Write
1 三重

やればできる子

ウチに帰りたくない日が増えてきたのは、小学5年生の秋ごろだった。

「こんな時間まで何をしていたの!!」
「痛い痛い、ママ痛い〜!」

ママはお姉ちゃんを怒鳴りつけたあと妹と一緒に並ばせ、指で口元をつまんで引っぱっていた。
3人揃って同じ悪いことをしたのに。
私だけは、ママにとって『特別』らしかった。

「もういいから、晩ご飯までに宿題終わらせていらっしゃい」
「はぁい」

そうやって2人を解放したママがこちらへ歩いてくる。
いつものことだ。
ママは不自然なほどにつくり上げた笑顔で私の前に立ち、こう言うのだ。

「それじゃあ、お尻を出してもらえるかしら?」
[作者名]
三重
(PC)
2 三重
ママが私にだけ厳しい。
そう感じ始めたのは幼稚園のころだったが、当時はまだ今ほど深刻な状況ではなかった。
どちらかと言えばお姉ちゃんが厳しくされていて。
私はそれを見て可哀想だなと思える第3者の立場で、叱られるお姉ちゃんをただ眺めていた。

「こんな点数を取るのは、心が怠けている証拠ですよ〜」

怒る時むしろ丁寧な言葉遣いになるのがママの癖。
癖だと…思っていたのに。
その対象となるのは、過度な期待を押し付ける相手だけだったようだ。
昔のお姉ちゃんがそうだったように。
今の5年生となった私は、ママの歪んだ愛情の捌け口となっていた。
(PC)
3 三重
バチッ、バチッ、バチッ……
部屋のベッドに腰かけたママは、慣れた手つきで私のお尻を打ちすえている。
ママは両利きなのでどちらの手でも叩けるそうだ。
私の経験上、ママの左手で叩かれるほうが痛い。
今日はもちろん、左手だ。
ママがいつも身に着けている深いグリーンのロングエプロン。
今日も私はそこで、座るのがきっと嫌になるまでお尻をぶたれるのだ。

「夏休みが終わって、もう怠け心が出ちゃった?」
「ママ、その…」
「心配しないで、ママがいい子に戻してあげる」

パァン、パァン、パァン、パァン……

ママは一際強い力で、僅かに開いた手のひらを私のお尻に何度もぶつけた。
ピンクの下着が太ももにかかっているおかげで何とか暴れずにいられるが、この小さな拘束がないだけで私が動いてしまうことをママも知っている。
ほんの1分ほど叩かれただけで、お尻はすでに下着より深い赤に染まっていた。

「あなたも宿題があるのね?」

ママは、10分ほども続けて私のお尻をたたいたあと。

「じゃあ…、ちょっと早いけど…今日は許してあげる」

そう言って私を解放してくれた。
(PC)
4 三重
腫れたお尻で机に向かうことは珍しくない。
ずっと昔から、そういう躾をされてきた。
朝、おはようの挨拶をしなかっただけで。
洗濯物をきちんとカゴに入れていなかっただけで。
ご飯つぶをほんの少し残しただけで、ママに百いくつもお尻をぶたれたのだから。
そんな理由で叩かれるのは、私も低学年のあいだに卒業してしまった。
それが、ママの期待に拍車をかけるとも知らずに。

「あなたは、やればできるものね」

日々の生活態度で叱られなくなると、ママが学校の成績に口を出し始めるのは自然な流れだった。
テストは100点が当たり前。
先生の採点ミス以外は、96点でもお尻をぶたれる。
そうすることで私は100点が取れると、ママは本気で思っているから。
ママは私のお尻を、ありったけの愛情でめった打つそうだ。
私が幼稚園のころ、お姉ちゃんにしていたように。
(PC)