1 熟年妄想族

ポルノ映画館 第二章

新型コロナの外出自粛要請が解除された最初の土曜日に数ヶ月ぶりにポルノ映画館に行った。もちろん、コロナ禍で溜まった欲求不満を解消するためだ。
外の世界はまだマスク姿の人々であふれていたが、私の心の中はすでに完全に自由だった。コロナウイルスによって強制的に閉ざされた私の内なる世界が、ようやく解放される時が来たのだ。
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2 熟年妄想族
part 1

高橋は思わず喉を鳴らした。三十秒にも満たないやりとりなのに随分と時間が経ったような錯覚をおぼえるほど濃密な情報量だ。視覚・聴覚・嗅覚さえも働いているのではないかと疑うほど鮮明だ。
映画のストーリーは完全に置き去りになっている。二人とも頭の中で様々なシュミレーションを繰り広げていることだろう。妄想と現実の境界線上で葛藤しながら次なる一手を考える。
男の眉間によった皺は不快感ではなく興奮の証左だろう。目尻を持ち上げ薄く微笑む。それは獲物を見つけた狩人のようであり捕食対象を見定めた狼のようでもある。
互いに目配せするだけで意志疎通ができる関係性になっていることに気づいた。言葉以上のコミュニケーション手段があるなんて思いもよらなかった。言語以前の原始的な共感があることを確信したのだ。
二人は並んで座りイチモツを握っている。暗闇の中では視覚的情報は減衰される代わり聴覚・触覚といった他の五感が研ぎ澄まされてゆく。
高橋は左手で竿全体を覆うように握る。親指で尿道を圧迫し小刻みな振幅運動を行う。鈴口から滲み出る腺分泌液(我慢汁)を利用すれば潤滑効果もあり摩擦係数が減少するので扱いやすくなる。
一方男のほうは根元近くで輪を作るようにホールドしていた。包皮の境目を通過させることで強い刺激を与える手法らしい。亀頭部への接触面積が多くなり性感帯をより多く刺激できる利点もあるという。どちらを選ぶかは個人差によるところが大きいのだそうだ。
映画館でのハンドジョブとはまったく斬新なアイディアだと思う。誰も知らない秘密基地みたいな空間だ。こんなところで性器を見せ合っている自分たちのことが急におかしくなってきた。
大画面には若い男女が裸体を絡ませていた。バックスタイルで結合部位を中心に構成されている構図である。
男の顔が近づく。マスク越しに耳元で「シャブってもいいか?」と問いかけた。
高橋は躊躇わずベルトを緩めはじめた。バックルの留め具を外し革紐を引き抜き周囲から怪しまれないよう一連の動きを機械的にこなす。
チャックを最下まで引き下ろすと陰茎が躍り出てくる。亀頭が半分覗く程度に開放するのは慣れた仕草だ。
ついにズボンを膝下まで一気にずり下ろした。片足ずつ外し完全に脚から抜き取る。左膝辺りで丸めた布地を一旦床に置いてから靴を履いたままの右足首を引き抜いた。
こうして高橋は下半身丸出しになった。公衆の面前で局部を晒す解放感と羞恥心がないまぜになった複雑な感情が込み上げてくる。外出自粛要請期間中の禁欲生活とは比べものにならない刺激だ。
男は高橋の太腿あたりに手を添えてきた。冷たい指先に体温が奪われるようだが同時に妙な安堵感もある。
他人に触れられる感覚に戸惑いつつも期待してしまう自分がいることを認めざるを得ない。これが求め続けていたものなのだと本能的に悟った。
いよいよ眼前に高橋のズル剥け巨根がさらけ出された。長さ約十八センチ直径四〜五センチという雄臭漂う風格があった。
画面では正常位の体位になり抽送が始まっていた。結合部がアップになると女性器内部で攪拌される泡立ち粘液音が排出される様子が克明に映し出される。その淫靡な情景に誘われてか男の喉仏がゴクリと上下するのが見えた。
互いに興奮指数が跳ね上がったことで臨界点を超えてしまったようだ。理性などとうに吹き飛んでしまった二人にとって残された選択肢はひとつしかない。相手との物理的融合だけなのだ……。
男は高橋の膝裏を持って開脚させていく。「んっ……ふぅっ……」
という小さな呼吸音とともに露わになる秘部。恥じらいよりも好奇心の方が勝ってしまった結果だろう。
男が唐突にマスクを外した。
その瞬間、高橋の脳天を稲妻が貫いた。
目の前に現れたのは紛れもなく同じ部署の山田だった。
普段は黒縁メガネの奥で穏やかな笑みを浮かべる熟年親父。それが今は別人のようにギラついた眼光を放っている。
思考回路がショートし言葉が出てこない。まるで時間を切り裂かれ虚空に投げ出された気分だ。
「……」
息を呑む音さえ聞こえない静寂。
なぜこんな事になっているんだ?
あの温厚篤実な山田さんがまさか俺のチンポを咥えようとしているなんて信じ難すぎる!
高橋の心拍数は暴走列車のごとく加速し続ける。脈打つごとに血液が逆流しているんじゃないかと錯覚するくらいに熱い。
外出自粛要請以降ずっと禁欲していたとはいえここまで常軌を逸していただろうか? 自宅ではパソコンに向かってセンズリする日々だったはずなのに……。
頭の中でぐるぐる回る疑問符とは裏腹に肉体の方は正直だった。硬マラだったイチモツがさらに急速に硬くなっていくのが分かる。窮屈な体制の中で脈打ち苦しげに呻いているようだった。
(PC)
3 熟年妄想族
part 2

高橋の身体は固まってしまっていた。驚きと恐怖が入り混じった奇妙な感情が全身を駆け巡る。
山田がマスクを取った瞬間の衝撃は計り知れなかったが、今はそれを悟られないよう必死に平静を装う。
会社では冗談一つ言わない寡黙な同僚という印象だった男がこんな場所で自分の股間に顔を埋めているなんて想像もできない光景だった。しかも自分と同じ歳で家庭を持っているのに。
だがここで慌てるのは得策ではない。
ならばこのまま最後まで行為を終わらせれば良い。お互い大人なのだし後腐れなくサヨナラすれば問題ないはずだ。
しかし内心の動揺を抑えきれずに呼吸は荒くなり顔色も青褪めていたかもしれない。それでもなんとか表情を崩さぬように努めるうちに落ち着きを取り戻したような気がした。
山田はそんな高橋の心情を見透かしたようにゆっくりと顔を近づけると亀頭をペロッと舐めるようにキスをする。生温かく湿った感触に鳥肌が立つ。
そして次の瞬間には喉の奥深くまで一気に飲み込まれてしまう感覚。ヌメッとした感触といっしょに鼻腔に届く特有の匂いが堪らない。
しばらくその状態で固定され唾液が垂れるのも厭わずに吸引を始めた。ジュルルルーという卑猥な水音と共に肉棒全体が締め付けられ吸い込まれていくみたいに感じる。
その吸引力は強烈で油断したらすぐにでも射精してしまいそうだ。
やがて唇が離れていきホッとする間もなく第二陣が開始された。今度は舌先を使った丹念な愛撫が始まったのだ。カリ首を中心にして円を描くように執拗以上にくすぐられるうちに堪え切れずに喘いでしまうほどに追い詰められてゆく……。
高橋は山田の口技に圧倒されていた。
会社では寡黙で真面目そうなこの男が、こんなに高度な技を持っていたとは。
口腔内の粘膜を利用して丁寧に吸い付きながら根本を締めつけたり緩めたりして巧みに搾乳されていく。歯が当たらぬよう注意深く調整されているものの刺激としては十分すぎるぐらいだ。
さらに裏筋への細やかなタッチや袋へ伸ばされる指遣いが絶妙すぎて腰砕けになりそうになってしまう。
(ヤバイ……こいつ本当に初めてじゃないな)
あまりの手際に恐れ慄くどころか尊敬さえ覚えつつあった。少なくとも昨日よりは数倍上手いと言い切れる自信はある。
映画上映中の密室とはいえ公共施設の一画である事を忘れて没入してしまうほどだ。幸い隣の客との間隔があり他の人に気づかれにくい配置になっているため多少の騒音なら許容範囲内だと言えるだろうか。
山田の口技は止まることなく続いていた。
同時に彼自身も太マラをまさぐり始めたようだ。唾液と我慢汁で光る亀頭を舌先で転がしながら器用に右手を動かしている。
暗闇の中ではあるが明らかにイチモツを扱いる形跡が見受けられる。その証拠に時折大きく肩を震わせながらも決して動きを止めようとしない。
(おいおい……自分まで気持ちよくなっちゃってるじゃねぇか)
呆れつつも嫌悪感より好奇心が勝ってしまうのは男の性というものだろうか。山田の自慰行為を見るなんて生まれて初めての体験だ。
映画の大音量が幸いして呼吸音さえもかき消してくれるおかげで周囲に気づかれる可能性は低いだろう。もっとも両者の熱気で温度差ができているかも知れないので要注意だ。
それにしても山田という男は意外と奔放な性格だったらしい。
今まで一緒に仕事をしてきた限りでは真面目なタイプだったし休日を聞いたことも無い。おそらく家族サービスか家事に勤しんでいると思っていたのに蓋を開けてみるとこうだ。
まあいい。俺だって人のことを言える立場でもない。今日ぐらい羽目を外したって罰は当たるまい。
それにしても山田がここまで積極的になるなんて思わなかった。会社では無口で頼れる同僚というイメージだったのでギャップ萌えと言うべきか?
普段からエロい奴とは思っていたけどまさか実際に味わうことになるとは夢にも思わなかった。
高橋の巨根が山田の口内で暴れ出す。
太さ五センチ近い剛直が口腔いっぱいに収まり呼吸困難になりそうなほどだ。それでも彼は懸命に吸引を続けている。喉奥でグッグッと締め付けるたびに粘膜が絡みつき、射精欲求が一気に高まっていく。
「あぁ……もうダメだ!」
低く呻く声と共に睾丸が収縮し始める。それを見た山田も扱きを加速させた。
グチュッグチョォと湿った音が響く中、ついにその時が訪れた。
「ウッ!!」
「フゥゥッ!!」
ほぼ同時に二人は昇天を迎えた。高橋の尿道口から飛び散った白濁液は山田の舌上に命中し粘り気のある液体となって溢れ落ちていく。
その刹那山田も絶頂を迎え自らの掌中に精を解き放つ大量の精液が飛び散り衣服を汚すことは避けられなかったが今の彼らにとっては些末なことであった。
それよりもこの一瞬の恍惚感こそがすべてだった。
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4 熟年妄想族
part 3]

映画館という特殊な環境での行為は背徳感に満ちており普段以上の快楽を伴っていた。
山田は立ち上がり、ありがとうと言ってトイレに向かった。高橋は山田の「ありがとう」という言葉を背中で聞きながら急いで席を立った。残液がまだ残るイチモツを拭う暇もない。映画館の廊下は閑散としていて非常灯だけが薄暗く照らしている。
(早く……早く出ないと)
通路を歩く足音が異常に大きく聞こえる。
映画館のゲートを抜けると見慣れた夜空が広がっていた。映画館独特の閉塞感から解放され一気に全身の力が抜ける感覚。けれど安心する暇はない??やはりというか山田の車と同じプリウスを見つけてしまったのだ。
駐車場の片隅に停まっていた銀色の小型車。特徴的なフロントグリルは間違いなく山田の愛車だ。
(バレないうちに出なければ?)
焦りがこみ上げる。まだトイレだろうか。いずれにせよ今は逃げるのが先決だ。
高橋は急ぎ足で自分の車へ向かい乗り込む。シートに深く腰掛けながらドアを閉めるとようやく人心地ついた気になる。エンジンを掛ける前に何度も深呼吸を繰り返す。
(俺……何やってんだろ……)
今日一日の出来事が一瞬でフラッシュバックする。
山田との行為はもちろんのことその後の気まずさも含めて記憶が渦巻く。それでも高橋の股間には未だ熱い疼きが残っていてどうにも落ち着かない。
翌日会社で山田はいつものように挨拶してきた。おはようございます、と淡々と述べる山田の顔には何の変化も見られない。黒縁メガネの奥で優しく細められた目はいつも通りだ。
(ほっ……やっぱり昨日のことは気づいてないんだ)
高橋は心の中で安堵のため息をついた。昨夜の映画館での出来事はやはり非日常だった。山田は家庭のある熟年親父で普段は控えめな人柄。きっとあれは外出自粛要請で溜まったストレスが一時的に爆発しただけだろう。
そう自分に言い聞かせる。オフィスのデスクに着くとPC画面に向き合う。いつもと変わらない朝礼、業務確認メールのチェック。窓の外ではまだ冬の名残を感じる風がビルを揺らしている。
昼休みに入り食堂で二人で定食を食べていた時だった。
「高橋さん」
突然の声に振り向くといつもは黙々と食べている印象があったが今日は珍しく高橋に話しかけてきたのだ。
「高橋さん。ようやく外出自粛要請が解けて良かったですね」高橋に話しかけてきたのだ。
山田の言葉に高橋の箸が一瞬止まった。
「……そうだな」
そう答えるのが精一杯だった。確かにパンデミック前は金曜日になると二人で飲みに行くのが習慣だった。終電を気にせずカラオケに行ったり朝まで麻雀をしたりする事もあった。
それが突然中断された時の喪失感は大きかった。
「また行きましょうよ。今週末とか」山田が茶碗を持ち上げて提案する。メガネの奥の瞳は相変わらず穏やかだ。
「ああ、もちろん」高橋は曖昧に笑って頷いた。しかし内心では激しい葛藤が渦巻いている。
(昨日のこと……)
炊き立てのご飯を噛みしめながら昨夜の記憶が蘇ってくる。映画館の暗闇の中で見た山田の顔。荒い息遣い。そして熱い舌先が這い回る感触。
「高橋さん?」
山田の声で現実に引き戻された。湯気の立つ味噌汁を啜りながら山田が首を傾げている。
「すまん……ちょっと考え事してただけだ」
高橋は慌てて椀を持ち上げた。湯気で曇るメガネ越しに見える山田の表情は読めない。あの映画館での出来事は何だったんだろう。
マスク越しの俺に気付かなかったのか?それとも……
「そうですか」
山田は特に追及することもなく再び箸を動かし始めた。生姜焼きの脂が白い米粒に染み込んでいく様子を眺めながら考える。もし気づかれていたら?山田は今どんな気持ちで俺と話しているんだろう。
「……なあ山田」
「はい?」
「休みの日は何してるんだ?」
何気ない質問のつもりだったが声が少し震えた。山田は咀嚼していた肉を飲み込むと、意外なほど素直に答えた。
山田は軽く笑って、「まあ……だいたいは家にいますね。掃除とか洗濯とか」と答えた。
「奥さんいるのに?」高橋が意地悪く訊ねると、山田は困ったように眉を下げて笑った。
「そんないい嫁じゃありませんよ。家事は全部自分でやりますし……それに今はほとんど一人ですからね」
その言葉に高橋は少し驚いた。以前に聞いた話では娘さんが高校生ぐらいだったはずだ。
「何かあったのか?」
「ええ……今は別居中なんです」
「外出自粛要請が続いている間は、家に閉じこもりっきりでしたからね。元々は娘が学校に行ってる間にお互いの時間を確保できていたんですが……」山田は苦笑いしながら続けた。「私が在宅ワークで家にいる時間が増えて……まあ色々と小さな摩擦が重なったんです」
「具体的にどんなことで揉めたんだ?」高橋は慎重に訊ねた。

続く
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