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1 無名さん

祖母の家の仏壇

夏休みに祖母の家にお泊りにいった時の話です。田舎の夜は早く、ごはんを食べると即お風呂、お風呂をあがるとそのまま布団へ潜りこむというライフスタイルに、少し都会で育った僕は違和感を覚えました。それでも何もすることもありません。仕方なく布団へ入り、じっと目を瞑って入眠するのを待っていました。しかし、いつまで経っても眠れません。周りでは祖母や妹たちの寝息が聞こえてきました。田舎の夜は真っ暗です。それでも夜目が効いてきて周りの様子がはっきりとわかるようになってきました。まず、布団を敷いてみんなが眠っていた部屋は仏間でした。大きな古い仏壇が私の足元にあります。
ここからが本題です。その仏壇の鈴がチーンと鳴りました。僕はドキリと固唾を呑みました。なんで誰も触ってない仏壇の鈴がひとりでに鳴るんだと怖くなりました。気のせいにしようと僕は思いました。きっと幻聴か何かを聞いたんだということで納得しようとしたのです。しかし、それは許されませんでした。いきなり鈴が連続でチーンチーンチーンと鳴り始めたのです。僕はさすがに只事ではないと思い、祖母を起こそうとしました。
けれども、身体が動ません。頭の先から足の指先まで、まるで硬直したようになってちっとも動かないのです。そうです。僕は金縛りにあっていました。鈴は乱れ打ちのような音を響かせ、ますます音が大きくなっていきます。祖母も妹もその音には気づいていないらしく、寝息がスースー聞こえるばかりです。僕は汗だくになっていました。ようやく目だけが動くことに気が付いたのです。僕は周囲をきょろきょろと見回しました。
すると雨戸のあたりに中年の旧日本兵が独り立っていました。いや、そんなところに兵隊さんがいるわけがありません。しかしいるのです。僕のことをじっと見つめています。「おばけだ!」と、咄嗟にそう思いました。旧日本兵の霊は無表情でずうっと僕を見つめ続けています。青白い顔をしていました。僕は目を合わせてしまい、ますます身体が硬直しました。息が荒くなります。助けてと叫びたいのに声が一向に出ません。旧日本兵がゆらりと動き始めました。僕の方にやってきます。来るなと叫びたいけどやはり声にならず、旧日本兵が僕の枕元にゆらりと移動してきました。
僕は恐怖のあまり失神してしまいました。気付けば朝でした。昨夜のことを祖母に話しても相手にしてくれません。しかし、僕は気付いてしまいました。仏壇の上に掲げられている遺影こそが、ゆうべの旧日本兵だったということを。あの体験は何だったんでしょうか。今でもはっきり覚えています。