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1 会田

私の嫌いな垣本先生

「はーい、今日から1年間みんなよろしく」

4月、そうして軽い挨拶をした垣本先生を私はあまり好きになれなかった。
周囲から慕われていそうな雰囲気が嫌味に映ったのかもしれない。
胸元がざっくり開いたシャツも、男ウケを狙っているのだと勝手に思い込んだ。
美人でスタイルがいいのがまたムカつく。
そんな僻みからいわゆる問題児となった私は、大切な事を見落としていた。
そういった子の方が、先生と関わる機会は遥かに多くなるのだ。
[作者名]
会田
(PC)
2 会田
「…あーあ、何で私がこんな事を…」

2か月ほどが経つと、私はすっかり放課後に雑用を押し付けられる立場になっていた。
集配係や掲示物係はクラスにちゃんと居るのに、先生が指名するのはいつも私。
日々の遅刻の罰である。

「ほら文句言ってないで、残り半分貼らないと帰さないわよ?」

「はぁーい…」

私は問題児ではあっても不良になりたいわけじゃなかった。
あれをしなさいと決められるのは癪だが、破ったペナルティくらいは受け入れる事にしている。
以前より先生と喋るようになったのはここ最近だ。
そう言えば、不思議と嫌いだという気持ちは消えていた。

「先生ってさ」

「ん?」

「どうして、いつもそんな格好してるの?」

それはもう嫌味ではなく、純粋に聞いてみたかっただけだ。
(PC)
3 会田
「…聞かない方がいいかもよ?」

「いいじゃん、聞きたい」

男ウケ以外に理由があったのならなおさらだ。
先生は「仕方ないわねぇ」とこぼしながら、次に貼る掲示物をトントンと整理して、

「あなた、お尻叩かれた事ある?」

と聞いてきた。
お尻?
小さい頃、ママにされた覚えがあったようななかったような。
よく考えず「ないです」と答えると、「そうなのね」とあっさりした反応だった。

「簡単に言えば、お尻が叩きやすいように動きやすい格好を選んでるのよ」

「はぁ…」

そう言われてもピンとこなかった。
私のクラスはもう高学年で実感が湧かないというのもあるが、そもそも垣本先生がお尻を叩いている姿など見た事がない。
自分で言うのも馬鹿みたいだが、新クラスになってから一番罰を受けているはずの私が言うのだ。
陰でこっそりなんてタイプの先生でもないだろうし。

「だから、今年はあなたが第一号になるだろうなとは思ってたわよ?」

「…え?」

「そろそろかなぁと思ってたから、お尻叩くの」
(PC)
4 会田
「どういう事…?」

「んん…?だって、こういう作業じゃ懲りないでしょ?」

先生はさも当然のように言う。
わずか2か月で私が何回遅刻したかを考えればそれはそうなのだが。
しかし、はいそうでしたと納得できるわけはない。

「…だ、だからってお尻叩かれるぐらい…」

「…ふふっ、最初はみんなそう言うのよね」

先生はくすくすと笑っていた。
痛いのが嫌なんじゃない、この歳でそれは恥ずかしいから嫌なのだ。
そんな私の心理を全て承知しているかのように「まぁ」と一言前置きをしてから、

「今日から、一度も怒られるような事をしなければ見逃してあげるわよ」

「…無理じゃん」

「そうかしら、…だったら、今する?」

「ゼッタイ嫌だ」

先生は面白がっているだけのようにも見えた。
それでも私に2、3日は大人しくしていようと思わせたのは進歩と言ってもいいのかもしれない。
確実に、先生との距離が近付いているのだ。
私の意思とは全く無縁のところで。
(PC)
5 会田
しかしそんな甘い決意など、長くは続かない。
3日目にして早くも約束を違えた私は、放課後の空き教室に呼び出されてしまった。
3日すらもたないのか私は、と自己嫌悪に陥っているところに、垣本先生が歩いてきた。

「…先生、その子たちは…?」

「あなたと一緒よ、ちょうどいいから連れてきたの」

「え、ええっ…!?」

私よりだいぶ背の低い、うつむいて泣きそうな女の子が2人、先生の後からついてきていた。
正確には連れてこられたのだろうが、私が言いたいのはそこではない。

「一緒って…、まさか私も、この子たちの前で……!?」

「当たり前でしょう?この子たちも見られるんだから、お互い様よ」

「で、でも…っ!!」

どう見ても2年生…は帰っている時間だから、小柄な3年生か、4年生かもしれないが。
年下の子たちに混じってお尻を叩かれる?
ちょっと想像しただけで、私は完全に笑い者じゃないか。

「…そんなに心配しなくても、あなたの思ってるようにはならないと思うけどね」

「え…?」

「恥ずかしいなんて考えてる余裕、ないと思うわよ」
(PC)
6 会田
まずは一番小さな女の子からだった。
2人は同学年か友達同士のように見えたが、どうやら一緒になって何か悪さをしたらしい。
担任でもない垣本先生に連れてこられたという事は、廊下かどこかで捕まったのだろう。
自分でパンツを下げるよう言われた女の子は、涙目で肩をふるわせている。

(うっわー…、あれってもしかして私も脱ぐの?勘弁してよ…)

この時点での私は嫌がってはいたが、怖がってはいなかった。
お尻を叩かれるなんて馬鹿らしい、とさえ思っていたかもしれない。
しかし、すぐに下級生のお尻叩きを見せつけられて考えをあらためる事になる。

「いきますよ、20回ね」

ぴしゃぁん、と教室中に響く大きな音が鳴り、女の子が「嫌ぁっ!?」と悲鳴をあげた。
え…?嘘?あんな小さな子に???
そう思っていると、また何発かぴしゃん、ぴしゃん、ぴしゃんと同じあたりを狙って叩いている。
お尻の表面にくっきりと赤いもみじマークが浮かんだかと思うと、逆側のお尻をまたぴしゃぴしゃと叩く。
後半になるほど手加減はしていたようだが、叩かれた女の子はおそらく気付いていない。
終始泣きながら「ごめんなさい」をくり返し、許された時には小さなお尻は無数の手形だらけだった。

「次、同じだけよ」

一緒にいたもう1人の女の子は、自分がそうされる前から号泣していた。
先生は彼女の強張った体を左腕で無理やりに抱え上げると、横抱きにしてパンツを引き下ろす。
手慣れている先生の前では、いくら抵抗しようと関係ないらしい。

「すぐ終わるんだから、さっさとしなさいね」

そう言ってたしなめた直後、ぴしゃっ!!鋭い1発が女の子のお尻を見舞った。
かなり痛かったのか、脚をバタバタと動かしている。
しかし先生は気にも留めずに2発、3発と続けて小さなお尻を叩いていく。
次第にさっき叩かれた子と同じように、まっ赤な手形が確認できる頃には、その数は11、12…と重なっていた。
20回を叩き終えた先生は足元に下ろしてパンツを上げてやり、最後に私を見た。

「あなたは20回じゃ済まないわね…、どうしようかしら」
(PC)
7 会田
私はひどく緊張していた。
お尻を叩かれるくらい、と恥ずかしさ以外を切り捨てて考えていた私にとって、こんな状況は予想外だった。
まだ後ろでわんわん泣いている2人を慰める余裕などない。

「さて…」

垣本先生が少し口を開いただけで、精神が張り詰めているのがわかる。

「今後のために、今日は100回にする?」

「…意味が、わかりません」

「んん…、あながち冗談でもないよ?叩くなら最高100回までって決めてるんだけどさ、どうせなら最初にきつーく怒られといた方がよくない?今後のためだと思えばいいよ」

それでしなくなるなら安いもんでしょ、と先生。
どうやら本気で言っているようだったが、私にとってはそんな簡単に決めていいような問題じゃない。
年下とはいえ、たった20回叩かれただけでお尻があんな事になっているのを今見たばかりだ。
正直、私も同じ20回で許してもらいたいくらいだった。

「できるわけないでしょ、…この子たちはね、通学ルートを外れて帰ってたの、たったそれだけと思うかもしれないけど、危険な事だから厳しくしただけ」

私の方に視線を戻す。

「あなたは違うでしょう?1度や2度の遅刻はうっかりでも、続けたのはあなたの意思だもの」

つかつかと歩いてきて、匂いが感じられるほど近くで立ち止まった。

「お尻をだしなさい」
(PC)
8 会田
下級生2人はもう泣き止んでいた。
高学年の私が何をされるのだろうと興味深々なのかもしれないが、私にはもうそちらを見る余裕もなかった。

「いくつ、叩くんですか」

「んー…、あなたが決めていいわよ?」

私は、迷った。
そんな事を言う先生の真意を探るとかじゃなく、真剣に悩んで、考えた。
今の私には、どれほどの罰がふさわしいのだろうと。
1分以上も無言だったが、垣本先生はじっと待っていてくれた。

「…決めました」

「ふぅん、いくつ?」

「60回で、お願いします」

それは、今の私に必要であろうと考えたギリギリの数字。

「……意外ね?もっと少ない数を言うだろうと思ってたわ」

「あと…、もし今度やったら、次から100回でいいです」

「…本気?」

私が頷くと「わかった」とだけ言い、先生は後ろにあったキャスター付きの椅子を手前に引いた。
さすがに私の背丈だと、軽々持ち上げるというわけにいかないらしい。
それにしても、だ。

「お腹を乗せて、寝転んでね」

先生が要求したのは、それこそ小さい子供がされるようなお尻叩きの格好だった。
着席した先生の太腿に体を横たえ、露わになったお尻をぴしゃんぴしゃんと叩かれるのだ。
覚悟していても、その姿勢になるのは抵抗があるというのに。

「…どうしたの?自分でしてほしいですって言ったばかりじゃない」

背後には下級生2人の視線を感じるものだから、言われた通りにするだけでも数回の決断が必要だった。
(PC)
9 会田
「いきますよ」

ぴっしゃぁん、と響いた1発目は、自分で思っていたほど堪えていなかった。
しかし2発、3発、4発…と重ねるごとに痛みは増し、10回ほど叩かれる頃にはお尻が左右びりびりと痺れていた。
だんだん手加減しているのがわかった2人の時と大違いである。
もしかしたら60回用の力配分なのかもしれない。

「罰ですからね、簡単には終わらないわよ?」

バシィ!真ん中を強く叩かれた。
お尻の割れ目と十字を切るような叩き方で、あっという間に痛みや熱、痺れが広がっていく。
ビチッ、バチッ、バチッ、と当たり損ないのような音が鳴っているが、これが痛い。
どういう理屈か知らないが、わざとお尻の中まで痛みが入り込んでくるような叩き方をしている。
ただ叩かれているだけでそれは伝わった。

「これで20ね、…そこ2人とも、帰っていいわよ?」

仲良く同じ目に遭ったところで無罪放免という事だろうか、先生は下級生の2人に下校するよう促した。
私はこれからもっとひどい目に遭わされるというのに。
それを気遣ってか、2人が帰り際、申し訳なさそうに頭を下げてきたのが一番つらかった。

「もう誰もいないからね、もし我慢できなかったら泣いていいわよ?」

泣くもんかと憤慨した私が、本当の地獄を知るのはそれからだった。
最初の20回は帰った2人に合わせて、なるべく激しく見えないように叩いていたらしい。
ざっくり言うと、この後はお尻20連発かける2。
インターバルを挟んでもヒィヒィ悶絶していただろう私が、おとなしく耐えられるわけがなかった。

(…こんなの、60回とか、無理……!)

ビシバシと連続で飛んでくるお尻への平手打ち。
私が数えていられたのは、再開して最初の11回かそこらまでだった。

「いい色になったじゃない、…少しは反省できたかな?」

さっきの下級生に日頃接するような態度で、先生が言う。
太腿から下りた私は「ちょっとだけ」と精一杯、強がった後でパンツを引き上げた。
擦れて熱い。
それでも私は泣かなかった。
(PC)
10 会田
「先生ね、少なくともクラス全員分のお尻が叩けるように、動きやすい服を選んでるの」

「クラス、全員……?」

衝撃の事実だった。
動きやすいのとヒラヒラした薄着は違うと思うが、それにしても全員とは。
ちなみにうちのクラスの総人数は26人である。

「担任を持つってね、それくらいの覚悟が必要なの……あ、みんなには内緒にしててね?」

「…言ったら?」

「…100回って約束したばかりでしょう?」

「それも、なんだ…」

先生の事だ、クラスの26人が悪さをしたら、本当に26人全員分のお尻を叩くつもりだろう。
20回でも、60回でも…たぶん100回でも、そのために時間をかける。
そういう人なんだと、私は今日、クラスの誰よりも早く思い知らされたのだから。

「さしあたって大変そうなのは、夏休みよね…宿題忘れが何人いるか、見ものだわ」

「……いいんですか、先生がそんな事言って…」

「いいのよ、その頃にはあなただけじゃなく、何人もここに連れてきているでしょうから」

先生は、私を特別扱いしてくれたのかもしれない。
お尻を叩かれたばかりで痛いはずなのに、不思議と頬が緩んだ。
(PC)
11 ずん
この作品良いな
先生の厳しさすばらしい
(SP)