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1 賢者の書12 まほ図鑑

石井聡美

こちらは主に600歳以降の魔法使い(すなわち北出身の魔法使い)に関するイベスト&こぼれ話&原典に関する考察です。
25 オルフェウス他
トラキアの王、オイアクロスとミューズのカリオベの息子であるオルフェウスは竪琴の名手でした。(竪琴はアポロンからもらったもので、元々は5本の弦でしたがオルフェウスはそこに2本足して7本にしました)オルフェウスの心を射止めたのがエウリュディケでした。ところがエウユディケは蛇に咬まれて亡くなってしまい、オルフェウスは彼女を取り戻すために冥界へ下りることにします。竪琴の音色でケルベロスを眠らせることに成功し、冥界の王ハデスからも許しが出ますが、一つだけ条件が出されます。それは地上に出るまで決して振り返らないこと。ところが本当にエウリュディケが後ろにいるのか不安になったオルフェウスが約束を破って振り返ってしまったためにエウリュディケは再び冥界に戻されてしまうのでした。その後、オルフェウスが亡くなると彼の竪琴は天にのぼり星座になりました。
オルフェウスの死因について、マルグリット.フォンタ(遠藤訳)は自死と説明する一方、有地京子はディオニッソス(バッカス)の信者によって体が八つ裂きにされたとしています。(2部で探し求めていた花嫁の顛末(アリアとザラの姉妹の間で起きたこと)がフラッシュバックしたことにより傷心のラスティカの体が羽のようになってしまうのはここに由来するのかも)
参考図書
マルグリット.フォンタ(著)遠藤ゆかり(訳)
100の傑作で読むギリシア神話の世界 名画と彫刻でたどる
創元社,2018
有地京子(著)
名画で味わうギリシャ神話の世界ー神々.美女.英雄たちの愛の物語
大修館書店,2020
因みに高名なジャズピアニストにNat King Coleがいます。後に歌手としても活躍し、SmileやLoveなどは現在でもよく耳にします。どちらも西の国の雰囲気によく合いますが、こちらのコール王はラスティカをさすものと思われます。齢400歳越えのラスティカは名門のフェルチ家の出でチェンバロ奏者としても名を馳せていました。本人も勝手の違いは認めていましたが、西の祝祭では楽団とともに見事なピアノ演奏を披露します。歌の腕前もなかなか?
24 犬の音楽家(中務訳)
「お前たちの町の竪琴弾きについて同じような話がもう一つ語られた。動物たちがオルペウスと交流していた時、他の者はオルペウスの歌に喜び我を忘れるばかりで、真似をしようなどとはしなかった。ところが犬族というのは恥しらずで出しゃばりだから、何匹かが音楽に手を染め、その時早速走り去って自分で練習を始め、姿を人間に変えて、今もその活動を続けている。それが他ならぬ竪琴弾きの一族だ。だから連中は本性をすっかり捨て去ることができず、オルペウスの教えも僅かばかり保持するものの、彼らの音楽の大部分は未だに犬のようなのだ。かのプリギア人が戯れに語った話だ」
北3が聞いたら確実に怒るでしょうが、西のコンチェルトのイベストに彼らが同行したのはこの寓話を意識してのことでしょう。因みにイベストの中では西の演奏を彼らもお気に召した様子。(ここでいう竪琴弾きのオルペウスはラスティカを示すものと思われます)
※シャイロックとムルは1500歳で西の魔法使い。ムルの方がシャイロックより年上です。
23 Old King Cole
Old King Cole was a merry old soul
And a merry old soul was he.
He called for his pipe and called for his bowl.
And he called for his fiddlers three.
Every fiddler,he had a fiddler.
And a very fine fiddler had he.
Twee tweedle dee,Twee tweedle dee
went the fiddlers.
Oh,there's none so rare as can compare
with king Cole and his fiddlers three. 
(日本語訳)
コール王はとても陽気な方だった。
彼はパイプとボウルをご所望になった。
そして3人のバイオリン弾きをお呼びになった。
それぞれの弾き手がバイオリンを持っていた。
何て上手な弾き手を王はお持ちだったことか。
バイオリン弾きは演奏を続けた。
コール王と3人のバイオリン弾きに並ぶ珍しい者など
いやしない。
22 とっておきの1枚

賢者の魔法使いを迎えるための中央の国のパレードの余韻から、北の魔法使いとともに西の国の音楽で有名な街を訪れた西の国の面々。厄災の影響で蔓延っていた植物の音楽を聴かせると成長する性質を逆手にとって夜通し演奏することに。シャイロックの魔道具はキセルで彼は西の先生でもあります。西の人数は彼を除いて三人。ここからマザーグースに登場するコール王の歌を思いだしました。コール王はパイプをふかし、彼の前で演奏する楽隊の人数は三人います。
21 4周年へ向けて


4周年でシャイロックを連れ去るバルタザールは、元々は北の魔法使いでしたが、オズの世界征服中に勢力争いに敗れて西の国に逃れてアダムズ島へと追いやられました。勢力を盛り返そうと神酒の歓楽街に手を伸ばし、シャイロックの店にやってきますが、シャイロックは引き下がりませんでした。何でも力ずくで奪ってきたバルタザールにとっては唯一自分になびかなかったのがシャイロックであり、屈辱的だったことでしょう。そのときのことをムルなりの軽口を混じえて表現しています。
20 2部のシャイロック










それぞれの祝辞に該当する場面。シャイロックのこだわり、優しさ、矜持、戸惑いが詰まった場面集。
19 多様なシャイロック3




もちろん決めるところは決める、マイペースに見えてきちんと授業をしてくれる、それがシャイロックのいいところ。
18 多様なシャイロック2





シャイロックといえば、やっぱりお酒と葡萄。
シャイロックをイメージした西のチョコ、ベネットのとっておきのお酒、花の街のお祭り用の特別なお酒、夏期講習中の特別なドリンク。
17 多様なシャイロック1








負けず嫌い、ムルに振り回される、故郷への憂い、見方を変えるなどの大人の余裕、それらが全てあるのがシャイロック。
16 シャイロック・ベネット



若い魔法使いの言う通り、シャイロックはサポートに入っても頼もしい存在です。もしかすると彼自身が主役のストーリーよりも魅力的にうつるかもしれません。リケのコメントは、2部で西の国で店を出すシャイロックの友人を訪ねた際に、彼のパイプを真似ている店主とリケが交わした会話を受けています。
15 シャイロック・ベネット







確かにメインスト、イベストともにシャイロックの物語には、西の色男、親でも入れ替わりに気づかないために獣のような振る舞いをするように見えた子ども、音楽で成長する植物、厄災の影響で勝手に育つ葡萄などディオニュソスの伝承をもとにしているらしい箇所が見受けられます。
14 シャイロック・ベネット


シャイロックの名前と厄災後に魂に負った傷はベニスの商人の登場人物から来ていると思われますが、彼らの祝辞が示すようなシャイロックの物語の背景にあるのは、ギリシャ神話のディオニュソス、ローマ神話でいうところのバッカスです。ゼウスの姿を拝んだことで母が雷に打たれてなくなり、ゼウスの腿から生まれたというディオニュソスは葡萄からワインを醸造する方法を人に伝授したといわれる他、自分を信奉する女性たちを山の上に集わせていました。そして自分を信奉しなかったペンテウスを欺き、彼を獣だと思った母親のアガウエに殺させてしまうという残忍な面をもっています。
13 シャイロック・ベネット
シャイロックと特別な関係にあるのがムル。彼は月に焦がれて砕けてしまったムルの魂の欠片を集めて、少しずつ戻しています。ただ西の祝祭で訪れた天空離宮や二部で訪れた植物園で、前回の厄災後実体化するようになったムルから、以前とは違う人格にムルがなっていることを指摘されて戸惑います。またムルに振り回された結果、スノウは己の片割れに等しい存在であるホワイトを手にかけてしまい、何とか魂だけは繋ぎ止めることに成功しました。さらに、ムルはオズにも絡んで、シャイロックが間に入って謝罪したことがあります。オズとは目を合わせるのもはばかられるとか。そんなシャイロックでも己の美学に反することをされれば怒ります。2部ては魂にうけた傷の影響で心臓が燃える痛みを抱えるシャイロックに無理に介入したオズに怒ります。同じ西の魔法使いで西の中では最年少のクロエに対しても、植物園で会ったケルヴィンからラスティカが自分と旅したことを忘れていること、探している花嫁が実は亡くなっているのではないかということについて、それ以上追及すべきか悩んでいたときに心の燃え上がる方を選ぶようにとアドバイスします。




12 シャイロック・ベネット
10月14日はシャイロックの誕生日。1500歳のシャイロックは貴族の出で領地で取れる葡萄から作った酒を王家に納めていた時期もあったとか。今は西の国の一等地である神酒の歓楽街にお店を出しています。魔法舎にもバーを出しています。



11 木樵とヘルメス
ヘルメスはまほやくにおいてはブラッドリーを象徴する存在と考えられます。現に、リケがメインのイベストでは相棒であるネロが登場して心理面でも戦闘においてもサポートをしています。また、ヘルメスは物語の鍵を握る登場人物の名前でもあります。このイベストのテーマである、友人が善意からついた嘘を許せるかという命題は有名なイソップ童話から来ていると思われます。いわゆる金の斧、銀の斧です。ただし、ここでは湖ではなく、川に誤って斧を飛ばしてしまった正直者の木樵が女神ではなくヘルメスから金、銀、そして自分の斧をもらい、自分でわざと斧を川に落とした木樵は、さらに金の斧を自分の斧だと偽りますが、ヘルメスは金の斧どころか元の斧すら与えなかったということになっています。嘘をつかれると悲しくなりますが、何故相手が嘘をつかざるを得なかったのか、事情に耳を傾けることも重要だとリケは学びます。

10 こうもりにまつわる話B
"リスモルの島から来た漁師の話では「蝙蝠の齢ですか?それはユダがキリストに接吻して敵の手に渡したその時のユダの齢と同じで、それより若くもなければ年寄でもないんです」と気やすく答へた”
青空文庫
燈火節ー片山廣子.蝙蝠の歴史
暮しの手帖社
これら3つの物語もオズやフィガロとブラッドリーの関係を象徴しているように思います。オズは天候を操ることができ、逆さまの雷を落とすことさえできます。(雷はギリシア神話のゼウス、ローマ神話のユピテル、北欧神話のトールを象徴してもいます)世界最強の魔法使いでさしもの北の魔法使い三人(ミスラ、オーエン、ブラッドリー)も今のところ逆らうことはできません。オズの兄弟子にあたる存在がフィガロです。フィガロはオーブを魔道具として用います。orbは英語で天体、地球を意味します。地球(儀)は西洋画の世界では天地創造の象徴でもあるそうです。またクロエが作った正装ではストラのようなものを身につけています。これらの事実をふまえると、フィガロはキリストの象徴なのではないか?という説には説得力があります。つまり、ブラッドリーはそれに刃向かう、ユダのような存在です。またオズとフィガロは世界征服を試みた時代があり今でも魔法使いや人間から恐れられる存在であるため、その意味ではサタンとも言えるかもしれません。さらに、青い鳥はラスティカを連想させます。チェンバロだけでなく様々な楽器の奏法に通じたラスティカ。ギリシャ神話で匹敵する存在がアポロンです。北のエチュードでブラッドリーはラスティカからカフスボタンを渡されますが、アポロンの竪琴はヘルメスからもらったものでした。またアポロンはカラスに恋人の不貞を告げられたことで白いカラスを黒いカラスに変えてしまいます。つまりラスティカ(アポロン)を通して間接的にオズ(カラス)とブラッドリー(ヘルメス)はつながっているといえそうです。
9 こうもりにまつわる話A
"蝙蝠は雷のために枯れた樹と稲妻とのあひだに生れた子供であるさうだ。又もう一つ聞いた名は「誇り高き父の畸形児」といふので、誇り高き父は、誇り高く花々しい天使、「悪の父」サタンである。なぜ蝙蝠がサタンの畸形児であるかといへば、それもまた御苦難にまつはる物語である。ユダが裏切りをしたあとで樹の枝でくびれ死ぬと、ユダの魂がなげき風に乗つてさまよひ出た、すると「誇り高き父」はそのみじめな魂をさげすみ切つてこの世に投げ返してよこした。しかし、投げ返す前に「誇り高き父」はその卑しいものをひねり曲げ幾たびもひねり曲げ、四百四十四回ひねり変へたので、それは人間でもなく鳥でもない、けものでもない、何よりも、卑しい鼠にいちばんよく似てゐて羽根を持つた生物の姿に変へた。「最後の日まで盲目と暗闇の中に住み、永久にのろはれてゐよ」と、「誇り高き父」が言つたさうである。それで「黄昏の逡巡者」は手も足も萎え、眼も見えず、恐れ、うたがひ、ためらひながら、幽霊のやうな声で「死ぬ日まで、死ぬ日まで」と泣きさけびながらさまよひ飛ぶのださうである”
8 こうもりにまつわる話@
"世界の初めごろ蝙蝠は川蝉のやうに青い色で、胸は燕のやうに白く、そしてうるほひ深い大きな眼を持つてゐたから、その眼の色とひらめく羽根のうごきとで「きらめく火」といふ名でもあったが、世の中が移り変わつてその「きらめく火」が「黒い放浪者」とまでなつてしまった。キリスト「御苦難」の日の出来事である。一羽の駒鳥が飛んで来て十字架の上にくるしむキリストの手から足から茨の刺を抜かうとして、キリストの血で小さい胸を赤く濡らしてゐるとき、蝙蝠がひらひらその辺を飛び廻つて、「何と私は美しいだらう!」と自慢らしく鳴いた。キリストはお眼をふり向けて蝙蝠をごらんなされた。すると潮が引いてゆく時のやうに、青と白の色が蝙蝠の体から消えて行つた。蝙蝠はめくらになり黒い体になつてぱたぱた飛んで、折しも迫る夜の中にとび入り、暗闇の中に永久に溺れてしまつた。それからは黄昏と夜の世界にだけ彼はあてもなく旋回しながら飛びまはり「なんと私は眼が見えない!私のみにくさを見てくれ!」と、ほそいほそいかすれた声で鳴くのである”
7 オペレッタ こうもりB
牢屋でアルフレートが歌っているところへフランクが帰ってくる。そこにアデーレが、共に夜会に出ていた姉とやってきて、「本当は女中だが、女優になるためにパトロンになってほしい」と言いだす。別の客人のために部屋をあけるため姉妹は牢屋の空き部屋に案内される。姉妹と入れ違いでアイゼンシュタインがやってくる。ところが既にアルフレートが自分の身代わりになっていることに驚き、弁護士に変装して真相を探ろうとする。そこに現れたロザリンドから浮気を知らされ(ロザリンドはアイゼンシュタインを弁護士と思い込み、アルフレートを牢から出すための相談をする)激昂するが、ロザリンドからも自分の浮気の証拠である懐中時計を突きつけられてしまう。そこにオルロフスキー王子とともにファルケが登場。全ては自分が仕組んだ復讐劇だったことを告白する。そこでアイゼンシュタインとロザリンドは互いに反省して仲直りをする。アデーレにはアイゼンシュタインがパトロンにつくことになった。
参考図書
田辺秀樹(訳)
オペラ対訳ライブラリー ヨハン.シュトラウスU こうもり
音楽之友社,2015
6 オペレッタ こうもりA
オルロフスキー王子の夜会にアイゼンシュタインとアデーレがそれぞれ名を変えて現れる。それに気づきながらファルケは素知らぬ顔で互いを引き合わせる。アイゼンシュタインは目の前の女性が女中のアデーレに似ていることを指摘するが、女優志望でもあるアデーレはそんなはずはないと笑い飛ばし、アイゼンシュタインは公衆の面前で恥をかく。さらには刑務所長のフランクまでも現れるが、まさか連行したはずの当人がここにいるとは思ってもみない。そこにロザリンデが現れ、アデーレにうつつを抜かすアイゼンシュタインを懲らしめてやろうと考える。ロザリンデは仮面を被り素顔が分からない。ファルケはロザリンデのこともハンガリーの伯爵夫人としてアイゼンシュタインに紹介する。アイゼンシュタインが口説き道具として見せた懐中時計をロザリンデは浮気の証拠品として受け取る。周囲に疑いの目を向けられたロザリンデは巧にチャールダシュの歌を披露する。ファルケがこのような手の込んだことをするのには理由があった。それを得意げにアイゼンシュタインの方から話し出す。3年前、アイゼンシュタインとともに出かけた仮面舞踏会でファルケはこうもりの扮装をする。酔い潰れたファルケをアイゼンシュタインが野辺に置き去りにしたために、ファルケは子どもたちから笑いものにされ、「こうもり博士」と馬鹿にされるようになってしまったという。以来、ファルケは密かにアイゼンシュタインに復讐する機会をうかがっていたのだ。楽しい時は過ぎ、アイゼンシュタインは出頭するためにフランクとともに邸をあとにする。
5 オペレッタ こうもり@
過去を記憶している蝙蝠、また時の洞窟に一人きりで置いていかれたゴーマンと聞いて思い浮かぶのはヨハンシュトラウス2世の作品、こうもりです。
(あらすじ)
アイゼンシュタインは友人のファルケ博士からオルロフスキー王子が催す夜会に誘われる。アイゼンシュタインは夜会の翌日に役人を殴った(侮辱した)かどで収監されることになっていた。アイゼンシュタインの家で働く女中のアデーレにも姉から同じ夜会への招待状が届いていた。アデーレは叔母が病気だと嘘をつき暇をもらえるよう主人のロザリンデ(アイゼンシュタインの妻)に願い出る。ロザリンデには夫の留守中に家にあげるというかつての恋人アルフレートとの約束があり、一度はアデーレの願いを断るものの、嬉しそうな夫の様子を見て聞き入れることにする。
アイゼンシュタインが夜会にでかけるとアルフレートと浮気をするロザリンデ。しかしそこに刑務所長のフランクがアイゼンシュタインを連行しにやって来る。そこでロザリンデはアルフレートをアイゼンシュタインに仕立て上げ、アルフレートは連行されていく。
4 イソップ童話
ゴーマンの元敵方というポジションはイソップ童話から来ていると思われます。現在は以下の三つの話が混ざって語られているように思います。
@蝙蝠と鼬
蝙蝠が地面に落ちて鼬に捕まったが今にも殺されそうになって命乞いをした。すべて羽根のあるものとは生まれつき戦争をしているので、逃がす訳にはいかないと鼬が言ったが、蝙蝠は自分は鳥ではない鼬だと言って放免してもらった。暫くしてまた落ちて別の鼬に捕まったが、見逃してほしいと頼んだ。今度の鼬は鼠はみな仇敵だと言ったが自分は鼠ではなく蝙蝠だと言ってまたもや逃がしてもらった。こうして蝙蝠は二度名前を変えて生きのびたのだ。<そこで我々も状況に合わせて豹変する人はしばしば絶体絶命の危機をも逃げおおすということを弁えて、いつまでも同じ所に留まっていてはならないのだ>
A黒丸烏と烏
ひときわ体の大きな黒丸烏が、同類たちを馬鹿にして烏の所へ出かけ、仲間に入れてほしいと頼んだが、烏は相手の姿と声を怪しんで叩き出してしまった。烏に追い出された黒丸烏は元の仲間の所へ戻って来たが、こちらは侮辱に憤慨して迎え入れてやらぬ。こうしてこの黒丸烏はどちらも一緒に暮らすことができなくなった。<ー人間の場合でも、祖国を捨てて他国を選ぶ者は、そこでも他所者であるため評判が悪いし、同国人からも、自分たちを馬鹿にしたというので疎まれる>
B黒丸烏と鳩
鳩小屋の鳩の餌の良いのを見た黒丸烏は、同じ食事にあずからせてもらおうと、体を白く染めて入って行った。黙っている間は鳩だと思われ、認められていたが、うっかり声を出したとたん、その声を怪しまれ、追い出されてしまった。鳩小屋の餌を失った黒丸烏は、仲間の所へ戻って来たが、体の色のために分かってもらえない。共同生活から締め出された。こうして両方を得ようと求めて、片方さえ得られなかった。<ー我々も、飽くなき貪欲は何の得にもならぬと考えて、自分のものに満足しなければならない>
訳はすべて中務哲郎氏によるもの。
3 ブラッドリー(育成)
ブラッドリーの育成場所は時の洞窟です。時の洞窟にはイエストゥルムというコウモリがいました。彼らは過去の声を記憶することができます。ブラッドリーの盗賊団にはかつてゴーマンという者がいてイエストゥルムに好かれていました。ゴーマンは元々は敵対勢力に属していましたが鞍替えしていました。ブラッドリー逮捕後、崩落に巻き込まれたゴーマンは命を落とします。時の洞窟には彼のマナ石がまだ残っていました。
2 ブラッドリー
ブラッドリーは北の魔法使いですが、600歳超えと北の中では若手です。強化魔法を得意とするため、なにかともめがちなミスラとオーエンの仲裁役に回ることもしばしば。剛と柔を使い分ける策略家です。魔法使いを父に持ちますが、兄弟のなかでは唯一ブラッドリーだけが魔法使いです。かつては「死の盗賊団」の首領でしたが、相棒的立ち位置にいたネロを待っている間に双子とフィガロに捕らえられ、脱獄できないよう契約を結んでいます。賢者の魔法使いとして召喚されてからは恩赦を求めて奉仕作業も兼ねた任務にかりだされる日々を送っています。二部では賢者から北の賢者の書を託されました。幼い頃より慕っていたエヴァをアイザックに殺されるものの、そのアイザックも死んでしまいます。人造魔法使いとの戦いで瀕死に陥ったネロを救ったことで再び距離を縮めた後は再び密かにフィガロを殺める機会を探っています。