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1 笹本

愛名がやる気を出す方法

正直なところ、愛名は教えづらい生徒だった。
目上の人の娘ということで、少しこちらが臆していたせいもある。
厳しくするよと言ってみたものの、彼女は嬉しそうにはにかむだけだった。

「お兄ちゃん、答え教えて、ここ」

先生と呼ばないのはいつものこと。
予習は「もう知ってる」という言い訳でうやむやにされ、宿題を出してみても「全部わかるからやらない」の一点張り。
立場が家庭教師じゃなかったら怒鳴りつけているところだ。

「先生、また来てね」

帰る時間になってようやく。
最初で最後、玄関を出たところの「先生」に笑いかけてくれる。
これも多分、近くに両親がいるおかげなのだが。

(勉強が嫌い…、なんだろうなぁ)

これで給料貰っていいのかと、いつも不安に駆られる帰り道だった。
[作者名]
笹本
(PC)
2 笹本
愛名は成績が悪いわけじゃない。
むしろ学年では上から数えた方が早いくらいで、家庭教師などいなくても何とかなるといえば確かにそうだ。
となれば、両親が心配しているのは取り組む姿勢のほうである。
いくらテストの結果がよくても、今のように勉強を拒み続ければ取り返しがつかなくなるのは明らかだった。

「あまりに聞き分けがない時は、お尻をぶってやってくださいね」

「は?」

ある夜、そう頼んできたのは母親の方だった。
厳しくしてくれとは言われていたが、そこまでするつもりで引き受けたつもりもない。

「いやでも、女の子ですし…」

「あの子もね、わかっているんですよ」

「…」

「いつも、生意気な態度ばかりでしょう?」

「それは…」

その通りです、とは言いづらい質問なのだが、顔に出てしまったらしい。
母親は「やっぱり」と一言、本人も気付かないようなボリュームでこぼすと、話を戻した。

「そのくらいされないと、スイッチが入らないみたいで」

だからお願いしますね、と。
拝むポーズで片目を瞑られてもこちらとしては困る。
娘の学校で妙な噂が立ったらどうすんだ。
ただでさえマイナスの話題はものすごい速度で広まるというのに。

「大丈夫よ、うちはまだ携帯持たせてないし」

だからそういう問題じゃない。
愛名が人の話をろくに聞かない部分については、どうやら遺伝のようだった。
(PC)
3 笹本
「お兄ちゃん、5分遅刻ー」

部屋に入った時にはもう、いつもの時間を過ぎていた。
母親にくれぐれも厳しくするよう言われてしまっては仕方ないのだが、どうしよう。
本当に叩いていいのかと1人で葛藤しているのが正直なところだった。

「どうしたの、変だよ?」

いつも変だけど、と茶化すことも忘れない。
ほんと…、マセた性格してんなぁ。
ボーダーの部屋着にフード付きベスト、動きやすさ重視のホットパンツという、知らない人が見れば小学生男子にも見える格好も相まって。
こいつの尻なら叩いても何の問題にもならんのじゃないかと思ったところで。
一応、本人に聞いてみる。

「いや、さっきお母さんに頼まれたんだよ」

何を?と愛名がようやくこちらを見る。

「今日も言うこと聞かなかったら、お尻叩いてくれってさ」

「ふぅん」

当の愛名は冷めたものだった。
こちらにしても「ぎゃー」やら「ひぇー」など、そこまで大げさな反応は求めていない。
それにしたって、普段の愛名なら「絶対やだ」か「必要ないし」で一蹴するだろう。

「じゃ、今する?」

「は?」

「お尻叩くんでしょ、机さげるね」

愛名はノートやテキストの並んだテーブルを少し引きずって、広めの空間を作った。
いつもそうしているらしい。
言われてみれば母親が、狭かったら机をどけてだの何だの言っていた気がする。

「わ、悪いことしてからでもいいんだぞ?」

「いいけど、どうせ宿題やってないし、予習も次の宿題もしないつもりだし」

「いや、そこはやれよ」

心の準備が必要なのは、多分こちらだけなのだろう。
愛名は早くしてよと言いながら、座ってあぐらをかいてとあれこれ要求してきた。
これではどちらが叱られる子供なのかわからない。

「痛くなかったら、これから勉強しなくてもいい?」

「その時は、あとでお母さんに叩いてもらおうかな」

「えー」
(PC)
4 笹本
ぱん、と左の膨らみを叩くと、結構いい音がした。
ホットパンツ越しとはいえ、右手はじんじん痺れている。
少し強かったかな、と愛名の表情を見ると、その反応は叩く前に予想していたのとは少し違った。
目に涙を浮かべ、ぎりぎりのところで泣くのは我慢したのか、キッとこちらを睨んでいる。
直感した。
あ、こいつ本当は痛いの全く駄目なんだ。

「そんなに痛かったか?」

「べ、別に…」

「なら良かった」

ぱん、ぱん、ぱぁんと左右を交互に、同じくらいの強さで叩いてみる。
打たれてぷるんと震えるのは尻だけにとどまらず、愛名は全身で痛みをこらえているようだった。
しかし態度には出そうとしない。

「も、もう終わり?」

「いや、まだ決めてないけど」

「…だと思った、全然痛くないもん」

「どの口が言ってんだ」

ぱん、ぱん、ぱん、ぱん……しばらく、気持ち手加減しながら叩いてやったのだが愛名は多分気付いていない。
15発を超えた辺りからの痛がりようを見ていると、まるでいじめているような気持ちになった。
これで本当にやる気になるのか?
ならなかったら叩き損だぞと、心配になって聞いてみる。

「宿題くらいはする気になったか?」

「…わかんない」…ぱぁん!

「じゃあ、予習は?」

「知らないって」…ぱぁん!

おいおい。
まだ懲りてないのかよ。

「けど…」

「なんか、今日ぐらいはできそうな気がする」

「そっか」

その言葉が聞けた時点で、37発。
もう許してやってもよかったのだが、母親の頼みである50発目で罰を終えた。
愛名は「うえー」とうんざりした様子で耐えていたが、ついに最後まで泣くことはなかった。
終始涙目ではあったけれど。

「ありがとね、先生」

その日の愛名は、人が変わったように真剣に勉強していた。
教える者としては喜ばしいのだが、いかんせんいつもと差がありすぎてこちらが集中できない。
これほど真面目にやるなら、あんなに叩く必要はなかったのではないか。
腫れた尻がむず痒いのか、たまに座布団の上にホットパンツの尻を擦りつけているのが見えた。

「なに」

「いや、別に」

「ふぅん…、いいけど邪魔しないでね」

別人のようになった愛名に喜んでいると。
帰り際、母親に呼び止められてしまった。

「先生、今日はありがとうございました」

「いえ、あれならもう大丈……」

「これで今日1日は真面目にやると思うんで、次からもお願いしますね」

毎回やるのかよ!
心の叫びが、自分の中にこだました。
(PC)
5 りか
反省してなくて下着を降ろして泣いても止めないぐらいキツイお仕置きがみたい
(S)