97 南◆QyhO
僕はフットサルをやっているのです。
少し前までは友人や後輩とチームを作り、仕事帰り週一のペースでやっていたけど、皆仕事やら何やらで方々へ散り人が集まらなくなり現在は休止状態。
今は不定期ながら余所のチームに声をかけてもらい、そこでやらせてもらっています。そこにはお世話になっている先輩がいて、たまに子供を連れてくる。小6と小2。
こやつらが正真正銘の兄弟でありますが、性格が殆ど真逆と言って良いだろう兄は携帯を貸してやれば延々とようつべなんかで音楽やらゲームやらの動画を漁るようなばかやろう。なれば弟は小さなアスリートで、その運動神経は目を見張るモノがあるばかやろうで、ゲームなどは及びもつかず苦手らしい。
で、少し私情を挟みますが、こやつらを「ばかやろう」と申しますのもこの兄弟、ふたりして僕のことを呼び捨てにしやがる、まるで友達同士と思っていやがるばかやろうだからでありますハイ。
かわいい。
で、そんなばかやろうの弟と僕は、試合の合間、30分に一度くらいの休憩時間にコートを占拠し、ふざけながらもボールを蹴る。
こやつが中々のもんで、しっかりと蹴れているから僕としては休みながら程よく体を動かすのにちょうど良いお相手。何やら家に帰っても練習しているらしく上達の程が窺えるし、まだまだ先のお話だけど選手としてちょっと楽しみにしていた。
つづく。
少し前までは友人や後輩とチームを作り、仕事帰り週一のペースでやっていたけど、皆仕事やら何やらで方々へ散り人が集まらなくなり現在は休止状態。
今は不定期ながら余所のチームに声をかけてもらい、そこでやらせてもらっています。そこにはお世話になっている先輩がいて、たまに子供を連れてくる。小6と小2。
こやつらが正真正銘の兄弟でありますが、性格が殆ど真逆と言って良いだろう兄は携帯を貸してやれば延々とようつべなんかで音楽やらゲームやらの動画を漁るようなばかやろう。なれば弟は小さなアスリートで、その運動神経は目を見張るモノがあるばかやろうで、ゲームなどは及びもつかず苦手らしい。
で、少し私情を挟みますが、こやつらを「ばかやろう」と申しますのもこの兄弟、ふたりして僕のことを呼び捨てにしやがる、まるで友達同士と思っていやがるばかやろうだからでありますハイ。
かわいい。
で、そんなばかやろうの弟と僕は、試合の合間、30分に一度くらいの休憩時間にコートを占拠し、ふざけながらもボールを蹴る。
こやつが中々のもんで、しっかりと蹴れているから僕としては休みながら程よく体を動かすのにちょうど良いお相手。何やら家に帰っても練習しているらしく上達の程が窺えるし、まだまだ先のお話だけど選手としてちょっと楽しみにしていた。
つづく。
(ID:7xcaPt)
98 南◆QyhO
そんなばかやろうの弟が、いやはやまったく、寝耳に水とはこのことか数週間前のとある日曜日、なんということだ野球チームに入りやがると言い出した。
「おまえ、野球やるの?」
『やるよ!』
何故だろうか、虚を突かれた感もあり「そうなんだ」と味気なしの拍子抜けした僕の返答。それでも彼はにやりと笑みを浮かべ『サッカーやろうぜ』と、ボールを探し辺りをキョロキョロ。
ボールを蹴り合うとは不思議なモノで、年齢の壁を越え風呂で男同士背中を流し合う、昭和の親子像というか童心に帰るというか、そんな感覚に近いように思えてくる。
「なんで野球なんだよ、おまえサッカー上手いのに」
僕は率直な気持ちを彼にぶつけた。
『野球楽しそうだから』
やけに冷静な言葉がボールに乗って蹴り返ってくる。
「ふうん」
と一言、足元でトラップしたボールだが、なんだか首尾よく受け止めきれず歯痒さを感じてしまった。トラップというのは来たボールを止める動作というより、次の動作に移るためなるべくベストな位置にボールを置く動作であり、この意味合いで言うところあの時の僕は動作に円滑さを欠き、完全にトラップミスしたと言える程ぎこちなかっただろうと思われる。――
つづく。
「おまえ、野球やるの?」
『やるよ!』
何故だろうか、虚を突かれた感もあり「そうなんだ」と味気なしの拍子抜けした僕の返答。それでも彼はにやりと笑みを浮かべ『サッカーやろうぜ』と、ボールを探し辺りをキョロキョロ。
ボールを蹴り合うとは不思議なモノで、年齢の壁を越え風呂で男同士背中を流し合う、昭和の親子像というか童心に帰るというか、そんな感覚に近いように思えてくる。
「なんで野球なんだよ、おまえサッカー上手いのに」
僕は率直な気持ちを彼にぶつけた。
『野球楽しそうだから』
やけに冷静な言葉がボールに乗って蹴り返ってくる。
「ふうん」
と一言、足元でトラップしたボールだが、なんだか首尾よく受け止めきれず歯痒さを感じてしまった。トラップというのは来たボールを止める動作というより、次の動作に移るためなるべくベストな位置にボールを置く動作であり、この意味合いで言うところあの時の僕は動作に円滑さを欠き、完全にトラップミスしたと言える程ぎこちなかっただろうと思われる。――
つづく。
(ID:7xcaPt)
99 南◆QyhO
コートのレンタルは2時間。アッという間に過ぎてしまう。各々帰り支度をしたり談笑したりと汗を拭いつつ過ごしている。まだ少し煮え切らない僕に、苦笑いの先輩がことの真相を話し始めた。
「嫁が嫌なんだとさ、サッカーの当番とか、ママの友達がサッカーチームには少ないみたいで野球のほうに誘われたらしいよ、どうせ当番ならそっちのがいいみたい、俺はサッカーチームに入れたいんだけどね…」
なるほど奥さんの差し金か「野球楽しそうだから」の真意はともかく、妙に合点がいった。実はこの兄弟、まだもうひとり三男がいる。次男はきっと親にかまって欲しいのだ。ちょうどそんな頃合いだ。
「それは敵わないですね、仕方ないのかな…」
こちらも苦笑でそれ以上はよそさまのことだと踏み入らなかった。――
それからばかやろうの弟は野球チームに入団した。運動神経は良いので即戦力として期待されているらしい。少しだけ誇らしげに話す先輩が面白い話をした。
「でもあいつさ、野球のスパイク買いに行ったらさ、サッカーのトレシューがいいって聞かねえんだよ、仕方ないから買ってやったけど、ひとりだけ可笑しなことになってる」
それからばかやろうの弟には会ってない。――
「嫁が嫌なんだとさ、サッカーの当番とか、ママの友達がサッカーチームには少ないみたいで野球のほうに誘われたらしいよ、どうせ当番ならそっちのがいいみたい、俺はサッカーチームに入れたいんだけどね…」
なるほど奥さんの差し金か「野球楽しそうだから」の真意はともかく、妙に合点がいった。実はこの兄弟、まだもうひとり三男がいる。次男はきっと親にかまって欲しいのだ。ちょうどそんな頃合いだ。
「それは敵わないですね、仕方ないのかな…」
こちらも苦笑でそれ以上はよそさまのことだと踏み入らなかった。――
それからばかやろうの弟は野球チームに入団した。運動神経は良いので即戦力として期待されているらしい。少しだけ誇らしげに話す先輩が面白い話をした。
「でもあいつさ、野球のスパイク買いに行ったらさ、サッカーのトレシューがいいって聞かねえんだよ、仕方ないから買ってやったけど、ひとりだけ可笑しなことになってる」
それからばかやろうの弟には会ってない。――
(ID:7xcaPt)