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1 篠原

母ひとり、子ふたり

「お姉ちゃん、このお家に住んでるの?」

葵ちゃんを見かけたのはこの日が初めてだった。
一人で下校する私の後ろをてくてくついてきて、笑った。
親は何をしてるんだろう。
気づいた地点からまだほんの数百メートルだが、彼女の背丈から考えるとそれなりに距離はある。
幼稚園の子かな?質問してみると。
彼女は初めてムッとしたように、「二年生だもん」と頬をふくらませた。
目と鼻の先だった自宅に鞄を置いて、通学路を戻る。
はぐれて探していたらしい母親はそこにいて、私を見るなり頭を下げた。
[作者名]
篠原
(PC)
2 篠原
「本当にすみません…、ありがとうございました」

「いえ、近所なので…気にしないでください」

満奈美さんというらしい。
私が初対面の女性を相手に少し緊張していると。
葵ちゃんは制服の袖をぐいぐい引っぱり「ねぇねぇ」と話しかけてくる。
見習いたいくらいの人懐っこさだ。

「コラ、葵!」

こんなに優しそうな満奈美さんでも、母親としての顔は別らしい。
子供を叱る時と普段で二面性があるのは私の母も同じだが、見慣れていないぶん変に迫力があった。
しかし当の葵ちゃんは気にかける様子もなく、きゃっきゃと走り回っている。

(ほんとに元気な子だなぁ…)

ひとしきり逃げ回った後、背中からハグするようにして捕まった葵ちゃん。
よく考えたら、全く知らない私に勝手について行って連れられて帰ってきたのである。
数分ほど経って、満奈美さんからカミナリが落ちた。

「帰ったら、お尻ペンするからね!!」

それでも葵ちゃんは笑っていた。
私と別れるのを名残惜しんでくれるように何度も振り返りながら、笑顔でバイバイと手を振る。
子犬みたいな子だったなぁ。
叱られるのは可哀そうだが、あの人懐っこさは私から見てさえ危険である。
面倒を見る親としては気が気でないだろう。

「…バイバイ、葵ちゃん」

もう聞こえない距離にいる二人の背中に声をかけ、私も帰ることにした。
また近いうちに会うかもしれないし、寂しがっていてもしょうがない。
明日は土曜日だ、ゆっくり休もう。
(PC)
3 篠原
「お姉ちゃーん」

ゆっくり休めると思っていた私は、その声で飛び起きた。
葵ちゃん?何で?ここ家だよ?
寝起きの頭でいろいろ考えてみれば。
私は昨日、自宅の場所を知られているのである。
まさかこんな朝早くから来客があるとは思っていないので、パジャマ姿で出迎えた。

「…おはよ、葵ちゃん」

「おはようございまーす!」

お寝坊さんだとケラケラ笑われたが、休日の私としては早起きなほうである。
母にまで「新しいお友達ね?」とからかわれ散々だったが、とにかく部屋まであがってもらうことにした。
一応、当事者として昨日の顛末も気になるし。
子供相手に気を遣いすぎるのも変なので、直球で質問してみた。

「昨日、怒られちゃった?」

「んとね…、お尻いっぱい叩かれた!」

「…痛かった?」

「…ん…、んー…、ぜーんぜんっ、へっちゃら!」

「そ、そうなんだ」
(PC)
4 篠原
何となく、嘘だということはすぐわかった。
いつも明るいぶん、嫌なことを思いだした時の表情がわかりやすい子なのだろう。
相当怒られたのか、無意識にお尻へ手が伸びている。
そこがまた可愛かった。

「けど、今日また怒られちゃうんじゃない?勝手に出てきたら」

「今日はお姉ちゃんと遊ぶって言ったもん」

「え……あ、遊ぶんだ…」

さようなら、私の休日。
今度、相手の都合を確認することについても教えてあげないと。
家を知られている以上、さながら小さなストーカーになってしまう恐れがある。

「…お姉ちゃん?」

「ああ、うん…とりあえず…、着替えるね」

こうして私は時々、葵ちゃんと遊んであげるようになっていく。
(PC)
5 篠原
「ねぇお姉ちゃん、お姉ちゃんは葵のお姉ちゃんだよね?」

「はい?」

「お姉ちゃんじゃないなら、お姉ちゃんになって」

その禅問答のような言葉の意図はこうらしい。
葵は一人っ子で、お姉ちゃんがいないから、本当のお姉ちゃんになって。
同じく一人っ子の私は本心から嬉しかったのだが、私にだって親はいる。
まさか頼みをそのまま聞くわけにはいかないが、

「もちろん、葵ちゃんのお姉ちゃんよ、当たり前でしょ?」

彼女は本当に嬉しそうな顔で、「うん!」と笑うのだった。
葵ちゃんの家へお邪魔するようになったのもこのころからである。
どうやら引っ越してきたばかりで友達はあまりいないらしく、満奈美さんを含めて三人でお喋りすることもあった。
あれだけ人懐っこい子に友達ができないなんて、不思議なものだ。
転校の経験がない私に、葵ちゃんの気持ちはわからないけれど。
同級生とはいえ、突然知らない子たちの中に放り込まれるのはいくら協調性があっても辛いのだろう。
こればっかりは時間をかけて、少しずつ慣れていくしかないようだった。

「お姉ちゃーん!」

それでも彼女は、私の前ではいつも元気な少女だった。
元気すぎて満奈美さんに窘められてしまうほど、活発に駆け回る姿は見ている私までハラハラさせられた。
そしてある日、ちょっとした事件が起きる。
(PC)
6 篠原
「お姉ちゃん、こっちこっち!」

「もー、どこまで行くの?」

「もうすぐ!」

私は葵ちゃんに連れられて、自宅から少し距離のある山のふもとまで来ていた。
山というより丘である。
ちょっとした高台の原っぱに、停めっぱなしで錆びついた軽トラックが何台か見える。
あまり知らない男の子たちがよく遊び場にしている場所だ。
おそらく家が近いのだろう。

「ここ!」

葵ちゃんが立ち止まった。
そこはまださっきの原っぱの片隅で、ベンチどころか座れそうな石さえない。
座るとしたら草の生えた地べたである。
葵ちゃんと遊ぶ時のためにいつ汚れてもいい服を選んではいるが、今日に限ってスカートだった。

「ここからね、見えるの」

彼女が先に座ってしまったので、私もつられて座るしかなくなる。
まぁいいか、一着ぐらいは。
諦めてお尻をつけると地面が思いのほかごつごつしているのがわかった。
これでは土の上に座っているのとほとんど変わらない。

「何が見えるの?」

「前の学校」

「え、ほんと?」

思いのほか近い距離の転校だったらしい。
それなら友達にも会いに行けるのではないかと思ったが、そういえばいまの小学校からだと校区の外になってしまう。
距離的にはさほど離れていないのだが、子供だけで遊びに行けないエリアなのだ。
(PC)
7 篠原
(あれ、そういえば…?)

今いるこの丘も、小学校の校区からはだいぶ外れている。
私が通っていたころと変わっていなければの話だが、たかが数年でそうそう広がったりはしないだろう。

「ねえ葵ちゃん…、ここに来ること、お母さんには…?」

途端、表情がやや曇った。
私に叱られると思ったのか、顔色を窺うように「言ってない」とポツリこぼした。
やっぱり、そうか。
多分、葵ちゃんは一人でこっそり何度かここへ来ているのだ。
それがいけないことだとは知っていながら。
満奈美さんと一緒に来れないのは、頼んで断られたか何かの理由があるのだろう。

「…お姉ちゃん、お母さんに言う?」

「言わないよ」

「ほんと?」

「うん、言わない…約束しよ?」

私は本当に隠してあげるつもりだった。
寂しさを紛らわすためにルール違反をしているなら、目を瞑ってあげるべきではないか。
浅はかだったのは、お尻についた土埃をはらってやるのを忘れていたことと。

「…葵っ!」

帰り道、満奈美さんの買い物ルートを通らなければならないことをすっかり忘れていたことである。
(PC)
8 篠原
「ごめんなさいね、家までついて来てもらって」

「いえ…」

葵ちゃんが逃げ出すのを防ぐためか、帰り道、満奈美さんはしっかりと手を繋いでいた。
両手に握っていたスーパーの袋を片方預かり。
私はのこのこと葵ちゃんが叱られてしまうであろう現場までついて来たのである。
言わないと約束したばかりなのに。
ああもあっさり見つかってしまっては、裏切りと同じである。
葵ちゃんは見たこともないような悲しげな顔で私を見ていた。

(ど、どうしよう…)

庇ってあげたいのは山々なのだが、校区外に出て行ったのは事実だし、正直、どうしていいかわからない。
ここは満奈美さんの裁量に委ねるしかなかった。

「葵」

感じたのは、静かな怒り。
私がビクついてしまうほどの、それは母親としての怒りかただった。

「あそこには行っちゃいけないって言うの、何度目?」
(PC)
9 篠原
やはり初めてではなかったらしい。
それでも行く前に、年上の私が気づくべきだった。
そんな私を一切責めようとしない満奈美さんの優しさが、チクリと刺さる。
叱られても仕方ないのは私なのに。
葵ちゃんは叱られていることより、見つかってしまったことがまだショックらしい。
心ここにあらずという感じだ。
そのことが、心配で叱る満奈美さんの神経を逆撫でしているように思えた。

「聞いてるの、葵!」

満奈美さんが本気で葵ちゃんを叱る姿を見るのは、これが初めてだった。
今までにも散々叱っているところは見ているが、それはどこか親と子のコミュニケーションの一部みたいなもので。
叱るというより、一連の日常風景に映ってきたからである。
しかし、今日のそれとは明らかに違う。

「今回はもう、お尻ペン百回だからね」

(ひゃ、百回っ…?)

さすがに厳しすぎるんじゃ?と私が言う前に。
隣にいた葵ちゃんが立ち上がり、「知ってる」と自分で下着をおろして、足首にひっかけた。
両腕を前に出すと、満奈美さんは手慣れた様子で前方に引いて、自ら組んだ太腿に寝かせる。
バチッ!
最初の一発は早かった。
私が(え、もう叩いたの…?)と気をとられている間に。
パチン、バチッ、バチンと平手打ちが波のように襲いかかる。
葵ちゃんのお尻は、見る間に桃のように腫れあがっていくのだった。

(…うっわ、痛そう……)

それでも葵ちゃんは痛みに耐えて、泣いていなかった。
最初に幼稚園児扱いした時のようにムスッとしてはいるが、子供らしくわめいたりはしない。
…痛くないのだろうか?
カラー風船のように腫れていくお尻を見る限り、そんなはずはないのだが。
四十回を過ぎるあたり、ちょうど半分くらいまでは本当に痛くなさそうにしていた。
思えば、意思表明だったのかもしれない。
秘密を守ってあげられなかった私と、行くのを認めてくれない母親への、負けるもんかという意地。
本当に、今回私に罪はないのだろうか?
(PC)
10 篠原
「これぐらい痛くしないと、葵はまたすぐ行っちゃうもんね?」

満奈美さんの言葉は、そんなことを考える私へ向けられたものだったように思う。
あなたのせいじゃないよ。
そんな満奈美さんの優しさに触れるほど、心は痛んだ。
バチッ、バチッ、パチン。
目の前の光景に、私はついに耐えきれなくなった。
葵ちゃんが…、泣いているのだ。
声はない。
ただぼろぼろと、涙を流している。
痛くて泣いているのではない、きっと…悔しくて涙が止まらないのだ。
それに気づいた時、私は。

「すみません、お願いがあります」

葵ちゃんのお尻を百回、叩き終えて一息つこうとしていた満奈美さんに、私は頭を下げながら言った。

「私のお尻も叩いてくれませんか?これから…」
(PC)
11 篠原
「…ほ、本当にするの?」

満奈美さんは驚いた顔で、さっきまで葵ちゃんのお尻を叩いていた手のひらを私に見せる。

「いま葵のお尻を叩いたのはね、いけないことをしたからよ?だから、…」

最後まで言い終わる前に、私は四つんばいになったスカートのお尻を満奈美さんの顔の近くまで上げた。
失礼極まりない話だが、もちろん嫌がらせなどではなく。
見てほしい証拠がそこに残っていたからだ。

「私も、同じところに行って、同じことをしてました!」

お尻についた土埃は時間が経ち、軽くはらっただけでは落ちない程度に固まってしまったはずだ。
もちろん校区外というのは小学校エリアの話で、私が行ったというだけでは何の罪にもならない。
しかし、私は連れ出してしまったのだ。
知っていたのに、忘れていたから。
そのせいで葵ちゃんに、満奈美さんが叱らなければならないようなことをさせてしまった。
それならば、私にも罪はある。
(PC)
12 篠原
「お、お姉ちゃん…?」

葵ちゃんが心配そうに、私を見てくれている。

「ごめんね葵ちゃん、一人だけ怒られちゃったね…、けど次はお姉ちゃんの番みたい」

四つんばいのまま、ペロリと舌を出す。
久々に、葵ちゃんが笑ってくれた。
涙まじりの顔ではあったけれど、いまの私はそれが何より嬉しかった。
すると満奈美さんも私の気持ちを汲んでくれたようで、

「そういうことなら…、お姉ちゃんにもお尻ペンしましょうか」

と言ってくれた。

「そのかわり…、もちろん百回よ?」

「うわ…、…やっぱり…?」

「お姉ちゃん、チョー痛いよー?」

えへへと笑う少し元気になった葵ちゃんに安心したのだが、正直あまり深く考えずお尻を向けてしまい。
これから私の身に起こることについては全くの無警戒だった。
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13 篠原
「お・姉・ちゃん?」

何か忘れてない?と満奈美さんが後ろから囁いてくる。
すでに体は痛みに耐える準備をしていたけれど。
そうだ、パンツを下ろさないといけないんだった。
…って、…パンツ、下ろすの…?

(…うわ、これ恥っず…)

他人の家で四つんばいになってお尻をさらすというのは、耐えがたい恥ずかしさがある。
まして私は小学生ですらないのに。
お尻をぶたれるために、しかも人の家のお母さんに裸のお尻を向けるというのは…。
一生、味わえない屈辱エピソードかもしれなかった。

「葵、向こうの部屋へ行ってなさい」

「えー、何でー?」

「いいから行って」

これも満奈美さんなりの気づかいなのだろう。
葵ちゃんを部屋から遠ざけようとしてくれたが、私はそれを拒んだ。

「葵ちゃん、近くにいていいよ」

「え、いいの…?」

「そのかわり、後ろ向いててくれる?お姉ちゃん恥ずかしいから」
(PC)
14 篠原
わかった、と素直に応じた葵ちゃんは、近くで私に背中を向けて体育座りをした。
まだお尻はひりひりしているはずである。

「…本当にいいの?」

満奈美さんから小声で最終確認。
ここを過ぎてしまったら後戻りはできないよという意味だ。
私は同じくらいのボリュームで「きつくお願いします」と返した。
お互いに、まだ迷いがあったのだろう。
それからは一度も顔を見ないようにした。
捲れ上がったスカートに重みさえ感じるほどに、緊張している。

「いきますよ」

突然だった葵ちゃんの時と違い、予告のあとたっぷり間をもたせて、満奈美さんは右手のひらにハァー、と息を吐いていた。
私に、心の準備をさせてくれたのだろう。
バチィン!
しかしお尻への平手打ちは決して優しくはなく、たった一発で、お尻の右側を中心にしてびりびりと痛みが広がった。

(…っ、…何コレ、こんな痛いの……?)
(PC)
15 篠原
バチン、バチンッ、バチィン!お尻に、左右交互に痺れるような痛みが走る。
その痛みは五回、十回と続き、私はたったの十回で痛みに耐えきれず、肩ではぁはぁ息をし始めた。
満奈美さんも気づいているに違いない。
四つんばいの腕を支えきれず、肘をつく格好になった。
自然とお尻が高く上がり、むしろ叩きやすくなってしまったのではないだろうか。
これは決して、私から満奈美さんへの気づかいではないのだが。
満奈美さんはそれから、しばらく無言で私のお尻を打ち据えた。
十七回、十八回、十九回……、心の中で、数えるだけの余裕があったのはそれぐらいまでだった。
とにかく痛すぎる。
確かに葵ちゃんと比べるなら、かなり年上の私の体だ。
お尻だって、比べものにならないほど大きいのだろう。
だから満奈美さんは、思いきり叩いても大丈夫と判断したのだろうけど。
してくれたのだろうけど…、だからって。

(こんなの百回なんて、無理…)

数なんてもうわからない。
体感でいいならば、四十回くらいまで頑張れたのではないだろうか?
そこからはボロボロと泣き出してしまい、よく覚えていない。
とにかく途中からお尻がヤケドしたように痛くなってきて、四つんばいを保っていられなくなった。
すると満奈美さんに引きずられるようにして、彼女の太腿の上へ。
葵ちゃんがされたのと同じように、満奈美さんからは残り五十回ほど(たぶん)のお尻ペンをいただくことになった。
ペン、なんて可愛らしい音は一度たりとも聞こえなかったが。
私は葵ちゃんと二人並んで真っ赤なお尻をさらけ出したまま、

「もうしません、ごめんなさい」

と深々と頭を下げたのだった。
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16 篠原
「…本当はね、連れて行ってあげたい気持ちもあったのよ」

満奈美さんはそう言って、行ってはダメと言い聞かせていた理由を話してくれた。
葵ちゃんは反省という名目で、隣の部屋で待っていてもらっている。
ちなみに反省させられていることになっているのは私だ。
お姉ちゃんだからほかにもまだ罰があるのよ、と葵ちゃんに伝えていた。
嘘だと知っていても満奈美さんに恐怖を感じるのは、ついさっきまで受けていたお尻百叩きのせいだろうか。
帰ってからもしばらくは痛い気がする。

「でも、いつまでも前にいた学校ばかり見ているのはね…こっちに来てから、お友達とあまりお喋りしないらしくって」

「そう…、なんですか」

無口な葵ちゃんというのは、どうしても想像しづらい。
拗ねたわけでもないのに喋らないというのは、やはり寂しさからくるものがあったのだろう。

「…でもね、少しずつ変わっているみたい」

「え?」

「素敵なお姉ちゃんができたから嬉しいんでしょうね、きっと」

あれほどみっちり叱られた後に褒められるのは、変な気分だ。
お尻はまだずいぶん痛むのに、ついついニヤけてしまう。
すると満奈美さんは、

「今日は…、本当にありがとうね」

と…、私たちがしたのと同じように頭を下げてきた。

「…それ、やだなぁ」

「……?」

「私たち二人が悪いことをしたから、お尻ペンしてくれただけでしょ?」

言うと満奈美さんは笑って、わしゃわしゃ頭を撫でてくれた。
散々、泣いた直後の私である。
汗と涙と鼻水でひどい顔をしていて、髪はボサボサ。
そんな状態であっても心から笑えるのだと、私は今日初めて知ることができた気がする。
(PC)
17 篠原
「お姉ちゃん、バイバーイ!」

ぶんぶんと手を振る葵ちゃんを連れ。
満奈美さんもわざわざ玄関まで見送りに来てくれたので、靴を履きながら手を振る。

「きゃっ!?」

よろけてバランスを崩す。
とっさに壁へもたれかかった私だったが、尻餅をつくのがほんの二秒ほど遅れただけだった。

「…痛ったぁーい…」

「ほらほら、気をつけないと」

ぱんぱんとお尻についた埃をはらってくれる満奈美さん。
…いたっ、いたっ、…痛いんですけど。
罰の続きみたいになってしまった。
隣では葵ちゃんが大笑いしている。
しばらくして解放してもらうと、また少しお尻のひりひりが酷くなった気がした。
さらに耳元で、

「…次やる時はもうちょっとだけ、手加減してあげるね」

「も…、もう次はいいですー!!」

「ダーメ、お姉ちゃんでしょう?ふふ…」

からかっているのか、本気なのか。
満奈美さんの考えはいまいちわからない。
子供には量れないからこその、親の気持ちというやつなのかもしれないが。

「お尻、お大事にねー!」

恥ずかしいことを大声で叫んでくれるのも、母親の特徴だろうか。
私は聞こえないふりをしながら、後ろにいる二人の家族に大きく手を振っていた。
(PC)
18 無名さん
年一レベルの良作きたな・・・
(PC)
19 無名さん
うーむ、素晴らしいな
(SP)