2 熟年妄想族
part 1
昭夫は夕方遅くの薄暗い公園をジョギングしていた。
小雨がポツポツとコンクリートを叩き始めたかと思えば、あっという間にゲリラ豪雨となった。昭夫は汗まみれのランニングウェアがさらに濡れる不快感に顔をしかめながらも、必死で走り続けた。公園の奥にある公衆トイレまでたどり着いた時、すでに全身は雨水で重くなっていた。
小便の匂いがきつく狭くて汚れた空間だ。それでも雨宿りできるところもなく、仕方なく中に入った。古びたションベン器と小さな窓があり、その窓ガラスには黒ずんだ汚れとともに細かなヒビが入っていた。電灯は切れかけなのか薄暗い。
ふと目に入ったのは壁沿いに並ぶ数枚の鏡だった。そこには自分の姿……ずぶ濡れでぐっしょりになり肩で息をする熟年男……があった。しかし視線を下ろすにつれて眼福の光景に出くわした。
白いランパンに浮き出たイチモツと亀頭の形
(ランパン越しにわかる膨らみを見つめていると……)
濡れた布地が肌にぴったり張り付いている物は確かに控えめだが、逆に生々しい存在感を放っている。
(鏡越しに自分自身の下半身を見るとは奇妙な気分だった)
あの頃と同じく好奇心旺盛な少年に戻ったかのように股間を注視してしまう。濡れたランパン越しにくっきりとしたカリ首の段差が見え隠れしている。尿道口の位置さえ予測できそうだ。
その膨らみ方には無防備さと同時に卑猥さが共存していて妙にエロティックなのだ。
雨音がトイレ全体を覆う中、昭夫の視界が急に広がった。開いている個室を見つけたのだ。慎重に近づくと壁に人為的に作られたような穴が開いている。直径約10センチほどだろうか。木目の隙間から向こう側の光がかすかに漏れていた。
(まさかこれが噂の……栄光の穴?)
思わず唾を飲み込む音が異常に大きく聞こえた。自分の近所の片隅にある公園でこんなものが存在するなんて信じられなかった。
好奇心が背筋を這い上がる。指先で穴の縁をなぞってみると、意外にも滑らかな感触だった。誰かが定期的に使用している証拠かもしれない。鼓動が高鳴り始める。
「うぅ……」
呻くような声が漏れそうになるのを堪える。首筋に汗が走るのを自覚しながらも目を逸らせない。向こう側の気配だけでも肌が粟立つ。
(覗いていいのか?でも戻ろうとしても……)
理性と欲望の綱引きだ。帰宅すれば妻子が待つ家庭もあるのに、なぜこんな薄暗いトイレで穴を覗きたくなる衝動に駆られるのか分からない。けれど抗えない誘惑。
(あれは本当に……)
息を詰めて屈み込む。腰を折って膝立ちになると視界が低くなる分だけ穴に近づく。ごくりと喉が鳴る。
「フーッ」
吐息のような音が微かに届く。恐る恐る指先を伸ばせば壁板一枚隔てただけなのに熱気が伝わってくるようだった。
そしてついに勇気を出して覗いた???
誰かいるわけでもなくただ湿った闇が広がっているだけだ。
ふと指が壁の穴を撫でる。乾いた木材の滑らかな感触。
(バカだなぁ俺……)
自嘲気味に苦笑しながら立ち上がろうとした瞬間?
「ひっ!」
静寂の中で突如として腕を掴まれる感触があり反射的に振り向くと入口に同年代と思しき一人の熟年の男が立っていた。
驚愕と警戒心が入り交じり咄嗟に後ずさる昭夫へ囁きかけるように男は言った。
「……こんにちは」
その低いバリトンボイスには奇妙な色香があった。
(どう誤魔化すべきだろう?)
「僕は……ジョギングしてたら雨に降られて避難してきたんです」
「私もジョギングをしてたらご覧の有様ですよ。ハハ」
昭夫の言葉に応えるように笑みを浮かべたその男は、どこか自信に満ちた振る舞いで歩いてきた。近くで見るとかなり整った顔立ちをしている。日に焼けた肌と短髪が年齢を感じさせる一方で若々しさも感じさせた。
男は無造作にランパンの裾を引っ張る仕草を見せた。「ションベンもしたくなったものですから」
その瞬間、昭夫の目が釘付けになった。濡れた生地越しに浮かび上がる陰茎のシルエット?いや、単なる形状ではない。
雁首が極端に張り出した大きな亀頭部分。まるで巨大な茸のように突き出ているのが分かる。
ノーパンなのか傘部全体がランパン表面にペタリと吸いつきその凹凸までリアルに再現されていた。
浮き出た血管もまた立体感を持って主張している。
(こんな……凄まじいモノを持ってるなんて)
思わず唾液が溢れる。喉仏が上下する動きさえ制御できない。視線は完全に釘付けになっていた。
「びしょ濡れなんでこの有様ですハハ」
苦笑しながらも嫌がらずに答える声色には余裕すらある。その余裕こそが更なる淫靡さを醸成しているようだった。この光景自体が何らかの演出であるかのように錯覚すら起きてしまうほど非日常的だ。
「あぁ……いや別に……」
慌てるあまり言葉尻が乱れる昭夫に対して柔和な微笑みを浮かべ続けるだけでそれが却って妖艶さを増幅させていた。今このトイレという閉鎖空間そのものが一つの舞台装置となり舞台上で繰り広げられる禁忌劇なのだと認識せざるを得なくなる程だった。
雷鳴が轟き雨粒がトイレの屋根を激しく打つ音が響く。排水溝へと流れ落ちる雨水の勢いも相まって閉塞感のあるこの空間。昭夫は入口のすぐ前に立ち尽くしたまま出られないでいる。
昭夫は夕方遅くの薄暗い公園をジョギングしていた。
小雨がポツポツとコンクリートを叩き始めたかと思えば、あっという間にゲリラ豪雨となった。昭夫は汗まみれのランニングウェアがさらに濡れる不快感に顔をしかめながらも、必死で走り続けた。公園の奥にある公衆トイレまでたどり着いた時、すでに全身は雨水で重くなっていた。
小便の匂いがきつく狭くて汚れた空間だ。それでも雨宿りできるところもなく、仕方なく中に入った。古びたションベン器と小さな窓があり、その窓ガラスには黒ずんだ汚れとともに細かなヒビが入っていた。電灯は切れかけなのか薄暗い。
ふと目に入ったのは壁沿いに並ぶ数枚の鏡だった。そこには自分の姿……ずぶ濡れでぐっしょりになり肩で息をする熟年男……があった。しかし視線を下ろすにつれて眼福の光景に出くわした。
白いランパンに浮き出たイチモツと亀頭の形
(ランパン越しにわかる膨らみを見つめていると……)
濡れた布地が肌にぴったり張り付いている物は確かに控えめだが、逆に生々しい存在感を放っている。
(鏡越しに自分自身の下半身を見るとは奇妙な気分だった)
あの頃と同じく好奇心旺盛な少年に戻ったかのように股間を注視してしまう。濡れたランパン越しにくっきりとしたカリ首の段差が見え隠れしている。尿道口の位置さえ予測できそうだ。
その膨らみ方には無防備さと同時に卑猥さが共存していて妙にエロティックなのだ。
雨音がトイレ全体を覆う中、昭夫の視界が急に広がった。開いている個室を見つけたのだ。慎重に近づくと壁に人為的に作られたような穴が開いている。直径約10センチほどだろうか。木目の隙間から向こう側の光がかすかに漏れていた。
(まさかこれが噂の……栄光の穴?)
思わず唾を飲み込む音が異常に大きく聞こえた。自分の近所の片隅にある公園でこんなものが存在するなんて信じられなかった。
好奇心が背筋を這い上がる。指先で穴の縁をなぞってみると、意外にも滑らかな感触だった。誰かが定期的に使用している証拠かもしれない。鼓動が高鳴り始める。
「うぅ……」
呻くような声が漏れそうになるのを堪える。首筋に汗が走るのを自覚しながらも目を逸らせない。向こう側の気配だけでも肌が粟立つ。
(覗いていいのか?でも戻ろうとしても……)
理性と欲望の綱引きだ。帰宅すれば妻子が待つ家庭もあるのに、なぜこんな薄暗いトイレで穴を覗きたくなる衝動に駆られるのか分からない。けれど抗えない誘惑。
(あれは本当に……)
息を詰めて屈み込む。腰を折って膝立ちになると視界が低くなる分だけ穴に近づく。ごくりと喉が鳴る。
「フーッ」
吐息のような音が微かに届く。恐る恐る指先を伸ばせば壁板一枚隔てただけなのに熱気が伝わってくるようだった。
そしてついに勇気を出して覗いた???
誰かいるわけでもなくただ湿った闇が広がっているだけだ。
ふと指が壁の穴を撫でる。乾いた木材の滑らかな感触。
(バカだなぁ俺……)
自嘲気味に苦笑しながら立ち上がろうとした瞬間?
「ひっ!」
静寂の中で突如として腕を掴まれる感触があり反射的に振り向くと入口に同年代と思しき一人の熟年の男が立っていた。
驚愕と警戒心が入り交じり咄嗟に後ずさる昭夫へ囁きかけるように男は言った。
「……こんにちは」
その低いバリトンボイスには奇妙な色香があった。
(どう誤魔化すべきだろう?)
「僕は……ジョギングしてたら雨に降られて避難してきたんです」
「私もジョギングをしてたらご覧の有様ですよ。ハハ」
昭夫の言葉に応えるように笑みを浮かべたその男は、どこか自信に満ちた振る舞いで歩いてきた。近くで見るとかなり整った顔立ちをしている。日に焼けた肌と短髪が年齢を感じさせる一方で若々しさも感じさせた。
男は無造作にランパンの裾を引っ張る仕草を見せた。「ションベンもしたくなったものですから」
その瞬間、昭夫の目が釘付けになった。濡れた生地越しに浮かび上がる陰茎のシルエット?いや、単なる形状ではない。
雁首が極端に張り出した大きな亀頭部分。まるで巨大な茸のように突き出ているのが分かる。
ノーパンなのか傘部全体がランパン表面にペタリと吸いつきその凹凸までリアルに再現されていた。
浮き出た血管もまた立体感を持って主張している。
(こんな……凄まじいモノを持ってるなんて)
思わず唾液が溢れる。喉仏が上下する動きさえ制御できない。視線は完全に釘付けになっていた。
「びしょ濡れなんでこの有様ですハハ」
苦笑しながらも嫌がらずに答える声色には余裕すらある。その余裕こそが更なる淫靡さを醸成しているようだった。この光景自体が何らかの演出であるかのように錯覚すら起きてしまうほど非日常的だ。
「あぁ……いや別に……」
慌てるあまり言葉尻が乱れる昭夫に対して柔和な微笑みを浮かべ続けるだけでそれが却って妖艶さを増幅させていた。今このトイレという閉鎖空間そのものが一つの舞台装置となり舞台上で繰り広げられる禁忌劇なのだと認識せざるを得なくなる程だった。
雷鳴が轟き雨粒がトイレの屋根を激しく打つ音が響く。排水溝へと流れ落ちる雨水の勢いも相まって閉塞感のあるこの空間。昭夫は入口のすぐ前に立ち尽くしたまま出られないでいる。
(PC)
3 熟年妄想族
part 2
(この嵐が収まるまで外に出られないな)
そんな諦観にも似た気持ちが胸の中に染みていく。
「ふう・・・」
溜息交じりに吐息をこぼした後彼は悠然とした動作で小便器へ歩み寄る。真正面にある小便器へ向け狙いを定めた。
ジョボジョボジョボ!
勢いよく迸る液体の音色はどうしようもなく淫靡だった。尿道口から放出される黄金色の放物線が弧を描き排泄用シンクの水面へ落下する刹那その水滴ひとつひとつの跳ね具合まで想像してしまうくらい克明に捉えて耳に入る。肉棒から解放されていく感覚までも伝播して来るようにさえ感じる。
(なんていやらしい音なんだろう)
(なぜだ……)
自問しても答えは返らない。そもそもノーマルである自分が他の男性の排泄音にここまで陶酔していることが理解できない。
普段なら目を背けたくなる光景なのに今はどうしようもなく気にかかる。
「これじゃ出られませんね?」
唐突に声をかけられて我に返る。しかし視線は依然として股間に吸い寄せられてしまった。
「え……そう……」
言葉が詰まる。その瞬間だった。
ドカンッ!!と大音響で雷が落ちた。
その稲光により一瞬だけ室内全体が閃光に包まれた。次いで耳をつんざく轟音と共に地面が揺れるような錯覚まで覚える。
(地震!?違う……これは落雷だ)
混乱する頭の中で即座に判断することができたものの身体の方はまったく追いつかない。
恐怖感から硬直する肉体とは裏腹に視線だけはしっかりと捉えて離さないその一点から迸る光景——
それは紛れもなく少し膨らんだ男性自身であった。否応なしに膨らんでしまったであろうソレがランパン越しにもありありと分かるくらいの質量を持っていることだけは明白だ。
「これじゃ出られませんね?」
軽い調子で告げる彼に対しふと思った違和感——今まで散々見てきた男たちとは異なる雰囲気だった。むしろ自分より落ち着いている節さえ感じられる。それが尚更興奮材料となりうる皮肉だと言えるかもしれなかった。だからと言って理性まで飛ばすわけにもいかない葛藤はある。
「先ほどは個室の穴を覗いてたんですか?」
「あっ!いえ……初めて見てビックリしちゃって……」
正直すぎる返事をした途端相手は吹き出した。
「まぁ皆さんそんな反応されますよね」
その口ぶりから何度も同じようなやり取りをしてきたのだろう。慣れている態度でもあった。
「あなたみたいに知らない方には珍しいかもしれませんけどねぇ……」
「グローリーホールっていうんですよ」
落ち着いた声音で熟年男性が語り始めた。
「壁にあいた穴。向こう側に誰が居るかも分からないままイチモツを差し出すんです」
「知ってます。まさかこんな物が近所の公園にあるなんてビックリしました」
「ハハハ。大分前からあったみたいです。結構有名ですよ」
昭夫にとって未知の世界だった。今まで全く触れてこなかった領域に突如として飛び込んでしまったようだ。
(一体どんな人たちが利用してるんだろう……)
不安よりも強い好奇心が湧き起こる。それにこの空間が醸し出す独特な空気感—雨音と遠雷によって彩られる非日常性—それらすべてが新たな扉を開こうとしているのではないかと思うと鼓動が早鐘を打ち止まらない。
「私はホモじゃないですから」
反射的に否定したがそれが本心かどうかも分からなくなっていた。むしろ認めたくない気持ちの方が強かった気がする。
そんな心情を見透かすかのように柔らかな笑みを湛えつつ男は近づいて来る。
「私だって結婚してるしホモじゃないよ。最初は戸惑いましたけど……すぐに慣れましたよ」
その言葉には確固とした実績が滲んでいた。迷いなど微塵も感じさせない貫禄すら漂わせている。
「ホモだけじゃなく、欲求不満の既婚者もしゃぶらせに来るよ」
そう言って笑った時唇から白い歯が覗けた。どこか懐かしい優しい表情でありながら瞳の奥には獰猛な獣性さえ垣間見えるようだ。
(ホモじゃない人がここに……?)
矛盾した思いが渦巻いて思考回路ごと麻痺しかけていくようだった。
(もっと話を聞きたい)
「私はしゃぶるよりもしゃぶらせるのが大好きなんでね、もう辞められませんよハハ」
熟年男の声は穏やかでありながらどこか底知れぬ情念が感じられた。その語り口からして相当なベテランなのだろうかと思う間もなく質問を重ねていた。
「それで……その……実際にはどういう風に使うんですか?」
昭夫にとっては未知の行為について知識欲が抑えられない。妻以外の女性とは一切そういうことをしていない自分にとって未知の世界に対する興味津々だったから当然といえば当然のことだった。
「簡単ですよ。お互い名乗らずそのまま素性も明かさず好きなようにしゃぶらせるだけ。アナルセックスは相手の許可を取らない限り挿入することはない決まりなんです。基本的には双方同意のもと行うというルールがありますね」
淡々と話す内容の生々しさに圧倒されながらも納得できた部分もある。要するに互いが匿名性を維持しつつ欲望を叶える方法として成立しているわけだ。リスク管理の一環として一定の規範意識があるというのは意外だった。
(この嵐が収まるまで外に出られないな)
そんな諦観にも似た気持ちが胸の中に染みていく。
「ふう・・・」
溜息交じりに吐息をこぼした後彼は悠然とした動作で小便器へ歩み寄る。真正面にある小便器へ向け狙いを定めた。
ジョボジョボジョボ!
勢いよく迸る液体の音色はどうしようもなく淫靡だった。尿道口から放出される黄金色の放物線が弧を描き排泄用シンクの水面へ落下する刹那その水滴ひとつひとつの跳ね具合まで想像してしまうくらい克明に捉えて耳に入る。肉棒から解放されていく感覚までも伝播して来るようにさえ感じる。
(なんていやらしい音なんだろう)
(なぜだ……)
自問しても答えは返らない。そもそもノーマルである自分が他の男性の排泄音にここまで陶酔していることが理解できない。
普段なら目を背けたくなる光景なのに今はどうしようもなく気にかかる。
「これじゃ出られませんね?」
唐突に声をかけられて我に返る。しかし視線は依然として股間に吸い寄せられてしまった。
「え……そう……」
言葉が詰まる。その瞬間だった。
ドカンッ!!と大音響で雷が落ちた。
その稲光により一瞬だけ室内全体が閃光に包まれた。次いで耳をつんざく轟音と共に地面が揺れるような錯覚まで覚える。
(地震!?違う……これは落雷だ)
混乱する頭の中で即座に判断することができたものの身体の方はまったく追いつかない。
恐怖感から硬直する肉体とは裏腹に視線だけはしっかりと捉えて離さないその一点から迸る光景——
それは紛れもなく少し膨らんだ男性自身であった。否応なしに膨らんでしまったであろうソレがランパン越しにもありありと分かるくらいの質量を持っていることだけは明白だ。
「これじゃ出られませんね?」
軽い調子で告げる彼に対しふと思った違和感——今まで散々見てきた男たちとは異なる雰囲気だった。むしろ自分より落ち着いている節さえ感じられる。それが尚更興奮材料となりうる皮肉だと言えるかもしれなかった。だからと言って理性まで飛ばすわけにもいかない葛藤はある。
「先ほどは個室の穴を覗いてたんですか?」
「あっ!いえ……初めて見てビックリしちゃって……」
正直すぎる返事をした途端相手は吹き出した。
「まぁ皆さんそんな反応されますよね」
その口ぶりから何度も同じようなやり取りをしてきたのだろう。慣れている態度でもあった。
「あなたみたいに知らない方には珍しいかもしれませんけどねぇ……」
「グローリーホールっていうんですよ」
落ち着いた声音で熟年男性が語り始めた。
「壁にあいた穴。向こう側に誰が居るかも分からないままイチモツを差し出すんです」
「知ってます。まさかこんな物が近所の公園にあるなんてビックリしました」
「ハハハ。大分前からあったみたいです。結構有名ですよ」
昭夫にとって未知の世界だった。今まで全く触れてこなかった領域に突如として飛び込んでしまったようだ。
(一体どんな人たちが利用してるんだろう……)
不安よりも強い好奇心が湧き起こる。それにこの空間が醸し出す独特な空気感—雨音と遠雷によって彩られる非日常性—それらすべてが新たな扉を開こうとしているのではないかと思うと鼓動が早鐘を打ち止まらない。
「私はホモじゃないですから」
反射的に否定したがそれが本心かどうかも分からなくなっていた。むしろ認めたくない気持ちの方が強かった気がする。
そんな心情を見透かすかのように柔らかな笑みを湛えつつ男は近づいて来る。
「私だって結婚してるしホモじゃないよ。最初は戸惑いましたけど……すぐに慣れましたよ」
その言葉には確固とした実績が滲んでいた。迷いなど微塵も感じさせない貫禄すら漂わせている。
「ホモだけじゃなく、欲求不満の既婚者もしゃぶらせに来るよ」
そう言って笑った時唇から白い歯が覗けた。どこか懐かしい優しい表情でありながら瞳の奥には獰猛な獣性さえ垣間見えるようだ。
(ホモじゃない人がここに……?)
矛盾した思いが渦巻いて思考回路ごと麻痺しかけていくようだった。
(もっと話を聞きたい)
「私はしゃぶるよりもしゃぶらせるのが大好きなんでね、もう辞められませんよハハ」
熟年男の声は穏やかでありながらどこか底知れぬ情念が感じられた。その語り口からして相当なベテランなのだろうかと思う間もなく質問を重ねていた。
「それで……その……実際にはどういう風に使うんですか?」
昭夫にとっては未知の行為について知識欲が抑えられない。妻以外の女性とは一切そういうことをしていない自分にとって未知の世界に対する興味津々だったから当然といえば当然のことだった。
「簡単ですよ。お互い名乗らずそのまま素性も明かさず好きなようにしゃぶらせるだけ。アナルセックスは相手の許可を取らない限り挿入することはない決まりなんです。基本的には双方同意のもと行うというルールがありますね」
淡々と話す内容の生々しさに圧倒されながらも納得できた部分もある。要するに互いが匿名性を維持しつつ欲望を叶える方法として成立しているわけだ。リスク管理の一環として一定の規範意識があるというのは意外だった。
(PC)
4 熟年妄想族
part 3
「でも万が一トラブルがあった時はどうするんですか?」
一番気になっている点でもある。もし問題が起きた場合責任の所在すら曖昧になってしまう可能性は高いのではないだろうか。
「基本的に自己責任となりますから警察沙汰になることも稀ですし滅多にありませんけどね」
意外にも冷静沈着な口ぶりだ。しかしこれならば確かに安全なのかもしれないと思えてきた。
「ただしきちんと同意を得なければならないということですよね?」
「そうですねぇ……基本的には。でもまあ暗黙の了解みたいなものですよ。イチモツを差し出して相手が拒んでいる場合はやめれば良いだけですからね」
「相手もしゃぶらせに来た人かも知らないですからね……」
焦燥感とともに上擦った声が出るばかりだったが聞き流されている様子だ。
「あなたはココで何度もされた経験があるみたいですね」
熟年男がニヤリと笑みを浮かべた。その眼差しが昭夫の下半身に絡みつく。
「そりゃあもう最高ですよ」
声を潜めながらも力強く語る。
「例えばこうやって……」
言いながら彼は両手で握るような仕草をした。
「口全体で吸い付かれると、全身の血が一気に集中する感じがするんです。舌先で裏筋を舐め上げられながら玉袋を揉まれるともう我慢できなくてね」
その生々しい言葉に昭夫の頬がかっと熱くなる。
困惑と同時に妙な疼きが下腹部を襲う。気づけばランパン越しにそこが反応し始めていた。
「そして何より大事なのは」
熟年男は一旦言葉を切りじっと昭夫を見つめた。
「私を受け入れてくれる相手がいるということ自体が喜びなのさ」
その表情からは深い充足感があふれ出していた。
(受け入れてくれる……)
昭夫の脳裏に男がしゃぶらせてる姿が蘇る。暗闇の中で蠢くイチモツ、快楽に歪む顔―
(自分もそんなふうになりたい)
嫉妬にも似た感情が沸き上がる。
「でも私は……男の人とするなんて」
必死に言葉を探すが上手くまとまらない。しかし熟年男は落ち着いた口調で続けた。
「何も難しいことは無いよ。ホモじゃない既婚者もやってることだ」
「フェラされると一度覚えたら病みつきになるって人が多いんだよ」
熟年男の口調は落ち着いていたが、その眼差しには確かな説得力があった。
「特にね」彼は少し間を置き、「熟年サラリーマンはセックスレスの人が多いからね」
「セックスレス……」
その言葉に昭夫は一瞬戸惑った。自分と同じ立場の人間がそんな欲望を抱えているとは想像もしていなかった。
「妻とのセックスじゃ満たされない何かがあるんだろうな、そんな人も来る」
熟年男の声には哀愁すら漂っていた。
「毎晩帰宅しても疲労感だけが残る日々。そんな時ふと思い出すんだ――あの時の快感を」
「どんな……感じなんですか?」
無意識のうちに質問が漏れていた。興味を隠せなくなった自分が恥ずかしい。だが熟年男は嬉しそうに頷いた。
「想像してみなよ。熱い口腔粘膜に包まれる感触を」
その言葉に昭夫は身震いした。確かにあの暗闇で蠢くイチモツを思い出せば、そんな体験への憧憬が湧いてくる。
「しかもここなら素性はバレない。妻にも子どもにも迷惑はかからない」
「ですが……」
躊躇いが言葉に滲む。それでも熟年男の次の台詞は決定的だった。
「実は君のような常識的な人こそハマってしまうことが多いんだ。家庭を壊すことなく楽しめる秘密の遊びだからね」
その一言で心の障壁が崩れていく音が聞こえた気がした。不倫とも違う新たな選択肢として提示された未知の悦楽。それを手に入れるチャンスがまさに今訪れようとしているのだ。
「まぁ最初は抵抗があるかもしれませんが……」熟年男が穏やかな口調で続ける。「こういう楽しみ方も悪くないと思いませんか?」
確かにそうだ。この公園を利用する人々にも事情があってのことだろう。家庭を犠牲にするわけではないなら……
「それにね」熟年男が少しだけ身を乗り出し耳元に囁く。「一度でも経験すれば病みつきになりますよ」
その声色には隠しきれない官能が宿っていた。まるで蛇のように獲物を捕らえる鋭さを秘めた低く甘美な響き。昭夫は一瞬にして囚われてしまった。
(こんなにも魅力的なのか?)
自分の中に芽生えた好奇心と恐れが入り混じった複雑な感情。だがそれさえも心地よい刺激となって全身を駆け巡る。
「私がやってみせましょうか?」
不意に提案された言葉。それがどれほど大胆なものか理解しているはずなのにイチモツは少し膨らみ否定する気力もない。
(やって欲しい……)
欲求が抑えきれなくなっていく。昭夫は黙ったまま小さく頷いた。
すると熟年男が微笑んだ。ゆっくりと近づき昭夫の前に膝をつく。その仕草には優雅さすら感じられるほど洗練されていた。まるで舞台役者のようだと思いながら呆然と見つめているしかない。
「チンポは正直だなハハハ」
男の指先がランニングパンツに触れる。布越しでも分かるほどの隆起へ添えられた掌の温もりに息遣いが荒くなっていく。これまでの人生で感じたことの無い高揚感と共に不安も募る一方だった。それでも抗うことなどできない。いや本当はもっと期待していたのかもしれない。そんな相反する感情の狭間で揺蕩う内面を反映するかのように鼓動だけは狂おしく高鳴り続けていた。
「でも万が一トラブルがあった時はどうするんですか?」
一番気になっている点でもある。もし問題が起きた場合責任の所在すら曖昧になってしまう可能性は高いのではないだろうか。
「基本的に自己責任となりますから警察沙汰になることも稀ですし滅多にありませんけどね」
意外にも冷静沈着な口ぶりだ。しかしこれならば確かに安全なのかもしれないと思えてきた。
「ただしきちんと同意を得なければならないということですよね?」
「そうですねぇ……基本的には。でもまあ暗黙の了解みたいなものですよ。イチモツを差し出して相手が拒んでいる場合はやめれば良いだけですからね」
「相手もしゃぶらせに来た人かも知らないですからね……」
焦燥感とともに上擦った声が出るばかりだったが聞き流されている様子だ。
「あなたはココで何度もされた経験があるみたいですね」
熟年男がニヤリと笑みを浮かべた。その眼差しが昭夫の下半身に絡みつく。
「そりゃあもう最高ですよ」
声を潜めながらも力強く語る。
「例えばこうやって……」
言いながら彼は両手で握るような仕草をした。
「口全体で吸い付かれると、全身の血が一気に集中する感じがするんです。舌先で裏筋を舐め上げられながら玉袋を揉まれるともう我慢できなくてね」
その生々しい言葉に昭夫の頬がかっと熱くなる。
困惑と同時に妙な疼きが下腹部を襲う。気づけばランパン越しにそこが反応し始めていた。
「そして何より大事なのは」
熟年男は一旦言葉を切りじっと昭夫を見つめた。
「私を受け入れてくれる相手がいるということ自体が喜びなのさ」
その表情からは深い充足感があふれ出していた。
(受け入れてくれる……)
昭夫の脳裏に男がしゃぶらせてる姿が蘇る。暗闇の中で蠢くイチモツ、快楽に歪む顔―
(自分もそんなふうになりたい)
嫉妬にも似た感情が沸き上がる。
「でも私は……男の人とするなんて」
必死に言葉を探すが上手くまとまらない。しかし熟年男は落ち着いた口調で続けた。
「何も難しいことは無いよ。ホモじゃない既婚者もやってることだ」
「フェラされると一度覚えたら病みつきになるって人が多いんだよ」
熟年男の口調は落ち着いていたが、その眼差しには確かな説得力があった。
「特にね」彼は少し間を置き、「熟年サラリーマンはセックスレスの人が多いからね」
「セックスレス……」
その言葉に昭夫は一瞬戸惑った。自分と同じ立場の人間がそんな欲望を抱えているとは想像もしていなかった。
「妻とのセックスじゃ満たされない何かがあるんだろうな、そんな人も来る」
熟年男の声には哀愁すら漂っていた。
「毎晩帰宅しても疲労感だけが残る日々。そんな時ふと思い出すんだ――あの時の快感を」
「どんな……感じなんですか?」
無意識のうちに質問が漏れていた。興味を隠せなくなった自分が恥ずかしい。だが熟年男は嬉しそうに頷いた。
「想像してみなよ。熱い口腔粘膜に包まれる感触を」
その言葉に昭夫は身震いした。確かにあの暗闇で蠢くイチモツを思い出せば、そんな体験への憧憬が湧いてくる。
「しかもここなら素性はバレない。妻にも子どもにも迷惑はかからない」
「ですが……」
躊躇いが言葉に滲む。それでも熟年男の次の台詞は決定的だった。
「実は君のような常識的な人こそハマってしまうことが多いんだ。家庭を壊すことなく楽しめる秘密の遊びだからね」
その一言で心の障壁が崩れていく音が聞こえた気がした。不倫とも違う新たな選択肢として提示された未知の悦楽。それを手に入れるチャンスがまさに今訪れようとしているのだ。
「まぁ最初は抵抗があるかもしれませんが……」熟年男が穏やかな口調で続ける。「こういう楽しみ方も悪くないと思いませんか?」
確かにそうだ。この公園を利用する人々にも事情があってのことだろう。家庭を犠牲にするわけではないなら……
「それにね」熟年男が少しだけ身を乗り出し耳元に囁く。「一度でも経験すれば病みつきになりますよ」
その声色には隠しきれない官能が宿っていた。まるで蛇のように獲物を捕らえる鋭さを秘めた低く甘美な響き。昭夫は一瞬にして囚われてしまった。
(こんなにも魅力的なのか?)
自分の中に芽生えた好奇心と恐れが入り混じった複雑な感情。だがそれさえも心地よい刺激となって全身を駆け巡る。
「私がやってみせましょうか?」
不意に提案された言葉。それがどれほど大胆なものか理解しているはずなのにイチモツは少し膨らみ否定する気力もない。
(やって欲しい……)
欲求が抑えきれなくなっていく。昭夫は黙ったまま小さく頷いた。
すると熟年男が微笑んだ。ゆっくりと近づき昭夫の前に膝をつく。その仕草には優雅さすら感じられるほど洗練されていた。まるで舞台役者のようだと思いながら呆然と見つめているしかない。
「チンポは正直だなハハハ」
男の指先がランニングパンツに触れる。布越しでも分かるほどの隆起へ添えられた掌の温もりに息遣いが荒くなっていく。これまでの人生で感じたことの無い高揚感と共に不安も募る一方だった。それでも抗うことなどできない。いや本当はもっと期待していたのかもしれない。そんな相反する感情の狭間で揺蕩う内面を反映するかのように鼓動だけは狂おしく高鳴り続けていた。
(PC)
5 熟年妄想族
part 4
そしてついに訪れた瞬間――待ち侘びた感触によって全ての思考回路ごと奪われるまでの僅かな猶予期間となったのである。
ランニングパンツのナイロン生地が男の指の形に合わせて滑らかに沈んだ。はじめは遠慮がちに往復するだけの単純な動きだった。しかし熟年の指先は明らかに熟知していた──敏感な部分を避けるようでいて、確実に性感帯を捉える巧妙な軌跡を描きながら。
「んっ……」
喉仏が上下した。布一枚隔てて感じる他人の体温に意識が集約していく。触られているのは確かにイチモツなのだという実感がじわじわと浸透してくる。陰茎の輪郭を確かめるようになぞられ、カリ首の位置を探り当てられると、たまらず腰が浮いた。無意識に太腿を締め付けてしまうのは羞恥からか期待からなのか判別がつかない。
(なんで……俺は……)
混乱する頭の中で理性は悲鳴を上げ続けていた。それでも身体の反応は誤魔化しようがない。柔らかなゴムひもの締め付けが次第に窮屈になってきた。すでに膨張し始めた証拠だった。先端部が布地を押し上げ小さな丘を作っている。その頂点を執拗に指先で円を描かれる度に微弱な電流が走り抜けた。
「ほう?」
男が呟く声は嘲りとも感嘆ともつかない。視線が釘付けになったのは昭夫自身の股間に違いない。その目つきからは期待に満ち溢れた熱っぽさが漂ってくる。まるで鑑賞すべき芸術品を見るかのような眼差しは余計に羞恥心を煽った。
ランパンの中央部分は湿り気を帯びて色濃くなっていた。
ランパンの薄いナイロン生地が昭夫の肉体変化を克明に映し出していた。はじめは微かな膨らみだったものが、触れられるうちに急速に膨張していく。布地がピンと張り詰め、亀頭の形状までもが鮮明に浮かび上がる様は異様な迫力を伴っていた。
(どうして……こんなにも……)
理性は抵抗を試みるのに、下半身は別の生き物のように勝手に昂ぶっていく。他人の手によって形成されていく自らの輪郭が生々しい現実を突きつけてきた。熟年男の掌はまるで専門家の診察のごとき繊細さで的確に急所を押さえてくる。
「んっ……くっ……」
喉の奥から呻きが漏れてしまった。慌てて口元を覆うが遅すぎる。熟年男の目に宿る冷酷な愉悦は見間違いではない。羞恥で顔が火照るのがわかった。それでも止められないのは本能だった。
(こんなことが……)
信じられない思いと共に快楽の波が押し寄せる。指の腹で裏筋を上下に擦られる度に背筋に鳥肌が立った。爪先が鈴口のあたりを小刻みに引っ掻くと切なくなるような疼きが広がる。まだ直接的な刺激ではないというのに全身が痙攣し始めた。
(こんな……気持ちいいなんて)
認めたくなかった事実を悟らざるを得なかった。自分で慰める時には到底届かぬ未知の領域──他者からの奉仕こそ至福であることに気づかされたのだ。羞恥よりも恍惚が勝り始めた──
熟年男の手がランパンのゴム部分にかかる。昭夫が制止する間もなく、白いナイロン生地は一気に膝下まで引き下ろされた。屹立した肉棒が弾かれるように露わになり、透明な先走りが糸を引く光景が淫靡に浮かび上がる。
「恥ずかしいです……」
懇願の声は震えていた。だがそれは無意味だった。熟年男は既に跪き、昭夫の股間を見上げる格好になっている。その瞳には計算された欲望が燃えていた。
「怖がらなくてもいいんだよ」
囁く声は慈愛と支配欲の入り混じった魔力を持っていた。
「君みたいないい男ならいつだって歓迎だ」
そして突然──熱い粘膜に包まれる衝撃。
「あっ……!」
思わず仰け反った。根元まで飲み込まれた瞬間、頭の中が真っ白になった。唾液たっぷりの口腔内で柔らかな舌が螺旋状に絡みついてくる感覚は筆舌に尽くしがたい。尿道口を抉るように穿ってくる舌先の刺激だけで達してしまいそうだった。
「待って……」
言葉にならない喘ぎと共に制止しようとしても相手は止まらないどころかさらに深く吸い付き、陰嚢を揉み解しながらの激しいピストン運動が始まった。じゅぼじゅぼといやらしい水音が耳の奥で爆ぜるように響く。
「こんな……こんなの初めて……」
泣きそうな声をあげてしまった自分に戸惑う。しかしもう取り返しはつかない。全身が粟立ち呼吸すら忘れてしまう。同性の奉仕による快楽がこれほど凄まじいものだとは想像だにしなかった。
(ダメだ……もう……)
絶頂へと追い立てられる感覚に恐怖すら覚える。しかしそんな怯えさえも溶かすように快楽の奔流が押し寄せた。熟年男の巧みな技によって射精寸前のところまで昇りつめた──
突然解放される。
「ぁああ……」
思わず落胆めいた声が漏れるほど切なかった。濡れそぼった陰茎は限界まで張り詰め脈打っている。だがその先は与えてもらえないのか?
「俺のもしゃぶってくれないか?」
にっこり微笑む男の目尻に皺ができる。だがその奥に潜む狡猾さは隠せない。
「俺のもしゃぶってくれないか?」
その言葉に昭夫は硬直した。喉がカラカラに渇く。しゃぶる。自分が?男を?その発想は遥か彼方にあるもので、とても現実のものとは思えなかった。
「でも……僕は……」
もごもごと言い訳を探す。しかし熟年男は穏やかに微笑んだまま答えを待っている。その余裕たっぷりの態度が却ってプレッシャーとなり、逃げ道を塞いでいった。
そしてついに訪れた瞬間――待ち侘びた感触によって全ての思考回路ごと奪われるまでの僅かな猶予期間となったのである。
ランニングパンツのナイロン生地が男の指の形に合わせて滑らかに沈んだ。はじめは遠慮がちに往復するだけの単純な動きだった。しかし熟年の指先は明らかに熟知していた──敏感な部分を避けるようでいて、確実に性感帯を捉える巧妙な軌跡を描きながら。
「んっ……」
喉仏が上下した。布一枚隔てて感じる他人の体温に意識が集約していく。触られているのは確かにイチモツなのだという実感がじわじわと浸透してくる。陰茎の輪郭を確かめるようになぞられ、カリ首の位置を探り当てられると、たまらず腰が浮いた。無意識に太腿を締め付けてしまうのは羞恥からか期待からなのか判別がつかない。
(なんで……俺は……)
混乱する頭の中で理性は悲鳴を上げ続けていた。それでも身体の反応は誤魔化しようがない。柔らかなゴムひもの締め付けが次第に窮屈になってきた。すでに膨張し始めた証拠だった。先端部が布地を押し上げ小さな丘を作っている。その頂点を執拗に指先で円を描かれる度に微弱な電流が走り抜けた。
「ほう?」
男が呟く声は嘲りとも感嘆ともつかない。視線が釘付けになったのは昭夫自身の股間に違いない。その目つきからは期待に満ち溢れた熱っぽさが漂ってくる。まるで鑑賞すべき芸術品を見るかのような眼差しは余計に羞恥心を煽った。
ランパンの中央部分は湿り気を帯びて色濃くなっていた。
ランパンの薄いナイロン生地が昭夫の肉体変化を克明に映し出していた。はじめは微かな膨らみだったものが、触れられるうちに急速に膨張していく。布地がピンと張り詰め、亀頭の形状までもが鮮明に浮かび上がる様は異様な迫力を伴っていた。
(どうして……こんなにも……)
理性は抵抗を試みるのに、下半身は別の生き物のように勝手に昂ぶっていく。他人の手によって形成されていく自らの輪郭が生々しい現実を突きつけてきた。熟年男の掌はまるで専門家の診察のごとき繊細さで的確に急所を押さえてくる。
「んっ……くっ……」
喉の奥から呻きが漏れてしまった。慌てて口元を覆うが遅すぎる。熟年男の目に宿る冷酷な愉悦は見間違いではない。羞恥で顔が火照るのがわかった。それでも止められないのは本能だった。
(こんなことが……)
信じられない思いと共に快楽の波が押し寄せる。指の腹で裏筋を上下に擦られる度に背筋に鳥肌が立った。爪先が鈴口のあたりを小刻みに引っ掻くと切なくなるような疼きが広がる。まだ直接的な刺激ではないというのに全身が痙攣し始めた。
(こんな……気持ちいいなんて)
認めたくなかった事実を悟らざるを得なかった。自分で慰める時には到底届かぬ未知の領域──他者からの奉仕こそ至福であることに気づかされたのだ。羞恥よりも恍惚が勝り始めた──
熟年男の手がランパンのゴム部分にかかる。昭夫が制止する間もなく、白いナイロン生地は一気に膝下まで引き下ろされた。屹立した肉棒が弾かれるように露わになり、透明な先走りが糸を引く光景が淫靡に浮かび上がる。
「恥ずかしいです……」
懇願の声は震えていた。だがそれは無意味だった。熟年男は既に跪き、昭夫の股間を見上げる格好になっている。その瞳には計算された欲望が燃えていた。
「怖がらなくてもいいんだよ」
囁く声は慈愛と支配欲の入り混じった魔力を持っていた。
「君みたいないい男ならいつだって歓迎だ」
そして突然──熱い粘膜に包まれる衝撃。
「あっ……!」
思わず仰け反った。根元まで飲み込まれた瞬間、頭の中が真っ白になった。唾液たっぷりの口腔内で柔らかな舌が螺旋状に絡みついてくる感覚は筆舌に尽くしがたい。尿道口を抉るように穿ってくる舌先の刺激だけで達してしまいそうだった。
「待って……」
言葉にならない喘ぎと共に制止しようとしても相手は止まらないどころかさらに深く吸い付き、陰嚢を揉み解しながらの激しいピストン運動が始まった。じゅぼじゅぼといやらしい水音が耳の奥で爆ぜるように響く。
「こんな……こんなの初めて……」
泣きそうな声をあげてしまった自分に戸惑う。しかしもう取り返しはつかない。全身が粟立ち呼吸すら忘れてしまう。同性の奉仕による快楽がこれほど凄まじいものだとは想像だにしなかった。
(ダメだ……もう……)
絶頂へと追い立てられる感覚に恐怖すら覚える。しかしそんな怯えさえも溶かすように快楽の奔流が押し寄せた。熟年男の巧みな技によって射精寸前のところまで昇りつめた──
突然解放される。
「ぁああ……」
思わず落胆めいた声が漏れるほど切なかった。濡れそぼった陰茎は限界まで張り詰め脈打っている。だがその先は与えてもらえないのか?
「俺のもしゃぶってくれないか?」
にっこり微笑む男の目尻に皺ができる。だがその奥に潜む狡猾さは隠せない。
「俺のもしゃぶってくれないか?」
その言葉に昭夫は硬直した。喉がカラカラに渇く。しゃぶる。自分が?男を?その発想は遥か彼方にあるもので、とても現実のものとは思えなかった。
「でも……僕は……」
もごもごと言い訳を探す。しかし熟年男は穏やかに微笑んだまま答えを待っている。その余裕たっぷりの態度が却ってプレッシャーとなり、逃げ道を塞いでいった。
(PC)
6 熟年妄想族
part 5
(できるわけがない)
そう思った。男のモノを咥えるなど考えたこともない。ましてや自分から進んでそんな行為をする日が来るとは想像だにしなかった。
だが同時に──
(どんな味なんだろう?)
愚かな好奇心が鎌首をもたげる。さっきまでの射精直前まで追い立てられた快感が脳裏に焼き付いているせいだろうか?その快楽を与えてくれたものは一体どんな代物なのだろう?
「もちろん無理強いはしないよ」
熟年男の声は猫なで声のように優しかった。
「ただ私のものを知ってもらえたら嬉しいだけなんだ」
その言い方がどこか媚びるように聞こえる。まるで餌をちらつかせる捕食者の囁きだと思った。それでも反応せずにはいられないのが情けない。
「見たことがあるかい?」
問いかけに一瞬固まる。見たことなら何度もある。会社の更衣室や銭湯で。しかし凝視したことなど一度もない。ましてやしゃぶることなど論外だった。
「男同士なんて汚くて気持ち悪いとか思うのかい?」
図星を突かれた気がした。正直言えば嫌悪感はある。だがそれ以上にこの状況に対する混乱の方が大きい。
男のテクニックでイキそうになったばかりだ
あれは紛れもない快楽だった。そしてその源泉となるものを目にする機会が今目の前に転がっている。そんな状況を完全に拒否するのは困難だった。
「それに私よりも若いイイ男にしゃぶってもらうのに憧れてるんだよね」
わざとらしい謙虚さが鼻につくがその奥に垣間見える自信が憎らしくもある。この男はわかっているのだ。拒絶しきれない欲望の存在を。
「さぁ」
促されるように顔を上げる。熟年男はゆっくりとランパンを脱ぎ始めた。その動作は余裕綽々であり挑発的でもあった。そこには明らかな隆起がありありと見て取れた。
「見るだけでいいのかい?」
再び尋ねてくる。答えられない。言葉も出なければ視線も逸らせない。ただ見つめることしかできなくなってしまった。その視線を感じ取ったかのように熟年男は妖艶に微笑み下着のゴム部分に手をかける──
(本当にそれでいいのか?)
警告するように胸の内で声が響く。しかしその声はどこか遠く霞んでいく。眼前で繰り広げられる魅惑的なショーに抗える者は果たしているのだろうか?
露出されたそれは想像以上の大きさを誇っていた。長さだけでなく太さも申し分ない。亀頭の色艶は堂々とした風格を放ち血管の浮き具合さえ生命力を感じさせる。何より驚くべきはその角度──重力に逆らい天を向かんばかりの威容に昭夫は生唾を飲むしかなかった。
「どうだい?なかなかのもんだろう?」
冗談めかした台詞が癇に障るほど不敵だった。しかし内心では同意せざるを得ない。これほどのものを見せつけられれば嫌でも認めてしまう他ないではないか?今まで自分なりに男性機能には自信を持ってきたつもりだったけれど圧倒的な差があることを痛感させられたのだ。
(こんなのしゃぶったら……)
未知の体験への畏怖と共に微かな羨望にも似た感情が生まれる。これを味わうことができる権利を与えられたならば決して後悔しないのではないか?少なくとも好奇心の塊となった今ではそう思えるほどだった。
「君も試したいんじゃないか?」
熟年男の声音は甘く毒を孕んでいた。まるで麻薬中毒患者にとって最後の一押しとなるような破滅的な魅力を備えている。断ることは不可能だと告げているようなものだった。
「大丈夫。教えてあげるから」
優しい声色で死刑宣告のように宣告される言葉。最早抵抗する理由も見当たらないまま昭夫はゆっくりと唇を開く──
ゆっくりと開いた唇に男のペニスが触れた瞬間──昭夫の体内で何かが砕け散った。その衝撃に耐えきれず咄嵯に目を閉じてしまう。
「ほら。ちゃんと見てごらん?」
宥めるような囁きが耳朶をくすぐる。その言葉に操られるように瞼を持ち上げた。視界に飛び込んできた光景に全身の血流が加速する。赤黒く充血した亀頭が今まさに己の唇を割ろうとする姿。あまりにも禍々しく卑猥すぎるその情景に目眩すら覚えてしまいそうだった。
「口を開けて……舌を出して……」
指示通りに従うしかなかった。喉奥まで達するであろう質量を思うと吐き気が込み上げてくる。しかし不思議と嫌悪感は薄れている。むしろ未知なる感触への探究心が勝っている気がする。好奇心とはなんと罪深い感情なのだろう。
「優しく舐めてくれればいいよ」
男の声は蜜の如く滴り落ちてくる。言われるがままに舌先でちょんっと触れてみると想像以上の熱量が伝わってきた。まるで煮えたぎる鉄杭のようだと錯覚するほど滾っている。亀頭冠部分に沿ってチロチロと往復させてみれば独特の塩辛さが広がり始める。汗ばんだ雄の匂いも合わさり鼻腔一杯に広がった。
舌先が触れた瞬間、熟年男の腰が微かに震えた。その反応に昭夫の内部で奇妙な喜びが芽生える。自分が与える刺激によって相手が反応する事実に密かな優越感を感じてしまう。
「そう……上手だねぇ……」
褒められるたびに身体の芯が熱くなる。単なるフェラチオなのに、なぜか敗北感ではなく征服欲さえ湧いてくる矛盾。これはいったい何なのだろう?
(できるわけがない)
そう思った。男のモノを咥えるなど考えたこともない。ましてや自分から進んでそんな行為をする日が来るとは想像だにしなかった。
だが同時に──
(どんな味なんだろう?)
愚かな好奇心が鎌首をもたげる。さっきまでの射精直前まで追い立てられた快感が脳裏に焼き付いているせいだろうか?その快楽を与えてくれたものは一体どんな代物なのだろう?
「もちろん無理強いはしないよ」
熟年男の声は猫なで声のように優しかった。
「ただ私のものを知ってもらえたら嬉しいだけなんだ」
その言い方がどこか媚びるように聞こえる。まるで餌をちらつかせる捕食者の囁きだと思った。それでも反応せずにはいられないのが情けない。
「見たことがあるかい?」
問いかけに一瞬固まる。見たことなら何度もある。会社の更衣室や銭湯で。しかし凝視したことなど一度もない。ましてやしゃぶることなど論外だった。
「男同士なんて汚くて気持ち悪いとか思うのかい?」
図星を突かれた気がした。正直言えば嫌悪感はある。だがそれ以上にこの状況に対する混乱の方が大きい。
男のテクニックでイキそうになったばかりだ
あれは紛れもない快楽だった。そしてその源泉となるものを目にする機会が今目の前に転がっている。そんな状況を完全に拒否するのは困難だった。
「それに私よりも若いイイ男にしゃぶってもらうのに憧れてるんだよね」
わざとらしい謙虚さが鼻につくがその奥に垣間見える自信が憎らしくもある。この男はわかっているのだ。拒絶しきれない欲望の存在を。
「さぁ」
促されるように顔を上げる。熟年男はゆっくりとランパンを脱ぎ始めた。その動作は余裕綽々であり挑発的でもあった。そこには明らかな隆起がありありと見て取れた。
「見るだけでいいのかい?」
再び尋ねてくる。答えられない。言葉も出なければ視線も逸らせない。ただ見つめることしかできなくなってしまった。その視線を感じ取ったかのように熟年男は妖艶に微笑み下着のゴム部分に手をかける──
(本当にそれでいいのか?)
警告するように胸の内で声が響く。しかしその声はどこか遠く霞んでいく。眼前で繰り広げられる魅惑的なショーに抗える者は果たしているのだろうか?
露出されたそれは想像以上の大きさを誇っていた。長さだけでなく太さも申し分ない。亀頭の色艶は堂々とした風格を放ち血管の浮き具合さえ生命力を感じさせる。何より驚くべきはその角度──重力に逆らい天を向かんばかりの威容に昭夫は生唾を飲むしかなかった。
「どうだい?なかなかのもんだろう?」
冗談めかした台詞が癇に障るほど不敵だった。しかし内心では同意せざるを得ない。これほどのものを見せつけられれば嫌でも認めてしまう他ないではないか?今まで自分なりに男性機能には自信を持ってきたつもりだったけれど圧倒的な差があることを痛感させられたのだ。
(こんなのしゃぶったら……)
未知の体験への畏怖と共に微かな羨望にも似た感情が生まれる。これを味わうことができる権利を与えられたならば決して後悔しないのではないか?少なくとも好奇心の塊となった今ではそう思えるほどだった。
「君も試したいんじゃないか?」
熟年男の声音は甘く毒を孕んでいた。まるで麻薬中毒患者にとって最後の一押しとなるような破滅的な魅力を備えている。断ることは不可能だと告げているようなものだった。
「大丈夫。教えてあげるから」
優しい声色で死刑宣告のように宣告される言葉。最早抵抗する理由も見当たらないまま昭夫はゆっくりと唇を開く──
ゆっくりと開いた唇に男のペニスが触れた瞬間──昭夫の体内で何かが砕け散った。その衝撃に耐えきれず咄嵯に目を閉じてしまう。
「ほら。ちゃんと見てごらん?」
宥めるような囁きが耳朶をくすぐる。その言葉に操られるように瞼を持ち上げた。視界に飛び込んできた光景に全身の血流が加速する。赤黒く充血した亀頭が今まさに己の唇を割ろうとする姿。あまりにも禍々しく卑猥すぎるその情景に目眩すら覚えてしまいそうだった。
「口を開けて……舌を出して……」
指示通りに従うしかなかった。喉奥まで達するであろう質量を思うと吐き気が込み上げてくる。しかし不思議と嫌悪感は薄れている。むしろ未知なる感触への探究心が勝っている気がする。好奇心とはなんと罪深い感情なのだろう。
「優しく舐めてくれればいいよ」
男の声は蜜の如く滴り落ちてくる。言われるがままに舌先でちょんっと触れてみると想像以上の熱量が伝わってきた。まるで煮えたぎる鉄杭のようだと錯覚するほど滾っている。亀頭冠部分に沿ってチロチロと往復させてみれば独特の塩辛さが広がり始める。汗ばんだ雄の匂いも合わさり鼻腔一杯に広がった。
舌先が触れた瞬間、熟年男の腰が微かに震えた。その反応に昭夫の内部で奇妙な喜びが芽生える。自分が与える刺激によって相手が反応する事実に密かな優越感を感じてしまう。
「そう……上手だねぇ……」
褒められるたびに身体の芯が熱くなる。単なるフェラチオなのに、なぜか敗北感ではなく征服欲さえ湧いてくる矛盾。これはいったい何なのだろう?
(PC)
7 熟年妄想族
part 6
男の指が優しく髪を梳いていく。その感触が妙に心地よくて目を細めてしまう。普段なら振り払いたくなる行為なのに今は逆に安心感すら覚える不思議。そんな自己矛盾に翻弄されながらも舌の動きは止まらない。
最初は躊躇いがちだったのが徐々に大胆になっていく。亀頭全体を覆うようにねぶり回したり裏筋に沿ってゆっくり舐め上げたり──そのたびに男の呼吸が乱れるのを感じ取り愉悦を覚える自分がいる。
「そろそろ咥えてくれるかい?」
頷く代わりに大きく口を開けた。丸々とした亀頭を含んだ途端口内が圧迫される感覚。やはり大きい。苦しさから涙目になるけれどすぐに慣れてきた。口蓋垂で擦るように刺激すればまた新しい快感を得られる。その発見が新鮮であり楽しいと思ってしまう時点で相当おかしくなっている自覚はあった。
「そのまま吸い込んでみて」
言われるままに真空パックのごとく吸引する。唇を窄めバキュームするように強く吸い込めば男は低く唸った。それが嬉しくてもっと強くしようとすると喉奥に届いてしまう。反射的に嗚咽しかけるものの何とか堪えて続ける。ここまで来たら途中で投げ出すわけにはいかない。
「うん……最高だ」
頭を撫でる手つきが強くなる。犬扱いされているようで屈辱的なのになぜか反抗する気になれない。むしろもっと求めてほしいとすら感じてしまう。このままではいけないとわかっていながらも快楽の方へ流されていく自分が哀れで情けなくて……でもどこかで楽しんでいるふしがあった。
やがて男のイチモツが一段と怒張してきたのを感じる。破裂寸前なのだろう。息遣いも荒く獣じみた表情を浮かべるさまは獲物を狩る猛禽類のようだった。
「そろそろ出そうだ」
宣言とともに腰使いが荒々しく変わる。喉奥に打ち付けるような動きに窒息しそうになるが必死に耐えた。早く終わらせて欲しい一心で更に強く吸い込む。それがトドメとなったかのように熱い液体が放出された──
大量の精液が口内いっぱいに広がり鼻腔にも抜ける。生臭さに嘔吐感が込み上げるが堪えるしかない。吐き出したところで状況は何一つ変わらないのだから……
「全部飲んでくれたら嬉しいんだけどねぇ」
命令じみた提案。普通であれば拒否すべきところを迷ってしまった。これ以上関係を進めたくないと思っているはずなのにこの人の言うことを聞いてあげたくなってしまう不可思議な魔力。それを感じてしまっていたのだと思う。
結局観念して嚥下する羽目になる。喉越し最悪の粘っこい液体を何とか飲み干した。胃袋へ落ちていく感触が気持ち悪くて仕方ないけど我慢するしかなかった。
「ありがとう……君みたいな人は貴重だよ」
感謝の言葉と共に抱き寄せられる。その温もりに戸惑いつつも拒絶できない自分がいて呆れるしかない。
これからどうするんだろう?
不安と期待がない交ぜになった感情の中で問いかけるも答えが出るはずもなく──ただ成り行き任せになるしかない状況であった──
「じゃあ次は俺がサービスしてあげようじゃないか」
男の言葉に息を呑む。先程の彼の射精で少し冷静さを取り戻した昭夫だったが、次の展開への不安と期待が入り混じっていた。自分の番だと言われた時の妙な高揚感。相手はベテランだけあって技術には自信があるのだろう。
「ちょっと待って……」
躊躇う声も虚しく熟年男は既に跪いている。目が合うとウィンクを飛ばす余裕っぷり。歳の割には色気が溢れすぎている。しかもその両眼には捕食者の鋭さが宿っていた。
「何も心配はいらない。君がしてくれたように丁寧に扱うさ」
その台詞の終わりとともに唇が近づく──舌先が亀頭に触れた瞬間全身が雷撃を受けたように痺れた。これが「男の舌技」というものなのか? 自分が施した行為とはまったく質が異なる緻密さと優雅さがあった。
「ぅ……っ」
思わずうめき声を漏らしてしまう。男は満足げな笑みを浮かべると本格的な愛撫を開始した。まずは周縁部から中心に向かって円を描くようにねっとり舐め上げてくる。カリ首のくびれ部分に集中的に唾液を塗り込むやり方は官能小説で読んだ知識そのままだった。そして突如として訪れる亀頭集中攻撃! 吸い込む強烈な吸引力に加え左右交互に小刻みに動く舌遣い……こんな高等技術どこで身につけたのだろう?
「すごぃ……っ」
率直な感想が口をつく。これまでやってきた女性たちでは及びもつかない高度な技巧。特に尿道口を執拗に狙われると切なさが込み上げてきてどうにもならない気分になるのだ。こんなの知ってしまったら普通のセックスに戻れなくなるんじゃないか? 心底恐ろしかった。
「まだまだ序盤ですよ」
揶揄うように言ってのけると熟年男は一旦唇を離し両手を使い始めた。片方では竿全体を握り締め上下運動しながらもう一方では金玉袋を優しく揉み込む作業を行う並行処理能力の高さよ。こんな器用さを持っているなんて想像もしなかったぞ畜生! その全てが絶妙な力加減ゆえ痛みなど皆無だ。ただひたすら甘美な性感のみが伝わってくる。
「あーもう駄目かも」
本音を口走るや否やすぐに追撃が始まる。今度は根元までずっぽり収めてジュルジュル音を立てつつストロークを繰り返す本格派スタイルへ変化したではないか! 時折見せる高速ピストンの破壊力と言ったら何と表現すればよいのやら。肉厚な唇でシコシコされる摩擦感と時おり掠める八重歯の危険な刺激はまるっきり別種類の快楽となって襲いかかってきた。
男の指が優しく髪を梳いていく。その感触が妙に心地よくて目を細めてしまう。普段なら振り払いたくなる行為なのに今は逆に安心感すら覚える不思議。そんな自己矛盾に翻弄されながらも舌の動きは止まらない。
最初は躊躇いがちだったのが徐々に大胆になっていく。亀頭全体を覆うようにねぶり回したり裏筋に沿ってゆっくり舐め上げたり──そのたびに男の呼吸が乱れるのを感じ取り愉悦を覚える自分がいる。
「そろそろ咥えてくれるかい?」
頷く代わりに大きく口を開けた。丸々とした亀頭を含んだ途端口内が圧迫される感覚。やはり大きい。苦しさから涙目になるけれどすぐに慣れてきた。口蓋垂で擦るように刺激すればまた新しい快感を得られる。その発見が新鮮であり楽しいと思ってしまう時点で相当おかしくなっている自覚はあった。
「そのまま吸い込んでみて」
言われるままに真空パックのごとく吸引する。唇を窄めバキュームするように強く吸い込めば男は低く唸った。それが嬉しくてもっと強くしようとすると喉奥に届いてしまう。反射的に嗚咽しかけるものの何とか堪えて続ける。ここまで来たら途中で投げ出すわけにはいかない。
「うん……最高だ」
頭を撫でる手つきが強くなる。犬扱いされているようで屈辱的なのになぜか反抗する気になれない。むしろもっと求めてほしいとすら感じてしまう。このままではいけないとわかっていながらも快楽の方へ流されていく自分が哀れで情けなくて……でもどこかで楽しんでいるふしがあった。
やがて男のイチモツが一段と怒張してきたのを感じる。破裂寸前なのだろう。息遣いも荒く獣じみた表情を浮かべるさまは獲物を狩る猛禽類のようだった。
「そろそろ出そうだ」
宣言とともに腰使いが荒々しく変わる。喉奥に打ち付けるような動きに窒息しそうになるが必死に耐えた。早く終わらせて欲しい一心で更に強く吸い込む。それがトドメとなったかのように熱い液体が放出された──
大量の精液が口内いっぱいに広がり鼻腔にも抜ける。生臭さに嘔吐感が込み上げるが堪えるしかない。吐き出したところで状況は何一つ変わらないのだから……
「全部飲んでくれたら嬉しいんだけどねぇ」
命令じみた提案。普通であれば拒否すべきところを迷ってしまった。これ以上関係を進めたくないと思っているはずなのにこの人の言うことを聞いてあげたくなってしまう不可思議な魔力。それを感じてしまっていたのだと思う。
結局観念して嚥下する羽目になる。喉越し最悪の粘っこい液体を何とか飲み干した。胃袋へ落ちていく感触が気持ち悪くて仕方ないけど我慢するしかなかった。
「ありがとう……君みたいな人は貴重だよ」
感謝の言葉と共に抱き寄せられる。その温もりに戸惑いつつも拒絶できない自分がいて呆れるしかない。
これからどうするんだろう?
不安と期待がない交ぜになった感情の中で問いかけるも答えが出るはずもなく──ただ成り行き任せになるしかない状況であった──
「じゃあ次は俺がサービスしてあげようじゃないか」
男の言葉に息を呑む。先程の彼の射精で少し冷静さを取り戻した昭夫だったが、次の展開への不安と期待が入り混じっていた。自分の番だと言われた時の妙な高揚感。相手はベテランだけあって技術には自信があるのだろう。
「ちょっと待って……」
躊躇う声も虚しく熟年男は既に跪いている。目が合うとウィンクを飛ばす余裕っぷり。歳の割には色気が溢れすぎている。しかもその両眼には捕食者の鋭さが宿っていた。
「何も心配はいらない。君がしてくれたように丁寧に扱うさ」
その台詞の終わりとともに唇が近づく──舌先が亀頭に触れた瞬間全身が雷撃を受けたように痺れた。これが「男の舌技」というものなのか? 自分が施した行為とはまったく質が異なる緻密さと優雅さがあった。
「ぅ……っ」
思わずうめき声を漏らしてしまう。男は満足げな笑みを浮かべると本格的な愛撫を開始した。まずは周縁部から中心に向かって円を描くようにねっとり舐め上げてくる。カリ首のくびれ部分に集中的に唾液を塗り込むやり方は官能小説で読んだ知識そのままだった。そして突如として訪れる亀頭集中攻撃! 吸い込む強烈な吸引力に加え左右交互に小刻みに動く舌遣い……こんな高等技術どこで身につけたのだろう?
「すごぃ……っ」
率直な感想が口をつく。これまでやってきた女性たちでは及びもつかない高度な技巧。特に尿道口を執拗に狙われると切なさが込み上げてきてどうにもならない気分になるのだ。こんなの知ってしまったら普通のセックスに戻れなくなるんじゃないか? 心底恐ろしかった。
「まだまだ序盤ですよ」
揶揄うように言ってのけると熟年男は一旦唇を離し両手を使い始めた。片方では竿全体を握り締め上下運動しながらもう一方では金玉袋を優しく揉み込む作業を行う並行処理能力の高さよ。こんな器用さを持っているなんて想像もしなかったぞ畜生! その全てが絶妙な力加減ゆえ痛みなど皆無だ。ただひたすら甘美な性感のみが伝わってくる。
「あーもう駄目かも」
本音を口走るや否やすぐに追撃が始まる。今度は根元までずっぽり収めてジュルジュル音を立てつつストロークを繰り返す本格派スタイルへ変化したではないか! 時折見せる高速ピストンの破壊力と言ったら何と表現すればよいのやら。肉厚な唇でシコシコされる摩擦感と時おり掠める八重歯の危険な刺激はまるっきり別種類の快楽となって襲いかかってきた。
(PC)
8 熟年妄想族
part 7
「お願いしますっ……もう許してください」
必死の懇願も虚しく熟年男の責めは加速する。喉奥まで深々と咥え込んだまま上下運動を繰り返すその舌技はもはや芸術と呼ぶべき域に達していた。唾液でヌメる口腔内で巧みに絡みつく軟体動物のごとき舌先。時折強く吸引することで生まれるバキューム音がさらに羞恥心を煽ってくる。
「んぐっ!」
突然の締め付けに腰が跳ね上がった。根元部分をしっかりと掴まれた状態での搾り取るような動き。これでは逃げ場がない。抵抗しようとしても両脚がガクガク震えるばかりで立っているのがやっとだ。
「ふぅ……」
一瞬解放されると思いきや即座に別の攻撃が始まった。今度は亀頭の先端だけを集中的にねぶる特殊技だ。敏感な鈴口を舌先でグリグリ抉られると電流が走ったかのような激感が背筋を駆け抜ける。同時に陰?を優しく転がす指使いも侮れない。まるでこちらの弱点を見透かされているようだ。
「ここが弱いんだろぉ?」
低い声で囁かれると鳥肌が立った。バレてる? まさか見抜かれているっていうのか? 戸惑う暇すらなく今度は裏筋を舌全体で舐め上げられてしまった。ゾワッと寒気にも似た快感が全身を支配していく──駄目だ。もう限界だ!
「ダメだっ……ホントに出ちゃいますっ」
悲鳴じみた警告にも関わらずフェラチオは苛烈さを増すばかり。いやむしろ焦らす素振りなど微塵も見せない決定打を次々叩き込まれている感覚すらある。
「いいよ……出しな」
促す台詞と共にラストスパートの抽送速度が跳ね上がる。もう我慢なんかできるわけがないじゃないか!
「くうっ!!!」
ついに堪忍袋の尾が切れ盛大に射精を迎えた──熱い奔流が喉奥へ注ぎ込まれていくのを感じる。それすらも飲み干さんばかりに吸い尽くす熟練娼婦顔負けの対応ぶりなのだ。信じられないことに全て吐き出しきったあとでもなお名残惜しそうに竿全体を舐め回しているではないか。その献身的な奉仕には感謝しかないものの若干引いてしまう自分がいたことも否定できない事実なのである……
「ハァッ……良かったかぁ?」
満足そうな顔で問いかけられる。正直言えば凄まじく良かったと答えるしかないだろう。あんな技巧を見せつけられてしまったら今さら他の人とはできない身体になっているかもしれないぞ畜生ォオオオン!
「最高だ……こんなプレイ初めてだ」
照れ隠し半分で返事をしながら立ち上がろうとしたところで違和感に気づいた。なんだか下半身全体が異様に火照っているような気がするんだがどういうことなんだろう?
「ふむ……まだまだ元気みたいですねぇ」
再び膝立ちになった熟年男が意味ありげな笑みを浮かべる。股間に添えられた手が蠢き始めた時、突然現実が押し寄せてきた。
妻子の顔が脳裏を過ぎる。
妻の笑顔。娘の寝顔。平凡だが幸福な家庭生活が鮮明に蘇る。
さっきまでの興奮が急速に冷めていくのが分かる。
「こんなこと……本当にいいのか?」
問いかけは虚空に消える。
「どうしたんだい?」
挑発するような笑みを浮かべる熟年男。その瞳の奥に宿る光には有無を言わさぬ力があった。
「俺は……」
言葉に詰まる。理性が警鐘を鳴らす一方で、身体の芯から沸き起こる欲求は抑えられないほど膨れ上がっていた。
「ありがとうございました」
深い溜め息と共に告げる。その言葉には様々な感情が混ざっていた。
「最高だったよ」
偽りのない本心を口にする。生涯で最も鮮烈な快楽だった。それは確かだった。
「名前を教えてもらえますか?」
訊ねると男は苦笑した。
「名乗るほどの者じゃないが……『大黒』とでも呼んでくれ」
大黒……どこか聞き覚えのある苗字だと思ったが思い出せない。そもそも真実かどうか疑わしい。
「私は……」
自分の名前を言いかけたところで制される。
「君のことは知らない方がいい」
その言葉には何か含みがあった。深入りしない暗黙の了解だということだろう。
トイレを後にすると想像以上の豪雨だった。コンクリート舗装の地面に叩きつける水音が耳を塞ぐ。
身体はたちまち濡れそぼつ。それでも不思議と寒さは感じなかった。身体の内側が未だに火照っていたからだ。
「何をしているんだ俺は……」
独りごちる声は雨音にかき消される。
思考は千々に乱れる。現実は遠い夢のようだ。
濡れた路面を蹴る靴音が遠く響く。まるで他人事のように感じる。
あの男……大黒さんといったか─立派なイチモツだったな……
考えると胸が疼いた。自分の中に眠っていた欲求が確かに目覚めてしまったのだ。
これは病だ。抗えない衝動。
帰ったら風呂に入ろう。温まって布団に潜り込もう。
何もかも忘れてしまえればいい。
だがそんな都合の良いことは起きないと知っている。
記憶は消せない。感覚は薄れない。植え付けられた種が花開くまであと幾日もない。
明日からどう生きればいい? わからない。
でもきっと同じ夜が来る。満月が嘲笑うように輝く夜が。
その時は迷わないだろう。本能に従い手を伸ばす。それが唯一の選択肢となるまで。
雨上がりの匂いを嗅ぎながら歩みを進める。街灯の光輪が水面に歪む。
もうすぐ家だ。迎え入れてくれる家族がいる。
愛情も責任もある。
だからこそ闇へ堕ちることに背徳的な悦びがあるのかもしれない。
罪と罰の狭間で悶える己自身の姿を想像すると妙に興奮するのは何故だろうか? もう止められないところまで来ていた。ただひとつの確信を持って玄関扉に手を掛ける。そして静かに開けると中へ滑り込んだ──
続く
「お願いしますっ……もう許してください」
必死の懇願も虚しく熟年男の責めは加速する。喉奥まで深々と咥え込んだまま上下運動を繰り返すその舌技はもはや芸術と呼ぶべき域に達していた。唾液でヌメる口腔内で巧みに絡みつく軟体動物のごとき舌先。時折強く吸引することで生まれるバキューム音がさらに羞恥心を煽ってくる。
「んぐっ!」
突然の締め付けに腰が跳ね上がった。根元部分をしっかりと掴まれた状態での搾り取るような動き。これでは逃げ場がない。抵抗しようとしても両脚がガクガク震えるばかりで立っているのがやっとだ。
「ふぅ……」
一瞬解放されると思いきや即座に別の攻撃が始まった。今度は亀頭の先端だけを集中的にねぶる特殊技だ。敏感な鈴口を舌先でグリグリ抉られると電流が走ったかのような激感が背筋を駆け抜ける。同時に陰?を優しく転がす指使いも侮れない。まるでこちらの弱点を見透かされているようだ。
「ここが弱いんだろぉ?」
低い声で囁かれると鳥肌が立った。バレてる? まさか見抜かれているっていうのか? 戸惑う暇すらなく今度は裏筋を舌全体で舐め上げられてしまった。ゾワッと寒気にも似た快感が全身を支配していく──駄目だ。もう限界だ!
「ダメだっ……ホントに出ちゃいますっ」
悲鳴じみた警告にも関わらずフェラチオは苛烈さを増すばかり。いやむしろ焦らす素振りなど微塵も見せない決定打を次々叩き込まれている感覚すらある。
「いいよ……出しな」
促す台詞と共にラストスパートの抽送速度が跳ね上がる。もう我慢なんかできるわけがないじゃないか!
「くうっ!!!」
ついに堪忍袋の尾が切れ盛大に射精を迎えた──熱い奔流が喉奥へ注ぎ込まれていくのを感じる。それすらも飲み干さんばかりに吸い尽くす熟練娼婦顔負けの対応ぶりなのだ。信じられないことに全て吐き出しきったあとでもなお名残惜しそうに竿全体を舐め回しているではないか。その献身的な奉仕には感謝しかないものの若干引いてしまう自分がいたことも否定できない事実なのである……
「ハァッ……良かったかぁ?」
満足そうな顔で問いかけられる。正直言えば凄まじく良かったと答えるしかないだろう。あんな技巧を見せつけられてしまったら今さら他の人とはできない身体になっているかもしれないぞ畜生ォオオオン!
「最高だ……こんなプレイ初めてだ」
照れ隠し半分で返事をしながら立ち上がろうとしたところで違和感に気づいた。なんだか下半身全体が異様に火照っているような気がするんだがどういうことなんだろう?
「ふむ……まだまだ元気みたいですねぇ」
再び膝立ちになった熟年男が意味ありげな笑みを浮かべる。股間に添えられた手が蠢き始めた時、突然現実が押し寄せてきた。
妻子の顔が脳裏を過ぎる。
妻の笑顔。娘の寝顔。平凡だが幸福な家庭生活が鮮明に蘇る。
さっきまでの興奮が急速に冷めていくのが分かる。
「こんなこと……本当にいいのか?」
問いかけは虚空に消える。
「どうしたんだい?」
挑発するような笑みを浮かべる熟年男。その瞳の奥に宿る光には有無を言わさぬ力があった。
「俺は……」
言葉に詰まる。理性が警鐘を鳴らす一方で、身体の芯から沸き起こる欲求は抑えられないほど膨れ上がっていた。
「ありがとうございました」
深い溜め息と共に告げる。その言葉には様々な感情が混ざっていた。
「最高だったよ」
偽りのない本心を口にする。生涯で最も鮮烈な快楽だった。それは確かだった。
「名前を教えてもらえますか?」
訊ねると男は苦笑した。
「名乗るほどの者じゃないが……『大黒』とでも呼んでくれ」
大黒……どこか聞き覚えのある苗字だと思ったが思い出せない。そもそも真実かどうか疑わしい。
「私は……」
自分の名前を言いかけたところで制される。
「君のことは知らない方がいい」
その言葉には何か含みがあった。深入りしない暗黙の了解だということだろう。
トイレを後にすると想像以上の豪雨だった。コンクリート舗装の地面に叩きつける水音が耳を塞ぐ。
身体はたちまち濡れそぼつ。それでも不思議と寒さは感じなかった。身体の内側が未だに火照っていたからだ。
「何をしているんだ俺は……」
独りごちる声は雨音にかき消される。
思考は千々に乱れる。現実は遠い夢のようだ。
濡れた路面を蹴る靴音が遠く響く。まるで他人事のように感じる。
あの男……大黒さんといったか─立派なイチモツだったな……
考えると胸が疼いた。自分の中に眠っていた欲求が確かに目覚めてしまったのだ。
これは病だ。抗えない衝動。
帰ったら風呂に入ろう。温まって布団に潜り込もう。
何もかも忘れてしまえればいい。
だがそんな都合の良いことは起きないと知っている。
記憶は消せない。感覚は薄れない。植え付けられた種が花開くまであと幾日もない。
明日からどう生きればいい? わからない。
でもきっと同じ夜が来る。満月が嘲笑うように輝く夜が。
その時は迷わないだろう。本能に従い手を伸ばす。それが唯一の選択肢となるまで。
雨上がりの匂いを嗅ぎながら歩みを進める。街灯の光輪が水面に歪む。
もうすぐ家だ。迎え入れてくれる家族がいる。
愛情も責任もある。
だからこそ闇へ堕ちることに背徳的な悦びがあるのかもしれない。
罪と罰の狭間で悶える己自身の姿を想像すると妙に興奮するのは何故だろうか? もう止められないところまで来ていた。ただひとつの確信を持って玄関扉に手を掛ける。そして静かに開けると中へ滑り込んだ──
続く
(PC)