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1 無名さん

土左衛門

自分が小学生の頃、ネットなど無い時代の話。
ある日父が急に、「浜に土左衛門が上がったから、見に行くべ」と言い出した。
その時は電話が掛かって来たとかではなく、不意に思い立ったような口ぶりだった。
今考えると甚だ不謹慎だと思うのだが、その時は興味本位でなんとなく付いて行った。歩いて10分ほど。その辺りの海は急に深くなっており、たびたび水難事故が起こるとして地元では有名な場所。
砂浜に着いてみると確かに、ブルーシートを被せられた水死体が横たわっていた。
シートからはみ出た黒い髪が、なぜか印象に残っている。
近くには温泉や保養所があり、溺れたのはどうやらそこの宿泊客という話だった。
ごく普通のサラリーマンで霊やオカルトとは無縁の父が、なぜあの日に限ってあんな事を言ったのか、今でも不思議である。