藤森治子
辻野晃一郎氏の憲法論
憲法記念日に日本国憲法について考える <まぐまぐ総合夕刊版>

前述した通り、本来なら「DXとは何か」のシリーズ第4回目なのですが、今号の配信日の5月3日は憲法記念日にあたるため、DXシリーズは1回お休みにして、今号では日本国憲法について考えてみたいと思います。

安倍政権になってから改憲の議論がにわかに活発になりました。その後はトーンダウンしていますが、岸田政権になってからも、実現性はともかく、岸田首相は幾度か改憲に前向きな発言をしています。

おかしな例えに聞こえるかもしれませんが、個人的には、立憲国家における憲法とは、コンピュータにおけるアーキテクチャまたはOS(オペレーティングシステム)のようなものだと捉えているので、時代の変化と共に内容を見直すこと自体については特に異論はありません。むしろ見直しの議論がある方が健全だとも思います。

しかしながら、現行の日本国憲法は時代を先取りした世界的に見ても非常に優れた憲法であると解釈しており、これをより良くする方向で見直すには、相当に高いレベルの見識、叡智、倫理観などが必要で、少なくとも現在の自民党や維新などの手にはとても負えないと思っています。すなわち、現在の自民党や維新が中心になって憲法を見直すことについては断固反対です。自民党の改憲草案も読みましたが、とても賛同できるような内容ではありません。

現行の日本国憲法を「時代を先取りした憲法」と感じるのは、言うまでもなく3原則といわれる「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を掲げているからです。太平洋戦争前の日本は、国権主義に基づいて人権が軽視され、帝国主義に基づいて軍部が力を持つ国でした。その結果、太平洋戦争の加害者となり、また同時に被害者として艱難辛苦の時代を招き入れ、民間人を含めた310万人以上の国民が犠牲になってアジアの周辺国を苦しめる存在ともなりました。

その悲劇を教訓として、二度と再び同じ過ちを繰り返さないと誓い、国権主義から人権主義へ、帝国主義から平和主義へと大きく国の在り方を転換し、生まれ変わって出直すための最重要の行動規範が現行の日本国憲法であると解釈しています。

そして今や、デジタル時代、ネットワーク時代となり、個人がテクノロジーによって解放された時代を迎えました。「国民主権」や「基本的人権の尊重」という原理原則は、まさに今の「個が解放された時代」を80年近く前に予見していたかのようにすら感じます。

ですから、今あらためて日本国憲法の全文を読み返してみても、ここに書かれていることをしっかりと遵守しさえすれば、素晴らしい国になることは間違いないというほどの、きわめて崇高なものだと感じます。ところが、改憲派の自民党議員や維新の議員などは、そのことをまるで認識しておらず、国会議員でありながらこの憲法を遵守しているとはとても言えません。これは99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」に違反していると言えます

プロフィール:辻野晃一郎(つじの・こういちろう)
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。
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