1 石井聡美
まほやくと聖書
アプリゲーム「魔法使いの約束」の世界は聖書(旧約聖書と新約聖書)の記述と切り離すことはできません。
そこで、改めて聖書の記述の内容を振り返りつつ、まほやくの中にどのように活かされているかを比較するのが当スレッドです。
※個人の理解に基づきます。他人様の信条を侮辱する意図はありません。
※特定の宗教を布教、宣伝、勧誘する意図はありません。
またそのような働きかけがあった場合、私とは一切無関係です。
そのような意図の書き込みはご遠慮願います。
万一トラブルに巻き込まれても責任は負いかねます。
アプリの内容理解を深め、楽しんでもらうのが当スレッドの目的です。
※通常の雑談は、
賢者の書6(お気に入り保存)もしくは7(新情報の更新)へ
ご投稿をお願いします。
解釈や内容の修正、間違いの訂正は歓迎です。
そこで、改めて聖書の記述の内容を振り返りつつ、まほやくの中にどのように活かされているかを比較するのが当スレッドです。
※個人の理解に基づきます。他人様の信条を侮辱する意図はありません。
※特定の宗教を布教、宣伝、勧誘する意図はありません。
またそのような働きかけがあった場合、私とは一切無関係です。
そのような意図の書き込みはご遠慮願います。
万一トラブルに巻き込まれても責任は負いかねます。
アプリの内容理解を深め、楽しんでもらうのが当スレッドの目的です。
※通常の雑談は、
賢者の書6(お気に入り保存)もしくは7(新情報の更新)へ
ご投稿をお願いします。
解釈や内容の修正、間違いの訂正は歓迎です。
16 天動説の絵本抜粋
”夜の空には月がのぼりました。まんまるになったかとおもうと、夜ごとそれはかけていって、しばらくみえなくなることもあります。どうして月は、大きくなったり、小さくなったりするのか。どこからきて、どこへかえるのか、どうしてもわかりませんでした。どこまでもどこまでもあるいてゆくと、海にでるということは、わかっていました。その海の、もっともっとむこうには、なにがあるのでしょうか。そこは、かんがえるだけでもおそろしい地のはてです。海の水はきっと滝のようにながれおちているにちがいないのです”
“神さまのおうちは天国です。そのはんたいの地獄には、悪魔がいます。悪魔はにんげんを手先につかって、悪いことをしようとかんがえます。その悪魔のめしつかいが、魔法使いです。魔法使いはホウキにまたがって空をとび、山のてっぺんにあつまって、悪いそうだんをするのだ。……と信じられておりました。では、だれか、魔法使いがホウキにのって空をとぶのを、みたことがあるでしょうか。だれもみた人はありません。だれもみていないのに、人びとはそう信じていたのです。あるとし、ペストというこわい病気がひろがり、たくさんの人が死にました。「これは悪魔のしわざにちがいない。悪魔でないものが、どうして一度も悪いことをしたことのない人をころせるだろう」と、人びとはおもいました。ペストだけではありません。ムギのそだちがわるいのも、うしが病気で死ぬのも、ながいあいだ雨がふらないのも、「みんな魔法使いのせいだ」「そうだ、魔法使いをつかまえて、ころしてしまおう」とかんがえました。でも、魔法使いはどこにいるのか、いたとしても、魔法使いというしょうこはどこかにあるのでしょうか。(中略)「魔法使いは、しょうこなんかのこすはずがない。しょうこがないのが、なによりのしょうこだ」……。魔法使いでもなんでもない人に、魔法使いだといううたがいがかけられました。まだ、けんびきょうのないむかしのことです。ですから、ペストがペスト菌という目にみえない細菌のせいであることを、だれもしらなかったのです。ペストもこわいし、魔法使いも悪魔もこわい。せかいはこわいものばかりでしたが、なかでもこわいのは、死ぬことでした。死神は王さまよりも、だれよりも強いからです。だから、としをとらず、いつまでもいきていることのできるくすりはないものかと、木のかわや、くさの根を、ほしたり、まぜたりして、いっしょうけんめいにくすりをつくろうとしました。きっとそのくすりは、どこかにある。たかい山の上か、ふかい海の底か、とおいとおい国のどこかに、そのくすりはある。ひょっとすると、魔法使いがそれをしっているかもしれないと、人びとはおもっていました”
“ーなんでも金にかえたいという夢にとりつかれた人たちがいたのです。それは錬金術師とよばれる人たちでした。錬金術師は、まず、鉄と水銀を、るつぼというなべにいれてとかしてみました。でも、金にはなりませんでした。では、べつのものをまぜてみよう、と。この人たちは、あけてもくれても、おまじないをつぶやきながら、なべのなかにいろんなものをなげこんで、にてみました。いったいなんびゃくにんの錬金術師たちが、どれほどたくさんのものをまぜてみたでしょう。でも、だれにも金をつくることはできませんでした”
“船のりたちのあいだには「地めんはまるいらしい」といううわさがありました。海のむこうからやってくる船が、はじめは帆からみえてくる、もし海がたいらだったら、はじめからぜんぶみえるはずだ、というのです。ぼうけんずきの船のりたちのなかには、海岸づたいにずいぶんとおくまでいったものもありました。だから、とおくのとおくの、ずっととおくにも、にんげんがすんでいるし、みたこともきいたこともない、めずらしいことは、いくらでもある、と信じることができました。船のりたちは、やねのかわらが金でできている国があってもふしぎではないとおもったのです”
“神さまのおうちは天国です。そのはんたいの地獄には、悪魔がいます。悪魔はにんげんを手先につかって、悪いことをしようとかんがえます。その悪魔のめしつかいが、魔法使いです。魔法使いはホウキにまたがって空をとび、山のてっぺんにあつまって、悪いそうだんをするのだ。……と信じられておりました。では、だれか、魔法使いがホウキにのって空をとぶのを、みたことがあるでしょうか。だれもみた人はありません。だれもみていないのに、人びとはそう信じていたのです。あるとし、ペストというこわい病気がひろがり、たくさんの人が死にました。「これは悪魔のしわざにちがいない。悪魔でないものが、どうして一度も悪いことをしたことのない人をころせるだろう」と、人びとはおもいました。ペストだけではありません。ムギのそだちがわるいのも、うしが病気で死ぬのも、ながいあいだ雨がふらないのも、「みんな魔法使いのせいだ」「そうだ、魔法使いをつかまえて、ころしてしまおう」とかんがえました。でも、魔法使いはどこにいるのか、いたとしても、魔法使いというしょうこはどこかにあるのでしょうか。(中略)「魔法使いは、しょうこなんかのこすはずがない。しょうこがないのが、なによりのしょうこだ」……。魔法使いでもなんでもない人に、魔法使いだといううたがいがかけられました。まだ、けんびきょうのないむかしのことです。ですから、ペストがペスト菌という目にみえない細菌のせいであることを、だれもしらなかったのです。ペストもこわいし、魔法使いも悪魔もこわい。せかいはこわいものばかりでしたが、なかでもこわいのは、死ぬことでした。死神は王さまよりも、だれよりも強いからです。だから、としをとらず、いつまでもいきていることのできるくすりはないものかと、木のかわや、くさの根を、ほしたり、まぜたりして、いっしょうけんめいにくすりをつくろうとしました。きっとそのくすりは、どこかにある。たかい山の上か、ふかい海の底か、とおいとおい国のどこかに、そのくすりはある。ひょっとすると、魔法使いがそれをしっているかもしれないと、人びとはおもっていました”
“ーなんでも金にかえたいという夢にとりつかれた人たちがいたのです。それは錬金術師とよばれる人たちでした。錬金術師は、まず、鉄と水銀を、るつぼというなべにいれてとかしてみました。でも、金にはなりませんでした。では、べつのものをまぜてみよう、と。この人たちは、あけてもくれても、おまじないをつぶやきながら、なべのなかにいろんなものをなげこんで、にてみました。いったいなんびゃくにんの錬金術師たちが、どれほどたくさんのものをまぜてみたでしょう。でも、だれにも金をつくることはできませんでした”
“船のりたちのあいだには「地めんはまるいらしい」といううわさがありました。海のむこうからやってくる船が、はじめは帆からみえてくる、もし海がたいらだったら、はじめからぜんぶみえるはずだ、というのです。ぼうけんずきの船のりたちのなかには、海岸づたいにずいぶんとおくまでいったものもありました。だから、とおくのとおくの、ずっととおくにも、にんげんがすんでいるし、みたこともきいたこともない、めずらしいことは、いくらでもある、と信じることができました。船のりたちは、やねのかわらが金でできている国があってもふしぎではないとおもったのです”
15 天動説と地動説
現在、天動説が主流の世の中で密かに禁忌とされる地動説を研究しようとする人々を描いた「チ」というアニメが再放送され、話題を呼んでいます。万博の展示「ファルネーゼのアトラス」でアトラスが地球を担ぐ姿に見られるように古代から理論の上では「地球が丸い」ということは分かっていました。アリストテレスは既に月食の時の月に見える丸い黒い影は地球の影だと説明していました。また地球の南と北では見える星が違うことも指摘したそうです。エラトステネスは地球が球体であるという前提のもと、アレクサンドリアの太陽高度、アレクサンドリアとシエネの距離(シエネはアレクサンドリアの真南にあると想定)から地球の大きさ(全周)を割り出しました。ところが人々の意識の上では実感としてその事実、まして回っているのが地球の方であるという事実は受け入れがたいものでした。ダンテも天道説的見方で世界を捉えて「神曲」を書いています。(※天動説的立場でも地球が丸いという前提は必要)安野光雅氏は「天動説の絵本」という絵本の中で、天動説的な世の中の見方から科学の進展や航海術の発展に伴い、地動説にのっとった見方へとパラダイム転換が起きて人々に衝撃を与えていく様を描いています。科学的事実が受け入れられずに間違った認識のもとで、コペルニクスが提唱した地動説を広めようとした修道僧、ブルーノは火刑に処され、ガリレオは宗教裁判にかけられて説を撤回することを求められるなどの犠牲を払うことになったのです。その後、ニュートンは万有引力の法則を発表。フーコーは巨大な振り子実験により、地球が1日で1回自転することを示しました。ローマ教皇庁(当時はベネディクト16世法王)によってようやく地動説が正式に承認されたのは2008年のことでした。
14 サロメとまほやく
このようにヨカナーンをはねつけるエロディアスの態度は偽リリアーナの態度と重なるところがあります。ヨカナーンにあたる存在がムルと考えられます。そのヨカナーンの声を聴き、姿を初めて目にした時の印象をサロメは以下のように言っています。最初の部分はまさに1.5部と重なり、後方支援としてネロとともに最後までバジリスクと戦っていたのはムルとシャイロックでした。
ヨカナーンの声
パレスチナの國よ、おのれを打ちし者の鞭折れたりとてよろこぶな。見よ、やがて蛇の卵より怪蛇バジリスクが孵り、それは育ての親鳥を貪り食ふであらう。
サロメ
なんて不思議な声だらう!あたしはあの男と話がしてみたくなつた。
第一の兵士
おそらくはかなわぬことでございませう、王女さま。王さまは、誰にせよ、あの男と話をさせたくないのでございます。祭司の長にさへお許しにならなかつたほどで。
サロメ
あたしはあの男と話がしたい。
第一の兵士
かなはぬことでございます、王女さま。
サロメ
私はさうしたいのだよ。
若きシリア人
いづれにもせよ、宴の席にお戻りになるにしくはございませぬ。
サロメ
あの予言者をつれておいで。(福田,p.26)
サロメ
あの眼が、わけても恐ろしい。それは、どう見ても、ティロスの壁掛を松明で焼き貫いた黒い穴。それはまた龍の棲む暗い洞窟、龍がそこに巣をつくるといふエジプトの暗い洞窟のやう。どう見ても、気まぐれな月に掻き乱された暗い湖としか……あの男、まだ話すとお思ひかい?
若きシリア人
どうぞおひきを、王女さま!お願いでございます、おひきあげを。
サロメ
なんて痩せてゐるのだらう!ほつそりした象牙の人形みたい。まるで銀の像のやう。きつと純潔なのだよ、月のやうに。その銀の光の矢さながら。あの男の肉は、きつと冷たいにちがひない。象牙のやうに……あたしはあの男をもつと近くで見たい。
若きシリア人
いえ、なりませぬ、王女さま!
サロメ
あたしはあの男をもつと近くで見なければならない。
若きシリア人
王女さま!王女さま!
ヨカナーン
この女は何者だ、おれを見てゐるのは?見てはならぬ。隈どれる目蓋の下から金色の眼もて、なにゆゑおれを見つめるのか?何者か知らぬ。知りたいとも思はぬ。連れて行け。この女ではない、おれの話したいのは。
サロメ
あたしはサロメだよ、エロディアスの娘、ユダヤの王女。
ヨカナーン
退れ!バビロンの娘!主に選ばれし者に近づいてはならぬ。お前の母は、その罪業の酒をもつて地を浸したのだ、その悪名は神の耳にも届いてゐる。
サロメ
続けておくれ、ヨカナーン。お前の声は、あたしを酔わせる。
若きシリア人
王女さま!王女さま!王女さま!
サロメ
いいから、続けておくれ。続けておくれ、ヨカナーン。そして教へておくれ、あたしはどうしたらいいのか。
ヨカナーン
近寄るな、ソドムの娘、その顔をヴェイルにて覆ひ、頭に灰をふりかけ、行きて砂漠に人の子を求めるがいい。
サロメ
誰のことだい、人の子といふのは?その男もお前のやうにきれいなのかい、ヨカナーン?
(中略)
ヨカナーン!あたしはお前の肌がほしくてたまらない。その肌の白いこと、一度も刈られたことのない野に咲き誇る百合のやう。山に降り強いた雪のやう、ユダヤの山々に降り積もり、やがてその谷間におりてくる雪のやう。アラビアの女王の庭に咲く薔薇だつて、(香料をとる草花の咲き匂ふアラビアの女王の庭だつて、)曙の樹々の葉に落ちる日脚だつて、大海原に抱かれた月の胸だつて……お前の肌ほど白いものはどこにもありはしないーさあお前の肌に触らせておくれ!
ヨカナーン
退れ、バビロンの娘!女こそ、この世に悪をもたらすもの。話しかけてはならぬ。聴きたくない。おれが耳をかたむけるのは、ただ神の御声のみだ。(福田,pp32-36)
この場面が先ほどの髪くだりから始まる箇所につながります。
ヨカナーンの声
パレスチナの國よ、おのれを打ちし者の鞭折れたりとてよろこぶな。見よ、やがて蛇の卵より怪蛇バジリスクが孵り、それは育ての親鳥を貪り食ふであらう。
サロメ
なんて不思議な声だらう!あたしはあの男と話がしてみたくなつた。
第一の兵士
おそらくはかなわぬことでございませう、王女さま。王さまは、誰にせよ、あの男と話をさせたくないのでございます。祭司の長にさへお許しにならなかつたほどで。
サロメ
あたしはあの男と話がしたい。
第一の兵士
かなはぬことでございます、王女さま。
サロメ
私はさうしたいのだよ。
若きシリア人
いづれにもせよ、宴の席にお戻りになるにしくはございませぬ。
サロメ
あの予言者をつれておいで。(福田,p.26)
サロメ
あの眼が、わけても恐ろしい。それは、どう見ても、ティロスの壁掛を松明で焼き貫いた黒い穴。それはまた龍の棲む暗い洞窟、龍がそこに巣をつくるといふエジプトの暗い洞窟のやう。どう見ても、気まぐれな月に掻き乱された暗い湖としか……あの男、まだ話すとお思ひかい?
若きシリア人
どうぞおひきを、王女さま!お願いでございます、おひきあげを。
サロメ
なんて痩せてゐるのだらう!ほつそりした象牙の人形みたい。まるで銀の像のやう。きつと純潔なのだよ、月のやうに。その銀の光の矢さながら。あの男の肉は、きつと冷たいにちがひない。象牙のやうに……あたしはあの男をもつと近くで見たい。
若きシリア人
いえ、なりませぬ、王女さま!
サロメ
あたしはあの男をもつと近くで見なければならない。
若きシリア人
王女さま!王女さま!
ヨカナーン
この女は何者だ、おれを見てゐるのは?見てはならぬ。隈どれる目蓋の下から金色の眼もて、なにゆゑおれを見つめるのか?何者か知らぬ。知りたいとも思はぬ。連れて行け。この女ではない、おれの話したいのは。
サロメ
あたしはサロメだよ、エロディアスの娘、ユダヤの王女。
ヨカナーン
退れ!バビロンの娘!主に選ばれし者に近づいてはならぬ。お前の母は、その罪業の酒をもつて地を浸したのだ、その悪名は神の耳にも届いてゐる。
サロメ
続けておくれ、ヨカナーン。お前の声は、あたしを酔わせる。
若きシリア人
王女さま!王女さま!王女さま!
サロメ
いいから、続けておくれ。続けておくれ、ヨカナーン。そして教へておくれ、あたしはどうしたらいいのか。
ヨカナーン
近寄るな、ソドムの娘、その顔をヴェイルにて覆ひ、頭に灰をふりかけ、行きて砂漠に人の子を求めるがいい。
サロメ
誰のことだい、人の子といふのは?その男もお前のやうにきれいなのかい、ヨカナーン?
(中略)
ヨカナーン!あたしはお前の肌がほしくてたまらない。その肌の白いこと、一度も刈られたことのない野に咲き誇る百合のやう。山に降り強いた雪のやう、ユダヤの山々に降り積もり、やがてその谷間におりてくる雪のやう。アラビアの女王の庭に咲く薔薇だつて、(香料をとる草花の咲き匂ふアラビアの女王の庭だつて、)曙の樹々の葉に落ちる日脚だつて、大海原に抱かれた月の胸だつて……お前の肌ほど白いものはどこにもありはしないーさあお前の肌に触らせておくれ!
ヨカナーン
退れ、バビロンの娘!女こそ、この世に悪をもたらすもの。話しかけてはならぬ。聴きたくない。おれが耳をかたむけるのは、ただ神の御声のみだ。(福田,pp32-36)
この場面が先ほどの髪くだりから始まる箇所につながります。
13 サロメとまほやく
ヨカナーンの声
ああ!淫婦!春をひさぐもの!ああ!隅どれる目蓋に金色の眼をもてるバビロンの娘!聴け、主なる神はかく言ひたまふ。人をしてその女のもとに集まらしめよ。かくして、おのおの石を手にし、女に向かひて投げつけしめよ……
エロディアス
あの男を黙らせて!
ヨカナーンの声
隊長たちをして、その剣もて女を刺し、楯もて押し殺さしめよ。
エロディアス
あれこそ、聞きずてにできませぬ。
ヨカナーンの声
さうして始めて、おれは罪といふ罪をこの地上より拭ひさることが出来よう、世の女たちも、その女の邪淫をならはずにすませるであらう。
エロディアス
お聞きになりましたか、みな私へのあてつけではございませぬか?自分の妻が辱められるのを、そのままお聞きずてになさるおつもりでございますか?
エロド
だが、お前の名を口にしたわけではない。
エロディアス
どう違ひます?よくごぞんじのはず、あの男は私を辱めたいのでございます。でも、私はあなたの妃、さうではございませぬか?
エロド
いかにも、わが気高きエロディアス、お前はおれの妃だ、そしてかつては兄の妃であった。
エロディアス
その人の腕から、あなたは、私をお奪ひになつた。
エロド
そのとほおりだ、おれのほうが強かつたからな……が、そんな話はやめにしよう。おれは話したくないのだ。あの予言者の身の毛もよだつ恐ろしい言葉も、もとはといへば、そこにある。あるひは、そのために禍が起こるかもしれない。が、もうその話はやめにしよう……(福田,pp60-62)
(中略)
エロド
お前には解らぬとみえる、お前の娘はたいそう蒼い顔をしてゐるぞ。
エロディアス
それがあなたになんの関わりがございます、あれが蒼い顔をしてゐようとゐまいと?
エロド
だが、あれほど蒼い顔をしてゐるのを、おれはつひぞ見たことがない。
エロディアス
あれをごらんになつてはなりませぬ。
ヨカナーンの声
その日、日は黒布のごとく翳り、月は血のごとく染り、空の星は無花果の実の、いまだ熟れざるに枝より落つるがごとく地に落ちかかり、地上の王たちはそのさまを見て恐れをののくであらう。
エロディアス
ああ!ああ!それなら、私も見とうございます、月は血のごとく染り、空の星は無花果の実の、いまだ熟れざるに枝より落つるがごとく落ちてくる、早くその日になればいい。でも、あの予言者の口のききやうときたらまるで酔ひどれ……本当に、あの声には我慢ができない。あの声だけはいやでございます。黙るやうにお命じくださいまし。
エロド
それは出来ぬ。なにを言つているのかおれには解らぬが、それにしても何かの前触れかもしれぬ。
エロディアス
前触れなどといふものを私は信じませぬ。あの口のききやうときては、まるで酔ひどれ。
エロド
おそらく神の酒に酔うたのであらう!
エロディアス
どんな酒でございませう、その神の酒といふのは?どこの葡萄で造るのでございます?どんな酒槽にはいつてゐるのでございます?(福田,pp62−64)
ああ!淫婦!春をひさぐもの!ああ!隅どれる目蓋に金色の眼をもてるバビロンの娘!聴け、主なる神はかく言ひたまふ。人をしてその女のもとに集まらしめよ。かくして、おのおの石を手にし、女に向かひて投げつけしめよ……
エロディアス
あの男を黙らせて!
ヨカナーンの声
隊長たちをして、その剣もて女を刺し、楯もて押し殺さしめよ。
エロディアス
あれこそ、聞きずてにできませぬ。
ヨカナーンの声
さうして始めて、おれは罪といふ罪をこの地上より拭ひさることが出来よう、世の女たちも、その女の邪淫をならはずにすませるであらう。
エロディアス
お聞きになりましたか、みな私へのあてつけではございませぬか?自分の妻が辱められるのを、そのままお聞きずてになさるおつもりでございますか?
エロド
だが、お前の名を口にしたわけではない。
エロディアス
どう違ひます?よくごぞんじのはず、あの男は私を辱めたいのでございます。でも、私はあなたの妃、さうではございませぬか?
エロド
いかにも、わが気高きエロディアス、お前はおれの妃だ、そしてかつては兄の妃であった。
エロディアス
その人の腕から、あなたは、私をお奪ひになつた。
エロド
そのとほおりだ、おれのほうが強かつたからな……が、そんな話はやめにしよう。おれは話したくないのだ。あの予言者の身の毛もよだつ恐ろしい言葉も、もとはといへば、そこにある。あるひは、そのために禍が起こるかもしれない。が、もうその話はやめにしよう……(福田,pp60-62)
(中略)
エロド
お前には解らぬとみえる、お前の娘はたいそう蒼い顔をしてゐるぞ。
エロディアス
それがあなたになんの関わりがございます、あれが蒼い顔をしてゐようとゐまいと?
エロド
だが、あれほど蒼い顔をしてゐるのを、おれはつひぞ見たことがない。
エロディアス
あれをごらんになつてはなりませぬ。
ヨカナーンの声
その日、日は黒布のごとく翳り、月は血のごとく染り、空の星は無花果の実の、いまだ熟れざるに枝より落つるがごとく地に落ちかかり、地上の王たちはそのさまを見て恐れをののくであらう。
エロディアス
ああ!ああ!それなら、私も見とうございます、月は血のごとく染り、空の星は無花果の実の、いまだ熟れざるに枝より落つるがごとく落ちてくる、早くその日になればいい。でも、あの予言者の口のききやうときたらまるで酔ひどれ……本当に、あの声には我慢ができない。あの声だけはいやでございます。黙るやうにお命じくださいまし。
エロド
それは出来ぬ。なにを言つているのかおれには解らぬが、それにしても何かの前触れかもしれぬ。
エロディアス
前触れなどといふものを私は信じませぬ。あの口のききやうときては、まるで酔ひどれ。
エロド
おそらく神の酒に酔うたのであらう!
エロディアス
どんな酒でございませう、その神の酒といふのは?どこの葡萄で造るのでございます?どんな酒槽にはいつてゐるのでございます?(福田,pp62−64)
12 サロメとまほやく
ヨカナーンの声
見よ、時は来たのだ!おれが預言しておいたことが、つひに起こつた。主なる神がさういはれる。見るがいい、つひにその日は来たのだ、おれが語りおいたその日が。
エロディアス
あれを黙らせて。あの声を聞きたうはありませぬ。あの男は、ことごとに私にあてつけて、罵詈雑言の数々を吐きちらすばかり。
エロド
なにもお前にあてつけてなどゐはせぬ。それに、あの男は偉大な預言者なのだ。
エロディアス
予言者など、私は信じませぬ。いまだ来ぬ日のことが誰にわかりませう?誰にもわかりはしませぬ。それに、あの男はことごとに私を悪しざまにののしるばかり。でも、どうやらあなたはあの男のことを恐れておいでらしい……とにかく、私にはよくわかります。あなたがあの男を恐れておいでのことが。
エロド
おれはあの男を恐れてなどをらぬ。おれは誰も恐れはせぬぞ。
エロディアス
いいえ、あなたは恐れていらっしゃる。もしあの男を恐れておいででなければ、なぜユダヤ人にお渡しになりませぬ、この半年といふもの、うるさう引き渡しをせがまれておいでなのに?
第一のユダヤ人
そのとほりにございます、王さま、私どもにお引き渡しくださるに越したことはございませぬ。
エロド
その話はもうたくさんだ。おれはとうに答へてゐる。おれはお前らにあの男を手渡したくないのだ。あれは聖者だ、神を見た男なのだ。
第一のユダヤ人
いいえ。ありえぬことでございます。かの預言者エリアこのかた、神を見たものはひとりもありませぬ。エリアこそ、神を見た最後のもの。それに、今の世に神はもうお姿をお現しなどなさいませぬ。神は隠れておいでなのです。おかげでこの國にも大きな禍が生じるやうになつてしまうたのでございます。(福田,pp52-53)
(中略)
エロディアス
あの連中を黙らせて。本当にうんざりいたします。
エロド
だが、ヨカナーンこそ、その預言者エリアだといふ話を聞いたぞ。
第一のユダヤ人
そんなはずはありませぬ。エリアの時代といへば、三百年以上も昔のことでございます。
エロド
あの男が、その預言者エリアだといふ者もゐるぞ。
ナザレ人
いや、たしかに、あの男こそ預言者エリアでございます。
第一のユダヤ人
いや、違ふ、あの男は預言者エリアではない。
ヨカナーンの声
つひにその日は来た。王の来たりたまふ日が来たのだ。おれにはきこえる、世の救ひ主となる者の歩みが山々にひびきわたるのが。
エロド
なんのことだ、今のは?あの救い主といふのは?
ティゲリヌス
ローマ皇帝がお用ゐになる称号にございます。
エロド
しかし皇帝がユダヤに来られるわけがない。(中略)
第一のナザレ人
違ひます、あの預言者が申しましたのはローマ皇帝のことではありませぬ、王さま。
エロド
ローマ皇帝のことではない?
第一のナザレ人
さうではございませぬ、王さま。
エロド
では誰のことだ、あれの言ふのは?
第一のナザレ人
この世に来たりたまうたメシアのことで。
第一のユダヤ人
まだメシアは来るものか。
第一のナザレ人
すでに来たりたまうたのだ、現に至るところで奇跡を行うてゐる。
エロディアス
ああ!ああ!奇蹟ですつて!奇蹟など私は信じない。嫌というほど見せつけられてきたのだもの。
(福田,pp54−57)
見よ、時は来たのだ!おれが預言しておいたことが、つひに起こつた。主なる神がさういはれる。見るがいい、つひにその日は来たのだ、おれが語りおいたその日が。
エロディアス
あれを黙らせて。あの声を聞きたうはありませぬ。あの男は、ことごとに私にあてつけて、罵詈雑言の数々を吐きちらすばかり。
エロド
なにもお前にあてつけてなどゐはせぬ。それに、あの男は偉大な預言者なのだ。
エロディアス
予言者など、私は信じませぬ。いまだ来ぬ日のことが誰にわかりませう?誰にもわかりはしませぬ。それに、あの男はことごとに私を悪しざまにののしるばかり。でも、どうやらあなたはあの男のことを恐れておいでらしい……とにかく、私にはよくわかります。あなたがあの男を恐れておいでのことが。
エロド
おれはあの男を恐れてなどをらぬ。おれは誰も恐れはせぬぞ。
エロディアス
いいえ、あなたは恐れていらっしゃる。もしあの男を恐れておいででなければ、なぜユダヤ人にお渡しになりませぬ、この半年といふもの、うるさう引き渡しをせがまれておいでなのに?
第一のユダヤ人
そのとほりにございます、王さま、私どもにお引き渡しくださるに越したことはございませぬ。
エロド
その話はもうたくさんだ。おれはとうに答へてゐる。おれはお前らにあの男を手渡したくないのだ。あれは聖者だ、神を見た男なのだ。
第一のユダヤ人
いいえ。ありえぬことでございます。かの預言者エリアこのかた、神を見たものはひとりもありませぬ。エリアこそ、神を見た最後のもの。それに、今の世に神はもうお姿をお現しなどなさいませぬ。神は隠れておいでなのです。おかげでこの國にも大きな禍が生じるやうになつてしまうたのでございます。(福田,pp52-53)
(中略)
エロディアス
あの連中を黙らせて。本当にうんざりいたします。
エロド
だが、ヨカナーンこそ、その預言者エリアだといふ話を聞いたぞ。
第一のユダヤ人
そんなはずはありませぬ。エリアの時代といへば、三百年以上も昔のことでございます。
エロド
あの男が、その預言者エリアだといふ者もゐるぞ。
ナザレ人
いや、たしかに、あの男こそ預言者エリアでございます。
第一のユダヤ人
いや、違ふ、あの男は預言者エリアではない。
ヨカナーンの声
つひにその日は来た。王の来たりたまふ日が来たのだ。おれにはきこえる、世の救ひ主となる者の歩みが山々にひびきわたるのが。
エロド
なんのことだ、今のは?あの救い主といふのは?
ティゲリヌス
ローマ皇帝がお用ゐになる称号にございます。
エロド
しかし皇帝がユダヤに来られるわけがない。(中略)
第一のナザレ人
違ひます、あの預言者が申しましたのはローマ皇帝のことではありませぬ、王さま。
エロド
ローマ皇帝のことではない?
第一のナザレ人
さうではございませぬ、王さま。
エロド
では誰のことだ、あれの言ふのは?
第一のナザレ人
この世に来たりたまうたメシアのことで。
第一のユダヤ人
まだメシアは来るものか。
第一のナザレ人
すでに来たりたまうたのだ、現に至るところで奇跡を行うてゐる。
エロディアス
ああ!ああ!奇蹟ですつて!奇蹟など私は信じない。嫌というほど見せつけられてきたのだもの。
(福田,pp54−57)
11 サロメとまほやく
サロメには次のような台詞があります。立場は逆転していますが、記述からしてシャイロックに重なるように思います。
(以下は岩波書店版,1959年,福田訳pp37-38)
サロメ
お前の肌はいやらしい。レブラの肌のやう。蝮の這った泥の壁、蝎が巣をつくった泥の壁。それは白く塗った壁。なかは汚いもので一杯。気味の悪い、気味が悪いよ、お前の肌は!……その髪の毛なのだよ、あたしがほしくてたまらないのは、ヨカナーン。お前の髪は葡萄の房、エドムの國のエドムの園に実った葡萄の房。それはレバノンの杉、獅子を隠し、世をはばかる当人たちをかくまふあのレバノンの大きな杉林。長い黒い夜だつて、月が面を隠し、星も恐れる夜だつて、そんなに黒くはない。森によどむ沈黙の影も、そんなに黒くはない。どこにもありはしない、お前の髪ほど黒いものなんて……さあ、お前の髪に触らせておくれ。
ヨカナーン
退れ、ソドムの娘!おれに手を触れてはならぬ。この神の宮居をけがすな。
サロメ
お前の髪の毛は気味がわるい。泥や埃にまみれてゐる。どう見ても、その額においた茨の冠。どう見ても、その首に巻きついた黒い蛇。あたしはお前の髪の毛が嫌ひ……その唇なのだよ、あたしがほしくてたまらないのは、ヨカナーン。お前の唇は象牙の塔に施した緋色の縞。象牙の刃を入れた柘榴の実。ティロスの庭に咲く、薔薇より赤い柘榴の花も、お前の唇ほど赤くはない。王のお著きを知らせたり、敵の肝を冷やしたりする。あの血なまぐさいラッパの一吹きも、そんなに赤くありはしない。お前の唇はもつと赤い。踏みつぶす葡萄の汁に濡れ輝く酒造り娘の足よりも。もつと赤いよ、祭司の撒いた餌を拾ひながら神殿に遊ぶ鳩の足よりも。もつと赤いのだよ、獅子を殺し、金色に輝く虎の群に会つて、その森から出てきた男の足よりも。お前の唇は、海のたそがれに漁師が見つけて、王様のために取り除けておく、あの珊瑚のやう……!モアブ人たちがモアブの鉱山で掘り出し、王様がお買いあげになる朱のやうだよ。朱を塗り珊瑚の弓筈をつけたペルシア王の弓のやう。どこにもありはしない、お前の唇ほど赤いものなんて……さあ、お前の口に口づけさせておくれ。
ヨカナーン
触るな!バビロンの娘!ソドムの娘!触つてはならぬ。
サロメ
私はお前の唇に口づけするよ、ヨカナーン。あたしはお前に口づけする。
(以下は岩波書店版,1959年,福田訳pp37-38)
サロメ
お前の肌はいやらしい。レブラの肌のやう。蝮の這った泥の壁、蝎が巣をつくった泥の壁。それは白く塗った壁。なかは汚いもので一杯。気味の悪い、気味が悪いよ、お前の肌は!……その髪の毛なのだよ、あたしがほしくてたまらないのは、ヨカナーン。お前の髪は葡萄の房、エドムの國のエドムの園に実った葡萄の房。それはレバノンの杉、獅子を隠し、世をはばかる当人たちをかくまふあのレバノンの大きな杉林。長い黒い夜だつて、月が面を隠し、星も恐れる夜だつて、そんなに黒くはない。森によどむ沈黙の影も、そんなに黒くはない。どこにもありはしない、お前の髪ほど黒いものなんて……さあ、お前の髪に触らせておくれ。
ヨカナーン
退れ、ソドムの娘!おれに手を触れてはならぬ。この神の宮居をけがすな。
サロメ
お前の髪の毛は気味がわるい。泥や埃にまみれてゐる。どう見ても、その額においた茨の冠。どう見ても、その首に巻きついた黒い蛇。あたしはお前の髪の毛が嫌ひ……その唇なのだよ、あたしがほしくてたまらないのは、ヨカナーン。お前の唇は象牙の塔に施した緋色の縞。象牙の刃を入れた柘榴の実。ティロスの庭に咲く、薔薇より赤い柘榴の花も、お前の唇ほど赤くはない。王のお著きを知らせたり、敵の肝を冷やしたりする。あの血なまぐさいラッパの一吹きも、そんなに赤くありはしない。お前の唇はもつと赤い。踏みつぶす葡萄の汁に濡れ輝く酒造り娘の足よりも。もつと赤いよ、祭司の撒いた餌を拾ひながら神殿に遊ぶ鳩の足よりも。もつと赤いのだよ、獅子を殺し、金色に輝く虎の群に会つて、その森から出てきた男の足よりも。お前の唇は、海のたそがれに漁師が見つけて、王様のために取り除けておく、あの珊瑚のやう……!モアブ人たちがモアブの鉱山で掘り出し、王様がお買いあげになる朱のやうだよ。朱を塗り珊瑚の弓筈をつけたペルシア王の弓のやう。どこにもありはしない、お前の唇ほど赤いものなんて……さあ、お前の口に口づけさせておくれ。
ヨカナーン
触るな!バビロンの娘!ソドムの娘!触つてはならぬ。
サロメ
私はお前の唇に口づけするよ、ヨカナーン。あたしはお前に口づけする。
10 サロメとまほやく
オスカーワイルド作の「サロメ」を読了。(以下閲覧注意)
サロメは※ヘロデの娘で新約聖書(マルコの福音書第6章17節から20節)に登場します。サロメは近親相姦で生まれた娘でした。王妃である母親※ヘロディアは亡くなったピリポの弟(ヘロデ)と再婚したのです。このことで予言者ヨカナーンがヘロデを激しく糾弾し、ヘロディアはヨカナーンを毛嫌いしていました。(聖書ではヘロデも出来ればヨカナーンを処刑したかったのですが、彼が聖人であるためにためらわれたのです)ある日、ヘロデは誕生日の宴会の場でサロメにその御前で舞うように請います。サロメが妖艶に舞って見せた後、見返りとして求めたのはヨカナーンの首でした。王はなかなか聞き入れませんでしたがサロメが折れないため、結局、ヨカナーンは首を切られてしまうのです。
※岩波文庫の福田訳ではそれぞれエロド、エロディアスと表記。
まほやくの2部では、リリアーナに化けたザラがコルテーゼ家を訪れたムルを嫌って遠ざけようとする描写があります。また4周年ではシャイロックが自らが原因で沈むことになったアダムス島の海底遺跡へとバルタザールにより連れ去られてしまいます。バルタザールは首だけが残り、魂の器としての肉体を求めてレノックスに標的を定め、シャイロックに復讐しようとします。当然シャイロックは頑なにバルタザールの要求を拒み続けます。
サロメは※ヘロデの娘で新約聖書(マルコの福音書第6章17節から20節)に登場します。サロメは近親相姦で生まれた娘でした。王妃である母親※ヘロディアは亡くなったピリポの弟(ヘロデ)と再婚したのです。このことで予言者ヨカナーンがヘロデを激しく糾弾し、ヘロディアはヨカナーンを毛嫌いしていました。(聖書ではヘロデも出来ればヨカナーンを処刑したかったのですが、彼が聖人であるためにためらわれたのです)ある日、ヘロデは誕生日の宴会の場でサロメにその御前で舞うように請います。サロメが妖艶に舞って見せた後、見返りとして求めたのはヨカナーンの首でした。王はなかなか聞き入れませんでしたがサロメが折れないため、結局、ヨカナーンは首を切られてしまうのです。
※岩波文庫の福田訳ではそれぞれエロド、エロディアスと表記。
まほやくの2部では、リリアーナに化けたザラがコルテーゼ家を訪れたムルを嫌って遠ざけようとする描写があります。また4周年ではシャイロックが自らが原因で沈むことになったアダムス島の海底遺跡へとバルタザールにより連れ去られてしまいます。バルタザールは首だけが残り、魂の器としての肉体を求めてレノックスに標的を定め、シャイロックに復讐しようとします。当然シャイロックは頑なにバルタザールの要求を拒み続けます。
9 教皇選挙(コンクラーベ)
まほやくとは直接関係ありません。いわば特別編。
教皇選挙とはカトリック教会の最高位、教皇の座が空いたときに枢機卿の投票によって次の教皇を選ぶ選挙のこと。全体の3分の2の票を獲得する者が現れるまで選挙は行われ、投票結果は煙の色で示されます。規定数に達する者がいない時は黒、該当者が現れた時は白い煙がたちのぼります。
文字通りこのタイトルが冠された映画を観ました。かなり重厚。
教皇が病のために亡くなり、その席が空位に。急遽、教皇選挙を取り仕切ることになった主席枢機卿ローレンスの目を通して、作品内に散りばめられた幾つかのテーマが浮かび上がります。
@問われる信仰
実はローレンスは主席枢機卿の座を降りようとしていました。それはいわば彼の信仰に対する揺らぎや苦悩を示していました。彼自身は長年の友人で次席枢機卿のベリーニを推そうとしますが、なかなか票が集まりません。
A問われる教義(多様性)
現在、イスラム教を中心に他宗教とも対話を重ねるなど実際の教皇もリベラルな思想の持ち主です。一方で上記の他にも民族性や同性愛を認めるかなどについて保守的な思想をもつ、映画でいうテデスコのような者も枢機卿の中にはいます。さらに、映画では極秘裏に枢機卿に選ばれたというベニテスがカブールからやってきて、神の良心ともいうべき立場からローレンスを推しつづけます。
B影なる存在
この映画では修道女(シスター)の存在も重要です。カトリックの聖職者は結婚をしません。特に女性はその役割を非常に限定されていますが、枢機卿たちの食事の準備や宿舎の運営など教皇選挙を裏から支えています。
そして、枢機卿といえどもそこは人間。権謀術数渦巻き、過去にやましさを抱えていたアデイエミやその汚点を証明するようなシスターを呼び寄せることで公然に曝し、自らは教皇の座を手に入れようとしていたトランブレなど少しずつベールが剥がされていくなかでローレンスの抑えていた野心ものぞきかけます。ところが礼拝堂の外で起きたテロ事件をきっかけに事態は予想外の方向へ…彼らが出した結論は現在のバチカンの現状に対する最大の皮肉ともいえそうです。
教皇選挙とはカトリック教会の最高位、教皇の座が空いたときに枢機卿の投票によって次の教皇を選ぶ選挙のこと。全体の3分の2の票を獲得する者が現れるまで選挙は行われ、投票結果は煙の色で示されます。規定数に達する者がいない時は黒、該当者が現れた時は白い煙がたちのぼります。
文字通りこのタイトルが冠された映画を観ました。かなり重厚。
教皇が病のために亡くなり、その席が空位に。急遽、教皇選挙を取り仕切ることになった主席枢機卿ローレンスの目を通して、作品内に散りばめられた幾つかのテーマが浮かび上がります。
@問われる信仰
実はローレンスは主席枢機卿の座を降りようとしていました。それはいわば彼の信仰に対する揺らぎや苦悩を示していました。彼自身は長年の友人で次席枢機卿のベリーニを推そうとしますが、なかなか票が集まりません。
A問われる教義(多様性)
現在、イスラム教を中心に他宗教とも対話を重ねるなど実際の教皇もリベラルな思想の持ち主です。一方で上記の他にも民族性や同性愛を認めるかなどについて保守的な思想をもつ、映画でいうテデスコのような者も枢機卿の中にはいます。さらに、映画では極秘裏に枢機卿に選ばれたというベニテスがカブールからやってきて、神の良心ともいうべき立場からローレンスを推しつづけます。
B影なる存在
この映画では修道女(シスター)の存在も重要です。カトリックの聖職者は結婚をしません。特に女性はその役割を非常に限定されていますが、枢機卿たちの食事の準備や宿舎の運営など教皇選挙を裏から支えています。
そして、枢機卿といえどもそこは人間。権謀術数渦巻き、過去にやましさを抱えていたアデイエミやその汚点を証明するようなシスターを呼び寄せることで公然に曝し、自らは教皇の座を手に入れようとしていたトランブレなど少しずつベールが剥がされていくなかでローレンスの抑えていた野心ものぞきかけます。ところが礼拝堂の外で起きたテロ事件をきっかけに事態は予想外の方向へ…彼らが出した結論は現在のバチカンの現状に対する最大の皮肉ともいえそうです。
8 石井聡美 クリスマス
以下の内容は一般的に言われている内容を集めたもので必ずしも聖書の内容を反映しません。
ナザレに住むマリアという名の女性が大工のヨセフに出会う前のこと。天使ガブリエルが現れて胎内にイエスが宿ったことを伝えます。ヨセフと結婚したマリアは、ベツレヘムの馬小屋でかいば桶を揺りかごにして出産の時を迎えます。(当時の民家は1階は馬小屋、2階が住居でした)羊飼いたちにイエスの誕生が告げられる頃、空に一つの星が昇るのを見た三賢者が東方からイエスに贈り物(乳香、没薬、黄金)を携えてやってきました。西洋の絵画では三賢人はしばしば老人、壮年の男性、黒人の姿で描かれます。
この時代、ユダヤはローマ帝国の属国でした。(ヨセフがベツレヘムを訪れたのは初代ローマ皇帝、アウグストゥスの人口調査の影響でナザレから出生地へ戻る必要があったようです)ローマの傀儡であるヘロデ王はイエス(救世主、新しいユダヤの王)を探していましたが、三賢人は誕生場所を教えませんでした。そのためヘロデは世にいう「嬰児(えいじ)殺し」を行い、「ベツレヘムに住む二歳以下の男児を殺せ」という命令を出すのです。その後、聖家族(ヨセフ、マリア、イエス)はエジプトへ逃避します。
参考図書
町田俊之(監修).名画とあらすじでわかる! 新約聖書
青春出版社,2014 他
ナザレに住むマリアという名の女性が大工のヨセフに出会う前のこと。天使ガブリエルが現れて胎内にイエスが宿ったことを伝えます。ヨセフと結婚したマリアは、ベツレヘムの馬小屋でかいば桶を揺りかごにして出産の時を迎えます。(当時の民家は1階は馬小屋、2階が住居でした)羊飼いたちにイエスの誕生が告げられる頃、空に一つの星が昇るのを見た三賢者が東方からイエスに贈り物(乳香、没薬、黄金)を携えてやってきました。西洋の絵画では三賢人はしばしば老人、壮年の男性、黒人の姿で描かれます。
この時代、ユダヤはローマ帝国の属国でした。(ヨセフがベツレヘムを訪れたのは初代ローマ皇帝、アウグストゥスの人口調査の影響でナザレから出生地へ戻る必要があったようです)ローマの傀儡であるヘロデ王はイエス(救世主、新しいユダヤの王)を探していましたが、三賢人は誕生場所を教えませんでした。そのためヘロデは世にいう「嬰児(えいじ)殺し」を行い、「ベツレヘムに住む二歳以下の男児を殺せ」という命令を出すのです。その後、聖家族(ヨセフ、マリア、イエス)はエジプトへ逃避します。
参考図書
町田俊之(監修).名画とあらすじでわかる! 新約聖書
青春出版社,2014 他
7 旧約聖書におさめられているもの
律法を守る限りにおいて神の祝福を受け、繁栄が約束されるとユダヤ教では考えられています。『旧約聖書』は預言者を仲介者としてイスラエルの民と神との間で結ばれた契約を記したものです。
歴史の部分(系譜とイスラエルの歴史)、神を賛美する詩歌や格言の部分、預言の部分(預言者の生涯と神の意思)がある全39巻の大作です。一般的には以下のように区分されます。
モーセ五書(創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)
歴史書
(ヨシュア記、士師記、ルツ記、サムエル記(上、下)、列王記(上下)、歴代誌(上、下)、エズラ記、ネヘミア記、エステル記)
文学書(ヨブ記、詩編、箴言(しんげん)、コレヘトへの言葉、雅歌)
預言書
(イザヤ書、エレミヤ書、哀歌、エゼキエル書、ダニエル書、
ホセア書、ヨエル書、アモス書、オバデヤ書、ヨナ書、ミカ書、ナホム書、ハバクク書、ゼファニヤ書、ハガイ書、ゼカリヤ書、マラキ書)
歴史の部分(系譜とイスラエルの歴史)、神を賛美する詩歌や格言の部分、預言の部分(預言者の生涯と神の意思)がある全39巻の大作です。一般的には以下のように区分されます。
モーセ五書(創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)
歴史書
(ヨシュア記、士師記、ルツ記、サムエル記(上、下)、列王記(上下)、歴代誌(上、下)、エズラ記、ネヘミア記、エステル記)
文学書(ヨブ記、詩編、箴言(しんげん)、コレヘトへの言葉、雅歌)
預言書
(イザヤ書、エレミヤ書、哀歌、エゼキエル書、ダニエル書、
ホセア書、ヨエル書、アモス書、オバデヤ書、ヨナ書、ミカ書、ナホム書、ハバクク書、ゼファニヤ書、ハガイ書、ゼカリヤ書、マラキ書)
6 聖地エルサレム
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が拝んでいるのは共通の唯一神です。
そのため共通の聖地があります。
キリスト教徒は、イエスの墓がある場所に建ち、イエスが磔刑後にここで復活したという「聖墳墓教会」に巡礼に訪れます。イエスの生誕地、ベツレヘムの生誕教会の次に重要です。
「嘆きの壁」は、かつてのユダヤ民族の繁栄を物語る、破壊された第二エルサレム神殿の名残です。(信仰の厚い)ユダヤ教徒は毎年7月末〜8月の神殿崩壊日にここを訪れます。
「嘆きの壁」のすぐ上に建立されている「岩のドーム」はムハンマドが大天使ジブリール(ガブリエル)に伴われて天馬に乗って昇天したーとされる聖
なる岩があります。
聖なる岩は、イブラヒ−ム(アブラハム)が息子を神に捧げた岩とされ、ユダヤ教徒にとっても重要です。
そのため共通の聖地があります。
キリスト教徒は、イエスの墓がある場所に建ち、イエスが磔刑後にここで復活したという「聖墳墓教会」に巡礼に訪れます。イエスの生誕地、ベツレヘムの生誕教会の次に重要です。
「嘆きの壁」は、かつてのユダヤ民族の繁栄を物語る、破壊された第二エルサレム神殿の名残です。(信仰の厚い)ユダヤ教徒は毎年7月末〜8月の神殿崩壊日にここを訪れます。
「嘆きの壁」のすぐ上に建立されている「岩のドーム」はムハンマドが大天使ジブリール(ガブリエル)に伴われて天馬に乗って昇天したーとされる聖
なる岩があります。
聖なる岩は、イブラヒ−ム(アブラハム)が息子を神に捧げた岩とされ、ユダヤ教徒にとっても重要です。
5 「神」、「預言者」とは誰か
ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も同じ神(ユダヤ教でいうヤハウェ。ユダヤ教徒は無闇にその名を口にしてはならない)を信仰しています。三つの宗教の祖先をたどるとアブラハムという共通の人物に行き着きます。
イエス以降(死と復活後)、「神と人間との契約は新しい段階に入った」とキリスト教徒は考えています。そこで以前の契約を『旧約聖書』、イエスの弟子たちによって書かれた新しい内容(救世主イエスの生涯)を『新約聖書』と読んで区別します。つまりユダヤ教では、聖書といえば『旧約聖書』の内容を指します。
ユダヤ教にとってイエスはただの人であり、三つの宗教ではイエスの立ち位置も異なります。イエスを「神の子」とするのはキリスト教の考え方です。
(後に、父なる創造主も神の子イエスも聖霊も別のペルソナを持ちながら、
それらが体現する神という概念はひとつであるという三位一体説が定着)
イスラム教ではイエスを人間でありながら「神が預言者として選び、神の言葉を伝えた存在」として、ユダヤ教、キリスト教を神の教えを伝える宗教として尊重しつつも、預言者ムハンマドを「最後にして最大の預言者」と考えています。ムハンマドに告げられた神の言葉を編纂したものが「コーラン」です。神の言葉を一言一句、ニュアンスまで正確に伝えることができないため、アラビア語以外の言語に翻訳されたものは解釈であり、「コーラン」そのものではないと考えられています。
神のお告げを聞く預言者はムハンマドが最後とされますが、ムハンマドの正当な後継者(=カリフ)を誰にするかでイスラム教は後に宗派が対立します。ムハンマドから数えて4代目のアリのみ正当な資格があると考えるのがシーア派。その前の3代いずれにも資格があると考えるのがスンニー派です。
神の預言に基づき、神と人間との間で定められた契約に従い日々の生活を律するという点でユダヤ教とイスラム教は似ています。一方でキリスト教は
世界に教えを普及するという性格からも、規範を守る意味合いは薄れて、
そのかわりに(神による)「死後の魂の救済」を重視しています。
「イエスを信じる者は天国へ行くことができるが、信じない者は地獄へ落ちる」とキリスト教徒は考えています。
イエス以降(死と復活後)、「神と人間との契約は新しい段階に入った」とキリスト教徒は考えています。そこで以前の契約を『旧約聖書』、イエスの弟子たちによって書かれた新しい内容(救世主イエスの生涯)を『新約聖書』と読んで区別します。つまりユダヤ教では、聖書といえば『旧約聖書』の内容を指します。
ユダヤ教にとってイエスはただの人であり、三つの宗教ではイエスの立ち位置も異なります。イエスを「神の子」とするのはキリスト教の考え方です。
(後に、父なる創造主も神の子イエスも聖霊も別のペルソナを持ちながら、
それらが体現する神という概念はひとつであるという三位一体説が定着)
イスラム教ではイエスを人間でありながら「神が預言者として選び、神の言葉を伝えた存在」として、ユダヤ教、キリスト教を神の教えを伝える宗教として尊重しつつも、預言者ムハンマドを「最後にして最大の預言者」と考えています。ムハンマドに告げられた神の言葉を編纂したものが「コーラン」です。神の言葉を一言一句、ニュアンスまで正確に伝えることができないため、アラビア語以外の言語に翻訳されたものは解釈であり、「コーラン」そのものではないと考えられています。
神のお告げを聞く預言者はムハンマドが最後とされますが、ムハンマドの正当な後継者(=カリフ)を誰にするかでイスラム教は後に宗派が対立します。ムハンマドから数えて4代目のアリのみ正当な資格があると考えるのがシーア派。その前の3代いずれにも資格があると考えるのがスンニー派です。
神の預言に基づき、神と人間との間で定められた契約に従い日々の生活を律するという点でユダヤ教とイスラム教は似ています。一方でキリスト教は
世界に教えを普及するという性格からも、規範を守る意味合いは薄れて、
そのかわりに(神による)「死後の魂の救済」を重視しています。
「イエスを信じる者は天国へ行くことができるが、信じない者は地獄へ落ちる」とキリスト教徒は考えています。