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1 大島

六年生のおねしょには

六年生の沙羽は、母の奏と共に病院を訪れていた。

病院といっても奏が知り合いを通じて教えてもらった専門医。
親達のあいだでも「子供のおねしょには渚先生」と囁かれているほど、その筋では有名な女医だと聞いて是非にと申し込んだのだ。
沙羽は不服そうだったが、おねしょが止まるならとしぶしぶ奏について来た。

『沙羽ちゃん、だったかしら?』

『…は、はい。』

『いつからおねしょが始まったのか…話してもらえる?覚えてる範囲でいいから。』

沙羽のおねしょが再発したのは、六年生に進級してすぐだ。
沙羽が幼稚園ごろまでは続いていた夜尿の癖。
小学校に上がってからはすっかり治まったように見えていたのだが、突然また始まってしまった。
奏も最初のうちは『そんな事もあるわよ』と気にしていなかった。
ところがその日を境に沙羽のおねしょは増え続ける。
二週間に一回ほどだった失敗は週に一回になり、やがて二回、三回…。
今では布団を濡らさない日の方が少なくなってしまっている。
[作者名]
大島
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2 大島
『幼稚園の時にしなくなって…六年生で再発…、と。』

渚はボールペンを走らせながら、沙羽の答えを復唱する。
それは医者として当然の行為ながら、沙羽には耐え難い時間だった。
自ら口にした失敗を読み上げられ、記録は文字で残されてしまう。
完全秘匿の個人情報とはいえ、渚や看護師はきっとそのカルテを何度も読むのだろう。
その時の事を想像すると、いっそ全て忘れて破り捨ててほしいぐらいだった。

『幼稚園の頃は、自然と無くなったんでしょうか?』

そんな沙羽の意思とは裏腹に、渚は淡々と質問を続けていく。
今度は奏に聞いているようだった。

『そうですね…特別な事は、何も。』

『…おねしょを叱ったりは?』

『あっ…そうですね。あまり続くと、お尻を叩いたりくらいはしてました。』

『…他には?』

『…いえ、それくらいです。あまり厳しくした覚えはないので…。』

沙羽にとって、居心地の悪い時間は続く。
親が自分を叱った昔話をしている時ほど気恥ずかしいものは無い。
相手が医者の渚であってもそれは変わらないのだ。

『そうですか…、わかりました。』

渚はボールペンを机に置くと、真剣な顔をして向き直った。
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3 大島
『今回と似たケースを何度か診てきましたが、有効と呼べる対処法は一つです。』

渚がいうと、沙羽も奏も息をのんだ。
どんな難しい事を要求されるのか想像もつかなかったからだ。

『昔と…、同じようにしてみてください。』

『……はい?』

『具体的には…沙羽ちゃんがおねしょをした日に、お尻を叩いてあげてください。昔と同じように。』

『は、はぁ…。』

しろと言われれば試してみるが、よく理解はできない。
そんな様子の奏を見て、渚が加えて説明する。

『実は、おねしょの再発自体は珍しい事では無いんです。治し方も子供によって違っていて…必ずこれをやればいいなんて治療はありません。』

『この子の場合は、お尻を叩く事が治療だと…?』

『そうですね。"昔と同じように"というのが重要ですから、お仕置きとして痛めつけるというよりは…沙羽ちゃんに幼稚園の頃を思い出してもらいたいんです。』

『幼稚園の頃…、ですか。』

『ええ、ある種の演技というか…叩くフリだけでも結構ですよ。』

沙羽はほっと胸を撫で下ろしていた。
親子でそんなやり取りをするのは確かに恥ずかしいが、おねしょが無くなるなら願ったりだ。
もの凄く苦い薬やぶっとい注射を想像していただけに、叱られる演技だけで治るというのはありがたかった。
奏と目を見合わせて頷くと、渚も安心したように再びカルテを手に取った。

『それじゃ、沙羽ちゃんは先に外で待っててもらえるかしら?お母さんともう少し話がしたいの。』

本当なら一秒でも早くこの場を去りたい沙羽にとって、この指示は吉報でしかなかった。
ペコッと渚に会釈したあと、何も言わず外へ出ていく。
沙羽がいなくなったのを確認し、渚は小声で奏と話し始めた。

『実はですね…。一つだけ、守ってもらいたい事柄があるんです…。』

何も知らない沙羽は、待合スペースで足をぱたぱたさせながら備え付けのTVモニターに夢中になっていた。
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『何の話だったの?』

『…何でもないわ。今度いつ来たらいいかとか、相談してただけ。』

『ふーん…。』

いつものお母さんとどこか違う。
沙羽も何となく気づいてはいたが、それ以上は聞かなかった。
自分自身でおねしょの話を掘り下げてしまうのはあまりに滑稽に思えたからだ。

『明日からね?沙羽がお布団濡らしたら、お尻をぺんぺん叩きますよ。』

『…ちょっとお母さん!…大きな声で言わないでよ…!』

『はい、はい。』

『それから…お父さんにはぜっっったい、内緒だから!』

『はぁーい。』

沙羽のおねしょが再発したのは父も知っている。
最初は隠す約束だったのだが、あまり頻繁に続くとそうもいかない。
それについて沙羽に何か言ってくるわけでもないのだが、男親に知られているというだけで娘には辛いものがある。
この上、奏にお尻ぺんぺんされる事になっているとまで知られてしまえばどんな顔をして毎日会えばいいかわからない。
帰り道、沙羽は奏に何度も念押ししながら約束を結んでもらった。
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5 大島
『…また、濡れてる…。』

翌朝五時。
いつもの不快感に目を覚ました沙羽の布団には、大きな世界地図が広がっていた。

『これ、どうしたらいいんだろ…。』

おねしょをしたら、お尻を叩いてあげてください。
渚の言葉が頭の中でくり返す。
奏を起こしに行くべきか迷っていると、ほんの小さくノックの音がした。

『…起きてるー?可愛い娘の、お尻を叩きに来ましたよー?』

『…私まだ、おねしょしたなんて言ってないのに。』

『あら、してないの?』

『…した、けど…。』

『じゃあ、お尻をぺんぺんしないと…ねぇ?』

奏が自分の腰元をぺんぺん叩く仕草をすると、沙羽は観念したように布団を開いて見せた。

『…どうして、わかったの…?』

『沙羽ったら、おねしょの日だけは早起きなんだもの。昔から…ね?』

何も言い返す言葉が見当たらない。
自分のわかり易さにがっくり肩を落とす沙羽を見て、奏が続ける。

『わかったらさっさと下脱いで。洗えないでしょ?』

『…はぁい…。』

沙羽は洗面所へ向かうため、奏の横を通りすぎようとした。

『ちょっと、どこ行くのよ?』

『どこって…汚れ物、こんな所に置けないし。』

『それはお母さんがやるから。…あんたはここで、お尻を出して待ってるの。』

『は、はぁっ!?』

『昔もそうしてたでしょ?お母さんが戻って来たら、沙羽のお尻を叩いて…終わったら、シャワーで洗ってあげて…。』

『…シャワーも、ダメなの…?』

『だから、終わってからね。』

悪い冗談ならと願う沙羽だったが、奏の目は本気だった。
沙羽の手から汚れ物を受け取り、奏は部屋を出て行った。
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『…いい子で待ってたかしら?』

再び部屋に戻った奏は、開口一番そう口にした。

『…やめてよ、そういうの…。』

『何を言ってるの…。昔と同じようにって、沙羽も先生に言われたでしょう?』

『だからって…。』

『聞きません。あんたがマジメにやるまでは、いつまでだってやり直すからね?』

『なっ、何よそれ…!?』

『はいはい、今のあんたは幼稚園児なの。少しはそれっぽくいい子にしなさい。』

『……!』

『いい加減にしないと…、お父さんが起きる時間になっちゃうでしょう。いいの?』

奏に言い包められたわけでは無い。
無いのだが…最大の弱みともいえるそこを突かれてしまうと、沙羽には応じるほかなかった。

『わかったら、こっちにいらっしゃい。』

正座した奏が、自らの脚に寝るよう促す。

『でも…まだ洗ってないから、お母さんも汚れちゃうよ?』

『そんな事はいいの。どうせまとめて洗うんだから。』

『でも……。』

『…沙羽、ちゃん…!?』

お母さんが怒っている。
ちゃん付けで呼ばれた瞬間、遠い記憶が蘇った。
おねしょをしていた、幼稚園時代。
あの頃はまだちゃん付けで呼ばれていて…怒られる時はこうして、低めのトーンでゆっくり名前を呼ばれた。
これはおねしょを治すための治療で、演技なのだ。
沙羽は自らにそう言い聞かせると、奏の脚に横たわった。
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『ほぉら沙羽ちゃん、お尻ぺんぺんですよー。』

奏はゆっくり腕を振りあげ、沙羽の尻たぶに当たるとピタリと止めた。
演技という事で痛みはないのだが、母が自分の尻に手を当てる動作をひたすらくり返すというのはたまらないものがある。

『おねしょをする沙羽ちゃんは…こうですー。』

また平手を尻に当て、ピタリと止める。
叩くというより撫でられているような感覚が、どうにもむず痒くて耐えられない。

『やめてよ、その言い方…。』

『あら、沙羽ちゃんが痛がってくれないと…いつまでも終わらないわよ?』

『…はぁ?』

『もうー、またその顔。怒られた子がそんな顔するわけないでしょう?』

『どうしろっての…。』

『お母さん、ごめんなさいー……でしょ?』

『…絶対、言わないから。』

『ご自由に?…言えるまで許してあげないけどね。』

奏は小言を言いながら、沙羽の尻を叩く真似事を続けている。
逆の腕でしっかりと沙羽の体を抱え込んでいるため、沙羽が逃げようにも逃げられない。
仮に逃げられたところで、父に言わない約束は反故になってしまうのだろう。
沙羽は一度ぐっと唇を噛み締めたあと、声を絞り出すように呟いた。

『お…お母さん、…ごめんなさい……。』

『はぁーい、よく言えました。』

奏は沙羽を立ち上がらせると、頭を撫でながらこう言った。

『今日のところは…、これくらいで許してあげる。…シャワー、浴びてらっしゃい。』

『うん…。』

父が目覚めないうちにと、沙羽が忍び足で洗面所へ向かう。

『…ほんと、大っきなお尻になったこと。』

奏は呟きながら布団のシーツを外す。
他のみんなが家を出たあと、すぐに干せるようにするためだ。
一方の沙羽は、浴室である事に気付いていた。

『ちょっと待って、お母さんさっき…おねしょしたそのままのお尻叩いて、その手で、髪…。』

ボディシャンプーだけで済まそうと考えていたのに、そうもいかなくなっていた。

『もー、お母さんサイアクー!』

自業自得とはいえ、この先が思いやられる治療初日となった。
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それから数週間。
沙羽は失敗のたび奏から治療を受ける事になり、朝早くから尻を曝さなくてはいけない日が続いた。
本当に効果があるのか半信半疑のまま、六年生にもなって母親から尻を叩かれる真似事を毎日のように続けねばならない。
口にできない屈辱感との戦い。
おねしょを治したいと思う一方で、治療への不満は日に日に募っていった。

『ねぇ、お母さん。…今日はお尻叩かなくてよくない?』

四日ぶりの治療。
沙羽がそれだけの間失敗をしなかったのは、渚の病院へ行って以来初めての事だった。

『…沙羽は、おねしょ治したくないの?』

『だって…、久しぶりだし、今日はちょっとしか出てないし……。』

沙羽の主張は嘘ではない。
事実、布団に残るほどの染みはできていなかった。
沙羽が自分から申告しなければ、奏も見落としてしまっていただろう。

『ちょっとでも何でも、おねしょはおねしょ。違う?』

『そ、そうだけどさ…。恥ずかしいんだもん……あれ。』

『あれ?…ああ、お尻ぺんぺんされる事?そうしないと治らないんだから仕方ないでしょう。』

『お願いっ!今回だけ、見逃して…?』

しばらく失敗をせずにいられた事で、沙羽は気持ちが大きくなっていた。
今ならお母さんの機嫌もいいはず。
隠せたはずの失敗を自分から言ったという後ろ盾もあり、説得できる自信はあった。

『…あんたがそれでいいなら…まぁ、いいわ。』

『ほんとっ!?』

『ええ、ここ何日かは失敗もしてないし…言いたい事はわかります。今日はやめておきましょ。』

『やった!』

『こら、大きな声だしたらお父さん起きちゃうでしょ。』

おねしょをした日に治療を受けず許してもらえた。
この事実は沙羽にとってとても重要だった。
このまま症状が改善していけば、耳たぶまで真っ赤にして尻を曝さなくてはいけない日もすぐに無くなる。
普通の六年生に戻れるのだ。

『そうそう…、沙羽。』

奏は汚れ物を拾い上げると、小さく畳みながら沙羽に話し掛ける。

『次の病院ね、今日か明日になると思うんだけど…たぶん今日だから。学校終わったらすぐ帰ってきなさいね。』

『え…、決まってたんならもっと早く教えてよー。遊びに行こうと思ってたのに。』

『ごめんごめん。とにかく…今日は早くね?』

『…はぁい…。』

沙羽が洗面所へ向かおうとしると、奏もそれ以上は呼び止めなかった。
また治療の話をされるのかとうんざりした様子の沙羽だったが、成り行き次第では治療を変えてもらえる可能性もある。
改善した事実をどう伝えようか。
鼻歌まじりにシャワーを浴びる沙羽の着替えを用意しながら、奏が一つため息をついた。

『まったく、もう…。』

それは、何か新たな問題に直面したような…悩める母親の顔だった。
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10 大島
放課後、夕暮れと呼ぶにはまだ少々早い時間。
渚の病院に、沙羽と奏の姿があった。
奏が受付の女性看護師に何やら用紙を手渡し、目を通して奥へと持って行く。
沙羽はその後ろの待合スペースで、治療の辛さを渚にどうわかってもらうかを必死に考えていた。
もとより沙羽には病院の手続きなどよくわからない。
名前を呼ばれるまでの時間に、渚を説得する方法を考えなければならなかった。

『そうだ、私は六年生なんだから…。やっぱりこんなのおかしいですって主張すれば…。』

『沙羽、行くわよー?』

『えっ、……もう!?』

『今日は空いてるみたい。ツイてるわねー沙羽。』

待って、まだ何もまとまってない。
テンカウントを突然ゼロにされたような焦りが沙羽の頭を真っ白にする。
そしていざ渚を目の前にすると、自分が何をしに来たのかさえわからなくなってしまった。

『こんにちは、沙羽ちゃん。』

『…こ、こんにちは……。』

黙って俯く沙羽を見て、再び口を開いたのは渚だった。

『…記録表は、先ほど見せてもらいました。』

『(記録、表…?何だろ。)』

渚が手にしているのは二枚の用紙。
どこかで見覚えがあった。

『前回から一月ほどでしたね。…それで二枚というのは少々、多いですが…。』

『…すいません、先生…。』

『いえ、大丈夫ですよ。確かに改善の傾向は見られますし…今日なんて四日ぶりだったんでしょう?』

『はい、そうなんです…。』

『(何、二人とも…何を言ってるの……?)』

話している内容は、間違いなく自分のおねしょに関する事。
それはわかる。
でもどうして、紙なんて見ながら……?

『……先生。』

『……?どうしたの、沙羽ちゃん。』

『…それ、見せてください。』

『ええ、いいわよ?あなたの物だもの。』

沙羽は用紙を受け取り…絶句した。

『何…これ…?』

おねしょ記録表。
太い文字でそう印刷された用紙には、ボールペンで沙羽の名前が記されている。
そこには沙羽がおねしょをした日付、推定される時間、染みの大きさやにおいに至るまでの詳細が書き連ねてあった。

『……これ、お母さんが…?』

『もちろん、先生がお願いしたのよ?』

『…な、何で?』

『そりゃあ…、治療のためですもの。詳しければ詳しいほど参考になるからね。』

『だ、だからって……!』

沙羽が一番納得がいかないのは、用紙右枠にでかでかと設けられた備考欄だった。
…月…日、なかなか起きず。お尻ぺんぺん十四発。
…月…日、気持ちが入らず長引く。お尻ぺんぺん二十七発。
なんと、奏が沙羽の尻をいくつ叩いたかまでが事細かに全て記録されていたのだ。
もちろん叩くのが演技だというのは渚も理解してくれている。
それでも、こうして具体的な数まで出されるのは耐えがたかった。
二人が揃って目の前にいる以上、容易に想像できてしまうからだ。
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11 大島
『この際だから言うけど…実はもう一つ、沙羽ちゃんにとって悪い報せがあるの。』

まだショックから立ち直れずにいる沙羽。
そこに追いうちをかけるように、渚が淡々と話し始めた。

『……何ですか…?』

『それはね、今日ここへ来ちゃってる事…かな。』

『……今日?』

なかなか続きを言ってこない渚を不審に思い、沙羽はふと奏に目をやる。
こちらも、どこか雲行きが怪しい。
どうやら奏は全てを知っているようだった。

『お母さん、どういう事…?』

『……あのね、沙羽。今日ここへ来る事が決まったのは…、今朝なのよ。』

今朝決まった。
ああ、だから事前に教えてもらえなかったのか。
でも、言っている意味はよくわからない。

『最初に来た日にね…、先生に聞いたのよ。次、いつ来たらいいですかって。そしたら……。』

『…そしたら?』

『沙羽が治療を拒んだ日に、また来てください、…って。ね、先生?』

沙羽が渚の顔を見る。
優しそうに微笑むその笑顔には、医師としての信念が宿っていた。

『前にも言ったと思うけど…大事なのは、治療を続ける事なの。もしそれが難しくなったら、もう一度来てくださいねって頼んでおいたのよ。』

怒られる。
沙羽が直感でそう思ったのは、渚の言葉の裏に気迫のようなものを感じたからかもしれない。

『大丈夫だよ、いい子でいられたら…今日一回だけで済むからね?』

やはり、これから何かされるのだ。
不安に怯える沙羽をなだめようと渚は声をかけるが、どうにも落ち着きそうにない。
これなら何をするのかはっきり伝えた方が早いと、渚は説明する事にした。
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12 大島
『じゃあ沙羽ちゃん、お母さんも……こちらへ。』

渚は立ち上がると、診療室の奥へ二人を招き入れた。
そこには入口付近の診療台とは別に、もう一回り大きな診療台が置かれている。
大人一人が大の字に寝転んでも、まだ余裕があるだろうか。
少々使い古されていて、レザー部分の端から所々綿が飛び出して見えている。

『少し待っててくださいね。』

しばらくすると逆の部屋から、看護師がついたてを二つ運んで来た。
学校の保健室に置かれているような、シルエットで向こう側が透けて見えるタイプの薄い物だ。
看護師は手際良く診療台を囲うようについたてを仕掛けると、また奥の部屋へ消えていった。

『沙羽ちゃん、靴を脱いでこの上に上がってくれる?』

『は…はい…。』

『あっ、滑るから靴下もね。』

一体、何が始まるというのか。
首をかしげながら靴下を脱ぎ、膝を使って診療台にのぼる。
大きな診療台だが、高さは通常の半分に満たないらしい。
小学生の沙羽でも、ほとんど手も使わずにのぼる事ができた。

『…あの先生、どうしたら……?』

『沙羽ちゃんはそのまま。…お母さん、こちらに。』

診療台の脇に奏が立ち、渚は沙羽と正面で向き合うように、数十センチほど離れた位置に待機している。
また何か記録するつもりなのか、カルテらしいバインダーを片手に指示を出す。

『ではお母さん、伝えてあった通りに。』

『……はい。』

『この場で、治療をおこなってみてください。』
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治療。
渚が沙羽に対してのそれはもちろん、尻叩きを意味している。

『ちょ…、わけわかんない…!』

『もう沙羽…、ぐずぐず言わないの。心配しなくても、今日は先生にやり方を教わるだけだから…。』

『やり方って、何よ……。』

意地でもやらせまいと両手で尻を隠す沙羽。
奏は何とか納得させるため、順を追って説明する。

『まずね、最初に先生に言われたの。効果が出る出ないに関わらず、治療は続ける事が一番大事だって。』

『…それは、わかってるよ……。』

『それともう一つ。あんたくらいの子は、一度はこういう治療を途中で投げ出そうとするんだって。…今朝のあんたみたいに。』

『……あれは、投げ出したわけじゃ…。』

ただのワガママではなかったと、自分自身に言い聞かせたいところだ。
しかし沙羽が治療を逃れたあと、少なからず後ろめたさを感じていたのも事実だった。

『だから、そういう時だけね。演技じゃなく、本気で叱ってあげた方がいいだろう…って。先生から言われてたの。』

『…そんなの……!』

『…聞いてない?そうね、沙羽がいい子で治療を続けてくれたら、今日だっていつも通りお家にいられたのよ?』

奏に叱られ、沙羽は涙目で俯いてしまった。
渚は沙羽が落ち着くまで数分ほど待ってから、背中を撫でて話し掛ける。

『…せっかく、おねしょが減ってきているんだもの。もう少し頑張ってみない?』

沙羽がしぶしぶ納得するのを見て、渚が沙羽の正面へ戻る。

『ではお母さん…お願いします。』

『はい。…じゃあ沙羽ちゃん、肘をついて…お尻を上げてちょうだいね。』

奏が家で治療する時と同じよう、ちゃん付けで呼び始めた。
沙羽も気付いていたが、これから自分の身に起こる事を考えればどうでもいい。
渚が見守る中、院内での恥ずかしすぎる治療の時間が始まろうとしていた。
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『…パンツも、下ろすよ。』

『……っ!』

まだ治療は始まってもいない。
それなのに、すでに消え去ってしまいたいほどの恥ずかしさが沙羽を襲っていた。
診療台の上でつき出すように高く掲げた、一糸纏わぬむき出しの尻。
それを叩いて罰するため、すぐ脇に母の奏が立っている。
加えて、正面で様子を窺うように待つ渚の存在。
まっすぐ正面を向けば目が合ってしまうため、沙羽は渚の手にしているカルテを凝視するようにどうにか視線を逸らしていた。

『まずは、いつもの通りに。』

『…はい。』

渚が言うと、奏はいつもの治療でするように沙羽の尻に平手をぴたりとくっつけては離す、尻叩きのような動作を始めた。

『治療が嫌だなんて…、悪い子ですねぇ沙羽ちゃんはー。』

『………っ!』

いつもなら言い返しているところだが、今の沙羽にそれは酷だった。
下手に反抗すれば長引くかもしれない。
さらに言えば、終わらないかもしれない。
黙るのが最善策だと判断した沙羽は、ただ黙って耐えようと決めていた。

『お母さん、一度止めてください。』

奏が十と少し叩き真似をしたところで、渚から物言いがついた。

『…沙羽ちゃん、いつもこんな感じですか?治療の時。』

『いえ、いつもはもう少し喋るんですけど…。すいません、先生の前だと緊張してるみたいで。』

『いえ、それならいいんです。ただ、反省するところまで演じてもらわないと、昔と同じになりませんから…。』

『ああ、そういう事ですか…。大丈夫です、家では言わせてますから。』

渚はさらさらとメモを取り、バインダーを机に戻す。

『大体、わかりました。…治療そのものに関しては問題が無いようですね。』

『そうですか、良かった……。』

『では最後に…、沙羽ちゃんに治療を続けてもらうためのおまじないをしましょうか。』

『……ええ、わかっています。ご指導よろしくお願いします、先生。』
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奏は沙羽以上に緊張した面持ちで、渚の指示を待つ。

『そんなに硬くならなくても、大丈夫ですよ。おまじないと言っても、やる事はそんなに変わりませんから。』

『…そ、そうなんですか……?』

『はい。沙羽ちゃんのお尻をぶってあげてください。できるだけ、昔と同じように。』

沙羽も奏も、渚の言いたい事がよくわからなかった。
それは今やっている治療とどこか違うのか。
奏がそう尋ねる前に、渚が説明を始める。

『よく思い出してみてください。お母さんは厳しくしていないと仰っていましたが、昔の沙羽ちゃんは…今よりは痛がっていたはずです。』

『そ、そうなんでしょうか…?』

『小さな子供の皮膚って、とても薄いんですよ。大人が軽くペチンとやったつもりでも、何倍もの痛みを感じていたりするんです。』

渚が話している間、沙羽はどんな顔をしていればいいのかわからなかった。
奏は昔見た沙羽の尻を思い出しながら、目の前にあるずいぶん大きくなった尻と見比べているに違いない。
振り返らずともそのくらいはわかった。

『…ですから当時の沙羽ちゃんは、少なくとも今よりは…お尻をぶたれる事を怖がっていたはずなんです。お母さんには、その時の痛みを再現してもらいたくて。』

『あの、どうすれば……?』

『これから何度か、少し思い切った力でお尻を叩いてあげてみてください。適度な力を私の方で判断してみます。』

『…お願いします。』

『(ウソウソウソ……、どうなってんのー……!?)』

沙羽が困惑する中、奏と渚の打ち合わせは滞りなく終わったようだった。

『……さあ沙羽ちゃん、お尻ぺんぺんの続きしますよー。』

『お母さん、六年生ですから…思い切りよく。』

『…はい。』

奏が自分の肩のあたりまで掌を振りかぶると、沙羽は目を瞑って覚悟を決めた。
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ぱんっ!

沙羽の尻を打った奏の平手は大きな音をたて、それを院内に響かせた。

『痛ったー…。強いって、お母さん…。』

『ウソ、そんなに痛かった?』

『痛いよ、昔こんなに強くやられてないよ、…あんまり覚えてないけどさぁ…。』

沙羽が痛がっているのは本心からだった。
黙っていようと決めたにも関わらず地が出てしまったのは、その痛さに驚いたからだろう。
しかし、渚の見解は違っていた。

『今のは駄目ですね、お母さん。』

『すいません、強くやりすぎたみたいで…。』

『いえ、逆です。少し弱いですね。もう少し強めてみてもらえますか?』

『ええっ…!?』

『…沙羽ちゃんも、頑張れるよね?』

『…は、はい……。』

逆らうわけにいかない沙羽は、首を縦に振るしかなかった。

ぱぁんっ!

『……んっ…!』

一際大きな音が鳴り、沙羽は思わず声を漏らす。
一瞬遅れて尻がじわりと熱を持ち、ひりひりと痛みはじめた。

『…ど、どうでしょうか?』

『……そうですね、もう少し強めてもいいとは思いますが…。…いいでしょう。そのくらいでお願いします。』

『…わかりました。』

『では、同じ強さを意識して…そうですね、あと三十。お尻の左右を交互に叩いてあげてください。』

『…は、はい。』

『(さ、三十って……!?)』

言われた通り、奏は強い平手打ちで娘の尻を打ち据えていく。
ぱぁん、ぱぁんと交互に打ち鳴らされる沙羽の尻は、次第に鮮やかな桃色に染まっていった。

『……あんっ、あぁんっ…!!』

声を出すまいとすればするほど漏れてしまう、喘ぎ声にも似た幼さの残る声。
沙羽が本気で痛がっていると感じてはいても、奏がその力を緩める事は無かった。

『…もう……、…嫌ぁ……!!』

奏が手を止めた時、先ほどまで桃色だった沙羽の尻は赤に染まり始めていた。
よほどきつく叩いていたのだろう。
肩で息をしながら脱力している沙羽に、渚が声をかける。

『痛かったでしょう、沙羽ちゃん。…これが、治療が嫌になった時のおまじない。』

それは、おまじないと呼び方を変えた折檻にほかならなかった。

『…明日から、おねしょしてもちゃんとお母さんの言う事聞けるかな?』

『………はい。』

沙羽が消え入りそうな声で返事をすると、渚も満足そうに頷いた。

『ではお母さん、明日からは今まで通り治療とその記録をお願いします。』

『…は、はい。』

『似たような事があったら、今度はご自宅でおまじないをしてあげてください。それでも効果がなければ…、こちらで何とかしますので。』

沙羽を介さず、また奏と渚が話し合いを始める。
沙羽は散々ぶたれたばかりの尻をしまうと、ふらふらと歩いて待合スペースへ向かう。

『また今度ね、沙羽ちゃん。』

看護師が、こちらを見て笑っているような気がした。
理由は沙羽自身もわかっている。
あれだけ大きな音がすれば、子供である沙羽が何をされているかなんて丸わかりのはずだ。

『(もーやだ、ほんと帰りたい……!)』

なかなか出て来ない奏に腹が立ったが、同時に恐怖もあった。
帰りが遅いのは、それだけたくさんの事柄を打ち合わせているという事だろうから。
次は何をされるんだろう。
奏の声が呼びかけるまで、沙羽はまた一人頭を悩ませていた。
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17 無名さん
いい♪
(EZ)
18 無名さん
最後まで見れん
(EZ)
19 無名さん
ぺんぺん!
(EZ)
20 無名さん
これは傑作!
(EZ)
21 無名さん
治療を拒んで男の先生にきつくお尻を叩かれるのを見たいです
(PC)
22 無名さん
♪♪♪
(EZ)
23 無名さん
良い
(EZ)
24 無名さん
私も 小6まで おねしょしてて 小2の妹の前で
ママに お尻叩かれて
育ちました。
お仕置されるのが嫌で
妹のせいにして 余計ひどい お仕置された事があります。
お尻叩かれて お灸すえられました。艾を3つぐらい乗せられて…
今も 跡残ってるよ(泣)私の場合 中学2年の時に
パパとママが離婚して 私は パパに引き取られてから おねしょ治りましたよ。
(PC)