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1 賢者の書13イベスト05〜06

石井聡美

まほやくも、2024年11月には五周年を迎える予定です。そこで四周年から2024年(令和6年)にかけてまだ取り上げていないイベストのあらすじ&元ネタをまとめて紹介していきます。
32 道化師A
芝居の時間。役者仲間のぺッぺは客の整理をしてネッダは木戸銭集めをする間に客に紛れているシルヴィオと駆け落ちすることを確認する。
(劇中劇)
コロンビーナ(ネッダ)は夫の留守中にアルレッキーノ(ペッペ)を待っている。そこに食べ物を調達するために外に出ていたタッデーオ(トーニオ)が戻り、コロンビーナに言い寄るが、アルレッキーノに追い払われる。アルレッキーノとコロンビーナは夜食をとりながら駆け落ちを約束する。そこにタッデーオが夫の帰宅を告げに来る。道化姿の夫(カーニオ)が現れてアルレッキーノは逃げる。
コロンビーナが声をかけるが、台詞が同じだったことで、ちょうどカーニオが衣装をつける前に繰り広げられた光景が重なりカーニオは怒りにかられながら芝居を続けるが次第に現実との境目がつかなくなる。ネッダは芝居の筋に戻そうとしつつ本心が入り交じり、観客にもやがて二人のやり取りがもはや迫真の演技というレベルを超えて、狂気じみていることが伝わってくる。とうとうカーニオは一線を越え、ネッダを刺してしまう。虫の息になったネッダからシルヴィオの名を聞き、シルヴィオまでも刺したところで茫然としたカーニオの手から短刀が落ちるという衝撃的な幕切れとなる。
参考文献
小瀬村幸子訳
オペラ対訳ライブラリー第6巻 
レオンカヴァッロ『道化師』あらすじより
虚と実との境目が曖昧になるカーニオの心情、愛する者に気持ちを言葉では伝えきれない不器用さはまほやくのリーベの物語に呼応しています。ただし、『道化師』の場合はまほやくと立場が逆転(カーニオは座長)し、妻にまで手をかけてしまった点でより悲劇的な幕切れを迎えます。
31 衣装をつけろ
(アクセント記号なし)
Recitar!Mentre preso dal delirio 
芝居をするっていうのか!気が触れそうなこのざまで。
non so piu quel che dico e qual che faccio!
喋ることもやることも、俺はからきし覚えちゃいない。
Eppur e d’uopo sforzati!
それでも無理してやらにゃあなるまい。
Bah sei tu forse un uom?Tu se’ Pagliaccio!
ああ、手前はそれでも男か。道化師風情だわ。
Vesti la giubba e la faccia infarina.
衣装をつけて白粉塗りたくれ!
La gente paga e rider vuole qua.
お客はここへ銭を払って笑いにくる。
E se Arlecchin t'invola Colombina.
アルレッキーノが手前からコロンビーナを寝取るなら
ridi,Pagliaccio……e ognun appalaudira!
笑えパリアッチョ、そうすりゃみんな拍手喝采!
Tramuta in lazzi lo spasmo ed il pianto;
悶えてしゃくりあげたら滑稽に変えろ。
in una smorifia il singhiozzo e'l dolor……
嗚咽で胸が痛けりゃ顰めっ面に変えろ。
Ah!Ridi Pagliaccio,sul tuo amore infranto!
おお、笑えパリアッチョ、手前の破れた恋のため。
Ridi del duol che t'avvelena il cor!
笑え、胸ずたずたの悲しみを。
引用図書
相澤啓三(編著)オペラ.アリアベスト100.新書館,2000
30 道化師
アルレッキーノとコロンビーナはレオンカヴァッロ作のオペラ『道化師』の中の劇中劇で演じられるキャラクターでもあります。
聖母昇天祭の日の南イタリアにあるカラーブリア州モンタルト村。村のはずれには旅回りの一座の掛小屋が設置されている。そこに座長のカーニオの馬車が現れ、晩に上演する劇の宣伝をする。一座の道化役者のトーニオは馬車から降りてくる座長の妻、ネッダの手をとろうとするがカーニオに平手打ちされる。トーニオには座長への恨みが募る。芝居が始まるのを前にカーニオたちは酒場へとくりだすがトーニオは残る。村人がトーニオのネッダに対する下心をからかうとカーニオは、お芝居(これがアルレッキーノとコロンビーナの物語)で起きれば娯楽になることも、現実に起きればただではすまさないと言い残す。そこにバグパイプ吹きが現れ、教会の鐘の音とともに村人たちは教会へ行ってしまい、ネッダだけが残される。実はネッダは村の若者、シルヴィオとすでに“通じて”いた。そこにトーニオが現れ、ネッダへの思いを告白するがネッダは相手にしない。それどころかトーニオに鞭を喰らわせ、トーニオの恨みを買ってしまう。入れ替わりに現れたシルヴィオにネッダは不安を打ち明ける。すると、シルヴィオはネッダに一緒に逃げるように言うが、二人は一連のやりとりをトーニオに見られてしまう。トーニオはカーニオに告げ口に走る。シルヴィオとネッダが駆け落ちしようと決めたところでカーニオが戻り、計画を聞かれてしまう。シルヴィオはカーニオから逃げおおせる。カーニオはネッダを問い詰めるが、ネッダはかたくなに相手の名前を言うのを拒む。そして芝居の時間がやってきてしまう。気持ちの整理もつかぬまま、空しさを抱えてカーニオは道化役の支度を始める。
29 プルチネッラの恋
ついこのあいだ、コロンビーナが死にました。葬式の日には、アルレッキーノは舞台に出なくてもいいことになりました。この男は悲しみにうち沈んだ男やもめなんですから。そこで監督は、美しいコロンビーナと容器なアルレッキーノが出なくても見物人を失望させないように、何かほんとうに愉快なものを上演しなければなりませんでした。そのため、プルネッラはいつもの二倍もおかしく振る舞わなければならなかったのです。プルネッラは心に絶望を感じながらも、踊ったり跳ねたりしました。そして拍手喝采を受けました。『すばらしいぞ!じつにすばらしい!』プルチネッラはふたたび呼び出されました。ああ、プルチネッラは、ほんとうに測りしれない価値のある男でした!ゆうべ芝居が終ってから、この小さな化け物はただひとり町を出て、さびしい墓地のほうへさまよって行きました。コロンビーナの墓の上の花輪は、もうすっかりしおれていました。プルチネッラはそこに腰をおろしました。そのありさまは絵になるものでした。手はあごの下にあて、眼はわたしのほうに向けていました。まるで一つの記念像のようでした。墓の上のプルチネッラ、それはまことに珍しいこっけいなものです。もしも見物人がこのお気に入りの役者を見たならば、きっとさわぎたてたことでしょう。『すばらしいぞプルチネッラ、すばらしいぞ、じつにすばらしい!』” 
引用図書
アンデルセン(作).矢崎源九郎(訳).
絵のない絵本 第十六夜.新潮社
28 プルチネッラの恋
『あたし、あんたに何が駆けているか知ってるわ』と、コロンビーナは言いました。『それは恋愛なのよ』それを聞くと、プルチネッラは笑いださずにはいられませんでした。『ぼくと恋愛だって!』と、この男は叫びました。『そいつはさぞかし愉快だろうな!見物人は夢中になって騒ぎたてるだろうよ!』『そうよ、恋愛よ!』と、コロンビーナはつづけて言いました。そしてふざけた情熱をこめて、つけ加えました。『あんたが恋しているのは、このあたしよ!』そうです、恋愛と関係のないことがわかっているときには、こんなことが言えるものなのです。するとプルネッラは笑いころげて飛び上がりました。こうして憂鬱もふっとんでしまいました。けれども、コロンビーナはisんじつのことを言ったのです。プルチネッラはコロンビーナを愛していました。しかも、芸術における崇高なもの、偉大なものを愛するのと同じように、コロンビーナを高く愛していたのです。コロンビーナの婚礼の日には、プルチネッラはいちばん楽しそうな人物でした。しかし夜になると、プルチネッラは泣きました。もしも見物人がそのゆがんだ顔を見たならば、手をたたいて喜んだことでしょう。
27 プルチネッラの恋
アルレッキーノ、プルチネッラ、コロンビーナはともにイタリアの風刺劇の登場人物です。3者のなかでまほやくの物語の中のリーベの立場に最も近いのはプルチネッラといえるでしょう。一方、リーベのもうひとつの姿である嘘つきピエロの容姿に近いのはアルレッキーノといえそうです。(もしくはプルチネッラの理想の姿ともいうべきが)
“「わたしはひとりのプルチネッラを知っています」と月が言いました。「見物人はこの男の姿を見ると、大声にはやしたてます。この男の動作は一つ一つこっけいで、小屋じゅうをわあわあと笑わせるのです。けれどもそれは、わざと笑わせようとしているわけではなく、この男の生まれつきによるのです。この男は、ほかの男の子たちといっしょに駆けまわっていた小さいころから、もうプルチネッラでした。自然がこの男をそういうふうにつくっていたのです。つまり、背中に一つと胸に一つ、こぶをしょわされていたのです。ところが内面的なもの、精神的なものとなると、じつに豊かな天分を与えられていました。だれひとり、この男のように深い感情と精神のしなやかな弾力性を持っている者はありませんでした。劇場がこの男の理想の世界でした。もしもすらりとした美しい姿をしていたなら、この男はどのような舞台に立っても一流の悲劇役者になっていたことでしょう。英雄的なもの、偉大なものが、この男の魂にはみちみちていたのでした。でもそれにもかかわらず、プルチネッラにならなければならなかったのです。苦痛や憂鬱さえもがこの男の深刻な顔にこっけいな生真面目さを加えて、お気に入りの役者に手をたたく大勢の見物人の笑いをひき起こすのです。美しいコロンビーナはこの男に対してやさしく親切でした。でもアルレッキーノと結婚したいと思っていました。もしこの『美女と野獣』とが結婚したとすれば、じっさいあまりにもこっけいなことになったでしょう。(中略)
26 オペラ座の怪人のオマージュ部分




ガストンルルーの原作をベースに舞台化と映画化が繰り返されてきたオペラ座の怪人は、支配人が交代するところから始まります。オベラ座では、ジョゼフビュケーをはじめ、怪人が住みつき不可解な現象を引き起こすと噂していました。その一つが支配人に届く奇妙な手紙。給与の請求のみならず、常に5番のボックスを空けておくようにというものでした。さらに、手紙の主は劇場所属の若手、クリスティーヌに目を留め、彼女を自分の手で育てたいと思うようになります。一方でクリスティーヌにはラウル子爵という幼なじみがいました。ラウルもまたクリスティーヌに惹かれていました。いつしか、怪人の想いは恐ろしい殺人事件へと帰結していきます。公演中にシャンデリアが落ち、さらにはジョゼフビュケーの遺体が見つかるのです。まほやくの物語では姿の見えない怪人、彼のクリスティーヌへの想い、シャンデリアの事件がオマージュとしてはめ込まれています。
25 今回のポイント
@嘘つきピエロとアイリスの悲恋(出会いと別れ)の物語の下地は「オペラ座の怪人」。
A嘘つきピエロはイタリアの喜劇に出てくるアルレッキーノのイメージ。
 アンデルセンは彼を「絵のない絵本」の物語のひとつに登場させている
 が、物語のイメージは「ノートルダムの背むし男(ノートルダムの鐘)」
 に出てくるカジモトとエスメラルダのイメージに近い。
Bブリキの人形はオズの魔法使いのブリキ男から。彼の望みは心臓を得ること。心臓を隠しているために何度も甦ることができるというオーエンと呼応。
余談
C劇場の雰囲気はまるでピノキオの世界のよう。またトレードマーク?の猫はフランスにあったキャバレー、ル.シャ.ノワール(黒猫)を思わせる。
Dアイリス(イリス)はギリシア神話においてヘラの元侍女で神の伝令役。
24 絵空事歌う箱庭のピエス
2024年のワルプルギスの舞台は西の国の劇場。主役はオーエンです。
あらすじ
のみの市で賢者はブリキの人形を見つける。ファウストらは人形に残る思念を感じ取る。夜、ブリキの人形が歌い出し、賢者に話しかける。賢者がおぼろげに夢で見たのは、劇場の物置小屋で本を書く男の姿。
後日賢者たちは西の国の外れにある絵空事の庭という劇場を訪れる。クロエによれば貧しい家の出の子や魔力が弱い魔法使いが働き手として連れてこられるという。さらにオーエンは一度劇場に来たことがあるらしい。
アイリスという名の少女が「ワルプルギスの夜に会いましょう」と歌いだした途端、噂以上に客の様子がおかしくなる。アイリスに手をあげた観客をレノックスがとめる。ブリキの人形も少女のことが気にかかる様子。クロエが話しかけると魔法使いたちの衣装が変わる。その格好のままアイリスに話を聞きに行くと異変は大いなる厄災の襲来後に始まったという。そこでアイリスを「叱りに」来た支配人代理から仕事をもらったのを機に、魔法使いたちは団員を手伝いながら呪いの根源を突き止めることに。アイリスの演目は元々彼女が憧れていた、嘘つきピエロの最後の演目を引き継いだもの。当人は演目中にシャンデリアが落ちて10年前に亡くなっていた。(ピエロの存
命中、駆け出しだったアイリスの歌をみていたのは、物置小屋で脚本を書いていたリーベだった。そして、嘘つきピエロの事故に遭った日にリーベも姿を消していた)
ファウストとネロは呪いのもとを探して支配人を探すが団員にその姿を見た者はなく部屋ももぬけの殻だった。他の魔法使いに二人が合流すると、ブリキの人形が物置を指し示す。そこには嘘つきピエロこと、リーベの日記があった。オーエン曰く、ワルプルギスの夜に会いましょうには続きがあり、かつて劇場を訪れた時に燃やしてしまっていた。さらに突然意識が朦朧とする中、賢者は支配人失踪の真相を知ってしまう。それは同時に日記の内容そのものでもあった。劇場に蓄積された怨念や執着が「大いなる厄災」に呼応して観客の異変を引き起こしていた。オーエンは舞台にあがり、リーベが残した本当の「ワルプルギスの夜に会いましょう」を紡ぎだす。劇場が火に飲まれる中、魔法使いは舞台の続きを装い観客を外へ誘導する。そして残ったのはブリキの人形。中からはリーベのマナ石が出てくる。
23 落月華とキルシュペルシュ
エイプリルフールは毎回、桜をモチーフとするものが登場します。今回はお酒。これを摂取しなければ、鏡映子は終いには花弁となって消えてしまいます。

22 アルテレーゴの掟
設定のポイント
毎回エイプリルフールは元々の設定を活かした部分と逆転した部分があります。
@ホワイトはスノウに庇護されておりスノウの弱点。
(実は幼少期に亡くした双子の片割れの遺骨と桜月華の樹液の結晶から作られた鏡映子。スノウはキルシュペルシュの存在を広めた黒いシルクハットの
男からその製法を聞かされる。本来は血液が必要)
Aオズは元々ペンティスカの一員で抜けようとした時にスノウと揉めた。
(@を読むと、スノウに本来のオズの設定が、Aを読むとオズに本来のホワイトの設定が重ねられている一方、オズが元々の組織(本編では国)を離れてアーサーと同じ組織に属している点は維持。)
Bカインはグローリア自警団を率いていた。オッドアイは生来。
(本編ではカインのオッドアイはオーエンに無理矢理入れ替えられたもの)
Cペンティスカを裏切ったブラッドリーをネロが追っている。
(本編ではネロの方が一度はブラッドリーを裏切っている)
Dかつて鏡映子のムルはシャイロックを傷つけたことがある。
(本編では魂が砕けてしまったムルにシャイロックは魂の欠片を戻しつつ教育を施している。むしろムルの方が本来の姿とはどこか違っていてシャイロックを傷つけている)
さらに今回は黒幕として黒いシルクハットの男(人形遣い)が登場。彼は1.5部で登場する黒幕、オヴィシウスを思わせます。また鏡映子の設定は、リリアーナに成り代わっているザラや人造魔法使いの存在を想起させます。
21 アルテレーゴの掟
今年のエイプリルフールはマフィアもの。舞台はペンティスカ、ルナ.ピエーナ、パンテーラの3つのファミリーが暗躍するフォルモーントタウン。
記憶をなくした晶はルナ.ピエーナ所属のシャイロックに助けられる。街では暴徒化した人間が現れ、同時期に落月華と呼ばれる花の花弁を残して消失するという奇妙な事件が起きていた。
パンテーラのトップ、ヒースクリフが調査に乗り出す。
ヒースの幼なじみで側近のアーサーはペンティスカの構成員であるカインとミスラに遭遇する。ペンティスカ.ファミリーの首領(ドン)、スノウは部下にキルシュペルシュという酒を探させていた。あえて目立つように部下を動かすことで他の組織にも探させるほど必死なのには訳があった。スノウの元には金色の目の少年、ホワイトがいた。
組織がもつキルシュペルシュを狙う輩がいるとシャイロックが警戒した矢先に、ヒースクリフが酒場を訪ねてくる。パンテーラが経営するカジノを訪れていた抗争相手の構成員からキルシュペルシュが死者を蘇らせると聞いていたヒースクリフはシャイロックを見て驚く。彼は過去にシャイロックに救われたことがあった。一方のシャイロックはその周辺の記憶を失っていた。
実はルナ.ピエーナの構成員であるシャイロック、リケ、オーエンはそれぞれ過去に命に関わる危険を経験していた。闇医者(フィガロ)の治療を受けていたリケを病から救ったのはルナ.ピエーナのボス、ムルだった。ペンティスカの構成員であるカインはかつて大怪我をしていたオーエンに遭遇していた。カインが以前に会ったときは両目共に赤かったが、今の彼の目は金と赤のオッドアイだった。
ヒースクリフはスノウに取引を持ちかけられるが、恩人のシャイロックを匿うことを選ぶ。夜、ホワイトの目が赤くなり暴走するところだったが、キルシュペルシュを飲ませると落ち着きを見せる。キルシュペルシュはルナ.ピエーナの構成員が月に1度行う儀式(朋輩の儀)の中で飲用する酒だった。
3つのファミリーは一連の事件の全容を解明するために手を組むことに。
シャイロックの案内でムルの棲まいに着くとオーエンが待っていた。一同がそこで見たのはキルシュペルシュと同じ液体(落月華の樹液)のなかで眠るルナ.ピエーナの構成員、各々にそっくりの人物たち。キルシュペルシュこそが彼らの命綱だったのだ。(キルシュペルシュを飲まなければ三年で夜に暴れ出す)※アルテレーゴはalter egoで分身という意味。
そこにシャイロックの友人でもある、ムルから電話がかかってくる。どうやらムル以外にキルシュペルシュの製法を盗んだ何者かが街に流しているらしい。暴徒化を防ぐべく、シャイロックたちは一計を案じる。
20 エイプリルフール

2024年のエイプリルフールは、シャイロックが主役のマフィアもの。初っ端からもう色気と怪しい魅力が隠せていません。未成年は閲覧要注意です。
19 Never ending story歌詞
Turn around           振り返って
Look at what you see       目の前に見えるものに
In her face            目をこらすと
The mirror of your dreams     君の夢が鏡映しに
Make believe I'm everywhere    どこにでもいると信じさせてくれる
Hidden in the lines         台詞の裏に隠されているもの
Written on the pages        頁に書かれたものが
Is the answer to a never ending story 決して終らない物語に答えてくれる
Ah-ah-ah-ah-ah
Reach the stars           星に手を伸ばし
Fly a fantasy            幻想の中を飛び
Dream a dream           夢を見る
And what you see will be      そこで君が見るものは
Rhymes that keep their secrets   韻の中に隠された秘密が
Will unfold behind the clouds    雲の後ろから明らかになる
And there upon the rainbow     空には虹がかかり
Is the answer to a never ending story 終らない物語の答えをくれる
Ah-ah-ah-ah-ah
Story
Ah-ah-ah-ah-ah
Show no fear            恐れを見せるな
For she may fade away       彼女が消えてしまうよ  
In your hands            君の手の中に
The birth of the new day      新しい日の始まり
Rhymes that keep their secrets   韻の中に隠された秘密が
Will unfold behind the clouds    雲の後ろから明らかになる
And there upon the rainbow     空には虹がかかり
Is the answer to a never ending story 終らない物語の答えをくれる
Ah-ah-ah-ah-ah
Never ending story
Ah-ah-ah-ah-ah
Never ending story
Ah-ah-ah-ah-ah
Never ending story
Ah-ah-ah-ah-ah
Never ending story
(非営利目的で使用)
18 幼ごころの君の名前
老亀のモーラがアトレーユに語ったところによれば幼心の君の名前はひとつではありません。
「おまえはまだちょっと生きただけ、わしらはもう長いこと生きておる。長すぎるほど生きておる。ともあれ、われわれは時の中に生きておる。おまえのは短い、わしらのは長い。幼ごころの君はそのわしらよりまだずっと昔からおられる。それでいて、年はとられん。いつもお若いままじゃ。よいか。幼ごころの君の存在は時の長さではかられるのではのうて、名前によるのじゃ。新しい名前がいる。くりかえしくりかえし、新しい名前がいるのじゃー幼ごころの君はこれまでにたくさんの名前を持たれた。それがみな忘れられてしもうた。みな昔のことになってしもうた。よいか、幼ごころの君は、お名前なしには生きておいでになれぬ。女王さまは新しい名前を必要としておられるのじゃ。そうすればまたお元気になられる−」(上田.佐藤訳)

ここで幼ごころの君と呼ばれた者に名前を与えるのは、バスチアンのようにこの物語に出会い、手に取った少年少女たちなのです。さらにいえば物語の内容も同じではありません。
「おじさんはぼくの話を信じてくれるんですか?」バスチアンはたずねた。
「もちろんだ。」コレアンダー氏は答えた。「もののわかった人間なら、だれだって信じるだろう。」「正直いって、ぼく、信じてもらえるとは思っていませんでした。」バスチアンはいった。「絶対にファンタージエンにいけない人間もいる。」コレアンダー氏はいった。「いるけれども、そのまま向こうにいきっきりになってしまう人間もいる。それから、ファンタージエンにいって、またもどってくるものもいくらかいるんだな、きみのようにね。そして、そういう人たちが、両方の世界を健やかにするんだ」(中略)
どうしておじさんはそんなによく知っているんですか?ーもしかして、おじさんも、ファンタージエンにいったことがあるんじゃないんですか?」
「もちろんいってきたよー幼ごころの君は、おれも知っているーおれは別の名前をさしあげた。しかし、それは問題じゃないーほんとうの物語は、みんなそれぞれはてしない物語なんだ。ーファンタージエンへの入口はいくらもあるんだよ、きみ。そういう魔法の本は、もっともっとある。それに気がつかない人が多いんだ。つまり、そういう本を手にして読む人しだいなんだ。」「それじゃ、はてしない物語は、人によってちがうんですか?」
「そう思うんだよ、おれはーそれに、ファンタージエンにいってもどってくるのは、本だけじゃなくても、もっとほかのことでもできるんだ。きみも、やがて気づくだろうがね。」(上田.佐藤訳)
追記
モーラは長く生きすぎて、その孤独さ故に一人なのにまるで二人いるような話の仕方をします。その有様はファウストのみならず、双子やアーサーと出会う前、もしくは離ればなれになった後のオズのよう。
17 果てしない物語とまほやく
カーソス以外にも『果てしない物語』はまほやくの様々なイベントストーリーやキャラ造形の中に顔出しています。たとえば中央のファンタジアのイベストに出てくる本屋でアーサーを待っている一冊は、まさにバスチアンにとっての『果てしない物語』と言えるでしょう。アトレーユが幼心の君の代理人であることを示す印であるアウリンは二匹の蛇が互いを噛み合う、ウロボロスの蛇のような形をしています。カインは蛇を苦手としています。ファンタージエンの中でも医師のなかの医師として尊敬を集めるカイロンはフィガロの存在を思わせます。(ケイロンはヘラクレスやイアソンの師であり、アスクレピオスに医術を授けた存在でもあります)憂いの沼の老亀モウラはあらゆることに投げやりな感情を抱いています。それはまるで東の国に引きこもっていたファウストを思わせます。竜を苦しめていた軍隊蜘蛛とアトレーユの取引は「落魄の血に鉄の真意を」の英雄の街で賢者たちが出会うヴァルシーと契約関係にあった人物の存在を思わせますー物語の最後、本が消えてしまい、バスチアンはコレアンダーの店に謝りに行きます。ところがコレアンダーは本の存在を知らないと言います。それもバスチアンが半ば追い出されるように本を盗んだ時とはまるで別人の穏やかな口調で。その様子は、西の国の豊かの街に店を出すシルウェスを思わせます。シルウェスも魔法使いで本当は女性の姿をしていますが、普段は老齢の男性のようにふるまって一般人は目くらましに遭うのです。
16 幸いの竜
「幸いの竜というのは、ファンタージエン国の動物の中でも、最も珍しいものの一つだった。ふつうの竜にも似ていず、ましてや地中の穴深くに棲み悪臭を放ち、実際にあるにせよあると思われているだけにせよ何かの宝を守っている、あの巨大ないまわしい大蛇などとは似ても似つかないものだった。ああいう混沌の落とし子は、たいてい性悪だったり気むずかしい性格で、こうもりのような翅をばたつかせ騒がしくぶざまに空中にあがり、口からは火や煙を吐きだすものだが、この幸いの竜はそれとは正反対の生きものだった。幸いの竜は大気と熱とあふれんばかりの歓びの子だった。並はずれて大きな体にもかかわらず、夏空に浮かぶ雲のようにかろやかなので、飛翔のための翼はいらなかった。水の中の魚のように大空を泳ぐさまは、地上から見ていると、ゆっくりと通りすぎる稲妻のようだった。中でも一番すばらしいのは、かれらの歓声だった。大きな鐘のどよめきにも似た見事な声で、静かにはなすときにはその鐘がどこか遠くからひびいてくるようだった。かれらのうたうのを一度でも聞くことのできたものは生涯忘れることができず、孫子の代までも語り伝えるという」
引用図書
ミヒャエル.エンデ(作)上田真而子,佐藤真理子(訳)
果てしない物語.岩波書店,1982
15 「果てしない物語」 導入部
母を亡くし、父親と二人暮らしのバスチアンは想像力豊かでしたがいじめられっ子でした。ある日、コレアンダー氏の本屋から一冊の本を盗んでしまいます。そのまま授業には出ずに体育倉庫及び備品庫の中でバスチアンはその本を開きます。物語の舞台はファンタージエンという架空の国。国を治めているのは幼心の君という女王でしたが、今は病の床に伏していました。時を同じくして「虚無」という危機が広がっていました。「虚無」はその名の通り、ある日突然それまでそこにいたものの存在を失わせてしまいます。幼心の君の病を診察したケンタウロスのカイロンは国の救世主としてアトレーユという若者に白羽の矢を立てます。アトレーユの指名は幼心の君に新しい名をつけられる者を探し出すこと。皮肉なことにそれはバスチアンの唯一といっていいほどの取り柄でした。

冒険に旅立ったアトレーユでしたが、駆っていた馬が憂いの沼に捕まり、冒険の足を無くしてしまいます。名前をつけられる者の手がかりを得るにはまだまだ途方も無い距離を旅しなければなりませんでした。そこでアトレーユは軍隊蜘蛛の化け物と取引し、刺されれば1時間で命を危険に曝してしまうような毒を体に入れるのと引き換えに囚われの身だった竜を救い出します。
14 Puff,the magic dragon
日本語訳
パフ、魔法の竜が海のそばに暮らしてはしゃいでいた。
秋の霧の中、ホナリーという土地で。
ジャッキー.ペーパー少年はそんないたずら好きな竜が
好きだった。
彼に紐や封蝋や他の面白い物を持っていった。
パフ、魔法の竜が海のそばに暮らしてはしゃいでいた。
秋の霧の中、ホナリーという土地で。(くり返し)
一緒に、大波の中をボートで旅をしたものだった。
ジャッキーは竜の大きなしっぽにとまって外を見渡し続けた。
高貴や王や姫が彼らが来るといつもお辞儀した。
海賊もパフがその名を叫ぶと旗を下ろしたものだった。
パフ、魔法の竜が海のそばに暮らしてはしゃいでいた。
秋の霧の中、ホナリーという土地で。(くり返し)
竜は永遠に生きられる。でも少年はそういうわけにいかない。
色を塗った翼や大きな指輪は他のおもちゃにかわられた。
ある夜、それは起きた。ジャッキーはもう来なくなった。
パフという名の強い竜は恐れ知らずの吠え声を止めた。
悲しみで頭を垂れて、緑の鱗が雨のように剥がれ落ちた。
パフはもう桜の小径で遊ばない。
人生の友がいなくて、パフは勇敢になれない。
パフは悲しそうに洞穴に滑り落ちた。
パフ、魔法の竜が海のそばに暮らしてはしゃいでいた。
秋の霧の中、ホナリーという土地で(くり返し)。
日本語の歌 (現在まで3種類あるそう)
以下は野上彰訳
パフ、魔法の竜が暮らしてた
海に秋の霧 たなびくホナリー
リトル.ジャッキー.ペーパーともだちで
仲良くいつでも ふざけていた
ボートを漕いで 旅を続けた
大きなしっぽに ジャッキーを乗せて
王様たちは挨拶をした
海賊たちは旗を下げた
歳をとらない竜とは違い
ジャッキーはいつしか大人になり
とうとうある日 遊びに来ない
寂しいパフは涙を流す
緑の鱗鳴らして泣いた
桜の道を散歩もせずに
友達はなく一人ぽっち
頭を垂れて洞(ほこら)へ帰る
ohパフ、魔法の竜が暮らしてた
海に秋の霧たなびくホナリー
13 Puff,the magic dragon
この話で頭を過ぎったのはPeter,Paul&Maryが発表した以下の曲。
日本語版の歌詞も存在。
Puff, the magic dragon lived by the sea
And frolicked in the autumn mist in a land called Honah Lee
Little Jackie Paper loved that rascal Puff
And brought him strings, and sealing wax, and other fancy stuff
Oh, Puff, the magic dragon lived by the sea
And frolicked in the autumn mist, in a land called Honah Lee
Puff, the magic dragon, lived by the sea
And frolicked in the autumn mist, in a land called Honah Lee
Together they would travel on a boat with billowed sail
Jackie kept a lookout perched on Puff's gigantic tail
Noble kings and princes would bow whenever they came
Pirate ships would lower their flags when Puff roared out his name
Oh, Puff, the magic dragon lived by the sea
And frolicked in the autumn mist, in a land called Honah Lee
Puff, the magic dragon, lived by the sea
And frolicked in the autumn mist, in a land called Honah Lee
A dragon lives forever, but not so little boys
Painted wings and giant's rings make way for other toys
One gray night it happened, Jackie Paper came no more
And Puff, that mighty dragon, he ceased his fearless roar
His head was bent in sorrow, green scales fell like rain
Puff no longer went to play along the cherry lane
Without his lifelong friend, Puff could not be brave
So Puff, that mighty dragon, sadly slipped into his cave
Oh, Puff, the magic dragon lived by the sea
And frolicked in the autumn mist, in a land called Honah Lee
Puff, the magic dragon, lived by the sea
And frolicked in the autumn mist, in a land called Honah Lee
竜の鱗や王=アーサー、海賊=ネロ(2023のエイプリルフール)
また竜との冒険を終えてお別れすることが少年の心の成長を
あらわしているとすると、今回はリケの方がクエレプレの旅立ちを見守る形をとっているものの、まだ自分の願いを他者からの希望と一致する形でしか伝えられないリケが新しい世界に触れて心を解放していく部分と呼応するように感じます。
12 悠久誘う未知へのカーソス
あらすじ
リケ、アーサー、ネロ、フィガロ、ファウスト、レノ、オズ、ムルと賢者の9人が深淵の谷へ。そこは数百年に一度、青い悠久草が咲く場所でした。白い悠久草は薬になりますが、太陽の光に弱く潤沢な水がある場所で生育する青い悠久草は「人生最高のスパイス」と呼ばれていました。現地では既に先客がいました。彼は娘に青い悠久草を持ち帰ろうとタイミングを待っていましたが、大いなる厄災の後に落石があり、穴が塞がれてしまったので帰ろうとしていたといいます。なんでも青い悠久草は彼の祖先が一度だけ目にしたことがあり、腐りかけた食材でも美味に変えてしまうほどだったといいます。そこで、カインへの土産やミチルやルチルにする土産話とともに、ネロと集落の者には悠久草を持ち帰ろうとリケが張り切っていたところ、鱗を見つけます。さらに谷底には魔法生物のマナ石がありました。フィガロはそれらが竜に似た外見をしているクエレプレのものだと気付きます。先客が落石だと思っていたのは実は大いなる厄災の影響で興奮し飛び方を誤って落ちてしまった親子のクエレプレでした。母親は亡くなってしまい、子どもの方は怪我をしていました。そこで魔法使いたちは治療を施します。元気になってきたところでリケの書いていた冒険の書が飛んでいってしまいました。そこで賢者とリケはクエレプレに跨がり、アーサーも箒で後を追います。
覚え書き
@ネロは2部にてブラッドリーとよりを戻し、4周年ではフィガロと二人きりになった際に思わず後ろから狙おうとしていた。フィガロもフィガロで自分が捕まえたブラッドリーが率いる盗賊団のNo.2が実はネロだったということを把握済。なので2人きりになると関係がぎこちなくなる。
A手を叩くと踊る草。これは兵隊の合図で踊り始めた「赤い靴」の物語から来ていると思われます。
B冒険の書とピンクの竜に似た生物で思い出すのは映画「ネバーエンディングストーリー(原作は『果てしない物語』)」のラストで主人公がピンクの竜に乗っているシーン。
11 4周年振り返り
賢者と魔法使いたちは新城主に就任したディアーヌに招かれてボルダ島を訪れます。ところが魔法使い寄りのディアーヌの政策が裏目に出てしまいます。(それは提供された料理の味にも現れていました)島では首なしの体格のよい男の遺体が引き揚げられるという事件が起きていました。首謀者はバルタザールという北の出の魔法使いで、アダムズ島を沈めたと噂のシャイロックに一方的に恨みを抱いていました。バルタザールが完全な肉体を手にするべく次に選んだのはレノックスでした。さらにバルタザールはシャイロックをアダムズ島の海底遺跡へ連れ去ってしまいます。同じ頃、賢者はフウィウリンという青年(実は竜)と出会います。フウィウリンと戯れる?双子ですが、実はここにも因縁があり、フウィウリンはかつて双子により兄を殺されていました。そこで彼はスノウに大怪我を負わせます。その怪我によりスノウはホワイトの魂をつなぎとめることが難しくなり、ホワイトの姿は見えなくなってしまいます。二人を助けるには竜がもつという薬の珠が必要でした。そして東の魔法使いたちが助けた人魚のヴェスパの姉妹が、薬の珠があるというメリッサの沈没船の場所へ導きます。こうして魔法使いたちはシャイロックとレノを救出する組、珠を持ち帰る組、竜と戦う者、スノウを治療するフィガロとともに城に残りディアーヌと話し合う者、暴徒化する島民をなだめる者にわかれることになります。
余談
ヴェスパはダニエルクレイグ版007のカジノロワイヤルに登場するボンドガールでボンドの最初の想い人でもあります。映画のラストでヴェスパはエレベーターに閉じ込められて海中に沈んでいきますが、ヒースに助けられるヴェスパはそのオマージュのようにも感じます。
10 海峡を越えて
ヘラクレスは「ジュリオーネの牛を得ようとしてスペインに渡り、狭い海口つまりヨーロッパ側はアビラという二つの山に挟まれたジブラルタル海峡に西方の地果てるところとして標識をたてた(野上p88)」とギリシア神話ではなっているそうです。具体的には『NON PLUS ULTRA「その先へ進むなかれ」』と刻まれていたといいます。
平川氏によると、コロンブスが女王イザベラの聴罪師と凝議したラ.ビダの僧院の天上にも同じく「NON PLUS ULTRA」と書かれていましたが、
コロンブス(をはじめ大航海時代にアフリカ、アジアおよび新大陸へと渡る航路が開かれて)以来、『PLUS ULTRA「先へ進め」』に転じたそうです。つまりオデュセウスはそれよりもずっと以前に、「世界の果てに何があるのか」という知識を得ようと才に走り、神の息がかかった領域(煉獄の島)に赦しを得ることなしに手をかけようとしたのです。
余談として、ジブラルタル海峡はスペインとアフリカ(モロッコ)の間にある海峡です。スペイン(イベリア半島)にはかつてイスラム王朝がありましたが、領土を奪還したキリスト教徒によってモロッコ側へ追われました。いわゆるレコンキスタです。アルハンブラ宮殿では当時の名残を感じることができます。スペイン側では、相手の文化を否定せずにそのまま残して文化的共存を果たしたと好意的に捉えられていますが(ただし豚をあえて食すことで実質的に残ったイスラム教徒をあぶり出すことは可能だった)、アフリカに渡ったイスラム側はこれをスペイン側に財産を奪われたと捉えているようです。そして追われた者たちはいつでも帰れるように家の鍵を持ってアフリカへと渡ったといいます。その鍵が今でも海の底にあるのではと考えられていて、一部の地域に童歌として残っているそうです。
鍵はレノックスの魔道具でもあります。4周年で海底へと連れ去られたのがレノだった背景にはこのような逸話も影響しているのかもしれません。
9 神曲 地獄編第26歌A
「夜はすでに南極の星をすべて見たが、北極星はたいそう低くなってそれはどうしても水平線から昇らなくなった。さて私たちがこの危険な航海をはじめてから月の下部は五度太陽に照らされ、同じ回数だけかけた。その時、距離が遠いため黒っぽく見える山が現れたが、その高いことといったら、いままで誰も見たことがない程だった。私たちはみな喜び勇んだが、すぐにそれは悲嘆に変わった。なぜならば、新しい陸から旋風が吹き、船の前板をはげしくうち、三度ばかり船を水もろとも廻したが、それも神慮だった。海はやがて私たちの上を閉ざした」
ダンテ(著).野上素一(訳).筑摩世界文学大系〈11〉神曲.
筑摩書房,1973
ガエタ 
ローマの南、ラティーナ付近の港町。アイネイアスはここから上陸し死んだ保姆カイエタを葬り、その名前をとってその地をカイエタ(今日のガエタ)と命名した
チルチェ=キルケ
スパーニャ=スペイン
サルディ=サルデニャ島
エルコレ=ヘラクレス
シビリア=セルヴィア
セッタ=セウタ。ジブラルタル海峡に面するアフリカの都市
神曲を理解するための参考図書
村松真理子(著).謎と暗号で読み解くダンテ『神曲』.角川書店
平川裕弘(著).ダンテ『神曲』講義. 河出書房新社
ダンテは実際旅をしたわけでもなく物理学の知識上、地球が円形をしていて赤道をこえて反対側(北半球から南半球へ)に出るともう半分側に出ている星は見えなくなると導きだしたのです。平川氏および村松氏によると、当時の世界観では地球の南半球は全て水で覆われ、例外が煉獄島であり、その最高峰の煉獄山が地球で一番高い山だと考えられていました。神曲のなかではオデュッセウスは、生ける者が神の許可がなく上陸するというタブーを犯そうとして結局、神の怒りを買ってしまったのです。
8 神曲 地獄編第26歌@
ウェルギリウスはギリシャ語の話者としてダンテの代わりに自分がオデュッセウス(神曲ではウリッセ)と話すと申し出ます。そしてオデュッセウスが語ったところによるとー
「一年以上も私をガエタ(エネアはまだその名前を与えてはいなかったが)の近くに私をかくまってくれたチルチェと別れたとき、わが子に対する慈愛も、老父に対する孝心も、ペネロペを喜ばせるに相違ない当然の夫婦愛も、私が心にいだいていた世間と人間の善悪になんとかして通暁したいという熱情にうち勝つことはできなかった。そこで私はたった一艘の船で、私を見棄てなかった少数の仲間といっしょに深くて広い海へ乗りだした。私はスパーニャやモロッコにいたるまでのあの海岸やこの海岸を眺め、周囲が地中海に洗われているサルディ人の島やその他の島を見た。だが、それから先は人間が行かれぬようにエルコレがその標識をうちたてたあの狭い海口にまでついたときは、私も仲間も鈍重になっていた。そのとき右手にはシヴィリアをあとにし、他の側にはすでにセッタをあとにしていた。私はいった、『十万の危険をおかして西へ来たおお、兄弟たちよ、私たちの五官の働きが目覚めているのもあと僅かばかりとなったが、太陽のあとをおい、人の住まぬ国で私たちが経験をつむのを拒絶し給ふな。諸君の起源のことを考えてみ給え、諸君は獣のごとく生活するためではなく善徳と知識を追求するために造られたのだ』この短い演説で私は仲間の前進への熱意をかりたてたので、とめようと思ってももはや不可能だった。こうして私たちは艫を東へむけ、まるで翼をつけて飛ぶように速く櫂をかき、常にまっすぐ舵をとったー
7 海の果て


実は2周年のところでも、既にシノとヒースがこの世界の果てについて会話をしていました。何も知識がないと会話の流れがわからずスルーしてしまうところ。実は此処も神曲から来ていると思われます。神曲の出だしは森からはじまります。森の前には高慢や肉欲などへの恐れを象徴する獣が立ちはだかりますがダンテは案内人のウェルギリウスとともにあの世、彼岸の旅を始めます。東の先生ファウストは性をラウィーニアといい、ウェルギリウスの著書、アエネーイスの妻の名でもあります。地獄で彼らが会う人物にオデュッセウスがいます。ポセイドンの怒りを買い、様々な試練に耐えながらも最後には無事に家族のもとへたどり着く原作と異なり、神曲ではオデュッセウスは世界を知るための旅を続けようとした結果、今は地獄にいます。その最期をダンテは知りたがります。
6 海に憧れた魔女メリッサ
ホワイトの解毒薬を求めて、魔法使いたちはかつてメリッサが世界の果てを知ろうとして旅をした船が沈む場所へ。

5 4周年のレノの衣装他


4周年のレノの衣装。フィガロと比較して、あえてベルトの部分を緑にしてあります。読んだときには南カラーだから気にしてなかったけど、アーサーたちが聞きつけた事件の加害者がバルタザールで最終的にレノの身体を手に入れようとしていたのは、サーガウェインの物語が念頭にあったからなんでしょうね。因みにこの証言をした女性は後で事件の混乱に便乗しようとした詐欺師であることが判明します。
4 竜を虜にするお菓子 石井聡美
ボルダ島で行列ができるほど人気のお菓子、トルタディッコッコ。物語の終盤では賢者がフウィルリン(竜)の気を引くためにネロに用意させます。
(因みにtorta.di.coccoはイタリア語でココナツのケーキの意)
このフウィルリンの物語はイングランドに伝わるナッカーという竜の物語と類似しているように思います。
ウエストサセックスのライミンスター地方に、一頭の長大なナッカーが夜な夜な現れて、家畜を襲ったり旅人を食べたりと脅威になっていました。農家の人たちが羊や牛を納屋から出さないようにしても、ナッカーは納屋からする肉の匂いにつられて建物を壊してしまうのです。そこでナッカーを退治した者に、ライミンスターの市長は多額の報奨金を、サセックスの王は貴族に限り、証拠としてナッカーの首を持ち帰るという条件つきで、娘(姫)を花嫁として与えることを約束しました。数人の騎士がナッカー退治に出て行ったきり音沙汰がなくなりました。最後に、ジムという若者がナッカー退治を申し出ます。ジムは町人の協力のもとパン職人に、玉ねぎやチーズ入りの巨大なミンスミート.パイを焼かせました。さらにそのパイには錬金術師が提供したあらゆる種類の毒薬がすべて混ぜられました。ジムは馬に荷車を引かせて(どちらも市長が用意してくれたもの)ナッカーの巣穴にやって来ました。パイが大きすぎて何とかおろしたものの、ジムはその場を離れることができないうちに夜を迎えました。
ナッカーは荷車につながれたままの馬をのみこみ、さらに荷車ごとパイを飲み込んでしまいました。ナッカーは緩慢な動きで森に向かい、ジムも斧を手に後を追いました。ナッカーの全身に毒が回り、のたうち回ります。夜明け頃、ようやくナッカーの息が絶えました。ジムはナッカーの頭を斧で切り落とします。ジムはナッカーの首を町まで引きずって行きました。姫との結婚は許されなかったものの、市長は約束通り、家を買って安泰に暮らせるほど十分な額の報奨金を支払いました。ジムの勇気と賢さは彼が亡くなるまで人々の心の中にありつづけました。
(ダグラス.ナイルズ(著)高尾菜つこ(訳)「ドランゴンの教科書 神秘と伝説の物語」より)
3 サーガウェインと緑の騎士
緑の騎士の風貌については次のように記述されています。
「この男、背丈はまるで巨人ですが、肩幅はひろく、腰まわりはみごとにくびれており、美しく均整のとれた体つきをしています。上着、ずぼん、毛皮の裏のついたマント、そしてベルトの留め金にいたるまで、鮮やかな緑づくしです。エレガントに梳いた髪は肩の下にまで届いています。この髪も緑なら、大きなもしゃもしゃの口ひげもまた緑です。馬のたてがみには、緑と黄金の糸が織り込まれています。鞍の覆い布、手綱の飾りまでもが緑です。ブーツもはかず、鎧をまとってもおらず、片方の手にクリスマスのお祝いのヒイラギのリースを持っています。ところがもう一方の手には、刃にも柄にも気味の悪い緑の模様のついた、ばけもののような戦斧がしっかりと握られているのです」(山本訳p.76)
また、切られた首がガウェインに捨て台詞を吐いて去って行くまでの描写は次のようになっています。
「緑の騎士の胴体がー死ぬことなくぴんぴんしていましたがーさっと走り寄って自分の首の髪の毛をひっつかみ、馬の首にとびのったのです。緑の騎士の首がまぶたをひらきました。眼はらんらんと輝き、恐怖におののく一同を、あざけりを込めて睨めまわすかのようです。間髪をおかず、唇が動きはじめました。そして緑の騎士の声が広間に響きわたりました」(同p.80)
2 サーガウェインと緑の騎士
大晦日の日、ご馳走が並ぶ宴席を前にアーサー王が「新たに不思議なことが起こるまでは手をつけない」と宣言する。そこに、緑で全身を包んだ騎士が現れ、「この場にいる騎士のうち一人が私を斧で斬りつけろ。そして今日から1年と1日経ったら、私を見つけて、私にいさぎよく斬りつけられろ」
と言う。サーガウェインがその挑戦を受け、騎士を切りつけると、血を吹き出して騎士の首が切断される。円卓の騎士たちは騎士を魔法使いだと思い、切られた首を蹴り回す。ところが騎士の胴体がさっと走り寄って自分の首の髪の毛をつかむと馬に飛び乗った。
騎士を探すための放浪生活を得て、期限が間近に迫った日、サーガウェインはとある城の主人から歓待される。聞けば目指す騎士のいる礼拝堂はそう遠くないところにあるという。主人の申し出を受けてサーガウェインは城に逗留する。そこで主人に、主人がいない間に何か他者から厚意を受け取った場合には、それをそのまま主人に返すとガウェインは約束する。こうして昼間、夫が狩りに出たのを見計らって奥方がガウェインを誘惑してくる。そこで、一日目は獲物の白鹿と引き換えにガウェインは主人にキスをする。二日目も獲物のイノシシと引き換えにガウェインは主人を抱きしめて昨日よりも濃厚にキスをする。三日目、これまでで最も淫らな格好で奥方はガウェインのもとを訪ねる。さらに身につけていると氏を免れるという腰紐を奥方はガウェインに授ける。どんなに誘惑されても主人との約束は守ってきたガウェインだったが、腰帯の誘惑には勝てなかった。腰帯を主人には見えないように身につけたまま、とうとうガウェインは城を出て緑の騎士との対決にのぞむ。騎士は一撃を加えたがガウェインの傷は浅かった。緑の騎士はガウェインに何故このような勝負をもちかけたかを話しはじめる。すると騎士はガウェインと奥方との経緯も腰帯こともお見通しだった。何故なら館の主人こそが騎士であり魔法使い、荒れ野のサー.ベルティラックだったのだから。しかし、誘惑の試練に耐え抜いたガウェインをベルティラックは賞賛する。彼はアーサー王の種違いの姉でガウェインの叔母にあたる妖妃モルガンから魔法を学んだ。モルガンは例の方法でアーサー王とグウィネヴィア妃の前に緑の騎士が現れることで、ひょっとしたらグウィネヴィアはショック死するかもしれないと目論んだのだ。しかしモルガンの思惑が果たされることはなかった。こうしてガウェインはカメロットへ戻っていった。以後、円卓の騎士たちはガウェインへの友情の証として似たような帯を身につけたという。
参考図書
ロザリンド.カーヴェン(著)山本史郎(訳)
アーサー王伝説 7つの絵物語.原書房,2012