。
完全におねしょをしていた。
私は幼いながらに焦りと絶望に打ちひしがれる。
数ヶ月前までは失敗する事もあったし、見つかったところで父も母もさほど怒りはしないだろう。
ただ、ひと足先に小学校にあがった兄と姉にからかわれるのは容易に想像できた。
保育園でおねしょかよ。
恥ずかしくて来年幼稚園には行けないね。
そうやって笑われるのだけはどうしても避けたい。
そんな一心で私がとった行動。
それは、いわゆる隠蔽工作だった。
(PC)
3 はる
寝ている兄と姉が起きないよう、布団のなかでもぞもぞとおしっこまみれのパンツを脱いだ。
それをそのまま部屋の隅の物陰に残し、再び布団へ戻る。
証拠を隠したいという気持ちはあっても、こっそり新しいパンツをはくだけの知恵はなかった。
母が起こしに来る時間になると、兄と姉は先に起きる。
家を出る時間が私より早いからだ。
そうやって少しだけ長く寝かせてもらえる私も、起こさなければ遅刻する。
朝ご飯を食べる時間を計算に入れ、兄と姉が家を出る直前に母はやって来る。
そこで気付かれてしまうのだ。
「…アンタ、どうしてパンツはいてないの?」
それをそのまま部屋の隅の物陰に残し、再び布団へ戻る。
証拠を隠したいという気持ちはあっても、こっそり新しいパンツをはくだけの知恵はなかった。
母が起こしに来る時間になると、兄と姉は先に起きる。
家を出る時間が私より早いからだ。
そうやって少しだけ長く寝かせてもらえる私も、起こさなければ遅刻する。
朝ご飯を食べる時間を計算に入れ、兄と姉が家を出る直前に母はやって来る。
そこで気付かれてしまうのだ。
「…アンタ、どうしてパンツはいてないの?」
(PC)
4 はる
母はすぐに私がおねしょをしたと悟る。
証拠のパンツをどこかへ隠したことも。
焦って涙目になる私をじっと見つめたあと、決して声を荒げることなく。
私の耳元でこう囁くのだ。
『お兄ちゃんとお姉ちゃんが行ってから。』
『…お尻をぺんぺんするからね、話はそのあと。』
母は私がパンツを隠した理由も、何となく見抜いていたのでしょう。
私は母から他にこれといった体罰を受けた覚えはありません。
ただ、この日だけはひどくぶたれる覚悟をしていました。
自分のために嘘をつくのは一番いけないと、兄や姉が叱られているのを何度も見ていたからです。
母が他の洗濯物とまとめておねしょパンツを持っていくところを見ながら、下半身を布団で隠してふるえていました。
証拠のパンツをどこかへ隠したことも。
焦って涙目になる私をじっと見つめたあと、決して声を荒げることなく。
私の耳元でこう囁くのだ。
『お兄ちゃんとお姉ちゃんが行ってから。』
『…お尻をぺんぺんするからね、話はそのあと。』
母は私がパンツを隠した理由も、何となく見抜いていたのでしょう。
私は母から他にこれといった体罰を受けた覚えはありません。
ただ、この日だけはひどくぶたれる覚悟をしていました。
自分のために嘘をつくのは一番いけないと、兄や姉が叱られているのを何度も見ていたからです。
母が他の洗濯物とまとめておねしょパンツを持っていくところを見ながら、下半身を布団で隠してふるえていました。
(PC)
5 はる
『行ってきまーす。』
玄関に二人の声が消えていくと、しばらくして母がやってくる。
私は何となく立って待った方がいい気がして、おねしょ布団の横で気をつけの姿勢をとった。
「あらあら、何その格好。覚悟できてますってこと?」
母が笑ったことで気持ちは楽になった。
しかし、母が先に布団の処理をしたことで何もない部屋に数分間残されてしまったことが妙に恥ずかしかった。
下半身裸で、気をつけのまま。
母が戻ってきたら罰が待っているという恐怖と、早く戻ってきてほしい気持ちが半々だった。
玄関に二人の声が消えていくと、しばらくして母がやってくる。
私は何となく立って待った方がいい気がして、おねしょ布団の横で気をつけの姿勢をとった。
「あらあら、何その格好。覚悟できてますってこと?」
母が笑ったことで気持ちは楽になった。
しかし、母が先に布団の処理をしたことで何もない部屋に数分間残されてしまったことが妙に恥ずかしかった。
下半身裸で、気をつけのまま。
母が戻ってきたら罰が待っているという恐怖と、早く戻ってきてほしい気持ちが半々だった。
(PC)
6 はる
『アンタは、おねしょしといて…。』
べちっ!
『あんなとこに隠すのは、どういうつもりー!?』
べちっ!!
『ごめん…ごめんなさいー…!!』
濡れた布団に寝ていたせいでまだ少し湿った感じの尻を、母は容赦なく叩きます。
片付けている間も、ずっと怒りを溜めていたのか。
口が勝手に「イー」を発音する時の形になるくらい、とびっきり痛い平手打ちがむき出しの尻に炸裂します。
『お母さんが見つけなかったら…。』
べちっ!!
『黙ってるつもりだったんでしょ!』
べちっ!!
『そんな子に育てた覚えはなぁい!!』
べちぃっ!!
『ふえええぇん…!』
私は号泣していました。
当たり前です、めっちゃくちゃ痛いんです。
十年経っても忘れないぐらいに。
実際にはものの二、三十回ほどだったと思います。
それでも、真っ赤に腫れているのが遠目にわかるほどでした。
べちっ!
『あんなとこに隠すのは、どういうつもりー!?』
べちっ!!
『ごめん…ごめんなさいー…!!』
濡れた布団に寝ていたせいでまだ少し湿った感じの尻を、母は容赦なく叩きます。
片付けている間も、ずっと怒りを溜めていたのか。
口が勝手に「イー」を発音する時の形になるくらい、とびっきり痛い平手打ちがむき出しの尻に炸裂します。
『お母さんが見つけなかったら…。』
べちっ!!
『黙ってるつもりだったんでしょ!』
べちっ!!
『そんな子に育てた覚えはなぁい!!』
べちぃっ!!
『ふえええぇん…!』
私は号泣していました。
当たり前です、めっちゃくちゃ痛いんです。
十年経っても忘れないぐらいに。
実際にはものの二、三十回ほどだったと思います。
それでも、真っ赤に腫れているのが遠目にわかるほどでした。
(PC)
7 はる
『わかったわね、もうしないのよ。』
母が私を解放し、保育園の準備を始める。
左右の尻の痛みでうまく座ることができず、ご飯の間はもぞもぞと動きっぱなし。
保育園に着いてからは母から叱られた事を悟られないよう努めたが、大人はみんな気付いていただろう。
もしかしたら、こっそり母が全部説明したかもしれない。
最近になって少し気になる。
母はどこまで覚えているのだろう。
自分から聞くつもりもないが、機会があれば…いつか。
『…ねぇ、私が小さい頃の事、覚えてる…?』
母が私を解放し、保育園の準備を始める。
左右の尻の痛みでうまく座ることができず、ご飯の間はもぞもぞと動きっぱなし。
保育園に着いてからは母から叱られた事を悟られないよう努めたが、大人はみんな気付いていただろう。
もしかしたら、こっそり母が全部説明したかもしれない。
最近になって少し気になる。
母はどこまで覚えているのだろう。
自分から聞くつもりもないが、機会があれば…いつか。
『…ねぇ、私が小さい頃の事、覚えてる…?』
(PC)