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1 文也

僕とおばさん

下校してすぐに友達の家へ遊びに行く。
小学生なら誰しもそんな忙しないスケジュールで行動したことくらいあるだろう。
僕自身、ベッドにランドセルを投げるようにしてすぐさま自転車に飛び乗る日も少なくなかった。

ただ、その目的はあまり健全とは言えないモノで。
[作者名]
文也
(PC)
2 文也
「おばさん、健司まだ帰ってないですか?」

庭で洗濯物を取り込んでいた女の人に声をかける。
健司というのは去年に続いて今年も同じクラスになった友達で、彼女はその健司のお母さんだ。
最近になって互いの家へ遊びに行く機会が増えてきたおかげで、こうして気軽に話せる関係になった。

「ああ、いらっしゃい。そろそろ帰ってくるかな、上がって。」

「お邪魔しまーす。」

本当のことを言えば、健司と遊びたいというのは口実でしかない。
僕は健司のお母さんのことが気になって仕方なかった。
恋というやつなのかもしれない。
相手が同級生の女の子でも歳の近いお姉さんでもなく、友達のお母さんだなんてことは誰にも言えないけれど。

「宿題やったの?」

「まだです。」

「こーら、ちゃんとやんなさいよ?」

「へへ。」

こうして何気ない会話をしているだけで、満足だった。
健司は先生に居残りさせられていてまだ当分は帰らない。
それを知った上でわざと早めの時間にきたのは、もちろんおばさんと一秒でも長く話がしたかったから。

最初は本当に・・・それだけだった。
(PC)
3 文也
「それにしても、今日ほんと遅くない?」

時計は夕方5時を回ろうとしていた。
健司は掃除をサボった罰として先生にかなりの広範囲を掃除させられているハズ。
ほうきの柄で野球をしていたのを先生に告げ口され、一人でやり直しする羽目になったのだ。
もし先生の小言でもあれば5時半、6時近くになっても驚きはしない。
もちろんそれは僕が全てを知っているから。
おばさんはよほど心配なのかチラチラと時計を気にしている。

(・・・・・・いいな、健司。)

純粋に羨ましかった。
健司のお母さんなのだから帰りが遅いのを心配するのは当たり前なのだが、僕は自分でも嫌になるほどわかりやすく嫉妬してしまった。
好きな人が他の誰かを気にかけている。
それは相手が親子であろうと受け入れがたいようだ。

「さては学校で、何か悪さしたかぁ・・・?」

女性は勘が鋭いというのがおばさんを見ていてよくわかる。
僕の表情から確信を得たのか、居残りのことは何も話していないのに先ほどまでの不安そうな顔はどこかへ行ってしまった。

「心当たり・・・ある?」

「い、いえ・・・。」

「あるわね。・・・もー、あんにゃろー・・・。」

腹が立ってくると口調がほんの少しだけ汚くなる。
そんなところも可愛いと思えてしまうほどおばさんは魅力的で、関わっていたくてたまらない。

「そろそろ帰らなきゃ、お邪魔しました。」

とはいえ、いつまでも長居するわけにいかない。
健司の帰宅は間に合わなかったが、遊ぶ時間がないことは想定していたので帰ることにした。

「気をつけてね。あ、それから・・・・・・。」

おばさんは僕の腰あたりに手を這わすと、お尻をぽんぽんと叩いてこう言った。

「帰り見かけたら、帰ったら尻百タタキだぞって言っといて?」
(PC)
4 文也
僕は帰宅してから悶々としていた。
帰り道では健司とすれ違わなかったのだが、それで余計に気になっているのかもしれない。
尻百タタキ。
少しでもおばさんと関わっていたい僕にとって、それは羨ましい行為にさえ思えた。
別に叩かれたいわけではなく、一緒にいる理由が作れるなら怒られようが叩かれようが構わないという意味ではあるが。
ただおばさんにお尻をぶたれる自分の姿を想像すると、少しばかりおかしな気持ちになるのも確かだった。

(ほんとに、したのかな・・・あのあと・・・。)

翌朝、健司はいつも通りの様子で登校してきた。
本当にお尻をぶたれたかどうかは聞けなかったが、掃除の居残りは何日間か続けて行われる。
僕はこの機会にまたおばさんと会うつもりでいた。
健司の居残りについてはもうおばさんも知っている。
遅くまで帰らないとわかっていながら連日通うのはさすがに不自然だが、昨日のように庭へ出てくることもあるだろう。
淡い期待を抱きながら、放課後を待つことにした。
(PC)
5 文也
「こ、こんにちは・・・。」

「あらあら、どうしたの。」

期待に背中を押されたのか、向かわずにはいられなかった。
おばさんは嫌な顔ひとつせず出迎えてくれたものの、やはり気になるのは健司のこと。

「うちの悪ガキ・・・、真面目に掃除してた?」

「はい。」

「よかった。昨日とっちめてやったからね、これでしばらくお利口さんだといいんだけど。」

聞いて想像してしまったのだろう。
僕の視線は無意識におばさんの手に向いていた。
仮に健司のお尻を叩いたのだとしても、それが昨日なら痕跡など残っているはずはないのだが。

そわそわしている僕の様子に感付いたのはおばさんの方だった。

「・・・どうかした?」

「いえ、あの・・・本当にしたのかな・・・と思って。」

「えっ?」

「その・・・・・・お尻・・・。」

「ああ、もちろん。先生に怒られるようなことしでかしたら、うちでも尻を百タタキだーって昔から言ってあるから。」

「へ、へぇ・・・。」

本当にしたんだ。
それを知った途端、羨ましくてたまらなくなった。
怒られながらとはいえその間はずっと自分のことを見ていてもらえる。
紛れもなく僕が欲している時間とはそういうものだ。
とはいえ、息子でも何でもない僕にはどうしようもない。

そうして諦めかけた時だった。

「ははーん・・・。」

おばさんが口元に手をやりながら、くすくすと笑う。

「どうも様子がおかしいと思ったら、そういうことだったの?」

(・・・まさか、知られた・・・?)

僕はおばさんへの好意やいっそ怒られたいなどという願望が顔に出てしまったのではないかと不安になった。
しかしすぐに、それは違うと分かった。

「学校で、何か悪いことしたんでしょう?」

「・・・え?」

「何か隠してる時の健司と同じ顔してるもの。自分も叩かれるって思ったんじゃない?」

「そ、それは・・・。」

「あっはっは、こりゃあとで尻百タタキかなぁー?」

おばさんが冗談のつもりで言っているのは間違いない。
しかしその反面、うまくすれば本当に叩いてもらえる気がしていた。
僕は必死に頭を捻り、少しでもおばさんに怒ってもらえそうな言い訳を試すことにした。
(PC)
6 文也
「・・・でも、実はそうなんです。」

「えっ?」

「本当のこと言ったら、お尻ぶたれるかなと思って・・・。」

僕はおばさんに怒られることを怖がっている。
そういう演技をしながら口から出まかせを言うのはかなり難しかった。
そこで半分だけ事実を混ぜて伝えることにした。

「昨日ここでおばさんに、宿題ちゃんとやりなさいって言われて・・・。」

「・・・ああ。」

「結局、家でもやってなくて。」

宿題を忘れたのは事実だ。
おばさんのことばかり考えていて時間がなくなったのも一因ではあるが、こんな時に備えて怒られる口実を作っておきたかったのも正直ある。

「どうも、うっかり忘れた感じじゃないね。」

「はい・・・。」

「今日は?」

「・・・?」

「今日の宿題は、終わってる?」

「・・・まだ、です・・・。」

「そんなに怒られなかったからまた忘れていこうとか、思ってない?」

「い、いえ・・・。」

「思ってたよね。」

いつの間にか本当に怒られている。
僕がそう気付いた時には、おばさんの口調は少し強いものに変わっていた。

「先生の代わりに懲らしめたげる。」

「・・・・・・。」

「尻百タタキだ、おいで。」

正座したおばさんの膝に寝転ぶと、百タタキが終わるまで痛くても胸を張っているように言われた。
そうすることでお尻がほんの少し上を向くそうだ。
脱力してお尻を下げようとするのは反省が足りない証拠で、おばさんは叩いた数に含めないとも説明を受けた。
お尻をぶたれる格好とはいえ、おばさんと密着していられるのは至福の時間だ。
百タタキがどれほどの時間をかけて行われるかはわからないが、長ければ長いほどいい。
この瞬間までは本当にそう思っていた。
(PC)
7 文也
「いちっ、に、さん、しー、ごっ、ろく・・・・・・」

「・・・・・・っ!」

おばさんが僕のお尻をぱんぱんと叩き始めてすぐ。
まず頭に浮かんだのは「もったいない」だった。
叩く間隔が速いのだ。
おばさんは一秒に一回ほどのペースで僕のお尻めがけ平手打ちをしてくる。
痛くて耐えられないほどではと心配していた一番の不安要素は消えてくれた。
ただ、これでは二分と経たないうちにおばさんとの時間が終わってしまう。

「じゅうく、にじゅうっ、にじゅういち、にじゅうに・・・・・・」

思ったほどでないとはいえ、それなりの痛みはある。
二十も叩かれるとお尻がぴりぴりと痺れるような感覚になった。

「さんじゅうさん、さんじゅうよん、さんじゅうご・・・・・・」

衣服を脱げば中のお尻はほんのり赤くなっていることだろう。
痒くて手を伸ばしたくなるのをぐっと堪え、ものの一分ほどで終わってしまうであろう時間に浸る。
五十を超える頃には、体の関節あたりに汗が滲んでいるのがわかった。

「ごじゅういち、ごじゅうに、ごじゅうさーん、ごじゅうよーん・・・・・・」

気付くとおばさんが少し、間を長めに取り始めた。
叩くのに疲れたのだろう。
そう思った僕は、僅かでもこうしていられる時間が延びることを歓迎した。

それが間違いだと気付くのは、おばさんが七十七回を数えた時だった。

「はい、痛いのいくよ。」

「・・・え?」

「二十回でいいかと思ったけど、三回お尻下げたからオマケだ。」

おばさんはそう言って右手を今までよりも高く上げ、僕のお尻に叩きつけるように振り下ろした。

「・・・・・・っ!!?」

「ななじゅうはーち。どう、痛い?」

「痛い、です・・・・・・!!」

「そう。だったらこれに懲りて反省しなさいね。」

それをきっかけに、おばさんはなかなか次をぶたなくなった。
気を抜けば一回で悲鳴をあげてしまいそうな平手打ちを、一分近くもの間をおいて突然浴びせてくる。

「ななじゅう、きゅうー。」

一つ二つ叩かれただけでお尻はビリビリと痺れ、待たされる間に少しずつ引いていくのだ。
まるでぶたれる痛みの全てを味わいなさいとでも言わんばかりに。
おばさんはたっぷりと時間をかけ、僕のお尻を何度もぶった。

「あらあら、痛そうね。・・・まだ二十回も残ってるわよ?はちじゅうー・・・・・・・・・」

八十回を数えてから二十分以上。
ぶたれ続けた僕のお尻がようやく百回を数える頃、それは衣服の上からでもわかるほどの熱を持っていた。
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8 文也
「健司が帰る前に済んで、よかったわ。」

「はい、あの・・・・・・。」

「ん?」

「ありがとう・・・ございました。」

自然に口をついて出た言葉は謝罪ではなかった。

「やぁねぇ、怒られたのにお礼?」

「・・・いえ、自分でもモヤモヤしてて・・・。痛かったけど、すっきりしました。」

やはり好意を伝えるようなことはせず、終わりにしようと思った。
僕の中では様々に意味を含んだつもりのお礼。

「・・・バカ息子が一人増えたようなもんだわ。」

「・・・?」

どういった風に伝わったのか定かではないが、おばさんは最後にこう言ってくれた。


「反省してないなら、明日もだね。尻百タタキの覚悟しておいで。」
(PC)
9 とし
良いですね
お尻は丸出しにしてほしかったかも
ただ百叩きという響きがいい
(docomo)