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1 無名さん

体育館のバスケットボール

あれは私が大学に通っていた頃のお話です。私の大学は建学から100年以上の歴史を誇っており、古い建物もいくつか立っておりました。私はバトミントンサークルに所属しており、学校の体育館で練習をしていました。私たちバトミントンサークルの間では遅くまで残っていると体育館に杖を突いた老人の幽霊が出るとの噂が立っていました。私は現実主義者で幽霊などまったく信じていませんでした。
まだ暑さの残る9月の出来事です。私たちはバトミントンの練習を終え、18時が過ぎても大学内に残っていました。年頃の男女が集っていますので、自ずとくすぐったい雰囲気が漂います。このまま解散するにはまだ早いと思った私たちは体育館の噂が本当かどうかを確かめるために、男女ペアになって肝試しを行うことになったのです。
私は1学年上の好子さんのことが気になっており、友達に頼んでペアを決めるクジに細工をしてもらい、上手く好子さんとペアを組むことに成功しました。1組..2組..と次々とペアが出発していき、少しの時間を空けて私と好子さんのペアの番になりました。二人で並んで歩きながら体育館へと道を進み、緊張からかもっと好子さんに話しかけたいのに上手く話をすることができなくもどかしさを感じていました。
好子さんは活発な女性でしたので、そんな私を引っ張るようにズンズンと先へと進んでいきます。体育館に着く少し前に最初に出発したペアの正夫先輩と美紀ちゃんと遭遇しました。どうだった?と問いかけると2人は何もなかった、やっぱり噂なんて嘘っぱちだよといい、皆の待つ校門へと戻っていきました。
私は拍子抜けしながらもやっぱり幽霊なんているわけないよな..と思い、少しだけ元気を取り戻し好子ちゃんと一緒に体育館の中へと入りました。体育館の中は静寂と暗闇に包まれており、不気味な雰囲気が漂っていました。さすがに好子さんも怖気ついたのか歩を進む勢いが落ち、私と並んで歩くようになりました。私たちの足音しかしない真っ暗な体育館の不気味さに背筋に悪寒が走るのを感じました。
ここで私は少しおかしなことに気が付きました。その日は私たち以外の部活は体育館を使っていなかったはずなのに、広い木製の床の上に一つのバスケットボールが転がっていたのです。
誰かがしまい忘れたのだろうと思った私はボールを用具入れの中に放り込み、体育館の中を好子ちゃんと一緒に回りました。
一通り回りましたが特におかしなことはなく私たちは体育館を後にし、先輩たちの待つ校門へと戻ることにしたのです。
肝試しが終わり、ちょっとした騒ぎになりました。私たちの前に出発した2組目のペアの美津子と拓郎先輩がまだ戻っていないのです。もしや二人でなにかしてるのでは..?などと年頃の男子の妄想をしながら、私たちは二人の行方を捜すことにしました。
肝試しの順路を探しましたが二人の姿は見つからなく、我々は体育館の中に入ることにしました。
二人は意外なところにいました。体育館の1階と2階を繋ぐ階段の下の掃除用具を置いているスペースの中です。
二人は心底震えきっており、顔は青ざめガタガタと身を震わせていました。
部室に戻り何があったのかを聞いてみると、二人が体育館の中に入った後に体育館の中からボールが跳ねる音が聞こえてきたというのです。誰もいないはずの体育館の中からする音に二人は震えあがり恐る恐る運動場の中を覗いてみたのです。
誰もいない運動場の中でバスケットボールが勝手に動いており、まるで見えない誰かがボールを持っているかのように、ボールは何度もバスケットのリングに叩きつけられていたというのです。あまりのことに恐ろしくなった二人は腰を抜かしてしまい、階段の下の掃除道具を仕舞うスペースに身を隠していたというのです。私はこの話を聞いてゾッ..としました。
私が手にしたバスケットボールは...もしかして..幽霊が使っていたモノだったのかも..しれません..
それ以来私たちは遅くまで大学の中に残ることはなくなりました。