Write
1 石川

先生の課題

『それじゃあ…先生、今日もうちの子をよろしくお願いします。』

『はい、ではまたお迎えの時間に連絡しますね……。』

ピアノ教室。
華やかで女子児童に人気の高い習い事というイメージがあるが、事実とは少し違う。
我先にと習わせたがるのはほとんど親のほうで、そこに子供の希望など一切尊重されていないことも多い。
和葉もまた、そうやっていつの間にか通わされるはめになったうちの一人だった。

『さて、それじゃ…今日も楽しいレッスン始めましょうか。』

和葉にピアノを指導する慶子は元保育士で、経歴上は小学校の教員免許も持っている。
その経験からか物言いがやや幼すぎる子供に対しての接し方になってしまうことがあったが、もう五年生の和葉には少々わずらわしかった。

『先生、今日は何するの?』

『…そうねぇ、この曲なんてどう?弾けたらカッコいいわよぉ。』

『……ヤダ。こんな暗号みたいな楽譜、弾けるわけないし。』

『じゃあ……こっちの曲は?』

『無理だって。もっと簡単なのがいいー。』

『もう…、わがままさんねぇ和葉ちゃんは。』

レッスン内容にある程度の自由がきくことは、和葉にとって大きな救いだった。
ピアノのレッスンと聞いて、高慢な指導者に好きでもない曲を無理やり演奏させられるような最悪の環境も想像していたからだ。
実際に指導してくれることになった慶子がいい意味でそれを裏切ってくれたことから、渋々ながら通うことにも納得している。

『いいわ、弾きたいのあったらそれ教えてあげるから…。』

『ほんと?』

『ええ。今日は特別よ?来週はちょっと難しいのも練習しましょうね。』

『はぁーい…。』

レッスン日の大半はこうした自由練習に使われる。
和葉は習い事には乗り気でなかったものの、よくしてくれる慶子のことは母のように慕っていて一緒にいると楽しかった。
ピアノを続けたいかと聞かれると返答に困るが、辞めるつもりはないといったところだろうか。
[作者名]
石川
(PC)
2 石川
そうして本人なりにレッスンを楽しんでいた和葉にも、苦手な時間がある。

『さて和葉ちゃん、残り30分。お楽しみの時間でーす。』

『うえぇ…、今日やらないんじゃないのー…?』

『先生そんなこと言ったっけー?そもそも先週不合格だったんだから、今週もあるに決まってるでしょう。』

『ぜったい、無理だし……。』

『あー、さては練習しなかったでしょう?…これは"お仕置き"決定かなぁ…?』

『…やるもん。先生、弾けたらナシだからね!』

慶子のピアノ教室では、習いに来るほとんどの児童に一定期間ごとの「コンクールへの出場」を課していた。
内容、結果は問わない。
やる気なく滅茶苦茶に演奏などすれば叱りもするが、出場経験そのものが子供にとって良い経験になるとの考えからだ。
ただ完全な強制というわけでもなく、和葉のように子供自身が出場を拒む場合は出なくてもよいことになっている。

『もちろん、わかってますよ。弾けたら…ね。』

そのかわりとして、慶子はコンクールが近づくたび"課題曲"を出していた。
出場しないからと目標が何もなくては向上心も生まれず、とくに和葉のように「なんとなく通うようになった」児童とは馴れ合うだけの関係になりやすい。
それでは教室の意味がないからと、課題を達成できない児童には、保護者に了解をとった上で慶子が罰を与えることになっている。

『先週間違えたのがココだから、最低でもココ。半分までいけたら…うーん、このあいだよりはいいかなぁ。
 最後でちょっと間違えるくらいは、おまけしてあげる。』

『えぇ、ココが一番難しいのにー…。』

『だから練習するんですー。和葉ちゃんがしたのかしなかったのかは、これから見せてもらいますけど。』

茶化したような敬語で話す慶子が、和葉にはずいぶんと意地悪に映ったことだろう。

『それじゃあ、はい。1、2、3……。』

慶子が演奏開始の秒読みを始めると、案の定、和葉は出だしの数音で間違えてしまった。
3度もやり直しの機会をもらいながら全て演奏にすらなっておらず、誰の目にも練習不足は明らかだった。

『……和葉ちゃん…?』

『…えっと、あの、これは……。』

『お、仕、置、き!』

『……はい…。』

慶子は和葉を立ち上がらせると、鍵盤の蓋を閉め、奥の部屋へと消えていった。
(PC)
3 石川
『和葉ちゃんはいけないことをしました、なんですかぁ?』

『ううう…、ピアノの練習をサボりましたぁ。』

『そうですね、それはしてもいいことですかぁ?』

『…しちゃいけないことです……痛ぁいっ!』

慶子はうつぶせにした和葉の尻をピシリ、ピシリと打ち据えながら、まるで園児でも諭しているように甘いトーンで叱っている。
反面、平手打ちは園児に対するそれと比較するほど優しいものには見えない。
慶子の膝にのせられ露わになった、むき卵のような和葉の尻。
そこへ可哀想になるほどの強い平手を叩きつけている慶子の姿は、さながらひどい悪戯をした娘を叱る母の姿にも見える。
保育士の経験によって、子供を叱ることには慣れているのだろう。

『うぅ…今度はちゃんとやってきますからぁ……。』

『…そうだねぇ。それは先週、聞きたかったんだけどなー。』

『あーん、だってぇ…、………痛ぁっ!』

『だってじゃない。コンクールに出ないなら課題で頑張る。先生と約束したでしょう?』

『うー……。』

『はーい、お約束の守れない和葉ちゃんは、こうやってお尻ぺんぺんですからねー。』

『………痛ぁい!……あぁん、先生ひどい………痛ぁいっ!』

『ひどいもんですか。いくら痛がっても、いけない子に同情するほど先生優しくありませんから。
 今日はお迎えまでまだ20分もあるんだもの、たっぷり反省しなさいね。』

『う、うそ……、終わりまでやるの、先生……!?』

『……そうねぇ、たまには和葉ちゃんにもいい薬でしょう?』

『もうわかったから…、先生、お願い!』

『あら、どんなお願い?』

『許して、お願いだから……。』

慶子は叩く手をしばらく休めて、少し悩んだあと、また和葉の尻を打ちはじめた。
20分もの間、小学生児童の尻を打ち据えるというのは普通に考えて行きすぎた指導だ。
もちろん慶子もそれは理解していて、ほんの数回ほど和葉の尻を叩くたび、必ず説教を交えた長いインターバルを設けた。
和葉にしてみれば、際限なく慶子に尻を叩かれ続けたように錯覚してしまうほどの地獄の時間に感じたことだろう。
和葉の尻の赤らみ具合からしても相当きつく打たれたことは確かなのだが、躾の範疇を超えないラインを慶子は心得ていた。

『今度から、ちゃんと練習してこれるかなぁ?』

『……ふぁい……。』

『よーし、じゃあそろそろ許してあげる。…約束だぞぉ?』

慶子は和葉を膝から下ろすと、ずり下がった下着を元に戻し、下着ごしに赤く腫れた尻を何度か優しく撫でた。
恥ずかしそうに飛びのいた和葉に知らせることはないが、実は叩きすぎていないかの確認でもある。
軽く唇を尖らせながら自分の尻をさすっている和葉の姿に、どうやら大丈夫そうだとようやく思えるのはこの瞬間だった。

『……お母さんには、内緒にしとく?』

『えぇ、言うの…?先生……。』

『和葉ちゃんが内緒がいいなら、内緒にしてあげる。』

『…言わないで。』

『わかった、それも先生と約束ね。』

初めて安堵の表情を見せる和葉に、慶子は少しだけ意地悪をしてみたくなった。

『……でも、お風呂のときにバレちゃうかな?』

『えっ?』

『お尻が真っ赤で、お猿さんみたいに可愛くなってるんだもの。』

ほどなくして迎えに来た母。
心なしか尻のあたりを見られたくないのか、後ろをついていくようにして和葉も帰っていった。
そんな2人を見送りながら、慶子は次の児童を迎えるための準備を始める。
翌週訪れるであろう和葉との時間を楽しみにしながら。

慶子のピアノ教室は、これからも様々な音色を奏で続けるだろう。
(PC)
4 カラス
最近面白い作品に飢えてたので嬉しいです。
よかったらまた書いてくださいな。
(au)
5 無名さん
(PC)