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1 野宮

友達の家で…

思い出すのは、寒い冬の時期のことだ。

当時小学4年生だった僕は、いつも同じ友達と遊んでいた。
クラスメイト2人と僕、あとはその家の弟だったり、妹だったりが混じることはあったけれど。
まぁ大体3人か4人で、子供らしく走り回っていた。
そう聞けば微笑ましい話なのだが、僕らのヤンチャぶりは少々度が過ぎていたようである。
ばたばたと走り回るのは、家の外だけの話ではなかったからだ。
ただし、僕を含めてそれが危険だという認識はまるでない。
だからこそ、あんな体験をすることになってしまったのだが。
[作者名]
野宮
(PC)
2 野宮
冬休みも始まり、いつもの調子で遊ぼうと電話をかけた友達がたまたま留守だった。
それだけの理由で別の友達の家に集合となったのだが、これがまずかった。
おばさんが怖いのである。
僕はそんなこと全く知らずにいつもの調子で遊ぶことにした。
そうは言っても、たった1日である。
果たして。
偶然遊ぶことになっただけの何時間かで、怒られるようなことをしでかすだろうか?

しでかしたのが、僕なのだ。
(PC)
3 野宮
忍者ごっこなどと、のたまっていた記憶がある。
思い出したくない記憶が。
やっていたことは単なる鬼ごっこなのに。
忍者には中も外も関係ないとよくわからない主張をしながら家の中を全力疾走。
再び言うが、これがまずかった。
玄関マットを踏みながら駆け込み、廊下を走り抜け、壁に手をついて───。
何とか曲がったその先に、友達が逃げ込んだのを見たから。
走って、止まって、また走った。
そこが台所だとも考えることなく。
気づいたら、小鉢がひとつ、床にひっくり返っていた。
(PC)
4 野宮
青ざめるとはこのことである。
食卓に足が接触したのか、いや、この際そんなことはどうでもいい。
どうしよう。
自宅ならばホウキやちり取りの場所もわかるし、最悪なかったことにできる。
しかし今は人の家、ましてあまり来たことのない友達の家である。
落ちた衝撃で小鉢が割れている可能性もあるし、中のおかずはおそらくダメだろう。
片付けたほうがいいのか迷っていると、おばさんに見つかった。

「あー、あー、もう…だから言ったのにー!!」

ジロリとおばさんに睨まれる僕。
そう言えば遠くから、家の中で走るなとか、ぶつかったら危ないとか聞こえていた気はする。
当時の僕は、それが自分に向けられているとは夢にも思っていなかったのだ。
友達はすでに逃げ去った後である。

「いいからあっちの部屋で、正座!」

片付けの邪魔だと思われたのだろうか。
隣の部屋で待つよう指示されたのだが、

「後で、お尻をいっぱい叩いてあげるからね」

と、僕が逃げるのを防ぐため罰の約束も取りつけられてしまった。
(PC)
5 野宮
こうなってはもう逃げられない。
覚悟を決めて、慣れない正座でソワソワしながらおばさんが来るのを待った。
黙って帰ることはできても、家に電話されたら終わりなのだ。
10分ほど待っていると、外から扉が開いた。

「他の子みんな逃げちゃったみたいね」

あと片付けの作業で少しは気持ちが落ち着いたのだろうか?
怒っているというより、ただ呆れているようだった。
それでも宣言した罰に変更はないようで、

「正座はもういいから、お尻を叩きましょうか」

とあっさり言うのだった。
(PC)
6 野宮
想像していたよりも本格的なお仕置きだった。
びちん、ばちんとお尻に平手打ちを加えるだけでなく、叩くたびにおばさんが、「1回」「2回」「3回」と叩いた数を口にする。
そのうえ力いっぱい叩いた後で必ず、痛みを十二分に味わわせるためであろう待ち時間を設けているのだ。
体感だが、1回目と2回目の間だけでも30秒前後あったように思う。

「痛くしないと反省しないでしょう?」

びしびしと平手打ちは続けられるものの、この程度なら大丈夫ではないかと僕は心のどこかで甘く考えていた。
4年生ともなれば、学校にさえお尻を叩く先生がざらにいた時代である。
あの先生に叩かれた時のほうが痛いんじゃないか、などと余計な考えを巡らせたのがまずかった。
おばさんはすぐに気付いて、

「ねぇ、どうして家の中を走ったのか言ってみなさいな」

と聞いてきたのだが、すぐには答えられない。
子供が走るのに理由なんてないのだ。
おばさんもわかっていて聞いたのだろう、この瞬間の空気だけは今でもよく覚えている。
すでに21回ぶたれて、丸み全体にピンクがかったお尻が22回目を待っている状態。
しかしおばさんは22回目を発声することなく、

「10回からやり直し」

と冷たく口にしたのだ。
(PC)
7 野宮
その後おこなわれた11回目から21回目までの「やり直し」は、今までの何倍もの長い時間に感じた。
本来なら受けなくてもよかった罰という名目ならば、なおさら屈辱的なものである。
そもそも何回叩けば終わるのかさえ聞くに聞けないまま罰を受けているのだ。
2度目となる21回の平手打ちが浴びせられたその時、僕は痛みに耐えかねて大きく背中を反らせていた。

「…あら、ようやく痛くなってきた?」

痛いなんて言えないぐらい、お尻は痺れていた。
やり直しの11回目、正確にカウントすれば22回目となるはずだったその1発を境に、明らかに変わったのだ。
力の入れ方なのか、手首のスナップに差をつけたのか、僕には判断できないけれど。
とにかく1回叩かれただけで…それまでと比べものにならないほど、この部屋を中心に大きな音が響くようになっていた。

「言える?どうして走ったの?」

再びの質問。
正直言って僕には、ここで答えられなくても許してくれるだろうという打算があった。
学校などで他の子が叱られているのを散々見てきた子供なりの、浅知恵である。
いかにも反省しましたという顔をして、神妙にしていればいいのだとこの期に及んで考えていた。

「…また、10回からやり直すわね」

結果…、通用しない相手もいるのだと、この身をもって思い知らされることになった。
(PC)
8 野宮
「はい50回…、終わり」

一際大きな音を立てて、僕のお尻には最後の平手打ちが炸裂した。
本当に終わったのか、おばさんの顔を何度も見て確認すると、僕は少し泣いていたのか「大丈夫…?」と心配されてしまった。
それもそのはず、通算「やり直し」は7回である。
もはや何回ぶたれたのかさえわからないお尻は、自分のものではなくなったように腫れていた。
びりびり痺れる大きなボールが後ろにずっとくっついているような、変な感じだった。

「反省はできた?」

冗談でも、できてないと言えばまた「10回からやり直し」になったかもしれない。
僕が必死で首を縦に振ると、おばさんはようやく許してくれたようだった。
走り回っていたことはもちろん、食卓にぶつかって食べ物を粗末にしたことも火に油だったらしい。
2度としないと誓いを立てて、その後には尋問の時間である。
逃げた子の名前を教えてちょうだい、と言うとさらさらメモを取っていた。
食べ物を落下させたのは僕だから…と庇おうとしてみたのだが、

「逃げた子のほうが罪は重いから」

許す気は微塵もなさそうである。
逃げたうちの1人が自分の子供だから、なおのこと腹が立っているのだと聞いていてわかった。
だとすると、早くに捕まった僕は1番の幸運だったのかもしれない。
あくまで、罰を受けなくてはならないメンバーの中では…という意味だが。
(PC)
9 さら
迫力がありました。
是非逃げた子供達編も書いてほしいです。
(SP)