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育児支援はお仕置き訪問

「それでは、お邪魔いたします。」

そう言って玄関マットを踏んだ女性を見て、正弥は憂鬱になった。
ドアの隙間から見えているのは、明らかに昨年来たのとは別人だ。
歳は30前後だろうか。
夏の炎天下を歩いたおかげか、カッターシャツにはところどころ汗が滲んで見える。
しばらくして、女性は正弥に気付いたようだった。

「正弥くんかな?初めまして。今日あなたを担当する大森です。」

よろしくね、と彼女が微笑むと、正弥は苦笑いするしかなかった。
母の清香にきちんと挨拶しなさいと窘められるまで、そわそわしながら何度も頭をかいていた。
今日が初対面の。
大森と名乗った女性が一体何をしに来たのかを、よく知っているからだ。
[作者名]
(PC)
2 無名さん
「では、昨年までのやり方の確認と、変更点、更新項目から目を通していただいて────」

大森はテーブル越しに座る清香へB5サイズのプリント用紙を滑らせる。
2、3枚ほど重ねられているようだが、正弥の位置からではよく見えなかった。
覗きに行ってもよいのだが、知ってもいいことがないと気付いたのか正弥は少し離れて座っている。
大森が話しかけると、照れくさそうでも相槌くらいは返してくれるのだが。

「ここまでは問題ありませんね。それじゃあ再度、昨年までのやり方に関して────」

大森が正弥の方を見る。
正弥は気付いていたが、名前を呼ばれるまで振り向かなかった。
それは僅かばかりの反抗心のようだった。
次に大森が発した言葉は、昨年聞いたものと全く同じ。

「正弥くん、お母さんにお仕置きされるときの格好になってもらえる?」
(PC)
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大森は、市から派遣された職員だった。
数年ほど前、全国的に「叱らない子育て」というものが推されていた時期がある。
それは一過性のブームのようなもので、実際には難しいと結論付けられたときには遅かった。
すでに簡単には訂正できないほどの影響が出ている。
政府の指示を待ってはいられない。
そこで動いたのは地方だった。
叱らないことを推奨してきたおかげで、叱りたくても叱れない親が増えすぎている。
つまり子育て支援という名目で、義務教育の家庭を対象に叱り方を指導する職員を派遣しているのだ。

「いつもの叩き方で、1回だけ。叩いてみてもらえますか?」
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言われて清香は太腿の上に横たわる息子の胴体を左手で手前に寄せた。
流れで右手のすぐ下にあったショートデニムのお尻めがけて、平手を1発、パァン、と叩きつける。
正弥はびくりと一瞬、肩をふるわせたが声は出ていない。

「いつも、そのくらいですか?」

「そう、ですね・・・、だと思います。」

「一度に何回くらいでしょうか?」

「ええと・・・特に決めてはいないので・・・。この子が何をしたかにもよると思います。」

「大体、でいいんです。多いとき何回、少ないとき何回とか。」

「うーん・・・多いときでも30回、少ないときは・・・3回くらい?」

清香が太腿に寝かせたままの正弥に同意を求めると、少し恥ずかしそうに頷いていた。
自分が叱られるときの話というのはどうにも気まずいらしい。
大森は事務的にボールペンを走らせているように見えたが、そんな正弥の反応さえ綿密にチェックしていた。
しばらく清香も黙って見ていたが、書き終わるのを見越して質問する。

「それで・・・どうなんでしょうか?」

聞きたいことは山ほどあると言わんばかりの清香を前にして、大森は答えた。

「まず、弱いですね。」

「弱い・・・、ですか?・・・ええっ、結構強く叩いたつもりだったんですけど・・・。」

「うーん、それでもかなり弱いです。・・・そうですね────」
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大森は立ち上がり、正弥の顔の前まで歩くと、中腰に屈んでこう言った。

「正弥くん、1回だけ・・・いい?」

大森は、痛いかもしれないけど、と付け加える。
清香の顔を見ても、自分で決めなさいと言っているようだった。
しぶしぶ正弥が承諾すると、大森はごめんねと申し訳なさそうに今度は自らの太腿へ移動してもらう。

「お母さん、よく見ていてくださいね。」

床に正座した大森が、右の手元にあったショートデニムのお尻を左半分、包み込むような手つきで激しく打った。
パァァァン!!と凄まじい音がして、見ていた清香は目をぱちくりさせている。

「大体、これぐらいがいいです。」

正弥が「つぅ・・・」と声を漏らすと、大森は満足したように正弥を立たせてやった。

「あ、あの・・・そんなに強くして大丈夫なんですか・・・?」

「そうですね、デニム生地は特に衝撃を吸収してしまうので、これぐらいじゃないと痛みも伝わらないんです。」

清香はそうなんですかと感心していたが、同時にあることに気付いた様子で。

「あの、それじゃあ・・・、この子・・・今まで、痛くないのに痛いふりをしてたってことですか?」
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「いえ、それは────」

今度は正弥を擁護するように、大森は言う。

「以前はきっとお母さんがされたのでも痛かったと思います。ですが────」

子供の成長は早いですからね、と付け加えるように。

「自然な流れで痛くなくなってしまえば、それを自分から言い出せる子なんてほとんどいないんです。」

大森は正弥に視線を移すと、いくつか質問をさせてほしいと口にした。
正直に答えてね、などと言われるまでもなく。
不利な立場を庇ってくれた大森に、正弥は少しずつ心を開き始めていた。

「友達と遊んでいて、すごく楽しくて。どうしても帰りたくないなって日に。」

大森は、さっきお尻を叩いた右手でボールペンを握っている。

「もしも帰らなかったら、さっき私がしたみたいに、今度はお母さんにされるとして。」

「うん。」

「叩かれるのが1回だけってわかってたら、帰る?帰らない?」

「うーん・・・、帰らない。」

正弥はほんの一瞬考える仕草を見せたが、答えはすでに決まっていたのだろう。
ほぼ即答に近い形でそう答えた。
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「じゃあ、10回だったら?」

「うーん・・・、帰ら、ない・・・かも。」

「50回。」

「ええー・・・、・・・うーん・・・帰る、と思う・・・。」

「100回。」

「絶対、帰る・・・。」

清香は大森の質問にどういった意図があるのか、聞いている間は理解できなかった。
質問を終えた大森が振り返ると、面接官を前にした受験者のように固まってしまう。
そんな清香の様子を見て、大森は「このように、ですね────」と話し始めた。

「お尻叩き50回程度では、正弥くんにとって嫌なお仕置き、痛いお仕置きではあっても怖いお仕置きにはなっていないんです。
 子供のお仕置きというのは、恐れられている前提で効果を見込むものですから。
 今日みたいにデニムを穿いている場合、正弥くんなら少なくとも50から100回程度が適正ということになりますね。」
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清香は驚いたようだった。
あの強さなら1回でも十分痛いんじゃないかと思っていたほどだ。
50も100も叩いたら自分の手がもたないんじゃないかと心配になる。

「大丈夫ですよ。」

清香の不安を察してか、大森が優しく語りかける。

「お母さんがたの、誰もが通る道ですからね。最初は皆さんそう思うんです。
 でも、大事なお子さんを目の前にしたら────正しい道に進ませてあげたいって力が湧いてきますから。」

「そういう、ものですか。」

「ええ、私の母もそう言っていました。」

気恥ずかしそうな大森が説明を再開する。
清香も正弥も、それを黙って聞いていた。
15分ほど熱弁をふるったあと少し脱線していたことに気付いた大森は、それじゃあ、と仕切り直すように言った。

「もう時間もあまりないから・・・正弥くん、今度は下着を脱いでお母さんのところ行ってくれる?」
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去年と同じだ、と正弥は思った。
初めてではないおかげで驚きは薄いものの、恥ずかしいのには変わりない。
正弥は清香の前まで歩くと、大森に見られないよう隠しつつ下着を下ろした。

「ごめんね、決まりだから・・・。」

「・・・うん、いいけど・・・。」

早くして、という正弥の視線を感じてか、大森が動いた。

「お母さん、お尻の肉を軽く指で押してみてください。」

「・・・こう、ですか?」

「そうです、特に脂肪の厚いあたりですね。触ってみたらよくわかると思いますけど────」

大人が2人、自分のお尻の肉を触りながら何やら議論している。
正弥はくすぐったいのか少し体をよじらせてしまうが、大森が何気ない手つきで制止するのがわかった。
どうやら大事なところだから動かないでと言っているらしい。

「このあたりを中心に、正確に叩いてあげてほしいんです。」
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大森は説明を始めて、またも熱弁モードに突入したようだった。
この恰好のまま聞かされるのかと正弥は正直うんざりしたが、自分のことだ、真剣に聞いておいた方がいい気がする。
そんな程度の気まぐれで。
正弥はこのあと20分ほどかけて、自分が今後はどのようにして母にお仕置きされるかの説明を聞かされることとなった。
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11 無名さん
好みです。
続きを是非読みたいです!
(au)