1 松原
小さな隣人
夕刻すぎにバイトが終わり、いつもより早く自転車を走らせていた俺はある光景を目にした。
女の子が1人で赤信号を渡っているのだ。
声をかけたのは、それが単に知った顔だったからだが。
「おいおい、交通ルールぐらいは守ろうぜ?」
「……なに、文句あんの?」
この態度である。
俺に敵意を向けているわけではなく、誰に対してもこうなるらしい。
とくに親しい間柄ではないが…一応、年上の目線から注意を促しておく。
「文句ってか…ここらも危ないから、気をつけろって言ってんの」
「ふぅん、それだけ?」
「おう」
「わかった、もういいよどっか行って」
「…お前、怖いモンなしだな……」
まぁ、ただ近所に住んでるだけの顔見知りにこんな注意されてもウザいだけか。
仮に、自分が小学生で立場も逆なら話さえ聞かず「うるせぇー」と逃げ去ったかもしれない。
それを思えば、むしろ素直な子に思えて────
「まだ行かないの?…普通にキモいんだけど」
うん、思えてこない。
[作者名]
松原
女の子が1人で赤信号を渡っているのだ。
声をかけたのは、それが単に知った顔だったからだが。
「おいおい、交通ルールぐらいは守ろうぜ?」
「……なに、文句あんの?」
この態度である。
俺に敵意を向けているわけではなく、誰に対してもこうなるらしい。
とくに親しい間柄ではないが…一応、年上の目線から注意を促しておく。
「文句ってか…ここらも危ないから、気をつけろって言ってんの」
「ふぅん、それだけ?」
「おう」
「わかった、もういいよどっか行って」
「…お前、怖いモンなしだな……」
まぁ、ただ近所に住んでるだけの顔見知りにこんな注意されてもウザいだけか。
仮に、自分が小学生で立場も逆なら話さえ聞かず「うるせぇー」と逃げ去ったかもしれない。
それを思えば、むしろ素直な子に思えて────
「まだ行かないの?…普通にキモいんだけど」
うん、思えてこない。
[作者名]
松原
(PC)
2 松原
「あのぅ、何かありましたか…?」
背後から声をかけられ、思わず声をあげそうになった。
今の光景を第三者が見れば、確かに不審である。
小学生の女の子に声をかけて注意するというのはあらぬ誤解を招きかねない。
迂闊だったな、と振り返ってみれば、立っていたのは女の子の母親だった。
引越しの挨拶に行って以来、何度か交流がある。
「あぁ、こんにちは」
「あら、お隣の…すいません、娘の姿が見えたもので」
職務質問かと思いました、などと二言三言交わしていると。
さっきまでの減らず口が嘘のように、女の子が俺の方を見て何かを訴えている。
「(か・え・っ・て)」
読唇術など嗜んでいない俺でもそれは読み取れた。
このガ…娘さんは、俺に早く帰れとおっしゃっておられる。
そうかそうか。
「ええっと」
別に仕返しの気持ちはこれっぽっちもなかったけれど、事実を伝えて帰ることにした。
「さっき赤信号を渡ってたので、ダメだよと一声かけただけで」
「まぁ」
さぞ睨んでるだろうなぁ、でも自分が悪いんだぜなどと思いながら女の子に目を向けると。
予想外。
少女は助けを求めるように俺の方を見ていた。
いつもの態度はどこへ行ったと言いたくなるくらいビビっている。
「本当?」
「…」
「危ない事しちゃダメって、いつも言ってるじゃない」
「……ごめんなさい…」
「お母さんが見てないからって、何をしてもいい訳じゃないのよ」
どうやら本格的に説教が始まってしまった。
さすがにこれは申し訳ないなと、今更ながら助けてやる事にする。
「あの、もうそのくらいで…俺も注意したんで、二重になっちゃいますし」
「あぁ、ごめんなさい…こんな場所でする話ではないですよね」
「それじゃ、俺はこれで」
「はい、娘を注意して下さってありがとうございました、…ほら、あなたも」
「…ありがとう、ございました…」
何で私がこんな奴に、という表情は隠しきれていなかったけれど。
彼女なりには精一杯謝ってくれたという事にしておこう…かなりの小声だったが。
バイト帰りに小さなハプニング。
そんな1日を過ごし、疲れ切った俺は風呂と飯をすませて早々に寝てしまったのだが。
彼女はその後が大変だったらしい。
俺はその事を、翌日の土曜日に直接知らされる事になる。
背後から声をかけられ、思わず声をあげそうになった。
今の光景を第三者が見れば、確かに不審である。
小学生の女の子に声をかけて注意するというのはあらぬ誤解を招きかねない。
迂闊だったな、と振り返ってみれば、立っていたのは女の子の母親だった。
引越しの挨拶に行って以来、何度か交流がある。
「あぁ、こんにちは」
「あら、お隣の…すいません、娘の姿が見えたもので」
職務質問かと思いました、などと二言三言交わしていると。
さっきまでの減らず口が嘘のように、女の子が俺の方を見て何かを訴えている。
「(か・え・っ・て)」
読唇術など嗜んでいない俺でもそれは読み取れた。
このガ…娘さんは、俺に早く帰れとおっしゃっておられる。
そうかそうか。
「ええっと」
別に仕返しの気持ちはこれっぽっちもなかったけれど、事実を伝えて帰ることにした。
「さっき赤信号を渡ってたので、ダメだよと一声かけただけで」
「まぁ」
さぞ睨んでるだろうなぁ、でも自分が悪いんだぜなどと思いながら女の子に目を向けると。
予想外。
少女は助けを求めるように俺の方を見ていた。
いつもの態度はどこへ行ったと言いたくなるくらいビビっている。
「本当?」
「…」
「危ない事しちゃダメって、いつも言ってるじゃない」
「……ごめんなさい…」
「お母さんが見てないからって、何をしてもいい訳じゃないのよ」
どうやら本格的に説教が始まってしまった。
さすがにこれは申し訳ないなと、今更ながら助けてやる事にする。
「あの、もうそのくらいで…俺も注意したんで、二重になっちゃいますし」
「あぁ、ごめんなさい…こんな場所でする話ではないですよね」
「それじゃ、俺はこれで」
「はい、娘を注意して下さってありがとうございました、…ほら、あなたも」
「…ありがとう、ございました…」
何で私がこんな奴に、という表情は隠しきれていなかったけれど。
彼女なりには精一杯謝ってくれたという事にしておこう…かなりの小声だったが。
バイト帰りに小さなハプニング。
そんな1日を過ごし、疲れ切った俺は風呂と飯をすませて早々に寝てしまったのだが。
彼女はその後が大変だったらしい。
俺はその事を、翌日の土曜日に直接知らされる事になる。
(PC)
3 松原
「責任とってよ」
「…は?」
「だから、責任!!あんたのせいでしょうが!!」
人が聞いたら誤解しかされないようなセリフを玄関先で叫ぶんじゃない。
俺はそれだけ言うと、急いで呼んでもいない客人を招き入れた。
昨日の少女である。
小学生をアパートに連れ込むなんていよいよ犯罪じみてきたな俺も、と思いつつ。
確かに告げ口する形で大人げなかった自覚はある。
話くらいは聞いてやるかと、むしろ贖罪の気持ちがあった事を主張しておきたい。
「責任って言われてもなぁ」
「ムカつく、その態度」
「つーか、何の責任?告げ口したのは悪かったけどさぁ…そもそもちゃんと信号守ってりゃあ」
「…あの後、お母さんに死ぬほどおしり叩かれたんだけど」
…はい?
まさかその件で乗り込んできたとは思わないが、見ているとたまにスカートの丸みをさすっているようにも見える。
「まだ痛いんだけど、…って言うか、今日も帰ったらおしり叩くって言われたんだけど!?」
まさかだった。
でもさすがに今日の分は俺のせいじゃないだろう、昨日のはともかく。
何て言ってあげるのがいいだろう。
今日は土曜日でよかったね?…違うな。
何を言っても火に油な気がする。
つーか母親にお尻叩かれるのが怖いって、何年生だよ。
俺への怖いモンなしの態度はどこへ行った?
「そりゃ悪かった、…でもまぁいい機会だな」
俺の事恨んでもいいから反省しろ、と言うつもりだった。
「悪いと思ってるなら、ウチ来て」
その言葉を少女は強引に打ち切り、今回の件について俺の責任のとり方を提示してきたのだ。
「…あんたが許すって言うまで、…お母さん、許してくれないから」
「…は?」
「だから、責任!!あんたのせいでしょうが!!」
人が聞いたら誤解しかされないようなセリフを玄関先で叫ぶんじゃない。
俺はそれだけ言うと、急いで呼んでもいない客人を招き入れた。
昨日の少女である。
小学生をアパートに連れ込むなんていよいよ犯罪じみてきたな俺も、と思いつつ。
確かに告げ口する形で大人げなかった自覚はある。
話くらいは聞いてやるかと、むしろ贖罪の気持ちがあった事を主張しておきたい。
「責任って言われてもなぁ」
「ムカつく、その態度」
「つーか、何の責任?告げ口したのは悪かったけどさぁ…そもそもちゃんと信号守ってりゃあ」
「…あの後、お母さんに死ぬほどおしり叩かれたんだけど」
…はい?
まさかその件で乗り込んできたとは思わないが、見ているとたまにスカートの丸みをさすっているようにも見える。
「まだ痛いんだけど、…って言うか、今日も帰ったらおしり叩くって言われたんだけど!?」
まさかだった。
でもさすがに今日の分は俺のせいじゃないだろう、昨日のはともかく。
何て言ってあげるのがいいだろう。
今日は土曜日でよかったね?…違うな。
何を言っても火に油な気がする。
つーか母親にお尻叩かれるのが怖いって、何年生だよ。
俺への怖いモンなしの態度はどこへ行った?
「そりゃ悪かった、…でもまぁいい機会だな」
俺の事恨んでもいいから反省しろ、と言うつもりだった。
「悪いと思ってるなら、ウチ来て」
その言葉を少女は強引に打ち切り、今回の件について俺の責任のとり方を提示してきたのだ。
「…あんたが許すって言うまで、…お母さん、許してくれないから」
(PC)
4 松原
「すみません、娘が無理を言ったみたいで…」
「いえ、それは全然…」
「どうぞ、あがってくださいね」
玄関から先へあがるのは初めてだった。
交流があるといっても挨拶をしたり、余ったおかずを届けてくれる程度で、家族ぐるみという程ではない。
間取りも同じアパートの一室なので大きな違いはないのだが。
それでも年頃の女の子が1人いるからだろうか。
カーテンや寝具は白やピンクが基調となっていて、やはり俺の部屋とは印象がかなり変わる。
(あれ…けど、この部屋…?)
デザイン重視なのか、遮光カーテンのような分厚い物は見当たらない。
アパートといっても2階なので、これでは周囲の家からも丸見えである。
プライバシー云々の前に、防犯上の観点からも決してよろしくない。
何気なしに尋ねてみると、
「あぁそれ、しばらく一時的に外しておいたんです、畳んで奥にあるんですよ」
という事だった。
破れたか何かかな?
さして気にも留めずに話を戻す。
「それであの…俺が許したらっていうのは、どういう…?」
「あ、あの子…そんな風に言ったんですか?ホントにもう…、帰ったら、とっちめてやらないと」
「あ、いえ…お、俺の解釈が違ってたのかな?」
何で俺が、こんなに気を遣わなきゃならんのだ。
正直そう思うところもあったのだが、責任を全く感じていないわけでもない。
穏便に済むなら俺もそうしたいところだ。
普段通りにしていると、どう見ても優しそうなお母さんではある。
「"死ぬほどおしり叩かれた"って言ってましたね」
「まぁ、大げさですこと」
「で…ですよね、俺の小さいときだってそりゃあ」
「100叩きが3回、4回目の途中でやめましたから…300と少し叩いただけですよ」
超スパルタだった。
顔に似合わずってレベルじゃない、つーか危うく400叩きだったのかよ。
誇張してないよあの子、死ぬほどの使い方正しかったよと動揺していると。
「どうかしまして…?」
「い、いえ…」
何だよ超コエーよ帰りてーよ、と俺が小学生だったら思うだろうが。
やはりここは大人として、言うべき事は言ってあげるのが常識だろう。
「あの」
「…はい?」
「ちょびっとだけ、厳しくないですか…ほら、女の子だし」
俺のアホウ。
何がちょびっとだけだよ可哀想だろーが、つーかもっとはっきり言え!
心の中では饒舌なのに。
あの目に一瞥されると、どうも俺まで叱られそうな気分になってしまう。
「それはないですね」
きっぱり否定されてるし。
「男だとか女だとかは、あまり関係ないですし…あの子の場合、いろいろやってそうなった経緯がありますから」
そこにあったのは紛れもない、母の顔だった。
俺みたいな部外者が口出しできるような問題ではなさそうだ。
直感的にそう思ったのは、彼女が娘のためを思って罰を与えている事がわかったからだ。
まだしも感情に任せた体罰ならば、止めようもあったのだが。
「わかりました」
席を立ち、帰ろうとする。
どうやら女の子はまだ帰っていないようだし、この様子なら…さほど酷くは叱られないだろう。
自業自得ではある訳だし、多少の痛みは伴っても仕方ない。
「あら…、お帰りですか?」
「ええ、どうやら俺が思っていたよりは────」
「ちょ、ちょっと待って!!」
ばたばたと足音が聞こえて、女の子が俺の方へ駆け寄ってきた。
「(お願い、帰らないで…!)」
母に聞こえないようにか、腹のあたりに顔をうずめたまま囁き声で俺に訴えてくる。
何だこいつ、…ちょっと可愛いじゃないか。
いつもの態度とあまりに違うので、実はいい子だったんじゃないかと錯覚しそうになる。
いや待て、キモいと浴びせられた事を忘れるな。
割と傷ついていたんだぞ。
「何ですか、いきなり入ってきて…失礼だとは思わないの」
「だ、だって…」
「だってじゃないでしょう、ごめんなさいは?」
「ごめんなさい…」
「よろしい、…ホントにごめんなさいね、失礼ばかりして」
「い、いえ…俺はいいんですけど」
あの生意気キャラはどこへ行ったのか。
そこらのお嬢様よりしおらしい今の態度を見ていると、庇ってやりたくもなる。
単純だなぁ…、俺。
「いえ、それは全然…」
「どうぞ、あがってくださいね」
玄関から先へあがるのは初めてだった。
交流があるといっても挨拶をしたり、余ったおかずを届けてくれる程度で、家族ぐるみという程ではない。
間取りも同じアパートの一室なので大きな違いはないのだが。
それでも年頃の女の子が1人いるからだろうか。
カーテンや寝具は白やピンクが基調となっていて、やはり俺の部屋とは印象がかなり変わる。
(あれ…けど、この部屋…?)
デザイン重視なのか、遮光カーテンのような分厚い物は見当たらない。
アパートといっても2階なので、これでは周囲の家からも丸見えである。
プライバシー云々の前に、防犯上の観点からも決してよろしくない。
何気なしに尋ねてみると、
「あぁそれ、しばらく一時的に外しておいたんです、畳んで奥にあるんですよ」
という事だった。
破れたか何かかな?
さして気にも留めずに話を戻す。
「それであの…俺が許したらっていうのは、どういう…?」
「あ、あの子…そんな風に言ったんですか?ホントにもう…、帰ったら、とっちめてやらないと」
「あ、いえ…お、俺の解釈が違ってたのかな?」
何で俺が、こんなに気を遣わなきゃならんのだ。
正直そう思うところもあったのだが、責任を全く感じていないわけでもない。
穏便に済むなら俺もそうしたいところだ。
普段通りにしていると、どう見ても優しそうなお母さんではある。
「"死ぬほどおしり叩かれた"って言ってましたね」
「まぁ、大げさですこと」
「で…ですよね、俺の小さいときだってそりゃあ」
「100叩きが3回、4回目の途中でやめましたから…300と少し叩いただけですよ」
超スパルタだった。
顔に似合わずってレベルじゃない、つーか危うく400叩きだったのかよ。
誇張してないよあの子、死ぬほどの使い方正しかったよと動揺していると。
「どうかしまして…?」
「い、いえ…」
何だよ超コエーよ帰りてーよ、と俺が小学生だったら思うだろうが。
やはりここは大人として、言うべき事は言ってあげるのが常識だろう。
「あの」
「…はい?」
「ちょびっとだけ、厳しくないですか…ほら、女の子だし」
俺のアホウ。
何がちょびっとだけだよ可哀想だろーが、つーかもっとはっきり言え!
心の中では饒舌なのに。
あの目に一瞥されると、どうも俺まで叱られそうな気分になってしまう。
「それはないですね」
きっぱり否定されてるし。
「男だとか女だとかは、あまり関係ないですし…あの子の場合、いろいろやってそうなった経緯がありますから」
そこにあったのは紛れもない、母の顔だった。
俺みたいな部外者が口出しできるような問題ではなさそうだ。
直感的にそう思ったのは、彼女が娘のためを思って罰を与えている事がわかったからだ。
まだしも感情に任せた体罰ならば、止めようもあったのだが。
「わかりました」
席を立ち、帰ろうとする。
どうやら女の子はまだ帰っていないようだし、この様子なら…さほど酷くは叱られないだろう。
自業自得ではある訳だし、多少の痛みは伴っても仕方ない。
「あら…、お帰りですか?」
「ええ、どうやら俺が思っていたよりは────」
「ちょ、ちょっと待って!!」
ばたばたと足音が聞こえて、女の子が俺の方へ駆け寄ってきた。
「(お願い、帰らないで…!)」
母に聞こえないようにか、腹のあたりに顔をうずめたまま囁き声で俺に訴えてくる。
何だこいつ、…ちょっと可愛いじゃないか。
いつもの態度とあまりに違うので、実はいい子だったんじゃないかと錯覚しそうになる。
いや待て、キモいと浴びせられた事を忘れるな。
割と傷ついていたんだぞ。
「何ですか、いきなり入ってきて…失礼だとは思わないの」
「だ、だって…」
「だってじゃないでしょう、ごめんなさいは?」
「ごめんなさい…」
「よろしい、…ホントにごめんなさいね、失礼ばかりして」
「い、いえ…俺はいいんですけど」
あの生意気キャラはどこへ行ったのか。
そこらのお嬢様よりしおらしい今の態度を見ていると、庇ってやりたくもなる。
単純だなぁ…、俺。
(PC)
5 松原
「本当なら、1週間は続けて様子を見るつもりだったんですけど」
許してくださるなら今日で終わりにしますね…、と。
少女の母は、俺の目の前で彼女のお尻をひん剥いた。
悲鳴はない。
その代わり、背中越しでもわかる屈辱と怒りで震えているのが伝わってくる。
たぶんこうなる事も覚悟した上で、俺を呼びに来たのだろう。
「きちんと反省できるなら、100叩きで許してあげる…いいわね?」
「はぁい」
彼女はお尻をこちらに見せる形で突きだしたままの姿勢で、じっと耐えている。
おそらく母がわざとそうしたのだろう。
そう思っていたのだが、どうやら事情は違うようだった。
「ごめんなさいね、お尻なんて向けちゃって…この子が、今日はどうしてもって言うものだから」
「…どういう事ですか?」
「この部屋、窓側にお尻を向けると丸見えなんですよ、外の部屋から」
それはさっき、カーテンの話を聞いた時の補足のようなものだった。
「近頃、あまりに聞き分けがないので厚いカーテンもとってしまっていて…」
そんな理由だったのかよ!
スパルタが過ぎるなぁ、と若干ひいてしまう俺だった。
「でも今日は土曜日でしょう?…みんな家にいるから嫌だって、ホント、こういうとこ甘いですね私…」
「は、はは…」
厳しさの定義が何かズレているらしい母はそう言うと、娘のお尻めがけて平手を打ちおろした。
バチィン、と痛々しい音をたてて丸みが揺れたが、不意の痛みにも体勢を崩す事はなかったらしい。
母は続けざまに、
バチン、バチン、バチン……左の尻たぶ、右の尻たぶ、また左の尻たぶ、と連打する。
昨日、300以上も叩かれたというお尻にまだダメージが残っているのか、肌はみるみる赤くなり。
10回ほども叩かれると、すでにほんのり赤い手形が浮かんでくるほどになっていた。
「痛そうでしょう?…でもね、あまり効いてくれないんですよ、この程度の薬だと」
母が手を止め、話を振ってくる。
ぶたれるお尻を目の前にして「そうなんですか」とも言えず、俺は無言で苦笑いをするしかなかった。
バチン、の音とともに、お尻叩きが再開される。
女の子は意地なのか、真後ろの位置にいる俺にお尻の内側が見えないよう、両脚を閉じて頑張っていたのだがそれも限界がきたらしく。
40回ほど叩かれたところで、痛みを堪えるのに徹したようだった。
やはり昨日の300回が効いているらしい。
母にお尻をぶたれるたびに背中を反らせ、時折「痛い」と声が漏れている。
何だか可哀想になってきたが、人の家の躾に口をはさむ訳にもいかず。
あと60回だ頑張れ、と…心の中で応援するしかなかった。
51、52、53…と、気付けばじっくりカウントを続けている俺。
つーかあの2人、話してないけど正確に数えてるのか?
俺がそんな疑問を抱いたところで、カウントは70を過ぎていた。
「さてと、そろそろ確認ね……今日は、反省できそう?」
「少し、足りない……もっと強く、してください…」
は?
何なのこの親子、と思ったその時。
2人の会話で何となく事情を察した。
「よかったわね…、答えによってはあともう100叩きだったけど、お客さんがいるからかな?」
母がこちらを一瞥する。
ビチィン!!
直後、ガラス窓まで震えたかと錯覚するような大きな音。
熟れた桃のように全体が染まったお尻に、新しく赤い手形がくっきり残る。
ビチィン、ビチィンと叩くたびに母の手も痺れているのか、心なしかさっきまでよりもペースは遅い。
それでも…だ。
あの調子で30回も叩かれるくらいなら、先の70回の方がずっとましだろう。
いや俺だったら、5回と95回だとしてもちょっと迷うかもしれない。
あぁ、ひょっとして…昨日はそれでズルズル300回まで延びたって事か?
「…ひぃん!」
あれこれ想像を巡らせたところで、女の子が耐え切れず悲鳴をあげた。
それは彼女がいつもの態度なら、からかってやりたくなるほど情けない声だったが…今はそんな気もない。
俺は少女がちょうど100叩きで許してもらえる事だけを願って、何度も震えている赤いお尻を見守った。
もう俺の事など、意識の外にあるに違いないのに。
許してくださるなら今日で終わりにしますね…、と。
少女の母は、俺の目の前で彼女のお尻をひん剥いた。
悲鳴はない。
その代わり、背中越しでもわかる屈辱と怒りで震えているのが伝わってくる。
たぶんこうなる事も覚悟した上で、俺を呼びに来たのだろう。
「きちんと反省できるなら、100叩きで許してあげる…いいわね?」
「はぁい」
彼女はお尻をこちらに見せる形で突きだしたままの姿勢で、じっと耐えている。
おそらく母がわざとそうしたのだろう。
そう思っていたのだが、どうやら事情は違うようだった。
「ごめんなさいね、お尻なんて向けちゃって…この子が、今日はどうしてもって言うものだから」
「…どういう事ですか?」
「この部屋、窓側にお尻を向けると丸見えなんですよ、外の部屋から」
それはさっき、カーテンの話を聞いた時の補足のようなものだった。
「近頃、あまりに聞き分けがないので厚いカーテンもとってしまっていて…」
そんな理由だったのかよ!
スパルタが過ぎるなぁ、と若干ひいてしまう俺だった。
「でも今日は土曜日でしょう?…みんな家にいるから嫌だって、ホント、こういうとこ甘いですね私…」
「は、はは…」
厳しさの定義が何かズレているらしい母はそう言うと、娘のお尻めがけて平手を打ちおろした。
バチィン、と痛々しい音をたてて丸みが揺れたが、不意の痛みにも体勢を崩す事はなかったらしい。
母は続けざまに、
バチン、バチン、バチン……左の尻たぶ、右の尻たぶ、また左の尻たぶ、と連打する。
昨日、300以上も叩かれたというお尻にまだダメージが残っているのか、肌はみるみる赤くなり。
10回ほども叩かれると、すでにほんのり赤い手形が浮かんでくるほどになっていた。
「痛そうでしょう?…でもね、あまり効いてくれないんですよ、この程度の薬だと」
母が手を止め、話を振ってくる。
ぶたれるお尻を目の前にして「そうなんですか」とも言えず、俺は無言で苦笑いをするしかなかった。
バチン、の音とともに、お尻叩きが再開される。
女の子は意地なのか、真後ろの位置にいる俺にお尻の内側が見えないよう、両脚を閉じて頑張っていたのだがそれも限界がきたらしく。
40回ほど叩かれたところで、痛みを堪えるのに徹したようだった。
やはり昨日の300回が効いているらしい。
母にお尻をぶたれるたびに背中を反らせ、時折「痛い」と声が漏れている。
何だか可哀想になってきたが、人の家の躾に口をはさむ訳にもいかず。
あと60回だ頑張れ、と…心の中で応援するしかなかった。
51、52、53…と、気付けばじっくりカウントを続けている俺。
つーかあの2人、話してないけど正確に数えてるのか?
俺がそんな疑問を抱いたところで、カウントは70を過ぎていた。
「さてと、そろそろ確認ね……今日は、反省できそう?」
「少し、足りない……もっと強く、してください…」
は?
何なのこの親子、と思ったその時。
2人の会話で何となく事情を察した。
「よかったわね…、答えによってはあともう100叩きだったけど、お客さんがいるからかな?」
母がこちらを一瞥する。
ビチィン!!
直後、ガラス窓まで震えたかと錯覚するような大きな音。
熟れた桃のように全体が染まったお尻に、新しく赤い手形がくっきり残る。
ビチィン、ビチィンと叩くたびに母の手も痺れているのか、心なしかさっきまでよりもペースは遅い。
それでも…だ。
あの調子で30回も叩かれるくらいなら、先の70回の方がずっとましだろう。
いや俺だったら、5回と95回だとしてもちょっと迷うかもしれない。
あぁ、ひょっとして…昨日はそれでズルズル300回まで延びたって事か?
「…ひぃん!」
あれこれ想像を巡らせたところで、女の子が耐え切れず悲鳴をあげた。
それは彼女がいつもの態度なら、からかってやりたくなるほど情けない声だったが…今はそんな気もない。
俺は少女がちょうど100叩きで許してもらえる事だけを願って、何度も震えている赤いお尻を見守った。
もう俺の事など、意識の外にあるに違いないのに。
(PC)
6 松原
「あぁ、あれはそうですね…10回ずつ叩いて間をとっているから間違えないんです」
罰を終え、少女の母は普段娘のお尻を叩くときに気を付けている事などを懇切丁寧に説明してくれた。
将来、子供ができた時に役に立つかもと。
いや俺はスパルタにする気はないんで、とも言えず。
だらだら話を続けてしまった後は、もう1人の機嫌をとるのが大変だった。
開口一番に「あんたのせいで」を聞く事ができた時は、あぁ元気になってよかったと心から思えたのだが。
その後続いた罵詈雑言は、この後もう100回ほど叩かれてこいと考えを改めてしまうほど鋭利なもので。
つい口にだしたら「…ごめんなさい」と素直に謝ってきた。
…これは、しばらく使えそうである。
「それにしても、毎回あんなに叩かれてんの?」
「…ほかの人に言ったら、コロす」
「はいよ…けど、次何かやったら今言ったのもお母さんに報告な」
「なっ…、ひ、ひきょー者!」
「何とでも」
弱みを1つ握ったみたいで心苦しかったけれど。
使えるものは使う、というか口悪すぎだろこいつ。
これこそ早急に何とかすべきなんじゃないのかと、主に俺の尊厳を守るために。
「まぁ…その時はまた呼んでくれよ、もう2回目なんだし恥ずかしくねーだろ」
「キモい」
「だからそれやめろっつーの」
今回はどうやら俺が助けた形になったようだが、この調子だと長くは続くまい。
しばらくは駆け込んでこれないよう、常時チェーンロックでもかけた方がいいかな?
そんな事を考えながら、まだ無意識にお尻をさすっている少女を見つめていた。
罰を終え、少女の母は普段娘のお尻を叩くときに気を付けている事などを懇切丁寧に説明してくれた。
将来、子供ができた時に役に立つかもと。
いや俺はスパルタにする気はないんで、とも言えず。
だらだら話を続けてしまった後は、もう1人の機嫌をとるのが大変だった。
開口一番に「あんたのせいで」を聞く事ができた時は、あぁ元気になってよかったと心から思えたのだが。
その後続いた罵詈雑言は、この後もう100回ほど叩かれてこいと考えを改めてしまうほど鋭利なもので。
つい口にだしたら「…ごめんなさい」と素直に謝ってきた。
…これは、しばらく使えそうである。
「それにしても、毎回あんなに叩かれてんの?」
「…ほかの人に言ったら、コロす」
「はいよ…けど、次何かやったら今言ったのもお母さんに報告な」
「なっ…、ひ、ひきょー者!」
「何とでも」
弱みを1つ握ったみたいで心苦しかったけれど。
使えるものは使う、というか口悪すぎだろこいつ。
これこそ早急に何とかすべきなんじゃないのかと、主に俺の尊厳を守るために。
「まぁ…その時はまた呼んでくれよ、もう2回目なんだし恥ずかしくねーだろ」
「キモい」
「だからそれやめろっつーの」
今回はどうやら俺が助けた形になったようだが、この調子だと長くは続くまい。
しばらくは駆け込んでこれないよう、常時チェーンロックでもかけた方がいいかな?
そんな事を考えながら、まだ無意識にお尻をさすっている少女を見つめていた。
(PC)